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言葉は生きている――からこそ

 かつて星セント・ルイスという漫才師がいました。
 背の高いセントさん(ボケ)と、小さなルイス(ツッコミ)さんのコンビで、お二人とも20年ほど前、56歳の若さで亡くなりましたが、テンポよく言葉を操る芸風で大人気でした。

 と書きながら、90年代に人気のあったフォークダンスDE成子坂を思い出してしまったのは、ツッコミの村田さん(2006年・35歳)・ボケの桶田さん(2019年・48歳)の2人とも若いうちに亡くなったという共通点があるからですが、ややシュールな芸風ではあるものの、いわゆる「ボキャ天芸人」だけあり、言葉の取り扱いの妙がいい味出していたから、だと思います。
 ちなみに、こちらの身長差は10センチ程度ですが、ボケの方が長身というのも共通でした。

 話を戻します。
 星セント・ルイスのギャグで最も有名なのは、やはり「弁が立つ、腕が立つ、田園調布に家が建つ」だと思いますが、個人的に印象に残っているのは、「言葉は生きている、○○(その当時亡くなった有名人の名前)は死んだ」という、今思うと結構攻めた感じのものでした。

◇◇◇

「言葉は~」の前置きとなったトピックは全く覚えていないのですが、別に漫才ネタから派生してというわけでもないものの、「言葉は生きている」という言葉自体は、いまだによく使われます。

 全てがそれというわけではないのですが、何らかの慣用句を誤用したときの言い訳のニュアンスで使われることも多くないでしょうか。
 生きているんだから――変化する、昔と違っていても当然、今はこういう言い方をするんだ、そして当然「死語」もある、云々。

「言葉は生きているから変化する」はまあいいとして、やっぱり誤用や言い間違いをそのままでいい――とはならんでしょ、と思います。

◇◇◇

 高校の新聞部だった頃、部員の原稿に「幼児体験」と書いてあったことがあり、あかで「幼時」と直したら、「いちいち細かいなあ!別に通じりゃいいじゃん」とキレられたほど威厳のない部長でしたから、そういうトラウマもあって、各々の判断で「これでいいの!」と強弁されることに反発があるのですな、きっと。

「死語」というのも、実際ちょっと古い言い回しをした後、(死語か?)などと、自虐的に、あるいはおっかなびっくり注釈をつけることは確かにありますが、自分が・・・最近使わないというだけで死語呼ばわりするタイプの人には、ちょいと違和感を覚えます。

 生きて変化するからこそ、もともとどうだったとか、最近ごぶさたのあの言葉たちは今どうしているだの、そういうことに思いをはせるくらいのことをしても、そんなに時間の無駄遣いにはならないと思うんですよ。

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 言い間違いの一例として、複数の言葉の混同、錯誤、または「何か据わりがいいっぽい」が定着した、などがあると思います。

 赤井ヒガサさんの漫画『王室教師ハイネ』(アニメ化あり)で、主人公ハイネ・ビトゲンシュタインが、グランツライヒ王国の第二~第五王子の家庭教師を務めるにあたり、1人1人と面談するくだりがあります。
その中で、人当たりはいいが軽薄な末っ子リヒト王子の印象を、ハイネは次のように言っていました。

「ご兄弟の中で一番末っ子――そう油断していると、足をすくわれるかもしれない▽リヒト王子、侮れませんね」

 この「足をすくわれる」はしばしば「足元をすくわれる」と誤用され、何ならそっちの方が正しい言葉に成り代わりつつあるのではと思われる一例です。
 このセリフが出てくるのはアニメ2話。もともと好感触で見始めた作品ではあったのですが、根が単純なものですから、この1シーンだけでも「ほほぉ、これはこれは…」となりました。
 私は専門家ではないので、「どっちも似たようなもんだろうが!」と言われると、合理的説明をする自信はありません。ただ、子供同士でつけられたあだ名が、気付けば原形をとどめないほど変化するがごとく、微妙なズレがさらにズレにズレを重ね、そもそもどんな言葉だったっけ?どういう意味だったっけ?というフォーマット自体があやしくなったり、消滅したりする可能性も高いわけです。

 それでも例えば相手の真意を確かめながら会話する分には、言語生活自体に支障はないかもしれないのですが、音源をもらい、聞えたとおり書き起こすのが仕事の我ら「もじおこしびと」は、あくまで一方通行作業ですから、マイルール解釈や言葉の混同、「独自言語」で話され、お手上げになることも多々あります。

 まあ私は性格が悪いので、誤用誤認識コレクションを脳内につくり、ものすごーく偉そうな人がやらかしていると、「で、出たーっ、ありがちありがち」とかあざ笑うこともあります。
(感じのいい人、ごく普通の人にはやりませんよ。自慢話ばかりだったり、やたらと自分を大きく見せたがる発言の多い人限定です)

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