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あなたの名前は?

23時50分。淡いピンク色のライトが照らしてあるドアの前で呼吸を整え 似合わない香水を身にまとい 口角を15度にあげる。

ドアを開けると「あおいちゃん、待ってたよ~」とお客さんに言われる。

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以前までインターンと並行して ガールズバーでバイトをしていた。
理由はシンプルで「お金が必要だったから」である。

最初は抵抗があったというよりか、もう少し正確にいうと''水商売''と言われるものに対して嫌悪感を抱いていた。まぁそれは世の中が作り上げたイメージにそのまま私が染まっていたからだが。

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働くときは名前を「あおい」に変えていた。
入店したときに

「名前、何にする?」 と聞かれ直感で

「あおいでお願いします。」と答えた。特に理由などなかった。

そこから''あおい''としての仕事が始まった。お店の立地も相まって容姿が求められる というよりかは会話を楽しむお客さんが多かったのである程度会話ができれば仕事としては成立していた。ガールズバーというのは、基本的にお客さんとカウンター越しでしか話せないと決まっているのだ。

話を聞きながら 残っているお酒の量を見て 必要であれば声をかけつつ グラスに氷と必要なお酒注ぎ お客さんに笑顔で提供する。同時に自分のドリンクがなければ、お願いしてみたりする。お客さんによっては逆鱗に触れる話題があり 喜ぶ話題があり ドリンクをもらいやすい言葉がある。そんなものを見分けながら働く。

ただ 言葉というセクハラはある。もともとその覚悟をして入っているのだから問題はない。

でも セクハラを受けているのは「私」ではなくただの’’あおい’’という人物であった。快も不快も 抱く全ての気持ちと行動と言葉たちを''あおい''に託していた。

あおい だったら何を言うのか。
あおい だったらどう行動するのか。
あおい だったらどんな服装を好み どんな香水を纏うのか。

そんなことを考えて そうして 「のぐちひなた」という人物と解離させてゆき自我を保っていた。私は何も感じずすべてを’’あおい’’が引き受けてくれていたのだ。

名を変えるだけで わたしは 私として認識しなくなり 感性も感情もすべてなくなったのだ。

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私がこのnoteで伝えたかったのは この時期が凄く辛かったとかそんなことではない。もっというと 楽しかった。
それ以上に凄く大切なものを得られたのだ。それは

「私は わたしの名前を愛し 大切にする」

というシンプルな事。

親から名付けられたその名を 関係性によっては 自分の名が嫌いという風に感じる人もいるだろう。実際に私の周りにはそんな人がいて 名乗る名前を変えた人もいる。

どんな名であり 今 その人自身が名乗っている「名前」はその人にとって
生涯最も聞く音であり 誰かの想いがこもっている大切なことば であると思う。

だから、私がわたしの名を 音を そこに込められた想いを愛するのと同じように あなたの名前を呼びたい。


全ての職業に対して苦悩があり水商売は「楽をして働ける」と思われがちだが、店長が死ぬほど頑張っていたことを間近で見ていた。

その店長は楽しそうにいつも働き 私もその店長が大好きである。
どうか幸せでいてください。あなたの元で働けて幸せでした。

また飲みにでも行きましょう。

その時はあなたの名前をよばせてください。



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