好きな演技もあった!けれども…:映画『怒り』
真夜中に眠れなくて、「ちょっと気になっていたけど、(いろんな要素から)あんまり期待できないので優先度が低くなってた映画」を観ることにして、Netflixでこれを選んだ。
この映画が好きな方、早速ごめんね…。久しぶりに「あ、だめだ…」という邦画でした。ここ数年、ナイスな邦画ばっかり観てたから、なおのこと…。こんなにお金かけてそうなのに、実力派俳優陣そろえてるのに、演技自体はかなりいい(ところも多い)のにだめってつら…。しかし、他の方のレビューとか調べて読むとほめの意見が圧倒的多数なのもつら…。感想はそれぞれの人のものだけど…でもね…。邦画はだめっていう印象を持ってる人が多いのも納得だなって思っちゃいました。
何がだめだと思ったか書いておくのは自分の創作の役にも立つと思うので、何様なのか?!ムードは大いに漂いますが、モヤモヤしたとこを記録してみたいと思います(今しっくり来てないとこが、今後他の作品を観ていくことで「なるほど」となってくるかもしれないしな!)。いいとこもあったからそれも合わせて!どっちかというと、もう観た方向けの感想かな…。
ちなみに原作小説は未読。読んでから感想を書かないと準備不十分だよ派の方もいると思うけど、映画一本、それはそれで、単体で楽しめるようにつくらないといかんと思うのです、基本的には(このシーンを実写化したらどうなるかな?っていうのを実験したくてつくられる映画もあると思うけどね。この物語はそういうタイプじゃない気がする)。原作を読むことで映画の理解が深まる、ってことはあるとしても。
公開からだいぶ経ってるから今更…感もありますが、ネタバレありです!まだの方はご注意ください!
■よかったところ
・妻夫木聡×綾野剛パート!
この映画の多くのキャラの造形は、「この背景で生きてきた人、この経験をした人、こんなふうにふるまうか・・・?この選択をするか…?」っていうのが多すぎて(描きたい「泣かせる」シーンに向かってキャラクターが無理やり動かされているという印象)冷めた気持ちになることが多かったんだけど、二人は違ったよ、これまでの人生が感じられたよ!ちゃんと生きてる人間だって思った!(ちょっぴりだけ出てた高畑充希もよかった)
コンビニでお弁当買って持ち運ぶ最中、偏っているのを直そうとする(しかし直らない)綾野剛を後ろから妻夫木がこっそり見てて愛しいな~って思うところとか、べとべとの手で冷蔵庫触らないで!って日々妻夫木が言ってるんだろうなー…って思わされるシーンとか、よかったなあ。二人のパートは観てて幸せになった。
ほかのパートだと浮いて聞こえるようなセリフも、綾野剛が話すとなんだかしっくり来た。この人は世の中とうまくやっていくのが苦手なタイプの人だろうけど、たくさん傷ついてきただろうけど、だから表面だけで言葉を受け取らないんだ、って思って、嬉しくなった。言葉を大事にしてそうな彼のキャラ、とっても好きでした。
・森山未來!
前述した二人と並んで、「この人の人生の厚みはまだ信じられる」と思えた役でした。このふり幅が演じられる人として、森山未來をキャスティングしたのは大正解だと思う!私もしばらく安宿まわりの海外旅行をしてたことがあるので、「こういう神様というか仙人っぽいオーラの旅人、いるよね…」と思いながら観ました。
一緒に映画を観た恋人が「この人のレビューはいいよ」って送ってくれた記事を読んで、「あーなるほど。このキャラを置くことは『ただわかりやすい映画にまとめないぞ!』って決意のあらわれだったのね、ということもわかって、よかった。
このレビュー↓
※この映画、一部は妙に「わかりやすく」(過剰に説明してる)、一部は妙に「わかりにくい」(「泣かせる」ことに向かうために人物たちの行動が配置されてて、人となりがぼやけている。ハッピーエンドにする圧力がかかったララランドって感じ(伝わりますか…?))のがよろしくないと思ってて。だから、後半に書く「わかりにくい」は、「いまいちポイント」なんだけど、この森山未來の存在の「わかりにくさ」は、テーマを浮かび上がらせて熱かった!グッドポイントです。
ただ、やっぱり大胆破壊シーンは…ん…?って思ったかな…。客の荷物ぶんなげシーン、はさみを危うげにぶらぶら持ってるところは、「あ…怖い…」感が出ていてとてもよかったです。
■あー…と思ったところ
・とにかく脚本!!!!
説明台詞もりもりつゆだく大盛りっぷりが、この映画のだめさの60%くらいを占めてると思う。
映画って特に、行動・立ち居振る舞いで、その人のキャラとかこれまでの人生、怒りや悲しみや希望を語る表現だと思う…んだけど、それを台詞でやっちゃってるところがあまりに多いので、「これ、映画でやる必要あるか?」と感じてしまった。
数回ならいい(仕方ないと思う)んだけど、ほんとにもりもりなんだよ!!!それがメインなんだよ!!!マイノリティ(と世間では考えられてしまうような人)の痛みを描こうとしてる映画で、「はーい、これは物語ですっ!」という記号が頻出してしまうと、現実と作品が切り離されちゃう、地続きだって感じられなくなっちゃうと思うんだよ…!
特に、犯人が殺害に至った経緯を、犯人と働いたことのある男が語るシーン。これを!!!全部言葉でやらなくても伝わるような!!!シーンの積み重ねが映画には必要なんじゃないかね???!!!???!!!
広瀬すずが、壁に手を置いて、「辰哉くん…」って言うところも!!!テロップ的感覚で台詞をつけなさんな!!!!(あと、この台詞が入ったことで、そのあとの咆哮シーンの力がめちゃ落ちてると思う、「出口のない怒り」感が弱まって、とってつけた叫びシーンになっちゃってると思う)
それだけ、「わかりやすい」映画がウケるってことなんだと思うけど、わしは悲しい…。
(きっと「大人の事情」で、わかりやすい映画にさせようという力が働いた結果でもあるんだろうな…)
・「怒」の字。
申し訳ないのだが、あれが出てきたときちょっと笑っちゃったよ…「えっ」って…!
レビューとかを読んでると原作小説にある設定を基にしてる(ちょっと改変してる)っぽいんだけど…。
「狂ってま~~す」描写で、すごい嫌だったな…。映画の狙いとも合わないと思うんだよね。
李監督は、「マイノリティの人々を、豪華俳優陣が演じるということに意味があると思う」みたいなことを、インタビューで言ってたんですよ。
それって、「この人たちを自分たちとは違う『かわいそうな人』として見ないで。視界に入れて、自分の延長線にある人たちとして観てほしい」っていうことだと思うんですけど。
派手な「狂ってま~~す」描写が入っちゃうと、途端に「かわいそうな/キレちゃった、向こう側のあの人たち」って観方をされちゃうと思うのよ…。
「たくさんの文字が並んで書かれてるのが異様で怖い」っていう演出は個人的には好きなんだけど、それももうちょっとうまく出す方法があったのでは?と思います。
・渡辺謙、ぜんぜんダメなお父さん感ない。
ずっと冷静(というかシリアス?)。信じたかった松山ケンイチが犯人かもしれなくて、心が乱されるシーンですらまともな大人感半端ないし(崩れ落ちはしたけどもね)、いつもきれいな服をきちんと着てるし、人の話ちゃんと聞くしさ…。
監督のインタビューでは、渡辺謙の「正しさ」じゃない面にスポットライトを当てたい、みたいな話をしてたのに!!正しいよ!!!圧倒的に正しい!(つまりテーマに沿った存在になってない)
あとで宮崎あおいとの関係性の描き方についても書くけど、渡辺謙のキャラが狙うべきポイント押さえてないから、宮崎あおいが何に窮屈さを感じているのか全然伝わってこなくて、物語が活きてこないんだろなーと思った。
香取慎吾の『凪待ち』の役みたいな、意外だけどしっくりくる…って気持ちよさがほしかったから、残念だったわ。
・いろんな記事読んでると「感動的な、いろんな思いをずっしり残すヒューマンドラマ」的な評価をしてるとこが多いけど、それにしちゃ人物の背景とか、人間関係の描き方がいまいちだと思う点多し。例えば以下のようなところ。
−広瀬すずの演技
いいとこ(※)もあるけど「うーん…」なところが多い。森山未來に惹かれたのは「慣れない沖縄生活で息抜きが必要だったから」というの、説得力皆無。最初のシーンからリラックスしてるように見えたし。最初の方のシーンの辰哉との会話で、彼女が心を開いていない感じがもっと出たら、森山未來との会話とか、その後の変化と対比できてよかったのでは?(彼女のキャラ、誰と出会っても何が起きても、あんまり変化が感じられない…。最後に一人で海に出るのは「強くなった」表現なんだと思うけど、なんか薄い)。
お母さんとの関係の描き方も謎。「お母さんは好き、でもお母さんみたいになりたくない」の「お母さんみたいになりたくない」ってとこが彼女という人のモヤモヤの核なんだと思うんだけど、その気持ちを裏付けるシーン皆無、セリフだけ。でもお母さんと寄り添って寝てるシーンだけは入ってて、意図がよくわからなかった(例えばお母さんはぐっすり寝てるけど広瀬すずは眠れずにいる、みたいな描き方だったらまだわかる。「安心感」を象徴するシーンみたいになってて、不思議だった。別の狙いがあるのかな?)。互いに愛情はあるけど、でも…っていう、「でも」の部分が「台詞以外で」描かれないと、森山未來に近づいていく彼女の心理が薄っぺらく感じられる。
インタビューなんかを読むと、広瀬すずのシーンはどうやらかなりテイクを重ねてできているっぽいので、それでこの仕上がりなのかと思うとさらに悲しくなってしまったな…。
(※)事件のシーンはよかったな(あのシーンのよくなかったのは米兵の描き方だと思う、さすがにステレオタイプすぎんか、見せ方が…)。あと、台詞なしで佇まいで観せるところも。
−渡辺謙と宮崎あおい(と池脇千鶴)の関係の描き方。謎。
「渡辺謙は宮崎あおいを愛しているけど、愛し方があんまりうまくいってなくて、彼女の強さとか、一人で幸せになれる可能性を信じられてない。実は彼女と向き合ってない」ってとこから「彼女の強さを信じられるようになる」って変化を描きたいんだと思うんですが、出発点の「彼女と向き合っていない」感の描き方がいまいちなために、カタルシスっぽいシーンが浮いてしまってる、と思う。
宮崎あおいが周りに「ちょっと変な子」扱いされてて、お父さんも自ら知らぬうちにそんな周りの目に合わせちゃってた、彼女を「特別な子」と考えて過保護になっちゃってた…ということを描きたいなら、お弁当を持っていったときに、職場のモブの人(雑な表現ですみませぬ!)が彼女となんとなく距離をとって話してる描写を入れるとか、そういうのが必要だったんじゃないかな。宮崎あおいと渡辺謙の居心地の悪さが伝わってくるシーンが一個もないから、説得力ないんだと思う。せっかく3つの土地でロケをしてるのに、千葉パートはあんまり、コミュニティの空気感が伝わってこなかったな(沖縄パートでは、空気感伝えようとする意欲を感じたが)。「ここではすぐ噂が広まるから…」って松山ケンイチが言ってた、そのセリフの内容を、映像で表現してほしかったな。
池脇千鶴のキャラがよくわからんので、ますます謎度が増した面もある。「池脇千鶴は宮崎あおいが自立したいと思ってることを理解してて、応援してる」キャラなのかなと思ったけど、それならなぜ、東京から千葉に連れ戻したあとの車のシーンで、宮崎あおいの行動を否定するような台詞を言わせたのか?
宮崎あおいが、それまで擁護していた松山ケンイチを急に通報しようと決めたのも、物語ありきっぽく…(それでテーマがはっきりするならいいと思うんだけど、そうじゃなくて、観客が気持ちよく「泣ける」シーンを用意するためにこの展開を選んだって感じがした)。
このパートを無理やりハッピーエンドにもっていく感じがしたのも不満でした…。
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