カスタマーセンター
「お電話有難うございます。ハヤテカスタマーセンターです。只今電話が大変込み合っております。恐れ入りますが、このままお待ちいただくか、暫く経ってからおかけ直しください」
山野が電話をとらないから、女の声は永遠に続く。風が駆けていく。プールの水が揺れる。
「できるだけ長く。それがお客様のご要望だ。まだ早い」と、係長。
山野は、うなずく。マンゴージュースを口に含む。入社初日の係長の言葉を、頭の中で丁寧に再生する。
「カスタマーセンターのお客は、製品に物申したいやつだけじゃない。そいつに恨みがあるやつも、またカスタマーだ。『鈴木明が電話してきたら、できるだけ待ち時間を長くしてくれ。報酬は弾む』。お前もすぐ、こんな電話を受けるだろう。待たせるリストをしっかり嘗める、巧妙に人生を浪費させる、それが俺たちの仕事だ」
しかし、電話は止まる。
「失敗」
係長が言う。
またプールの水が揺れる。
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