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ようこそ麓エイドへ。3年ぶりのUTMFを支える人々(前編)

待ちわびたUTMFの開催

2022年4月22日〜24日、3年ぶりにウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)が開催され、「UTMF165k」に約1800人、「KAI69k」に約500人の選手が出場した。

20年、21年は新型コロナウイルスの影響を受け、開催が中止となったため、3年ぶりの開催となる日本を代表するウルトラトレイルレースに、多くのトレイルランファンの多くの心が踊った。

”Re Born" 生まれ変わったUTMF2022が始まる

レース直前、天候による影響を考慮し、「UTMF165kの天子山地の迂回とスタート時間の後ろ倒し」が決定した。熊森山周辺の急な下りはぬかるむと滑る可能性が高く、悪天候になった場合のリスクを考慮した上でのコースの変更だった。

コース変更の知らせは、レース開催の数日前のことだった。コースの山岳部分がカットされたことにより、選手の各ポイントへの到達時間が大幅に前倒しになることになった。

そのため、各エイドステーションのボランティアスタッフも活動時間を前倒しにしなければならず、エイドリーダーは人員の確保に奔走することになった。開催数日前にこの対応に当たらなければならない責任者のプレッシャーは相当なものだったことだろう。

レース2日目の朝。富士山が美しい姿を見せてくれた(山梨県)

3日間のレースが終わってみれば、天候に恵まれ、選手たちは美しい富士山を見ながら走ることができ、これまでUTMFの中でもコンディションの良い中での開催となった。

UTMF165kの完走率は、81.3%、KAI69kの完走率は85.7%と、高い完走率となり、レース開催は成功したと言っていいだろう。

3年ぶりの UTMFの成功の陰に多くのボランティアスタッフの貢献があったことを知っていただきたい。

ボランティアスタッフに光を当てる

麓エイド(約43km地点)のボランティアスタッフたち。これから各自の担当業務に入る

レースの登場人物は選手だけではない。トレイルレースは距離が長くなればなるほど、ボランティアスタッフの支えが欠かせない。

UTMFの場合、各エイドステーションの運営は、トレイルランニング関係のチームが担当し、それ以外のポジションは公募で選ばれた人が担当する。

ボランティアスタッフの仕事はレース当日だけではない。レース前のコース整備、コースのマーキング付け作業は選手の安全を守る上で、かなり重要な仕事だ。さらに、レースが終わった後の、コースマーキングの回収、コースを現状復帰する作業も自然環境保全の面から欠かせない作業だ。

一つのレースを開催し、翌年のレースにつなげるために、多くのボランティアスタッフが関わっている。しかし、やはり注目を浴びるのは選手たちで、特に一部のトップ選手にしか光が当たらないことが多い。これは、一般的にトップ選手のレース模様を見たいという愛好家が多いこともあるが、メディアの取り上げ方も影響している。

UTMFには選手がいて、それと同じくらいのボランティアスタッフがいて、全体を支える主催者がいる。

3年ぶりのUTMFをレポートするにあたり、他のメディアと同じことをするのであれば、Trail Storyがそれをやる必要はない。正直、UTMF2022の取材はしない予定だった。

しかし、2022年2月、静岡県富士市にあるアウトドシアョップ「ATC Store」の店主・芦川さんから連絡が入った。「麓エイドのボランティアスタッフについて取材してほしい」と言うのだ。
芦川さんのリクエストは、「スタッフ全員の声を聞くこと、スタッフ全員の写真を撮ること、それをまとめ、スタッフがボランティアをやってよかったと思うものをつくること」だった。

それを聞いて、ふたつ返事で「やります。やらせてください」と言った。
選手のために、自分のお金と時間を使って見返りを求めず働く人たちの姿を伝えたいと思ったからだ。レースを支える重要な人たちなのに、今まで光が当たらな過ぎたように思う。彼らはもっと称えられていい。

今回の取材の主役は麓エイドのボランティアスタッフだ。

コロナ禍でレースを開催するための対応

コロナ禍でレースを開催するため、感染者が拡大しないよう、かなりの手間をかけて、感染予防策が実施された。

選手、サポーター、ボランティアスタッフ、メディア関係者は、2回以上のワクチン摂取を受けていること、レース前に抗原検査を受け、陰性を証明すること、また、レース前2週間の体温の推移を伝えることが課された。
感染対策には多くの手間と費用がかかる。それでも、「なんとしてもレースを開催するのだ」という主催者の気概が、ここに現れている。

開催にあたり、クラスターを出さずにレースを開催することが最も重要だ。
手間のかかる抗原検査や体温推移表の提出を、すべての関係者が粛々とこなしていった。

レースの受付会場では、まず抗原検査キットで検査を行わなければならない
検査結果は10分ほど出る。白いバンドは陰性の証明。レースが終わるまで身につける義務がある
レース2週間前からの体温の推移を報告しなければならない

また、感染拡大を防ぐため、選手との接触も極力制限された。
麓エイドを例に話そう。

エイド内で重視されたことは、スタッフが選手に直接触れ合わないということ。
給水は、大きなジャーから選手が自ら給水するスタイルで、スタッフが選手に水を注ぐという行為は避けられた。また、バナナはカットせず1本のまま、ドーナツや大福などは個包装されている状態で提供された。
スタッフは大声で声援を送ることを控え、代わりに拍手を送った。選手を盛り上げたい気持ちはあるが、感染対策のため、静かに応援するしかない。

個包装されたドーナツや大福がエイドで提供された
スタッフの飲食物への接触を最小限にするため、バナナはカットせず提供された
スタッフは各自距離を保って立ち、エイド食を取る選手とも接触しないよう距離をとる

また、麓エイドの建物内に入るためには、選手は入り口で手の消毒し、マスクをつけなければならない。

麓エイドの入り口。選手はここで必ず手を消毒し、マスクをしなければならない

また、建物内が密にならないように、大きな変更が2点あった。以前は、富士宮焼きそばなどを提供する地元のおもてなし隊が担当するブースは、建物内にあったが、今回は外にテントが設置された。さらに、選手をサポートするためのサポートエリアも野外に設定された。

富士宮名物、富士宮焼きそばを選手のために仕込む地元のおもてなし隊
夜間にも関わらず、選手に熱の入った声援を送る地元おもてなし隊。焼きそばの他にも、地元の湧水で淹れたホットコーヒー、ミネストローネ、大福などが振る舞われた

麓エイドはサポートが可能なエイドのため、例年であれば、人の活気に溢れているが、今回はコロナ対策により例年のような活気はなく、落ち着いた雰囲気だった。だが、静かなエイドの中にも、ボランティアスタッフの心遣いが至るところで見受けられ、エイドは温かい雰囲気に包まれていた。

スタッフの活動は、給水・給食だけではない。建物の内外への選手の誘導、サポートの人々の誘導、コース上の選手の誘導など、さまざまな活動がある。

麓エイドのスタッフに、ボランティアスタッフに参加した理由を聞いた。彼らにもそれぞれの思いがある。スタッフの思いは後編でお伝えする。

たった2人で長時間の誘導の仕事を担当するスタッフ
頼りになるサブリーダーやスタッフが、エイドリーダー芦川さんを支える
サポートの人々の誘導をスムースに行うよう、動線を考えるスタッフたち
エイドの建物内に選手を誘導するスタッフ。被り物で選手を盛り上げる
麓エイドのスタッフ専用キャップ。一致団結して選手のおもてなしが始まる

▶︎ようこそ麓エイドへ。3年ぶりのUTMFを支える人々(後編)



【関連動画】
麓エイドレポート(レース前)
麓エイドレポート(麓エイドスタッフ編)
麓エイドレポート(富士宮焼きそば編)
麓エイドレポート(レース編①)
麓エイドレポート(レース編②)

【UTMFオフィシャルinfo】
UTMF オフィシャルサイト
UTMF2022 リザルト
UTMFボランティアネットワーク(UTMFのボランティア経験者向け)

写真・文=一瀬立子
















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