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小説「対抗運動」第1章4 新庄にて

おいさん「佐藤さん、姪の舞です。今年は大豆トラスト、大変でしたね。結局、雪で収穫できなかったのですか?」

佐藤さん「そうなんだ。晴れ間が3日間は続かないと、さやの中の水分が飛ばないから収穫できないんだよ。11月の上旬に雪が積もってから、ほとんど晴れた日が無かった。トラストしてくださってる皆さんには申し訳ないから、昨年収穫した分で作ってあった味噌を送ることにしようか、と。それにしても全く量が足りない・・・。」

「トラストの主旨から言えば、収穫がなかった場合はしょうがないわけですね。会員は、農家に良心的な農業をしてもらうかわりに、天候の良し悪しに関係なく彼らの収入が一定であるような仕組みを考えていた。無農薬、有機農業の支持ですね。また急激に出回ってきた遺伝子組替え作物は気味が悪いからボイコットしたいと思った。しかしボイコットするためには、それに替わるまともな作物がないとできない。」

「よし、それなら自分達で作ってしまおう、これが大豆トラスト運動ですね。収穫物を買うという契約ではない。不作、あるいは不運にして収穫なしでも、種子の選定、農法に背信がないなら問題はないわけだ。」

「しかし、百姓は辛い。この負い目を、いわば負のエネルギーをだね、来年の農業での頑張りというプラスのエネルギーに変えていくしかないんだが、・・・今はつらい。」

おいさん「舞ちゃん、佐藤さんにおいしい蕎麦屋に連れてってもらおうか?新庄にはたくさんおいしい店があるけど、佐藤さんの親戚の店は特別うまいんだぜ。建物は牛小屋を改造したんですよね。」

佐藤さん「よし、では腹ごしらえしてからミネラル炭の工場へ案内しよう。今日は手伝ってもらうからね。」

執筆:飛彈ゴロウ、2003年1月29日

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