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アーモンド

村を見下ろすその丘に、アーモンドの木が一本生えていた。
木の西側には五人の年子の兄弟が、木の東側には五人の年子の姉妹が住んでいた。
ガーラとゴーガ、レーシャとルスランカ、セーリャとラリオンカ、ナータとパーフマ、ノーナとシーマは、それぞれ同じ歳だった。
十人はみんな、三月一日生まれだった。

名誉ある兄弟の仕事は、彼らの十三の誕生日にアーモンドの花を沢山咲かせることだった。乾いた風の吹く村で、花見は重要な娯楽であった。うまくいくことが当然とされる仕事で、失敗したときにだけ、怒声なり石ころなりが彼らの家に投げ入れられた。

彼らは、十二歳最後の日に、隣の家の同じ歳の少女をできるだけ悲しませることになっていた。少女が悲しめば悲しむだけ、多くの花が咲くとされていた。

ガーラは、ゴーガに鶏を食べられた。
ガーラが名付け、背中をなで、餌をやり、大切に育てていた鶏だった。
ともに踊り、道を歩き、寝床で寄り添った鶏だった。

レーシャは、ルスランカに髪を切られた。
生まれてから一度も切ったことのない髪だった。念入りに櫛を入れ、油をすり込ませた髪だった。
陽に透かすと蜂蜜色に輝き、首を暖め、指を喜ばせた髪だった。

少女たちはみんな、声をあげずに泣いた。
これ以上の水は誰にもくれてやるまい、と目を見開いて、それでも泣いた。シーマは姉妹の家の窓から、その様子を見ていた。

次の日になればアーモンドが咲き、仕事を終えた十三歳は丘を下りていき、家の住人は毎年減っていった。

そして、とうとう、末っ子シーマの番になった。

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名誉ある姉妹の仕事は、最後まで普通の日を繰り返すことだった。

ノーナは、四人の姉の十二歳最後の日に起こったことを、すべて覚えている。

いつも通りに目覚め、歌いながら散歩をし、洗濯し、パンを食べ、ミルクを飲み、椅子に座っていると、扉がノックされるのだ。
そして、少年が入ってくる。
そして、姉妹の大切なものがめちゃくちゃにされる。

ラリオンカは、セーリャの日記を池に落とした。
セーリャは生き物を描くのが得意で、時々挿絵が入っていた。ページの間で生きていた犬やねずみや豚も、みんな一緒に沈んでいった。

パーフマは、ナータのジャムの瓶を割った。
瓶は二階から落とされた。
馬車に轢かれた猫みたいに、ブルーや赤やオレンジが、手足を伸ばして地面にへばりついた。蚤の市で選んだ美しい瓶も、小さな欠片に姿を変えた。

姉妹は涙を流し、少年は家を出ていき、姉妹はやがて涙を拭き、昼食の準備を始める。

昼食をとり、畑に水をやり、掃除をし、本を読み、洗濯物を取り込み、入浴し、夜には昼の残りを食べて、そして、いつも通りにベッドに入る。

少年が来ることと姉妹が泣くこと以外、特別なことは何もなかった。

しかし、朝になると、十三歳になったはずの姉はいない。初めから誰もいなかったみたいにぴんと張ったシーツだけ残して、毎年一人ずつ、姉妹は減っていった。

そして、とうとう、末っ子ノーナの番になった。

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十二の歳の最後の日、シーマは長いことベッドの中にいた。いつもと同じくノーナが歌う声で目覚めたが、そのまま横になっていた。ノーナが洗濯し、パンを食べ、畑に行き、掃除をする間、ずっと丸まって瞼を閉じていた。
太陽がその日の仕事を終える頃、ようやくむくりと起き上がって、顔を洗った。

外に出ると、アーモンドの木の横にノーナが座っていた。ノーナは、夜がやって来るのを待つように、太陽の行く先を見つめていた。

後ろから近づいていき、シーマはノーナの隣に座った。膝を抱えて唇を舐め、太陽から目を逸らさずに、シーマは言った。

僕はガーラの鶏が好きだったし、レーシャの髪が好きだった。セーリャの日記も、ナータのジャムも、なくなってほしくなんてなかった。

ノーナの服が風に揺れて音を立てても、シーマは前を見つめたままだ。

どうすれば、君から何にも奪わずにいられるのだろう。

ずっと前からそうすることを決めていたみたいに、ノーナは言った。
 
この世が楽しければ楽しいほど、そこを去るときの悲しみは大きくなると思うの。

ノーナは腕を伸ばして、シーマを包み込んだ。

あなたは散々私を悲しませたから、明日はわんさか花が咲くわ。
それを見届けたら、丘を下るのよ。
元気に暮らしてね、ずっと幸福でいてね。

シーマは、捕らえられた虫のように、じっと動かない。

だけど、真っ暗な影の下で、息を吐く音がしていた。

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次の日、シーマは目覚めると十三歳だった。
歌に起こされなかった初めての日で、外はすっかり明るくなっていた。

手を掛けた扉が、苦しそうにきい、と鳴る。
空が青い。

アーモンドの木を見上げると、昨日まではなかった花が咲いていた。

たった一輪、咲いていた。

洗われたように白い、まったく小さな花だった。

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