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小説「対抗運動」第7章2 生産協同組合と国家社会主義

拝復、舞ちゃんメールありがとう。

日本は冷夏で、8月に入っても涼しいままです。過ごしやすいけんど、新庄の稲が心配やね。来月は、千葉の鴨川へ棚田の稲刈りに行くつもりなんやけど、あそこは大丈夫かなあ。舞ちゃん、キューバの協同組合の話、面白いね。

むかし、ドイツにラサールいう人がおってね、影響力のある労働運動を展開しとった政党のリーダーやったんやけど、政治運動のプログラムに、国家の援助による生産協同組合の設立を明記したことがあったんや。その後ラサールは失脚して結局そのプログラムは実現せなんだけどね。その時、協同組合のあり方について論争があったんじゃ。キューバは有機農業だけやなしに、生産協同組合の設立も国家主導でやったんか。うーん。

当時マルクスのおいさんは、国家の援助という考えと協同組合運動の本質は全く相容れないと考えた。ラサールはマルクスのおいさんの考えを取り入れとると思うとったから、びっくりしたじゃろけどね。

マルクスのおいさんも、その10年位前には国家の援助によって生産協同組合運動を育てることを提案しとったけんね。けどイギリスに渡って徹底的に経済の勉強をしよるうちに考えが変わったんじゃね。

協同組合運動は、単に労働者の生活水準を高めようとするだけの運動やない。働く人らが共同出資によって工場とか機械とかを準備し、協同で管理・運営しようとするんは、労働の収益を公正に分配することが主な目的なんやない。雇われて働くという仕事のあり方をなくするんが一番肝心なんじゃと気づいたんや。
ほじゃから、自由の問題を根本においたんじゃね。
 
人の健康の害になることや、環境にようないことや、金儲けの為の戦争に荷担するんはいやや言うても、雇われとる身なら目えつむらんならん。イラク攻撃が始まる時、はっきり反対の表明ができたんは、協同組合がほとんどやったね。
日本でも何万人もの人が反戦の意志表示をして歩いたけど、勤め先で反戦の意志を表明できた人はごく少なかった。アメリカのコンピューター会社に勤めとるおいさんの友達に聞いたら、本人は反戦やったんやけど、アメリカ軍はお得意さんやからよういわん、言うとった。
 
舞ちゃん、われわれは合意に基づいて、働いとるんやから、何時やめてもええはずや。けど、そうはいかん。なんでかというと、商品を作って売ったり、サービスを提供して支払ってもろうたりするよりほか、今の世の中で生活の糧を得ることはできんけんね。なんでも値段つけて売れるようにせんと、どもならん。ほじゃけん商品を生み出していける場から離れるわけにはいかんのじゃ。

そいで、まずこうなる。その場を、心底ええと思うように仕事ができる場に変えていく工夫が必要になる。それが協同組合運動じゃ。雇われて働く場から、合意によって働ける場にまず変えんとどうもならん。

けど、次には、商品を作って売ったり、サービスを提供して支払ってもろたりせいでも、必要な物が、必要な所へまわっていく工夫をせんならん。なんでかというと、合意によって働ける場ができたと思ても、その工夫なしやったら、より儲かる商品やサービスを提供することに汲々とせざるをえんけんね。
健康の害になることや、環境にようないことや、先進国の有利な枠組みを守る戦争に、結局は妥協せざるをえなくなるけんね。
 
あと、協同組合は働く人の自由を優先させた結果、どれも規模の小さいのが普通じゃけん、余計この工夫が重要になるんや。ほうじゃないと、より儲かる商品やサービスを提供する競争では、規模の大きい企業にとても太刀打ちできん。

舞ちゃん、国家主導で生産協同組合を設立したキューバは、そこんとこは、どうなっとるんかいね。必要な物が、必要な所へまわっていく工夫はできとるんかいね?

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年9月29日

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