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さらなる発掘第2弾!90年代関西ニューウェーブシーンで異彩を放ったCONTROLLED VOLTAGEの後期音源2枚とまさかの新譜がCDリリース

 TECHNOLOGYPOPSπ3.14です。昨年末にまさかまさかの過去発掘音源として、初期の3本のデモテープを集めた「DUST TO DIGITAL」、カセットテープによるスタジオ録音1stアルバム「MIND ACCELERATOR」、Real Audio形式で残されていたライブ音源を集めた「UN OFFICIAL LIVE TAPES」の3枚をリリースした、関西出身の電子音楽家・稲見淳が1990年代に主宰したニューウェーブロックバンドCONTROLLED VOLTAGE(以下C.V.)。もはや本人も地獄の作業、死化粧、終活と称したカセットテープ起こし、Real Audioファイル起こしによるリマスタリングが施されたこの発掘音源リリースは、稲見氏のサウンド品質への精微なこだわりもあってサブスクリプション等の配信はされず、192枚限定の通販のみCDリリースということになったものの、非常に貴重な、エポックメイキングな再発であったと思います。それもそのはず、90年代前半というテクノポップ&ニューウェーブ死の時代にあって、メジャーシーンにも移行せず、ひっそりとした関西のインディーズシーンに、小西健司率いる自主レーベル・Iron Beat Manifestoに所属しながら、粛々とカセットテープ音源とライブ活動でその存在をアピールするどころか、その名を知るものは余程の関西在住4-Dフリークか、加藤賢崇DJの伝説的テクノポップラジオ番組「トロイの木馬」にて紹介された音源を集めた同名オムニバスアルバムに彼らの楽曲が収録されたことぐらいでしか知りようもなかった、関西の音楽シーンでも無名の存在でしかなかったはずが、1994年に一躍P-MODELに加入した新人・福間創の出身バンドという形で、その界隈に知られるようになった・・・という、どちらかといえば地味な印象(失礼)が拭えないバンドであったわけです。

 しかし、そんな彼らのサウンドは非常にクオリティとセンスに溢れたものであり、中心人物である稲見淳と若かりし日の福間創による電子音への造詣の深さと、杉本敦の独特の低音ヴォーカル、MASAのリズムを置きにいくセンスに溢れたドラミングという個性豊かな面々が奏でるクールな楽曲の数々は、このまま埋もれさせていくのはもったいないと、2002年リリースの集大成的なベストアルバム「LOST AND FORGOTTEN」以降、20年以上も喉につっかえていたものを常に抱えていたわけです。そこに今回の稲見氏の一念発起の再発活動には本当に感謝以外なく、常に動向を気にしていた筆者としても、何かできることはないか(といってもこうしたレビューくらいなのですが)と思っていた次第です。そして昨年末遂に発出した3枚の発掘盤。念願の「Un Official Demo Tracks」シリーズ、実は未聴であった1stアルバム「MIND ACCELERATOR」、そして稲見氏のCAVE STUDIO HPの隠しページにひっそりとUPされていたReal Audioファイルをダウンロードしてmp3化し、長年大事に聴き続けてきた未発表曲もあるライブ音源「UN OFFICIAL LIVE TAPES」・・・全てが期待以上の仕上がりで、本当に積年の念願が叶った心地を味わったというわけです。

 ところが、この再発シリーズはこれで終わりではありませんでした。そりゃそうですよね。筆者が好きなC.V.はよりニューウェーブ化が顕著となった後期、いわゆる福間氏脱退以降、MASAドラムがクローズアップされて以降なのですから、その時期の振り返りがまだ遺されている・・・ということで、今回4月21日にリリースされたのが、以下の3枚ということになります。そのうち1枚はなんと新譜!実に30年経過したいきなりC.V.名義の新譜!ということで、この3枚非常に気になりませんか?ということで、多少時系列等も交えながら、今回リリースされた3枚について解説していきたいと思います(前回、完全憶測的な記事で稲見氏に訂正の指摘を受けましたので、憶測は憶測と書いていきます^^;)。


カセットテープでリリースしたライブ音源に貴重なビデオ作品も収録したマルチメディア盤!
「USED UP AND EMPTY」

1.「MAMBO (93_November_20)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
2.「GRAYOUT (93_November_20)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
3.「4GATSU (93_November_20)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
4.「MICRO KERNEL (93_April_26)」 詞・曲・編:C.V.
5.「INFORMAL (93_April_26)」 詞・曲・編:C.V.
【VIDEO】
「USED UP AND EMPTY (1993 30min.)」

 1993年にリリースされた1stアルバム(カセットテープリリース)「MIND ACCELERATOR」は制作期間は1992年と思われますので、彼ら自身も"Techno True Type"と称しているようにいわゆるクラブ系TECHNOに接近したようなサウンドスタイルで攻めていた時期とも言えます。初期のデモテープでは杉本のヴォーカルも若く、楽曲に関しても「SHE IS MINE」や「OUTER」のようにニューロマンティクス風味も醸し出すなど、方向性を試行錯誤しているように見受けられますが、まずは当時のCabaret Voltaireに影響を受けたようなクールなブリープテクノサウンド(なお、稲見はPPG WAVE→Waldrof Micorwaveのようなウェーブテーブル方式シンセサイザーを多用)に活路を見出していたように思われます(下記のアルバムに影響を受けていたのではないかと)。

恐らくこの1stアルバム制作はほぼ杉本、稲見、福間の3名で進められ、制作途中で女性打楽器奏者MASAがTriger & Pluseパートで加入1、992年11月21日大阪阿波座Club ClimaxでのLIVE ELECTRONICSにて杉本+稲見&福間シンセ+MASAスタンドドラムという編成で4人組バンド披露という流れではないかと推測しています。
 そして1993年に突入するわけですが、まず93年4月26日に大阪日本橋GENE.にて行われたライブにて事件が起こります。ヴォーカルの杉本敦がライブ直前に急遽参加できなくなり、C.V.は稲見&福間をフロントにMASAというトリオ編成を余儀されなくなります。その非常事態編成によるライブの音源は2曲のみでありますが、カセットテープ「MINUS ONE LIVE」として記録に残されましたが、今回の再発盤である「USED UP AND EMPTY」に「MICRO KERNEL」、「INFORMAL 」(1stアルバム未収録)の2曲がめでたく収録されています。ライブ時の編成は下記の通り。

稲見淳(Sunao Inami):Vocal・Guitar
福間創(Hajime Fukuma):Vocal・Keyboards
MASA:Drums

 1993年になり、稲見氏はギターを中心に演奏するようになりまして、編成がややバンドらしくなっています。MASAも普通にドラムを叩くようになっています。このMASAのドラムがその後のC.V.の楽曲に大きな影響を与えていくことになっていくわけですが、まずはこの「MICRO KERNEL」です。典型的なブリープテクノと言えるこの楽曲が生ドラムとギターが加わることでここまで躍動感が出てくるとは・・稲見&福間のツインヴォーカルも全く違和感がありません。そして、なんとも言えない哀愁ロマンティックな空気を醸し出すのが「INFORMAL」。この楽曲は非常に良いですね!実にCloudyです。この低音ヴォーカルは福間氏と推測いたしますが、カッチリしたドラムのテンポキープも安定感がありますし、魅惑のコードワークにシンセ音色も実にUKを感じますしGentleこの上ない仕上がりです。急遽のトリオ編成で逆に自由に、そしてエネルギッシュに演奏できていたようです。なお、この「INFORMAL」の翳りのある空気感が後期C.V.のキャラクターを形成していくことを考えますと、実はこの「MINUS ONE LIVE」が転換期というべきなのかもしれません。
 なお、この時期にドラムのMASAはIron Beat Manifestoのコラボ企画として、4-Dの小西健司(P-MODEL加入直前)と、小西の門下生であり専門学校生時代に制作したアルバム「SELF」が話題を呼んだTAKA(山口貴徳:翌年平沢進プロデュースでメジャーデビュー)と共に、T.K.M.というユニットを結成、4-Dとのスプリットアルバム「Subconcious Unity」にその貴重な楽曲を残しています。

 さて、C.V.は前述の伝説的テクノポップラジオ番組「トロイの木馬」にて紹介されたインディーズテクノポップアーティストを集めたオムニバスアルバムに新曲「closed eyes view」(今回の再発音源では未収録)を提供します。稲見自身がヴォーカルを担当したこの楽曲は他の収録曲と比較してもダークな質感かつズシっと来るドラムが個性的なニューウェーブテクノで、さすがは小西健司率いるIron Beat Manifesto出身というべき貫禄を見せつけた格好となりましたが、サウンド面(Computer Generated Instrumentation)の両輪を担っていた稲見淳と福間創はここで袂を分つこととなり、1993年6月の「トロイの木馬」リリース記念"テクノポップ・カンファレンス'93"ライブを最後に福間が脱退、一時的にC.V.は杉本・稲見・MASAのトリオバンドで活動を継続していくことになります。

 このトリオ時代の貴重なライブ音源が残っていまして、それが1993年11月20日
に尼崎LIVE SQUARE LIVREでのライブです。当時のライブおける楽曲はカセットテープ「OFFICIAL BOOTLEG」に4曲収録されるわけですが、既にこの時代には稲見はギターを抱え、MASAは本格的にSIMMONSを中心にドラムセットを組んだバンドセットとなっています。このライブにおける編成は下記の通り。

杉本敦(Atsushi Sugimoto):Vox
稲見淳(Sunao Inami):Stratocaster・PPG
MASA:Simmons
野間靖(Yasu Noma):Amiga

 この「OFFICIAL BOOTLEG」収録曲のうち、3曲が今回の「USED UP AND EMPTY」に収録されています。全て1stアルバム「MIND ACCELERATOR」以降の新曲であり、そのうち「GRAYOUT」「4GATSU」はその群を抜いた完成度から、後期C.V.の代表曲となっていきます(前期の代表曲は「GASOLINE」でしょうか)。なお、「OFFICIAL BOOTLEG」収録曲のうち未収録となったのは、あのULTRAVOXの名曲「SLEEP WALK(BBC Radio 1 Live In Concert version)」のカバーでした。権利関係の問題もあり仕方がないかもしれませんが、こちらも完成度の高いコピーで、彼らのセンスと実力を再確認できる仕上がりです(下記のMixcloudで奇跡的に試聴できます)。

 さて、今回の再発盤ではリマスターされていますので、当然上記にUPされているカセットテープ音源とは印象が若干変わっています。1曲目の「MAMBO」はE-BOW(ギター弦を磁力で震わせることによるサスティン無限延長装置)の響きも麗しいアンビエント風味のニューウェーブナンバーですが、ここでもカチッと置きにくるMASAドラムが入ってくることで味わいが深くなっています。そして、後期C.V.の完成形と言われている「GRAYOUT」ですが、このドラムパターンはフィルインまで全て決められているそうで、いわゆるアドリブ要素がないということです。しかしこのドラムパターンと音色は個人的にストライクでした。Wave Tableによる白玉パッドと単純なパターンのシンセベース、エフェクティブなギターワークに彩られたシンプルなエレクトロサウンドながら、杉本のDAvid Sylvianもかくやと思わせる低音ボイスのおかげでそこはかとなくニューロマンティクスの香りすら漂い、マイナー調の哀愁感覚溢れるサビのフレージングも相まって、極上のダークニューウェーブソングに仕上がっています。(この楽曲については下記の記事で平成ベストソング第156位に上げさせていただきましたので詳細に解説しています。書いた当時はまさか再発されるとは夢にも思いませんでした・・・)

 そして、3曲目の「4GATSU」ですが、こちらも後期C.V.を象徴する名曲です。無国籍マリンバなイントロシーケンスから始まり、オリエンタリズムなソロフレーズが駆け巡る中、複雑なドラムパターンが強烈に主張する風変わりな楽曲で、特に手数の多い、しかし碁盤に正確に石を置いていくような緻密かつドタドタっとしたMASAのドラミングはまさに往年のSteve Jansenを彷彿とさせるプレイです。と、ここまで述べてきて理解していただけるように、後期C.V.は急激にあのJAPANに寄せてきている雰囲気を強く感じますよね。この楽曲のベースラインもなんだかMick Karnに・・・。何はともあれ、ブリープテクノの発展形といった風情の前期C.V.と比較すると、単純にバンドらしくなったなあ、というイメージがこの時期のライブには感じられたのでした。そのあたりの演奏は、前回の再発である「UNOFFICIAL LIVE TAPES」で存分に堪能できます。

 さて、この再発作品ですが、オーディオ音源としては5曲のみ収録となっておりますが、実は「UNOFFICIAL LIVE TAPES」と同じく映像データも含めたマルチメディアハイブリッド盤となっております。つまり音源部分と映像部分が1枚のCDに収まっているわけですね。このリリーススタイルは後述の「XD-SUBMIT」シリーズからの伝統といったところでしょう。
 そしてこの映像部分に今回収録されたのが、本作のタイトルとなっております1993年にVHSビデオテープ形態で販売されていたC.V.映像作品「USED UP AND EMPTY」です。30分収録のこのビデオ作品は言うなれば、稲見淳+CGデザイナー野間靖のコラボ映像集です。C.V.はライブ活動では一貫として映像を駆使したAV(Audio+Visual)ライブのスタイルをとっておりまして、このVisual部分を一手に担っていたのが野間氏でした。彼はコモドールより発売されていた当時人気のパーソナルコンピューターAmigaによる3D CG制作に長けており(あの平沢進もAmigaの愛好者であったことはこの界隈なら誰でも知っていますよね)、あの特徴的なメタリック仕様のC.V.のロゴマークも彼の仕事です。そして既に後期C.V.では影のメンバー扱いとなっていたと思われるほど、C.V.の活動に対して重要な役割を担っていたわけです。

 というわけでこの30分間の映像作品ですが、映像はAmigaを利用した野間氏のCGを駆使した映像が延々とリピートする幻想的かつジャンキーな内容になっております(後半に登場する個性的かつEgon Schiele(エゴン・シーレ)の人物画のようなイラストはヴォーカルの杉本敦のペンによるもの)。肝心の音楽部分ですが、こちらは稲見氏によるノンストップインストゥルメンタル。といってもDJ Mixのように複数の楽曲のデモを繋ぎ合わせたもので、例えば「4GATSU」のインストデモバージョンはこちらで聴くことができます(稲見氏もXでコメントしていたリズムがLinn Drumのデモバージョン)。また、後半のクライマックスでは「UNOFFICIAL LIVE TAPES」にも収録されていた「FREE WHEELS」のインストデモバージョンが登場します。このビデオ作品のジャケットデザインにも登場するグニャッとしたCG車輪は、映像でも頻繁にこれでもかと登場してきますが、まさにこの車輪が「FREE WHEELS」ということなのでしょうか。

 なお、余談ではございますが、この「USED UP AND EMPTY」のビデオ作品は稲見氏本人の手元にも残っていなかったらしいのですが、筆者が幸いにも所有していたため(1994年の恐らくI.B.M.NIGHTのライブで購入しました)、稲見氏本人にコンタクトをとりリマスターの上データ化していただいたのが、今回の映像でございます。なので、保存状態の問題なのか不明ですが、若干映像に乱れが生じているようですので、そのあたりは30年前の古いビデオテープからの発掘ということで、ご容赦いただければ幸いです。このビデオに限らず、今回の発掘音源に関して稲見氏はマスターデータは所有していなかったか発掘困難だったようで、当時の貴重なカセットテープやビデオテープをNaoki Matsumoto氏に提供いただいてテープ起こしの上リマスター、その他ライブ音源もReal Audio形式で残していたデータをリマスターというように、発掘作業・リマスター作業は困難を極めたことが想像できます。今回の貴重なリマスター再発に筆者も1%でも貢献できたとすれば、この上ない喜びですし、改めて言い表せない感謝の気持ちでいっぱいなのです。


CV最後のスタジオ音源&ライブ音源をリマスターしCV以前の貴重なデモ音源を収録した決定盤!
「LOST AND FORGOTTEN+」

1.「PRE C.V.」 曲・編:稲見淳
2.「GRAYOUT((LIVE'94_July_9)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
3.「4GATSU(LIVE'94_July_9)」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
4.「X-DAY / Sunao Inami」 曲・編:稲見淳
5.「LABYRINTH」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
6.「WING」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
7.「SEEK」 詞:杉本敦 曲:稲見淳 編:C.V.
8.「SPOROPHYTE / MASA」 曲・編:MASA
9.「M TO M (LIVE'94_December_29)」 曲・編:C.V.
10.「EDEN / OBI」 詞・曲・編:OBI
11.「WHAT YOU WANT?」 詞:C.V. 曲:稲見淳 編:C.V.
12.「VERIFY」 曲・編:稲見淳
13.「O.F.-2 (LIVE'87)」 曲・編:稲見淳
14.「PROCESS」 曲・編:稲見淳

 1996年に活動を休止したC.V.は2002年に稲見主宰のC.U.E.recordsより突然初のCDアルバム「LOST AND FORGOTTEN」をリリースします。このアルバムは福間創脱退以降の後期C.V.の楽曲に各メンバーのソロワークスも含めたベスト盤といった形で、CDのほかにApple Musicにて配信もされていますので、まずはご確認ください。

 この20年前の忘れられたC.V.唯一のCDアルバムが今回晴れてリマスターとなったわけですが、今回は「+」の文字が入りました。そして収録曲が一部刷新されています。ここからは間違い探しです。まず2曲目の「SHE IS MINE」はC.V.初期の楽曲で前回の再発シリーズ「DUST TO DIGITAL」「MIND ACCELERATOR」に収録されたため、今回のリマスターでは「GRAYOUT」の1994年ライブバージョンに差し替わっています(このあたりにもC.V.にとってこの楽曲が非常に重要な意味を持っていることがわかります)。そして気づく方は気づいていると思いますが、3曲目の稲見ソロ「X-DAY」と4曲目「4GATSU」の順番が入れ替わり、さらに「4GATSU」の2002年盤は1993年ライブバージョンの収録でしたが、こちらは「USED UP AND EMPTY」に収録されましたので、今回のリマスターで1994年バージョンに差し替わりました。そして2002年盤のラストである新メンバーOBIのソロ「SONG FOR LIAR」が、「VERIFY」「O.F.-2」「PROCESS」の未発表曲3曲に差し替わったということで、結構な楽曲の入れ替わりがあると共に、既存の楽曲もリマスタリングされたお得盤であり、個人的には後期C.V.が20年ぶりに日の目を見るまたとない機会ということで、心待ちにしていた再発でした。

 さて、1994年に入りC.V.は活発に活動を進めていきます。まずは草の根BBSネットワーク・XD FirstClass Networkが発行していたオムニバスCD&CD-ROM「XD-submit」シリーズへの参加です。このVol.1においてC.V.は「PRE C.V.」「4GATSU('93 LIVE)」、「SHE IS MINE」の3曲で参加、稲見ソロとしても「CLIMAX TRAX」「PASS-PASS」の2曲で参加、ほぼC.V.のプロモーション音源と化したこのオムニバスですが、このCDに1人のエレクトロポップアーティストが参加しています。緒毘絹一、通称OBIと名乗るこのクリエイターは、Iron Beat Manifestoに所属する新人アーティストで、「AZAHN」「The Pride of Blame」の2曲を提供、完全ドメスティックなシンガーソングライティングで存在感をピールしていたのですが、なんとこのOBIが福間の後任としてC.V.に参加することになります(OBIはソロ活動と並行していくことに)。

杉本敦(Atsushi Sugimoto):vocals
稲見淳(Sunao Inami):guitars・bass・synthesizer & computer programming
緒毘絹一(Kenichi Obi):synthesizers・chorus

MASA:drums & electronic percussion

野間靖(Yasu Noma):Amiga & video effects

 上記のような4人編成となったC.V.は、早速「XD-submit」シリーズVol.2に新編成後の新曲として「LABYRINTH」「WING」「SEEK」の3曲を収録、これらを引っ提げてライブ活動も継続、初期の楽曲も新たなサウンドデザインが施されました。この3曲は2002年盤にも収録されていますが、今回はさらなるリマスターが施され、正直に申し上げますとリマスターというのも物足りないほどの音色変化が感じられました。明らかにJAPANを意識したと思われる「LABYRINTH」はドラム全体に施されたエフェクトが凄まじく強調された形となり(こんなドラムの音処理聴いたことのないですw)、もはや長く聴いてきた筆者の耳をもってしてもまるで別物のように感じました。また、「WING」はサンプリングやディレイ等を駆使した音遊びの部分が強調され、こんな音も隠れていたのかという新鮮な驚きもありました。恐らく3曲の中では最も成功したリマスターではないかと思われます。「SEEK」はもともと完成度の高い疾走感のあるエレクトロロックなので、全体的な奥行きがさらに深まったという印象です。なお、この3曲ではWaldorf Microwaveが大活躍。PPG→Waldorfのウェーブテーブル音源シンセサイザーの権威でもある稲見淳の面目躍如なクオリティの高い楽曲群といったところでしょう。
 さて、そんな4人の新編成となった1994年7月9日の十三FANDANGOでのライブ音源は「UNOFFICIAL LIVE TAPES」や本作に数多く収録されています。

↑ 初期の名曲「GASOLINE」もこんなにバッキバキなサウンドに進化しました。(XD-SUBMIT Vol.2に収録)

 本作ではC.V.としては、1994年ライブの出囃子的に使用された「PRE C.V.」や天才プログラマーDavid Zicarelliが開発したMAC用の作曲/パフォーマンス支援ソフト「M」を使用したインストゥルメンタル「M to M」(恐らく1994年12月のI.B.M.NIGHTにおけるライブバージョン)、そしてC.V.としての最後の楽曲にして集大成ともいえる「WHAT YOU WANT?」(この楽曲については後述します)の3曲が収録されています。

 さて、結局後期C.V.は1994年をもってライブ活動を休止しました。原因は当事者しかわからない部分もあったと思いますので想像にお任せするとして、1995年からは各メンバーはソロ活動に移行しまして、「XD-submit」シリーズVol.3にはC.V.としての収録曲は前述の「M to M」のみにとどまり、その他はトイ楽器とE-BOWの響きが美しい稲見ソロ「X-DAY」、Lo-FiなPCMドラムの音色にこだわりを感じるキュートでポップなMASAソロ「SPOROPHYTE」、夏風のような爽やかさを感じるOBIソロ「ALL FOR YOU」(今回のリマスターでも未収録)が収録されました。「X-DAY」と「SPOROPHYTE」は今回も収録されています。

 1996年に「XD-submit」シリーズ完結編となるVol.4がリリースされますが、この時点で長くヴォーカルを務めてきた杉本敦が脱退していることに気付かされます。このオムニバスCDにはC.V.最後の楽曲「WHAT YOU WANT?」が収録されていますが、最終的には以下のような編成となりました。

稲見淳(Sunao Inami):guitars・synthesizer & computer programming
OBI(緒毘絹一):vocal・synthesizer

MASA:drums & electronic percussion

 遂にOBIがヴォーカル担当となりました。しかしこれが意外とハマっているのです。流石はソロアーティストと並行して活動していたこともあって歌唱に違和感がありません。この「WHAT YOU WANT?」もテンションとしては最高潮で、C.V.らしい哀愁ダークな曲調にMASAドラムによる疾走感と重厚感が加わり、さらには「WING」で見せたようなサンプルコラージュの応酬もこれでもかと放り込んでくるなど、最後になるには惜しいとしか言いようがない名曲に仕上がったのですが、バンドとしてのC.V.はこの楽曲を最後に消滅してしまったのでした。 (この楽曲については下記の記事で平成ベストソング第6位に上げさせていただきましたので詳細に解説しています。)

 そしてOBIソロとして収録されたのは「EDEN」です。1997年に「XD-submit」シリーズ本当の最終作「XCD1997 Psy-mul-taneous」に収録された楽曲で、こちらもJAPANライクな音数の少ないオリエンタリズム溢れるエレクトロポップとなっています。いかに後期C.V.に彼の音楽的志向が反映されていたのか理解できますね。こちらはRichard Barbieriのようなサイン波シンセソロも堪能できたり、稲見もE-BOWギターで参加していたり、普通に後期 C.V.のイメージです。(この楽曲も下記の記事で平成ベストソング第122位に上げさせていただきましたので詳細に解説しています。当時は一体何者かという扱いだったかもしれませんが・・・そういうことなのです)

 ところで、今回のリマスターで追加された3曲について簡単に触れておきましょう。「VERIFY」「O.F.-2」「PROCESS」の3曲はC.V.結成以前に稲見淳がソロとして活動していた80年代後半に制作していたカセットテープが発掘されたので、いわゆるボーナストラック的に収録されたというものです。ちなみに、「XD-submit Vol.4」に稲見とMasato KawataniのデュオユニットZENとして同名タイトルの楽曲が収録されていますが、それとはどうやら関係がなさそうです。「VERIFY」と「PROCESS」はシンセやギターによる音響的小作品ですが、面白いのは1987年のライブで演奏されたらしい「O.F.-2」です。立花ハジメ「TAIYO-SUN」を彷彿とさせるインダストリアルリズムによるバッキバキなエレクトロインスト。使用機材としてYamaha DX7、QX-7、RX-11、KORG Poly Six、Mono-Poly、MS-20、Roland SH-2、MC-202、TR-808、AKAI S612・・・といった数多くの電子楽器を駆使していたということですので、既にプロフェッショナルな青少年であったことを垣間見ることができます。

 何はともあれ、彼らの後期の充実した楽曲群がこうしてリマスターで聴くことができる日が来ようとは夢にも思わなかったわけでして、何度も申し上げますが感謝しかありません。唯一心残りとすれば、筆者が唯一ライブに足を向けた1994年12月の十三FANDANGOで行われたI.B.M.NIGHT(4-Dや宇都宮泰(Dr.Utsunomiya)とのIron Beat Manifesto関係者による対バンライブ:この時偶然筆者の隣で何故かP-MODEL加入直後の福間創氏がノリにノッて観覧していたことを今もよく覚えています)にて演奏された「SYSTEM OF LIPS」のフルバージョンが収録されなかったことでしょうか。あの時1度しか聴けなかったあの曲をもう一度聴きたかった・・・。断片ではありますが、XD-SUBMIT Vol.3に収録された断片を紹介して、また想いを馳せたいと思います。

 今気づきました。「UNOFFICIAL LIVE TAPES」のジャケット写真はこの映像からだったのですね。

必然と邂逅。30年の沈黙を破った最新録音盤!
「DIFFUSION」

1.「DIFFUSION1」 曲・編:稲見淳 
2.「DIFFUSION2」 曲・編:稲見淳
3.「DIFFUSION3」 曲・編:稲見淳
4.「DIFFUSION4」 曲・編:稲見淳

 さて、ここで少しC.V.活動休止後のそれぞれの活動について簡単に振り返ってみます。
 稲見淳は1998年に旧友であるダンサー角正之やシンセプログラマーMOMO(百々政幸)らと人力テクノバンドTIME CONTROLを結成、同名タイトルのアルバムをベルギーSub Rosaレーベルからリリース後ソロに転向、以降は即興電子音楽アーティストとして2001年に1st アルバム「Repeater」をリリース後は現在まで一貫して即興電子音響の世界で国内外隔てなく自身のレーベルelectr-ohmから、本業である兵庫県山奥の農業生活のかたわら音源を発信し続けています(小西健司とのDARK MATTERというユニットもありましたね)。

 ヴォーカルの杉本敦とMASAはその後の活動は不明ですが、MASAは何故か一時期雑誌TV Bros.で連載を持っていたような・・・記憶があります。
 1993年に脱退した福間創はもう皆様ご存知のとおり1994年にP-MODELに加入、2000年の活動休止まで在籍すると、2000年以降はYAPOOS、ケラ&ザ・シンセサイザーズの正式メンバーとして活動すると共に、自身のユニットsoyuz projectとしても数々の作品をリリース、2015年からは京都に活動拠点を移し本名名義で電子アンビエント作品をリリースし続けていましたが、2022年に逝去しています。

 後期C.V.の新メンバーであったOBIは、しばらくソロアーティストを続けていましたが、2000年代に入ると音楽活動から一旦身を引いたらしく行方が掴めずにいたのですが、近年は浜松市を拠点にに少女のポートレート撮影を得意とするフォトグラファー・オカケンイチとして活動していることがわかりました。加えて、音楽活動としてはガールズエレクトロポッププロデューサーとしてHopCulture Recordsを設立、2020年にはアイドルmomoを擁するガールズテクノポップユニットPeach Allergiesとして3枚のシングルを配信リリース、モデルIRISとのエレポップユニットChocolat Balletも立ち上げると2枚のシングルをリリース(なお、1stシングル「花泥棒になった日」はあのXD SUBMIT Vol.2に収録されたOBIソロ楽曲「Blameless Vices」の焼き直しです)。2023年にはモデルShioriとR&B的な新ユニットeau de lunetteを始動するなど、実は最も積極的に活動しているかもしれません。

 ということで、C.Vメンバーが紆余曲折を経て各々の世界で生活している中(現世を卒業されている方もおられますが)、この再発を機になんと30年ぶりに再始動するということで色めき立ったわけですが、よくよく考えますとC.V.は稲見氏主宰のユニットという色彩が強かったわけで、バンドメンバーが今さら集まるわけもなく、当然のことながら稲見ソロワークスの一環という形となるのは必然ではないかと思います。そのようなわけで、今回の新譜である「DIFFUSION」は、2000年代以降稲見が継続してきた電子即興音響サウンドの延長線上にあるもので、現在稲見の生業となっている電子音日記のスペシャルバージョンといった内容となっています。当然ながら4曲ともリピートに次ぐリピートの電子音響インプロヴィゼーションのスケッチ集であり、しかも「DIFFUSION1」「DIFFUSION2」は約10分、「DIFFUSION3」は約20分、「DIFFUSION4」は約28分という、超長尺なBGMとなっています。筆者としてはやや専門外のジャンルですので、解説は難しいのですが、特に「DIFFUSION3」に関してはなかなか攻撃的なシーケンスが炸裂していますし、「DIFFUSION4」に至っては圧巻というほかなく、まさに日常に溶け込む電子音響といった印象を受けました。過去のC.V.とは似て非なるものと思われますが、CONTROLLED VOLTAGEを「制御電圧」と訳すならば、この単語に最もしっくりくるのは本作なのかもしれません。

↑ なお、CDはリマスターされ音の輪郭が格段に上がっています。


 というわけで、長々と記してまいりましたCONTROLLED VOLTAGEの発掘音源リマスター第2弾&新譜でしたが、そろそろお開きにしたいと思います。生きているうちの再発は諦めかけていた今回の発掘音源を実現していただいた稲見淳氏の再度改めてお礼を申し上げまして、今回の2回にわたる記事を締めたいと思います。
 6枚のC.V.音源は家宝にいたします。本当にありがとうございました!


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