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就職試験解禁直前!         求人事業者の方々に読んでいただきたい「高校現場ではどのように求人票を選んでいるか」

高卒就職問題研究のtransactorlaboです。
夏の間、いろいろ忙しく、しばらくnoteへの投稿を休んでおりました。

高卒進路digitalのほうに連載寄稿という形で発信を始めたのですが(ボランティアです)、あちらの主な読者は高校の先生、noteのほうはもっと範囲が広いため、同じトピックでも書き方を変えねばならず、これが結構難しいのであります。


考えた末、noteでの発信は広く一般向けのものとして書くことにしました。今回がその一回目になります。

さて、9月16日が高卒就職試験解禁日です。この日から全国的に高校生の就職試験が始まります。

就職する生徒の数がいる高校では、3年生を集めて学年集会を開いたり、就職希望者だけを集めて激励会のような会を行ったりします。ガンバロー、エイエイオーなんてことはもうやりませんが、自信を持って頑張って来いってな話をして送り出します。

一方、民間企業の方々も緊張感が高まっているころだと思います。昨年、私が調べたところでは、充足した求人票(全国の高卒求人票のうち)の率は12%、なんと88%が売れ残っていました。高卒求人票をずっと出しているのに何年も採用どころか応募者すらない会社さんが少なくないです。

これまでずっと述べてきましたが、高卒就職市場には実情が分かる情報が極端に不足しています。そのせいで、求職者側(就職希望の高校生・教員・保護者など)と求人事業者側の相場観(感)の著しい乖離が生じていると私は考えています。

例えば、上に述べた「8割以上の求人票が売れ残った」という事実を知っている人は、私の発信を目にした方を除けば極めて少ないでしょう。そしてこの「8割以上の求人票が売れ残る」という事実から、待遇条件や採用方法の再検討をする会社さんはもっと少ないでしょう。

高卒就職希望者の実数は減少の一途をたどっています。ひとつの学年の生徒数は少子化により全国で100万人をもうすぐ割ります。この30年間で半分に減りました。さらに進学率が上がっていますので、高卒で就職を希望する生徒の実数は加速度的に減少しているわけです。

一方、企業で働く人々の年齢構成を見ると、現在50歳プラスマイナス5歳の層が最も厚く、35歳以下の層が非常に薄い、10年後が心配なところが多くなっております。

高校の現場にいると、熱心に、というか鬼気迫る勢いで求人に来られる採用担当者の方々と会う機会がよくあります。若い働き手を確保したいとのお気持ちはよく理解できるのですが、我々高校教員の仕事は生徒たちの将来のウェルビーイング実現の支援ですので、担当者さんの熱心さだけで「よし、分かりました」と答えるわけにはまいりません。この求人を生徒に薦めてよいかどうか、ある程度の審査をします。

今回はここだけの話、その審査基準のいくつかを紹介しようと思います。そうすることが前述の「相場観の乖離」の解消に役立つ、Win-Winの情報提供になるはずだと考えます。

1.給与や休日数が平均以上かどうか

高卒就職の給与は地域の最低賃金の影響を濃く受けます。よって基準額は都道府県ごとに異なります。具体的な金額をお知りになりたい方は私のホームページで都道府県ごとのデータをダウンロードしてご覧ください。

 ちなみに2022年7月公開高卒求人票の月給平均は17万7300円です。

年間休日数は110日がひとつの線になります。110日がどういう数字かというと、完全週休2日で年間約105日、これに正月休みを足すとだいたい110日になります。飲食宿泊業の求人票には年間休日数100日以下のものがよく見られますが、生徒が自分で見つけてきて強く希望しないかぎり、こういった待遇の求人を教員の側から生徒に薦めることはまずありません。

実際、2021年の調査では、年間休日数が125日前後の求人票が最も充足率が高く出ていました。110日(週休2日+年末年始)+祝日でだいたい125日になります。

月給やボーナスが同じだとしても、年間休日数に大きな差があれば選んでもらえないということです。


2.早期離職者数は少ないか

求人票には過去3年間の新卒等離職者数を明記する欄があります。そこには採用数と離職した人数、それぞれの男女別の数字が載っています。教員は待遇や労働条件の次にここを見ます。辞めた人の割合が高いところはどうしても敬遠されます。

逆に、そこそこの採用数があっても離職が少ないところは、給料が多少安く休みもそれほど多くなくてもピックアップされる可能性が高いです。面倒見が良いとか、楽しいとか、やりがいとか、何らかの魅力があるのだろうと判断できるからです。そういう求人票を見つけると「とりあえず見学に行ってみたら」という感じで生徒に薦めたくなるものです。


3.会社の年齢構成 年の近い社員がどれぐらいいるか

同じく求人票には社員の平均年齢を明記する欄があります。私はここも重視します。なぜかというと、一番年の近い先輩が40歳の会社に18歳の彼らを送り出すのはちょっと可哀想すぎますので、少なくとも私は薦めません。

会社が高齢化していて若手が欲しいという会社さんは、高卒新卒を採る前に20歳台や30歳台前半の人を入れるほうがよいと思います。


4.資格取得補助(とくに運転免許)があるか

とくに普通自動車運転免許の取得補助があるかどうか、これも重視されるポイントです。地方では応募の条件の欄に「要普免(クルマの免許を入社までに取得すること)」の記載がある求人票が大半を占めます。

震災後やリーマンショック後は求人票が少ない「買い手市場」でしたが、今は全く逆の「超売り手市場」になっており、そしてそれは今後もずっと続くということを分かっていただきたいと思います。「要普免、ただし取得費用の半額を入社後に支給します」というような求人票も実際に増えてきています。


5.社員寮または住宅補助があるか

大都市の求人票には「住み込み可」、つまり社員寮や借り上げアパートがあったり、アパート代補助を設けている会社のものも多く見られます。一方、地方の高卒求人の大半はそうではありません。おそらく自宅からの通勤を前提に考えている会社が多いからだろうと思われます。

しかしながら、地方の高校の中には地方都市から遠い過疎地域にある学校に、さらに遠くから通っている高校生たちも多くいます。逆に、そういう高校の生徒こそが就職希望率が高いのです。こういった子たちが民間企業に就職する場合、まず「住むところがあること」が第一条件になります。

本当は地元の地方都市で就職したいが、実家からは通えないので住むところが必要。しかし、地方都市の求人票には住み込み可はほとんどない。よって仕方なく遠い大都市へ出るしかない・・・。地方の若者人口流出の大きな要因の一つですね。企業への若者雇用助成に住宅補助を特化して加えることは若者の地元定着政策のキーになるんじゃないでしょうか。

例えば今日現在、私が住んでいる秋田県で住み込み可の公開高卒求人票は1,870件中106件(5.7%)しかありません。これでもかなり増えたほうです。やりたい仕事がなければ仕方なく県外へということになります。東京は遠いので仙台あたりで働きたいのですが・・・といって、仙台・住み込み可で検索しても業種に偏りがあり(ここ数年で激増していますが)、結局首都圏に出て行くか、希望業種を変更するかの選択を迫られることになります。


以上5点、ご理解いただき、今後の採用活動に活かしていただければ幸いです。

皆さんにとって実り多き秋となるよう切に願っております。


私のホームページでは全国の公開求人票の統計データを公開しております。無料で自由にダウンロードできますので、どうぞご活用ください。




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