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屋久島初の「屋久島抹茶」誕生秘話

屋久島は、日本で一番早く新茶が取れるお茶の産地として知られており、島内における農業生産額においても、日本茶は堂々の第一位。そんな屋久島ですが、今まで抹茶は存在していませんでした。しかし今年ついに、屋久島史上初の「屋久島抹茶」が誕生。そのきっかけはなんだったのでしょうか。屋久島抹茶を開発された、八万寿茶園の二代目、渡邉桂太さんに、その誕生秘話を伺いました。

渡邉桂太(わたなべけいた)鹿児島県屋久島町生まれ、屋久島町育ち。高校から島外へ出るが、2017年にUターンし、1985年創業当初から無農薬、有機栽培を実践する『八万寿茶園』の2代目として茶園を営む。


屋久島に今まで抹茶がなかった理由

須藤:まず、今回の取材の背景を振り返ると、私が、自然と繋がる野点体験「川点(かわだて)」を、屋久島の抹茶でできないか、と桂太さんに相談したのが、屋久島抹茶との出会いでしたね。屋久島に抹茶はないと知ってたので、ダメ元だったんですが、ちょうどその日あたりにサンプルが届く予定だと聞いて、驚きました。今日は、抹茶誕生の経緯を伺えますか。

桂太:実は、前から、抹茶を作りたいという気持ちはあったんです。うちはお茶の生産だけでなく、小売もやっているので、店舗で「抹茶ないですか」と聞かれることも多く、ニーズがあることはわかっていました。だけど、抹茶を作るためには、専用の碾(てん)茶工場が必要で、その工場が屋久島にはないので、難しいだろうと思っていたんです。それに、限られた畑の面積の中で、新たに抹茶を作るとなると、その分他の茶葉の生産を減らす必要があるし、そこまでしてやるのか?という思いもありました。なので、今までは、屋久島の煎茶を粉末にして販売していたんです。

須藤:抹茶は、煎茶とは生産も加工方法も違うと。それで、今まで屋久島には抹茶がなかったんですね・・・碾茶工場ってやっぱり高いんでしょうか?

桂太:高いです。新設するとなると、数億円はしますね。

須藤:数億!?島内でのお茶の生産量を考えても、工場を新設するのは、確かにハードルが高そうです。

桂太:ただ、抹茶は、文化的要素が付随してくるじゃないですか。例えば屋久島でも、屋久島の土を使った茶碗とか、茶杓とか、棗とか、茶道の道具を作っている方々がいるので、抹茶があれば屋久島のお茶文化ができるのではと思っていたんです。だから、どうしたら抹茶を作れるんだろう?と考えてはいて。屋久島で工場を作らなくても、茶葉をどこかに送ったら作ってもらえるかもしれない、という可能性は頭の中にありました。ただ、輸送をするにしても難しいんですよね。

須藤:輸送する場合、どんな難しさがあるのでしょうか?

桂太:まず、通常、抹茶を作るなら、茶葉の収穫後、発酵しないうちにすぐ碾茶工場で加工する必要があります。そのため島から送るとなると、発酵しないような輸送方法を考えなければいけません。必然的に、冷蔵で送ることになるため、その分コストがかかります。また、屋久島は日本で一番早く新茶が取れるので、地理的に近い鹿児島県内でも、まだ工場が稼働していなかったり、茶葉の収穫の季節は、通常使うフェリーがドック入りしてるので、工場や船のタイミングを考慮する必要があります。それから、うちは開業当初から無農薬、有機栽培なので、有機認証の抹茶として販売するためには、工場も有機認証に対応している必要があったりと、考えるべきことは多くありました。

きっかけは偶然の出会い

須藤:それは、相当難易度が高そうですね。それでもやろうと思った、きっかけがあったのでしょうか?

桂太:たまたま、僕が店舗にいた時に、観光で屋久島に来ていた方から「抹茶は置いていないんでしょうか?」と聞かれたので、いつものように「屋久島には、碾茶工場がないので難しくて・・・」といった説明をしたんです。そしたら、その方が実は、鹿児島にある碾茶工場の責任者の方で、「うちの工場で屋久島の抹茶を作ってみませんか?」と言われました。

須藤:それはすごい奇遇ですね!

桂太:その方も、そういう話をしようと思っていらっしゃったわけではなく、最後、フェリーに乗る前に、うちにお茶を買いに立ち寄ってくださっただけだったので、30分もない立ち話でしたが、こちらも、前から輸送の可能性については考えていたので、向こうの話をすぐ理解できました。その後メールでやり取りしていく中で、具体的な金額や、発送手段、工場を動かすタイミング等を相談し、先日やっとサンプルができあがった次第です。

お客様との距離が近い八万寿さんの店舗。常にお客様のニーズを調査し、商品開発に繋げている。

須藤:サンプルの抹茶を頂きましたが、周りからも、さっぱりしていて美味しい等、多くの反響をもらっています。実際に作ってみて、難しいと感じていることはありますか?

桂太:今回作ってみて、初めて分かりましたが、発酵しないように冷蔵で送ってはいるものの、香りが強く出てしまい、向こうの工場で匂いを取る作業が必要になってしまいました。原因は調査中ですが、屋久島側で、収穫した生葉の管理を工夫したいと思っています。今やっている方法が正解だとは思っていなくて、今回はサンプルということで、2kgしか作りませんでしたが、工場も少量のために、試行錯誤するのは難しいと思うので、来年は量を増やしつつ、またやり方を変えてみたいと思っています。

「自然と繋がる」体験が、屋久島のお茶文化の本質になる

須藤:挑戦が続きそうですね。個人的に、八万寿さんはイノベーティブなお茶屋さんというイメージがあり、今回もこのような先駆的な取り組みをされていますが、今後、屋久島全体に抹茶作りが広がっていくイメージはありますか?

桂太:どう考えているかは、これから皆さんに聞いてみたいですね。かなり面倒な上、そんなにたくさんの量を作れるわけじゃないですし、売れるんだったら、可能性もあるかもしれないですけど・・・これから屋久島抹茶の価値がどれだけ上がるかどうかは、川点(かわだて)次第なんじゃないですか?(笑)

須藤:期待していただいて、ありがとうございます(笑)今回、これだけ苦労して作られた屋久島抹茶の貴重な2kgの内、相当数を分けていただいて、本当にありがたいなと思っています。正直、なぜここまでしていただけるんだろうと思っていたのですが、この際、聞いてもいいですか?

桂太:それこそ、期待しているからです。「自然と繋がる」というのは、屋久島のお茶の本質を捉えていると思います。だからこそ、それは崩れないだろうし、皆に喜ばれるんじゃないでしょうか。今後、そこが、屋久島のお茶文化における、重要な要素にもなると思います。京都には京都のお茶文化があるように、それぞれの土地柄にあったお茶の文化があるはずで、屋久島のお茶文化の本質は、自然と繋がることだと思っています。うちもそれを伝えることを大切にしていて、例えば、海外から取引先の方々が来たら、商品の説明だけではなく、屋久島の自然の中にお連れして、川でお茶を飲むといった体験をしていただいています。それがその先の消費者の方にも伝われば、と思って。本当なら、それを個人のお客さんにも体験して欲しいのですが、時間の都合上、うちでは一人一人にはできないから、今回、川点でそれをやってくれるなら嬉しいという思いもありますよ。

自然と繋がる体験を届けたいという想いで、茶畑の中に作られた見晴台。近くにはこの集落の生活を支える川が流れており、その水を送り出す雄大な山々を間近に臨むことができる。

須藤:ありがとうございます。お話を伺えば伺うほど、八万寿さんからは、自然と繋がる体験のためにお茶を作る、という一貫した姿勢を感じますが、それはどこから来ているのでしょうか?

桂太:屋久島に住んでいれば、皆、どこかにそういう気持ちを持っていると思います。うちは農業をやっているので、より自然を感じやすい環境にあると思いますけど・・・今、私たちは、この屋久島の恩恵の元で生きることができている。これをどうしたらいいのかといったら、やっぱり、次の世代に生きる人たちが、同じ恩恵を受けて生活できるようにしてあげたい。そのためには、この自然を守らなきゃいけない。それが大きな目的であり、その入り口として、まずは自然との繋がりを感じてもらいたいと思っています。屋久島茶は、農産物として、人と自然を繋ぎやすいとも思っています。

須藤:とても共感します。私が川点という体験を作ろうと思ったのも、この自然の恩恵を次世代に繋ごうと思った時に、まずはその人自身が自然と繋がる必要があると感じたからでした。八万寿さんの想いが込められた、屋久島抹茶の力をお借りできるのが本当に嬉しいです。今日は、ありがとうございました。

聞き手/著者(写真左)須藤優花(すどうゆか)
日常をゆらす旅を創る(株)TransformTravel代表取締役。ライフコーチ。幼少期は、自然豊かな長野県で育つ。秘密基地といえば川。一人旅で訪れた梅雨の屋久島で、川の水を飲む体験などを通じて、自分と自然が溶け合う感覚に衝撃を受ける。川と、水と繋がる茶の湯体験コンテンツ「川点(かわだて)」を中心に、地域の人と観光客が共に川の再生に取り組める茶会を開催予定。屋久島の様々なステークホルダーをめぐる、リジェネラティブなオーダーメイドツアーの企画も行う。


水と繋がる茶の湯体験「川点」と、そこから始まる川再生コミュニティをみんなで作り上げるため、クラウドファンディングを始めます。

川点開発にあたり、クラファンプロジェクトが進展する様子や、川や水との距離がちょっと近くなる情報を、川点公式LINEで配信することにしました。よろしければぜひ登録ください!

こちらのURLからも公式LINE追加可能です。

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