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TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベスト?ソング200:Vol.5【120位〜101位】

 平成ベスト?ソングシリーズはやっと中間折り返し地点に差し掛かってまいりました。回を重ねるたびに文章量が多くなっていますので、最後にはどうなっているかは想像したくもないですが、これ以上は長くならないように気をつけながら進めていきたいと考えております。どうも楽曲のレビューというよりはそこに至るまでの経緯の方が長いというご指摘もあろうかと思いますが、そのような足跡を知ればこそ、まさにその時に生まれた楽曲のタイム感が感じられるというものですので、これは端的に言うなれば、個人的な手法の1つとでも考えていただければと思います。まあなんだかんだいっても好きだから書ける、ただそれだけなんですけどね。

 というわけで、今回は前置きはこれくらいにして即本題にまいりたいと思います。平成ベスト?ソング120位から101位までのカウントダウンです。それではお楽しみ下さい。



120位:「Shining Collection」 Iceman

    (1999:平成11年)
    (アルバム「GATE II」収録)
     作詞:Iceman 作曲・編曲:浅倉大介

      vocal・chorus:黒田倫弘
      guitar・chorus:伊藤賢一
      programming・synthesizers(Yamaha DX7 II・
      Roland JV-1080・Roland JP-8000・
      Roland JP-8080):浅倉大介

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 1995年に一旦accessを活動休止にした浅倉大介が、さらなる音楽的実験場として1996年より始めたプロジェクトがIcemanでした。浅倉はボーカリストの黒田倫弘とギタリストの伊藤賢一という(実はそれほど年は離れていない)4歳下の新人とトリオバンドを結成し、記者会見を行うなど華々しくデビューを飾り、1998年までに「POWER SCALE」「Digiryzm Mutation」の2枚のアルバムと6枚のシングルをリリースし、順調に人気を獲得していきます。そして1999年にIcemanというプロジェクトの本領発揮となる実験的一大プロジェクト「GATE」シリーズが開始、1年間に3枚のアルバムと1枚のremixアルバムを制作するという本プロジェクトの第1弾として、3rdアルバム「GATE II」がリリースされます。本作については、本noteの別記事「TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベストアルバム100:Vol.2【80位〜61位】」の第75位をご参照ください。

 この「GATE II」リリース後に、4thアルバム「GATE I」、remixアルバム「gate out」、5thにしてラストアルバム「GATE//white」と連続してリリースしていくわけですが、このGATEシリーズは楽曲の仕上がりにストイックにこだわっていくあまり、黒田のボーカル曲が徐々に少なくなってしまいバンドとしての形が崩壊していくことになりますが、第1弾の「GATE II」の時点では黒田・伊藤・浅倉の3名の個性が完璧にリンクしてバンドとしてのテンションが最高潮に達していた時期であったため、クオリティの高い楽曲が目白押しとなっています。その中でも最も爆発的な印象を与える楽曲が、本作の実質的なラストを飾る「Shining Collection」です。ビートの速さを極限にまで高めるというチキンレース感覚が味わえる超高速デジロックメタルなこの楽曲は、メロディとしてはこれまでの浅倉楽曲に共通するある種の「クサさ」が感じられるものの、それを補って余りある切迫感と世紀末感が半端ありません。Icemanのようなエレクトリックサウンド中心のロックにおいて、とにかくスピードの果てにある限界に挑もうとする意気込みと姿勢がここまで音に表れている楽曲も珍しいのではないでしょうか。このようなスピード系ロックに感じられるヤケクソ感がそれほどにも感じられないのは、その速度によって破綻しないような緻密な音作りと、浅倉特有のクサいメロディが功を奏しているためであると思われますが、結局はこの楽曲が奇跡のバランスであったというわけで、その後は、作り込みと速さをストイックに追求していくあまりその超高速のままバンドは空中分解していくことになってしまうのです。

【聴きどころその1】
 何かに急かされること請け合いの170BPMの超高速ドラム。ほぼドリルとしか言いようがないドラムンベースでもないただただ速さを追求したTR-909プログラミングです。これがとにかく最後まで突っ走りに突っ走るため、通しで聴いた後の疲労感は尋常ではありません。
【聴きどころその2】
 このハイスピードドラムに惑わされますが、このリズムにしてしっかり歌モノとして成立させる浅倉大介のメロディセンスは、流石はヒットメイカーといったところです。特にBメロの歌メロとギターフレーズが別々に奏でられながら絡み合う様子は美しいです。


119位:「彼女にかまわないで」 麻田華子

    (1989:平成元年)
    (アルバム「Ya!」収録)
     作詞・作曲:斎藤雪江 編曲:井上日徳

      vocal:麻田華子

      guitar・other instruments:井上日徳
      synthesizer operator:石川鉄男

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 1988年に弱冠13歳で劇場アニメ「うる星やつら 完結篇」主題歌に抜擢されたシングル「好き♡嫌い」でデビューしたアイドル歌手麻田華子は、中学1年生らしからぬ歌唱力とリズム感を武器に、「Doubt!」「魔法」「さよなら、DANCE」と立て続けに良曲を連発しますが、アイドル冬の時代に差し掛かる時期と相まってなかなかブレイクとはいかず苦戦を強いられていきます。そして5thシングル「一人でいいもん」を先行カットとして、麻田は元気いっぱいの1stアルバム「13+」に続く2ndアルバム「Ya!」をリリースすることになります。これまでの彼女の楽曲のアレンジは、デビュー曲の「好き♡嫌い」が萩田光雄、「Doubt!」が西平彰、「魔法」が松本晃彦、「さよなら、DANCE」が清水信之と、大御所から気鋭の売り出し中の編曲家が担当しており、作家に恵まれた環境にありましたが、売り上げにつながらないと見られるや否や麻田華子プロジェクトは第2フェーズへ移行、アレンジャーには井上ヨシマサの実兄であり、翌年は黒沢光義を手掛けることになる井上日徳が起用されます。前述の「一人でいいもん」から参加した井上日徳はもともとがギタリストということもあり、歪み系のギターフレーズを生かした当時流行のガールズロック系サウンドを導入し、アルバム「Ya!」も歌謡ロック路線に仕上がっています。
 しかしそんなガールズロックに傾倒した本作にあって、1曲だけ明らかに異様なテクノポップど真ん中の楽曲があります。本作4曲目に収録の「彼女にかまわないで」は80年代アイドルテクノ歌謡という範疇でいえば、当然話題になってもおかしくないサウンドとなっています。1989年という80年代末期にして平成スタートの微妙な時期に登場していること、そしておよそテクノポップとはいえない「Ya!」というアルバムの収録曲の1つであることからもなかなか目に留まりづらい楽曲かもしれませんが、その手のジャンルのDJ達にピックアップされても遜色ない緻密なリズム&シーケンスプログラミングのノリが凄まじいテクノポップ〜エレクトロポップの名曲です。恐らく盲点になっていて知られていないだけであると思われますので、是非この機会に再評価していただけますと幸いです。
 そんな隠れた名曲が収録されたアルバムをリリースした麻田華子でしたが、結局売れ線には届かずその後は鳴かず飛ばず。樹本彩華〜村上理央〜再び麻田華子と芸名の相次ぐ変更で女優路線を歩むも迷走状態は否めませんでしたが、1999年にエイベックスからラストチャンスとしてトリオボーカルグループTRINITYのメンバーMOCAとして再デビュー、6枚のシングルおよびアルバム1枚を残すも、やはりインパクトを与えられず不遇の芸能生活にピリオドを打つことになります。

【聴きどころその1】
 80年代にしてハウスを意識したリズムボックスの緻密なプログラミング。フィルインのパワフルなエフェクト処理や、キレのあるハンドクラップ、チャカポコパーカッションの輪郭もクッキリしているため、独特の跳ねるシンセベースとの絡みが絶妙です。
【聴きどころその2】
 そのリズムをなぞるようにリズミカルにフレージングされたシンセベースとシーケンスパターン。人間味の薄いこのチープなテケテケシーケンスパターンはまさにテクノポップの王道フレーズというべきもの。特にサビ部分での細かく暴れ回るリズムとゴムのようなコクのあるシンセベース音色が混ざり合う部分は、脳内麻薬効果が絶大です。


118位:「キ・ツ・イ」 玉置浩二

    (1989:平成元年)
    (シングル「キ・ツ・イ」収録)
     作詞:松井"お月様"五郎 作曲・編曲:玉置"流れ星"浩二

      vocal・guitar・chorus:玉置浩二

      synthesizers・percussions・programming:BAnaNA
      sax:YU・KA・RI
      chorus:AMAZONS(大滝裕子・吉川智子・斉藤久美)

キ・ツ・イ

 安全地帯のボーカリストにして稀代のメロディメイカー・玉置浩二と80年代を代表するシンセサイザープレイヤー川島裕二(BAnaNA)は、井上陽水バックバンド時代からの相棒ともいえる存在でした。とにかく安全地帯のデビュー時から玉置のBAnaNAに対する信頼度は絶大で、大ヒットアルバム「安全地帯V」からはアレンジャーとしても参加、第6のメンバーとして80年代後半のさらにエレクトリックなサウンドに目覚めていく安全地帯の楽曲においてその刺激的なシンセサイザープレイで彩りを加えていました。そしてそんなBAnaNAに対する玉置の偏愛ぶりは、1987年の海外レコーデョングの玉置の1stソロアルバム「All I Do」において、名だたる海外ミュージシャンの中でコーラスのAMAZONSを除いてただ一人日本人として参加(しかも3曲のアレンジを担当)していることからも明らかですが、安全地帯が活動休止した1988年以降も玉置とBAnaNaは行動を共にし、1989年の2ndシングル「キ・ツ・イ」でも彼らのコラボレーションを堪能することができます。
 玉置が主演の1人として好演したTVドラマ「キツイ奴ら」の主題歌となったこの「キ・ツ・イ」は、シンプルで音数の少ないサウンドながら、強烈に叩き出されるドラムと常人とは思えないマッドなフェイクで、そのパフォーマンスが話題となった名曲です。この楽曲ばかりはレコーディングバージョンよりもTVパフォーマンスの方が遥かに強烈な印象を残していますので、下記リンクの動画をじっくりご覧いただければと思いますが、まず何と言っても主役の玉置浩二の充実ぶりたるや恐ろしいものがあります。いくらフェイク映えする楽曲といってもあそこまでフェイクしまくれる度胸は、かなりの技術的に裏打ちされた自信がないと持ち得ないものではないかと思われます。また、それ以上に素晴らしいのがここではSIMMONSとサンプルパッドを上下左右に配置したエレクトリックパーカッションを叩きまくるBAnaNAのパフォーマンスです。あそこまでカッコよくエレドラをスタンディングで叩く(というより殴るという表現がふさわしい)姿は現在までも見たことがありません。打ち下ろすごとに腕を伸ばしたり、アタック感を体全体で表現したり、そして後半にはその場でスキップしながら叩いたりと、変幻自在のパフォーマンスが楽しめます。しかも彼の本職はキーボーディストというのも大きなポイントです。ボディコンシャスなAMASONSのコーラスと2人の収拾がつかないフリーダムなパフォーマンスを引き出す魅力満点の楽曲として、平成最初の年のヒットソングながら個人的に忘れることのできない名曲となっています。なお、このフォーメーションでのパフォーマンスは4thシングル「I'm Dandy」でも再び楽しむことができました。

【聴きどころその1】
 音数の少なさで生まれた隙間の多いサウンドの中でこそ生き生きとしたドラミングが光っています。バスドラにもスネアにもゲートリバーブがかけられたエフェクティブかつパワフルな音ですが、無知の音しかり、BAnaNAお得意のブラススタブしかり、この楽曲はこの目立ちすぎるリズムが主導していると言ってもよいでしょう。
【聴きどころその2】
 ただでさえ強烈なリズムですから、頭でっかちなサウンドになりがちなところですが、このリズムに真っ向から対抗しているのが玉置の強烈なボーカルテクニックです。裏声やウイスパーも使いながら、低音も高音も自由自在かつパワフルでよく伸びる、そしてフェイクも澱みないという非の打ちどころのない歌唱力は、世界にアピールしても全く恥ずかしくない日本を代表するボーカリストであるがゆえの才能の賜物でしょう。


117位:「ディアノイア」 riya

   (2004:平成16年)
   (サウンドトラック「最終試験くじら オリジナルサウンドトラック」収録)
     作詞:troro 作曲・編曲:大久保薫

      vocal・chorus:riya

      guitar:今泉洋
      bass:入江直之
      drums:宮田繁男
      keyboards・piano・programming:大久保薫
      strings:桑野ストリングス

最終試験くじら

 2000年代のアニソンクリエイター最重要人物の1人であるmyuと同窓のよしみでファンタジーPOPSユニットrefioを結成して活動していたのがボーカリストriyaでした。同人音楽系即売会M3等で次々と音源を発表していく中で、同じく同人音楽を中心に活動していた菊地創に引き抜かれる形でeufoniusを結成するわけですが、このeufoniusの活動と並行して、その透明感あふれるボーカルが話題となっていたriyaには「Kanon」や「AIR」といったアニメ化もされた名恋愛アドベンチャーゲームを制作していたビジュアルアーツのゲームブランド・Keyから声がかかり、2003年にはこちらも大ヒットとなった名作ゲーム「CLANNAD」のイメージボーカルアルバム「ソララド」のメインボーカリストに抜擢されます。そして2004年にはその他のPCゲームの主題歌を次々と担当することになり、同年末にはPlayStation 2ゲーム「アカイイト」主題歌「廻る世界で」「旅路の果て」(MANYO作編曲)をkukuiの霜月はるかとデュエットで歌い、同じくPlayStation 2ゲーム「水月 〜迷心〜」主題歌「CRESCENT MOON」(安瀬聖作編曲)を担当、そして「CLANNAD」の続編イメージボーカルアルバム「ソララドアペンド」(まにょっ(MANYO)・たくまる作編曲)のボーカリストを再度務めるなど、一躍PCゲームシンガーとして名が知られていくことになります。
 さて、riyaはこの八面六臂の活躍であった2004年末に忘れてはならないもう1つのPCゲーム主題歌を担当しています。それが「最終試験くじら」のオープニング主題歌「ディアノイア」です。あの名作ゲーム「D.C. 〜ダ・カーポ〜」シリーズを手掛けたゲームブランドCIRCUSが制作した「最終試験くじら」の象徴ともなるこの名曲は、CIRCUSの社長であるtororo(松村和俊)が作詞を担当、作曲およびアレンジには現在の職業作編曲家としてはトップクラスの実績を誇る大久保薫が起用されています。もっともこの時期はまだ無名の存在であった大久保ですが、2004年にはCooRieのアレンジャーとして一気に頭角を現してきた時期ということもあり、その充実ぶりと勢いがこの楽曲からも感じ取ることができます。CooRieの「あなたと言う時間」のアレンジ手法に手応えを感じたと思われるオーガニックなアコギとピアノにゴージャスなストリングスをバラードソングに落とし込むセンスは、この楽曲において完成の域に達していると言えるでしょう。そして2005年からはデジタルとアナログのサウンドバランスに優れたアニソンアレンジャーとして引っ張りだこになっていきますが、その才能はモーニング娘。を看板とするアイドル集団・ハロープロジェクト!楽曲のメインアレンジャーとして抜擢されることにより一般的に認知されていくことになります。

【聴きどころその1】
 楽曲を思い切り盛り上げるストリングスアレンジ。Bメロからサビに入る瞬間の雪崩れ込むようなフレーズ感覚は、その後の大久保アレンジバラードの真骨頂となっていきます。また、この雪崩れ込み部分で地味に左から右へ落ちていくシンセノイズも隠し味として効いています。一見必要のないS.E.と思われがちですが、これがあるとないとではキレが違いますので重要なのです。Aメロやアウトロで登場するシタールのようなサウンドも非日常感が演出されていてセンスを感じます。
【聴きどころその2】
 こういう泣きのゲームソングということなのでどうしてもサビでは歌い上げたくなってくるところですが、歌い上げるのはストリングスで、実際の歌メロは音程の高低は控えめにすることでより哀愁感が際立つというものです。


116位:「微睡みの楽園」 Ceui

    (2007:平成19年)
    (シングル「微睡みの楽園」収録)
     作詞:こだまさおり 作曲・編曲:小高光太郎

      vocal・chorus:Ceui

      guitar:飯室博
      programming:小高光太郎

微睡みの楽園

 異世界系ファンタジーPOPSを得意とするシンガーソングライター・Ceuiが一握注目を浴びたのは2007年のTVアニメ「sola」エンディング主題歌である「mellow melody」でした。彼女の2ndシングルであるこの名曲は、無国籍情緒あふれるサウンドに寂寥感を助長させる哀愁メロディが物語の世界観とマッチして話題を呼び、アニソン・ゲーソンシンガーとしての彼女の運命を変えた1曲となりました。アニソン大手レーベル・ランティスに所属したCeuiは、その後も「光と闇と時の果て」(TVアニメ「空を見上げる少女の瞳に映る世界」)、「espacio」(TVアニメ「宇宙をかける少女」)、とエンディング主題歌を次々と担当すると、2009年には収録曲全曲が最終回を感じさせる名盤1stアルバム「Glassy Heaven」をリリース、売り上げには反映しませんでしたがそのドリーミーな異世界感を押し出したサウンドデザインと神々しさに拍車をかけたCeuiのボーカルで、ポジションを明確に主張した作品となりました。その後も「センティフォリア」(TVアニメ「青い花」)、「Truth Of My Destiny」(TVアニメ「伝説の勇者の伝説」)、「Stardust Melodia」(TVアニメ「境界線上のホライゾン」)、「風のなかのプリムローズ」(TVアニメ「恋と選挙とチョコレート」)、「奏愛カレンデュラ」(TVアニメ「八犬伝―東方八犬異聞―」)と抜群にエンディング主題歌の担当が多く、その起用は2013年頃まで彼女のエンディング魔神ぶりは続いていきますが、2013年の4thアルバム「ガブリエル・コード〜エデンへ導く光の楽譜〜」からこれまでのドリーミーファンタジーPOPS路線からシンフォニックハードロック路線へ大胆に方針転換したチャレンジを開始、エンディング魔神に終止符を打ちます。
 さて、Ceuiの経緯をたどるのはここまでにして、今回取り上げるのは彼女のエンディング魔神としての歴史の始まりとなる2007年の1stシングル「微睡みの楽園」です。少女漫画風ファンタジーロボットアニメ「京四郎と永遠の空」エンディング主題歌であるこの楽曲は、デビュー当時のCeuiが真摯に歌い上げる珠玉のバラードソングです。作編曲は2013年まで楽曲面でのCeuiの相棒としてその世界観を作り上げてきた小高光太郎です。Ceuiと共に成長してきたと言ってもよい気鋭の若手クリエイターであった彼からは、繊細かつクールな質感を保つシンセサウンドにセンスを感じさせますが、この楽曲でも風通しのよい隙間を感じさせるオーケストレーションとピアノを基調に、独特の透明感を持つCeuiの歌唱を引き立たせるベストオブバッキングともいえる裏方ぶりを発揮しています。こういった曲調であればどうしても生のストリングスやピアノプレイヤーを招きたくなるものですが、(予算の関係もあったかもしれませんが)すべてプログラミングで済ませていることで涼やかさと儚さを演出することに成功しています。逆に生演奏ではゴージャスになりすぎてこのある種の「脆さ」を表現することにはそぐわないと思われますし世界観を損なうことになりますし、そこはプログラミングだからこそこの楽曲が名曲たる存在感を発揮したのではないかと思います。

【聴きどころその1】
 前へ出過ぎない変に抑揚も感じさせない淡々としたストリングスのフレージング。まるで平面を撫でていくようなフラットな質感が、この楽曲の世界観にはピッタリハマっています。低音を一切排除した思い切りの良さも感じますが、そのおかげでクールな質感を保ち、ファンタジックなイメージを増幅させています。
【聴きどころその2】
 この楽曲を底辺で支えているのがリズムボックス的なパーカッションです。うっすらとエフェクトがかけられたリズムが夢見心地なイメージを演出しています。随所で音源にかけられるこのエフェクトはリズムだけでなくピアノ等にも施されており、そのかかり具合で夢と現実の狭間を行き来する微睡みの世界を見事にコントロールしています。


115位:「電磁合体!ギャラクシーメガ」 風雅なおと

    (1997:平成9年)
    (シングル「気のせいかな」c/w収録)
     作詞:小泉卓 作曲・編曲:三宅一徳

      vocal:風雅なおと

      bass:不明
      drums:不明
      brass:不明
      strings:不明
      keyboards・programming:三宅一徳

気のせいかな

 1997年から放映されたスーパー戦隊シリーズTVドラマ「電磁戦隊メガレンジャー」は、インターネットや携帯電話等のデジタル通信の急速な普及を反映した新感覚のコンセプトによる戦隊シリーズということで、高速戦隊ターボレンジャー以来の高校生戦隊というコンセプトとなると、当然のように若さ溢れた疾走感による音楽が期待されることになります。そのようなコンセプトやイメージが凝縮されたオープニング主題歌「電磁戦隊メガレンジャー」は劇伴も担当した元スペクトラムの大御所作編曲家・奥慶一のペンによるもので、ジャニーズ系アイドル等でバックコーラスを務めてきた風雅なおとが歌う、スピード感とデジタルビートが心地良い特撮ソングでした。なにしろCGやデジタル合成を駆使した特撮技術を初めて使用した宇宙規模で戦う戦隊ですから、テクノロジー好きには見逃せません。対してエンディング主題歌「気のせいかな」は、出口雅生と亀山耕一郎の変名ユニット・鷹虎の作編曲による、ストリングスが基調のオーガニックスタイルでいかにも特撮のエンディングらしいメロディアスな楽曲ですが、名曲はこのシングルのカップリングに眠っていました。
 「電磁合体!ギャラクシーメガ」は、戦隊シリーズにはなくてはならない戦隊メンバーが操るロボットの合体シーンで流れる挿入歌です。メガシップとメガシャトルが宇宙空間で電磁合体する巨大ロボ・ギャラクシーメガのテーマソングであるこの楽曲は、主題歌に引き続き風雅なおとの歌唱によるもので、作編曲は東京芸大作曲家出身で1989年にデビューした邦楽POPSユニット・箏座のメンバーであった三宅一徳が起用されています。宇宙空間を想起させるイントロに続いて飛び出してくるのはどこかアットホームな管楽器とストリングスによるオーケストレーション。ベースとドラムがグルーヴィーな生演奏なので、ノリが想像以上に肉感的です。非常にドラマティックな展開を見せる楽曲ですが、それらを朗々と歌い上げる風雅なおとの歌唱力や声質は、さすがは後年ボーカロイド・KAITOのボイスを担当した安定感で、特撮ソングになくてはならない歌唱の「キレ」を体現しています。特撮ソングにはこのような挿入歌であっても印象的な名曲が数多く登場しますが、この楽曲もサウンドとメロディの一体感による完成度の高さで、主題歌以上に印象に残る楽曲として記憶されるべきでしょう。

【聴きどころその1】
 ストリングスとブラスパートの掛け合いによる隙のないオーケストレーション。特にピチカートの使い方に非凡なセンスが感じられます。このピチカートを応用してソナー音に変化させスペースワールドをイメージさせる手法は実に素晴らしいです。
【聴きどころその2】
 熱いノリと爽やかさを同居させるメロディライン。カッコよさと期待感を煽るAメロからメジャー調に転調するBメロがこの楽曲の「キモ」です。この爽快感があってこその強引なサビへの再転調が効いてくるわけです。サビから続く大サビの「バキッ!と一撃」のリズム感も「燃える」ポイントと言えるでしょう。


114位:「黄昏のダイアリー」 RYUTist

    (2018:平成30年)
    (シングル「黄昏のダイアリー」収録)
     作詞:清浦夏実 作曲・編曲:沖井礼二・北川勝利
     弦編曲:Tansa

      vocal・chorus:五十嵐夢羽
      vocal・chorus:宇野友恵
      vocal・chorus:横山実郁
      vocal・chorus:佐藤乃々子

      electric guitar・bass・programming:沖井礼二
      acoustic guitar・programming:北川勝利
      piano:末永華子
      strings programming:Tansa

黄昏のダイアリー

 古くはモーニング娘。の小川麻琴・久住小春、メロン記念日の斎藤瞳の出身地でり、現在ではローカルアイドルの先駆者的存在であり今や全国的人気を誇るアイドルグループNegiccoを輩出したことで俄然注目を浴びる新潟県。秋元康グループのNGT48が来襲してきても、何かしら事件を起こしてしまっても、新潟という地域はそういうスノッブな事象には惑わされない良質なアイドルグループを生み出す土壌が生きていることを証明する、Negiccoに続くもう1つのローカルアイドルグループが存在しています。現在は五十嵐夢羽宇野友恵佐藤乃々子、大石若奈、木村優里(2012年脱退)からなる5人組アイドル・RYUTistは2011年の結成以来、KOJI Obaや永井ルイ、カンケ、平川雄一らのPOPS職人達が手掛ける常に良質な楽曲と、精力的なライブ活動に裏打ちされた美しいコーラスに代表されるパフォーマンスが評価されており、2015年に1stアルバム「RYUTist HOME LIVE」を残すと、いよいよ2016年に転機が訪れます。この年に脱退した大石若奈に代わり、ローカルソロアイドルとして活動していた横山実郁を新たにメンバーとして迎えたRYUTistは、元口ロロの音楽ライター・南波一海が主宰するメジャーレーベル・PENGUIN DISCへ参加すると、2ndアルバム「日本海夕日ライン」を置き土産に本格的にメジャー進出を果たし(並行して地元のRYUTOレーベルから作品を継続してリリース)、2017年にはカメラ=万年筆・婦人倶楽部のM.Lemonこと佐藤望やカンバスの小川タカシらが参加した3rdアルバム「柳都芸妓」をリリースし音楽性をアピールすると、2018年からはさらに本格化を見せることになります。
 2018年の1stシングル「青空シグナル」は元Cymbals・現在はTWEEDEESとして活躍するポスト渋谷系POPSクリエイター・沖井礼二を起用、カップリングにはインドネシアのシティポップバンドikkubaruの提供曲「無重力ファンタジア」が収録されるなど、さらなるグッドミュージックへと傾倒していくと、この年2枚目のシングル「黄昏のダイアリー」という名曲が誕生します。前作に引き続き、作詞に清浦夏実、作曲に沖井礼二というTWEEDEES勢というラインナップに本作では巨力なスパイスが加えられました。00年代以降沖井と共にポスト渋谷系POPSの遺伝子を守ってきた名コンポーザー・ROUND TABLEの北川勝利が共同作編曲で参加し、ありそうでなかった沖井&北川の最強タッグが結成されると、そこからは名曲しか生まれる気配がしません。実際に生まれたこの「黄昏のダイアリー」は、メロディ・アレンジ・コーラスワーク全てにおいてやはり完成され尽くした仕上がりで、多少北川の手グセ感はあるものの訴求力の高いサビは見事の一言。演奏にはTWEEDEESのオシャレ感が2倍増しといったところで、この黄金タッグが間違いではなかったことが窺えます(間違うはずはないのですが)。2020年夏には「黄昏のダイアリー」も収録される待望の4thアルバム「ファルセット」がリリースされる実力派アイドル・RYUTistは、同郷の先輩Negiccoのように全国区でブレイクする気配満々ですので、今後の活躍に要注目です。

【聴きどころその1】
 大袈裟に立ち回るストリングスとフリーダムなピアノの掛け合い。オーバーワークと思わせるほどの切迫感のあるオーケストレーションが気合い入りまくりです。2周目からはオルガンも加わって豪快なソロまで披露。確かに沖井と北川が自らのPOPS魂をなりふり構わずぶつけてきた名曲ですから、その前のめりな精神が、全部乗せてんこ盛りなサウンドメイクに表れています。
【聴きどころその2】
 必殺のサビを備えた哀愁の泣きメロディが主軸の楽曲がそのゴージャスなサウンドと混ざり合って名曲に仕上がっているのも、そのクオリティと正面を張るRYUTistの真摯な歌唱とコーラスワークがあってこそです。彼女達のキャラクターもあって、その実力が必要以上にアーティスティックに前へ出てこないというのも好感が持てます。


113位:「恋する図形 (cubic futurismo)」 上坂すみれ

    (2016:平成28年)
    (シングル「恋する図形 (cubic futurismo)」収録)
     作詞・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

      vocal:上坂すみれ

      bass・vocal・programming:フジムラトヲル
      Prophet-5・ARP Omni2 SEMrack・programming:石川智久
      keyboards・vocal programming:松井洋平
      SIMMONS SDS-V・Pollard Syndrum:よしうらけんじ

恋する図形 (cubic futurismo)

 2012年の声優デビュー以降、現在まで一貫して主要なキャストを任される器用なキャラクターを持つ売れっ子・上坂すみれは、2013年に「七つの海よりキミの海」で歌手デビューして以来、特にカップリング曲にアーバンギャルドや人間椅子、パール兄弟といったサブカルチャー的匂いを漂わせるバンドを次々に起用、自身の80'sニューウェーブフォロワーとしての立ち位置を明確にします。80'sテクノ歌謡にも造詣が深いそんな彼女ですから、自身が志向する音楽性の一部としてテクノポップが採用されるのは空気を吸うにも等しいことということで、2016年にはアニメソング界にYMOルーツの80'テクノポップを大胆に持ち込んだ張本人である業界屈指のシンセサイザーマニア・佐藤純之介をサウンドプロデューサーに迎え、これまで共演していなかったことが不思議なほどであったTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下T.P.G.)楽曲である「恋する図形 (cubic futurismo)」を7thシングルとしてリリースします。
 TVアニメ「この美術部には問題がある!」のエンディング主題歌に採用されたこの楽曲は、どこをどう切り取ってもテクノポップとしか言いようがないサウンド。改めて言うまでもありませんが、この楽曲のポイントはSIMMONS SDS-VPollard Syndrumの2台のエレクトリックドラムを駆使したサポートドラマー・よしうらけんじの芸術的なドラミングでしょう。当然ヴィンテージシンセサイザー を使いまくったサウンドメイクは美しく、テクノらしく適切な位置にフレーズを配置するプログラミングは、さすがは90年代から活動する円熟の域に達したT.P.G.だからこそ成せる業です(エンジニアがYMOを手掛けた寺田康彦というのも影響していると思われます)。せっかくなので、歌詞にファム・ファタール(細野晴臣の名盤「はらいそ」収録)やらパースペクティブ(YMOのラストアルバム「サーヴィス」収録)といった単語を忍ばせてみたり、歌いはじめのSIMMONSフィルインはイモ欽トリオの「ハイスクール・ララバイ」だったり、テクノユーモアをここぞとばかり放り込んでみる遊び心も楽しい楽曲ですが、上坂はあえてテクノ・ドールに徹しながらも違和感がまるでないところは、演者としての個性が確立されているからにほかなりません。いっそのことテクノポップのみで1枚アルバムを制作してみてはいかがでしょうか。

【聴きどころその1】
 SIMMONSだけでもお腹いっぱいなのにPollardまで使用しているため、電子リズムまみれの不思議な音像に。なかなか着地できない弾力感が非現実感を増幅させます。エレドラ特有の腰が入っていない音に繊細なアナログシンセがマッチしているのは、80'sシミュレートとしては成功と言えるでしょう。
【聴きどころその2】
 漢字とカタカナで埋め尽くされた記号的な歌詞。意味が捉えづらいのに語感だけでなぜだかカッコよさを演出できるのもテクノポップの醍醐味と言えます。そこにボコーダーまで加わってくるとすれば言わずもがなでしょう。ラストのピアノにもリバースをかけているのにも徹頭徹尾加工を怠らないテクノ魂を感じます。


112位:「にちよう陽」 AZUMA HITOMI

    (2013:平成25年)
    (アルバム「フォトン」収録)
     作詞・作曲:AZUMA HITOMI 編曲:AZUMAYA

      vocal・programming:AZUMA HITOMI

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 2010年に配信されたオリジナル楽曲「無人島」が業界の目に止まり、2011年に四つ打ちダンサブルチューン「ハリネズミ」がTVアニメ「フラクタル」のオープニング主題歌に抜擢され、大学在学中にシングルデビューを果たしたAZUMA HITOMIは、当初は匿名性のある宅録少女という触れ込みでしたが、基本は80'sニューウェーブに影響された歌モノPOPSを志向するDTMシンガーソングライターです。同年に2ndシングル「きらきら」をリリースしてしばらく沈黙しますが、それは1stアルバムの制作期間であったということで、2013年に待望の1stフルアルバム「フォトン」がリリースされることになります。四つ打ちリズムが基調のエレクトロポップを13曲も揃えてきた本作は、シンプルな中にも電子音が際立つような音作りがなされており、その澱みないエレクトロによるサウンド感覚はまさしくDTM全盛世代の特徴といったところでしょう。「情けない顔で」「破壊者アート」といったハードなテクノ&ニューウェーブチューンも収録されるなど一見隙のない堂々としたプログラミングが新人らしからぬセンスを感じさせますが、そのあたりは本作を共同プロデュースする細海魚がしっかりサポートしています。細海といえば高浪敬太郎のソロワークや、90年代のネオアコポップバンド・b-flower(2014年からは正式に加入)など数多くのサポートキーボーディスト兼サウンドプロデューサーとして活躍、90年代後半からはアンビエントやエレクトロニカの世界へ進出し、成田真樹とのMaju(繭)や自身のソロワークで地道に作品を発表してきたクリエイターですが、そんな彼のエレクトロ志向がAZUMA HITOMIの作品では全開となっています。
 AZUMAと細海の共同名義であるAZUMAYAがほぼ全曲のアレンジを担った1stアルバム「フォトン」の中でも、最もエレクトロとメロディがオリジナリティをもって完成度高く仕上がっているリードチューンが、スタートを飾る「にちよう陽」です。拡散する電子音にザラッとした白玉パッドが加わり、サビではアルペジオまで侵入してくる典型的なエレクトロポップなのですが、ほのぼのとした日常を歌う歌詞世界としっかりした歌唱力が、無機質なサウンドの中でも有機的な癒しを感じさせます。どうしてもサウンドにこだわり過ぎてしまうDTMerと一線を画しているのがこの選び抜かれた音色を隙間を作りながら際立たせる音像です。AZUMAはDTM女子とはいえどちらかといえば機材志向。Alesis MicronやSequetial Morphoといったコンパクトなバーチャルアナログシンセサイザーを操り、要塞ライブと銘打たれた独演ライブでは、HAMMONDのペダルキーボードや立花ハジメも真っ青の自動キックマシーン(アルプス3号の再来?)を駆使したパフォーマンスで異彩を放っており、その独特なアプローチが矢野顕子や木村竜蔵への楽曲提供、そして2014年の2ndアルバム「CHIRALITY」のリリース、シンセサイザーカルテットHello, Wendy!への参加等といった多彩な活動へと結びついていくのです。

【聴きどころその1】
 音のかけらを適材適所に配置するようなサウンドデザイン。ザラッとした白玉パッドの音色と左右に散らばっている単音フレーズのコントラストが実に美しく、これぞ電子音の芸術と言えるでしょう。
【聴きどころその2】
 音を伸ばしてからの巧みなサビへの入り方。この手のサウンドを志向するクリエイターとしては、通常以上に「歌える」という長所を持ち合わせています。矢野顕子を彷彿とさせる歌唱は、そこはかとなく村上ユカと似た立ち位置を思わせますが、村上よりはややハードな音楽性を忍ばせているようです。


111位:「君を守りたい」 小林愛香

    (2010:平成22年)
    (スプリットシングル「COLOR / 君を守りたい」収録)
    作詞:稲葉エミ&フリージングプロジェクト 作曲・編曲:YOW-ROW

      vocal・rap:小林愛香

      programming・electric guitar・chorus:YOW-ROW
      chorus:比嘉沙弥香

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 アニメソングという性質上、オープニング主題歌とエンディング主題歌がセット販売されるという事象はしばしば発生するわけですが、今回は2011年のサテライザー先輩が身ぐるみ剥がされている印象しかないTVアニメ「フリージング」の主題歌が収録されたスプリットシングルからの1曲です。このシングルに収録されたのはMARiA(メイリア)が歌うオープニング主題歌「COLOR」と、小林愛香が歌うエンディング主題歌「君を守りたい」の2曲です。「COLOR」の作編曲を担当したのはtoku。ということは察しの良い方はご存知とは思いますが、後のGARNiDELiAの楽曲です。かたや「君を守りたい」を歌う小林愛香はこの楽曲が単独名義ではないものの歌手デビュー。ダンスの鍛錬を積んできたということなので、普通にシンガーを目指していたということですが、本作と初の単独名義のシングル「future is serious」を最後にしばらく行方不明になるものの、2015年に大ヒットTVアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の主要キャスト・津島善子役にて声優としてデビュー、このチャンスを生かしたことが彼女の運命を少しばかり変えていくことになるわけです。
 さて本題の「君を守りたい」ですが、この楽曲の作編曲者に起用されたのが、海外で活躍していたエレクトロロックバンドGARIのメインボーカリスト・マニピュレーター兼コンポーザーであるYOW-ROWです。2016年の新生SCHAFTのボーカリストに抜擢されたことも記憶に新しい彼ですが、当時はGARIとして2010年リリースのアルバム「Colorful Talk」が話題を呼んだ、いわゆる脂が乗った時期でしたが、アニメソングどころか他者への楽曲提供は初めてということもあって、GARIの音楽性をそのまま持ち込み、とにかく自身のサウンドカラーをアピールしようという作戦に出た結果、グリグリのシンセシーケンスが上下に動き回る異質なエレポップチューンが完成しました。間奏では勢いに任せた小林のラップまで飛び出す狂乱のマシナリーシーケンスが飛び交う熱い展開で、その開き直ったサウンド手法はGARIそのもの。しかしそのちょっとしたやり過ぎ感がインパクト勝負のアニメソングとしては成功しており、型にハマらないカッコよさを提示していると言えるのです。続く「future is serious」ではややマッドな感覚が薄れてしまっただけに、この楽曲の暴れはっちゃく具合が浮き彫りになっているのです。

【聴きどころその1】
 電気量の多い圧迫感のあるリードシーケンスが暴れ回ります。アクセントとなるオケヒットが霞むくらいの圧力のクセがとにかく強いです。GARIでは普通に見られるフレーズパターンですが、新人少女歌手にそのまま持ってくる類の音ではありません(褒め言葉です)。
【聴きどころその2】
 間奏ではもはやあのドギツイシーケンスに歯止めが効かなくなり暴れ出しますが、小林の拙いラップまで加わって半狂乱になっていくシーケンスが楽しくて仕方ありません。音程の幅が広いことが好作用しているものと思われますが、あのノリはプログラミングでないと出せないでしょう。


110位:「TimeLine10-11」 福間創

    (2010:平成22年)
    (オムニバス「電子音楽部」収録)
     作曲・編曲:福間創

      programming・vocoder:福間創

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 1991年に小西健司主宰の自主レーベル・Iron Beat Manifesto所属のニューウェーブバンドCONTROLLED VOLTAGEに加入、1993年に脱退するも小西健司にBBSから勧誘を受けた福間創は、994年より改訂P-MODELに加入、自身初のメジャーデビューを果たします。平沢進・小西健司・上領亘といった百戦錬磨のプレイヤーを相手に若き新進テクノクリエイターが挑む構図となった90年代後半のP-MODELにおいて、福間は便利屋として平沢や小西のアヴァンギャルドな活動と共に他では得られない貴重な経験を積んでいくことになります。2000年のP-MODEL活動休止以降は、当時は戸田誠司らが在籍していた戸川純率いるYAPOOSに加入するとともに、自身のリーダープロジェクト・SOYUZ ProjectをYAPOOSの山口慎一やP-MODEL時代から共同作業することが多かったシンセプログラマーMOMOらと結成し、2004年にはダンサブルなテクノ色の強い1stアルバム「Elettrico Strada CD」がリリースされます。しかし2005年にはYAPOOSを脱退、2006年にはユニットであったSOYUZ Projectを解体し、soyuz projectと小文字にマイナーチェンジしたソロ活動へと以降していきます。その後2008年にケラリーノ・サンドロヴィッチの新バンド・エレキバターへの加入(そのままザ・シンセサイザーズへ加入:2013年末に脱退)という出来事もありましたが、soyuz projectとしては2007年にアルバム「bellissima」をリリースするものの、よりサウンドとしてはストイックな電子音にこだわっていくことになり、作品リリースのペースはやや落ちてまいります。
 そのような中、三浦俊一が主宰する自主レコード会社・ビートサーファーズの所属アーティストを集めたコンピレーション企画が立ち上がります。福間やレーベルマスターの三浦のほかに、FLOPPYの2人(小林写楽・戸田宏武)や中野テルヲといったアーティストが参加したこのコンピは「電子音楽部」と名づけられ、それぞれの個性的な電子音楽家による異なったアプローチのエレクトロポップが堪能できる貴重なオムニバスとなっております。そして本作には福間は2曲参加しておりまして、それが「AUX+」と今回取り上げる「TimeLine10-11」です。福間本人の単独名義ということもありsoyuz projectとは異なる手法を期待されもしましたが、実質はsoyuzらしい砂原良徳もかくやと思わせる研ぎ澄まされた電子音とボコーダー、そしてメランコリックなコードワークによりエレクトロワールドを演出、結局このロマンチシズムとポップ感覚が福間サウンドの真骨頂と言えるのではないでしょうか。なお、2012年のsoyuz projectラストアルバム「Perspective」にもミックス違いの「TimeLine」が収録されていますが、幾分音像が豪華になったためか原曲のストイックな印象が薄らいでしまっていることを考えると、「電子音楽部」バージョンに軍配が上がることになります。この電子音の真髄を突き詰めるようなストイックさは2015年に東京から京都に引きこもり始めてからの「Flowers」から「ambi-valance」シリーズ等の音響〜アンビエント道まっしぐら路線に結実していくわけですが、この限りなく深淵なエレクトロサウンドを追求していく姿勢はデビュー当初からの豊富なキャリアに裏打ちされた音の探究心の賜物であると言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 この解像度の悪いボコーダーの響きと等間隔でかけられるディレイの美しさは絶品です。このストイック性こそまさしくテクノ。左右にキラキラシーケンスが魅惑のコードワークとともに流れていきますが、その眩いまでのキラキラ感といいますかドリーミーな感覚をサウンドとして表現する技に福間創というアーティストは長けていると思われます。
【聴きどころその2】
 ドラムマシン、恐らくSequential TOMと思われるハンドクラップの連打。音色といいマシンならではの連打のキレには、この楽曲の間違いなくハイライトの1つと言えるでしょう。くぐもり感がありながらコクのある絶妙なクラップ音であると思います。


109位:「Yes We Can!!」 草野先生 (水原薫) & 川代先生 (若林直美) 

    (2010:平成22年)
    (はなまる幼稚園ベストアルバム「childhood memories」収録)
     作詞:大森祥子 作曲・編曲:WATCHMAN
 

      vocal:草野先生 (水原薫)
      vocal:川代先生 (若林直美) 

      guitars・programming:WATCHMAN

はなまる幼稚園 childhood memories

 2001年にMelt-Banana を脱退し、THE SLEEPWALKとしての活動も一段落したWATCHMANは、北海道旭川市に拠点を置きながら、NARASAKI率いるオルタナティブロック&シューゲイザーバンド・COALTAR OF THE DEEPERSのサポートや、WATCHMAN名義のソロ活動へと邁進、2009年にはソロとしての公式1stアルバム「Lotusize」がリリースされ、その斬新なエレクトロサウンドを披露していきます。そのような活動と並行してNARASAKIとタッグを組んで結成した音楽制作チームが、SADESPER RECORDです。2004年に映画「U.F.O.」サウンドトラック盤「A Sort of Sound Track for U.F.O」をリリースしますが、その後再びその名前を目にすることになるのが2009年放映のTVアニメ「はなまる幼稚園」の劇伴起用でした。この「はなまる幼稚園」はオープニング主題歌こそNARASAKIが手掛けた「青空トライアングル」1曲のみでしたが、全12話にそれぞれ異なるエンディング楽曲を用意するという挑戦的な試みを行っており(その成果はサウンドトラックと主題歌集が収められたベストアルバム「childhood memories」に結実します)、その中でも第2話の幼稚園児のキャラクターソングらしからぬ本格的プログレッシブロック&スペースオペラ仕様の「キグルミ惑星」(コジマミノリ提供曲)という名曲が生まれます。WATCHMANも第5話のエレクトロニカワルツ「あのねきいてね」、第6話のハイスピオルタナガールズロック「ハートの法則」を提供していますが、彼が提供したもう1曲、第11話のエンディングに採用されたWATCHMANらしさ溢れるプログレエレクトロポップ「Yes We Can!!」を今回は取り上げたいと思います。
 「はなまる幼稚園」のキャストの中でも比較的サイドキャラクターである草野先生川代先生が歌うこの「Yes We Can!!」ですが、そのような地味な存在にもかかわらず楽曲自体はド派手なつんのめり型リズムによる前衛的プログラミングによるエレクトロチューンです。前述のアルバム「Lotusize」でも似たようなサウンド手法を披露していますが、上下運動の激しい音程が次々と入れ替わるフレージングに、喉に小骨が引っかかりまくるような不可抗力リズムによるストレンジなサウンドメイクは、歌い手も妙にリズムをとりにくそうにしている部分はご愛嬌ともいえますが、当事者だけでも違和感がありまくりなのですから、聴き手にとっては篩にかけられる感覚となります。不思議なのはWATCHMANにかかればこのようなアヴァンギャルドな展開の楽曲もPOPSとして成立させてしまうところで、これは相方のNARASAKIにも言えることですが、POPSやロックという範疇の中で好きh上代チャレンジしながらもキャッチー性をいかに確保できるか、というチキンレースを行うことができる天賦の才を持ち合わせているからこそです。そのような2人のSADESPER RECORDですから、その後はWATCHMANが再び上京したこともあり引く手数多となり、数多くのアニメ作品の劇伴を手掛けていくことになるのです。

【聴きどころその1】
 細かくバタバタと叩かれ続ける複雑なリズムと一体化したプログラミング。ほとんどパッドを使用しない空間をとにかく埋め尽くす強引かつ緻密なパズルゲームの繰り返しといった印象のサウンドメイクに注目です。
【聴きどころその2】
 ガチャガチャしてせわしなくともポップにまとめられたサビに飽き足らず、間奏ではプログラミングのつんのめり具合に拍車がかかり、さらに音を歪ませたり電子音が漏れ出してきたりと細かい仕掛けも忘れないアヴァンギャルドなフレージングで攻めてきます。この一筋縄では絶対行かせないぞという意地悪な間奏こそが、本人もソロ作品で実験していたサウンド手法の1つと言えます。


108位:「EROTICO」 森岡賢

    (2005:平成17年)
    (アルバム「Jade」収録)
     作詞・作曲・編曲:森岡賢

      voice・synthesizers・programming:森岡賢

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 1995年のSOFT BALLET解散後、バンドの"華”の部分を担っていた森岡賢はソロ活動に転じます。正確に言えば解散の前年には1stアルバム「Questions」をリリースしていたため、そのままソロへ移行することは既定路線であったことと思われます。そのような独り立ちした森岡はソロとしての作品を制作する前に、まずプロデューサー業に挑戦、1997年には新人ヴィジュアル系ロックユニットFEELや、中原理恵とのハウス歌謡ユニットFACE「吐息のオペラ」のサウンドプロデューサーとして、SOFT BALLET時代から培われたメロディメイカー兼サウンドクリエイターとしての才能を還元していこうと試みます。しかし元からの華のあるキャラクターである森岡をレコード会社が放っておくはずもなく、1998年にはKEN.MORIOKA.A名義でシングル「FAT」「ZERO」、そしてかの香織をゲストボーカルに迎えた「Plastic Flower」という3枚のシングルを発表した後、エレクトリックミュージックを軸としながらも多彩な音楽性を披露した1999年に2ndアルバム「JAPANESE」をリリースします。ここから森岡はトランスやエレクトロな作風へと傾倒していき、2001年には「ELECTRONICA」「fantasia」と2枚のダンスアルバムをリリースするわけですが、この路線に行き詰まりを感じたのか、2002年〜2003年のSOFT BALLET再結成を経て、再びソロに転向した際には、エッジの効いたエレクトロサウンドの中でもメロディアスなエレポップ志向の歌モノ路線に挑戦していくことになります。そして「Always Need Your Love」「NEW GROOMING」の2枚の先行シングルの後に、2005年にリリースされた5thアルバムが「Jade」となります。
 さて、今回取り上げるのは「Jade」収録の2曲目「EROTICO」です。本作の中でもとりわけど直球なエレクトロリフで、かつエッジーなシンセベースが大活躍するこの楽曲は、典型的な森岡節のメロディによる派手好みのトランスエレクトロポップチューンに仕上がっています。あえて刺激的な電子音を多く使用した鋭さ重視のサウンドの疾走感たるや、これぞ森岡賢の真骨頂であり自身のパフォーマンスも映えるというものでしょう。この畳み掛けるスピード感は後の出口雅之とのエレポップユニット・GENTLEMAN TAKE POLAROIDの前哨戦とも言えるものですが、やはり森岡はこのような高速エレクトロビートに乗ったキレのあるエレポップチューンでこそポテンシャルを発揮するタイプのアーティストであることを再認識させられる楽曲です。2010年代になると、土屋昌巳率いるバンドKA.F.KAや、藤井麻輝とのminus(-)、再結成URBAN DANCEのサポート等精力的に活動していましたが、2016年に突然逝去、稀代のパフォーマー&クリエイターを日本の音楽界は失ってしまうことになるのです。

【聴きどころその1】
 突き刺すようなシーケンスリフ。鋭利な刃物のようなエッジーなサウンドに乗って森岡のニューロマスタイルなボーカルが絡んできます。しかしながらわかりやすいメロディとサビの豪快なエレクトロシーケンスの嵐はキャッチーなのにカオスの一言です。
【聴きどころその2】
 直線的なシンセベースと細かくプログラミングされた前のめりのリズムトラック。この前のめりというのが大切で、全体に漂う切迫感はこのガチャガチャしたリズムプログラミングに原因があると思われます。そしてこの攻撃的な前ノリは森岡のエレクトロアーティストとしての生命線ではなかったかと今更ながら感じています。


107位:「プレパレード」 逢坂大河 (釘宮理恵), 櫛枝実乃梨 (堀江由衣), 川嶋亜美 (喜多村英梨)

    (2008:平成20年)
    (シングル「プレパレード」収録)
     作詞:渡邊亜希子 作曲:大久保薫 編曲:鈴木光人

      vocal:逢坂大河 (釘宮理恵)
      vocal:櫛枝実乃梨 (堀江由衣) 
      vocal:川嶋亜美 (喜多村英梨) 

      all instruments:鈴木光人

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 2008年から2009年まで放映された大ヒットTVアニメ「とらドラ!」は、高校生の青春や恋愛模様を2クールじっくりかけて時にはコメディータッチに、時にはシリアスに描いた名作でしたが、作品を彩る主題歌も印象に残る名曲が多かったように思われます。特にエンディング主題歌に秀逸な楽曲が多く、堀江由衣が歌うな中塚武アレンジのPerfumeパロディエレクトロポップ「バニラソフト」や、劇伴も手掛けた橋本由香利が作編曲を担当したヒロイン三人衆が歌う哀愁ガールズポップチューン「オレンジ」は、現在もなおアニソンファンに愛されるキラーチューンとして語り継がれています。しかしここで取り上げたいのはやはりこの物語のスタートを飾るオープニング主題歌「プレパレード」以外にほかなりません。
 一見ゲーム音楽のような電波曲という印象を抱かせるこの楽曲の作曲者は当時CooRie関連の数々の名曲を生み出し勢いに乗りつつあった大久保薫。しかしアレンジャーとしての評価が高い彼はこの楽曲では作曲のみにとどめられ、アレンジャーとして00年代前半を代表するエレクトロポップバンド・overrocketを脱退しスクウェア・エニックスのサウンドデザイナーとして活躍する鈴木光人を迎えているところに最大の特徴があります。ボイス変調を多用しエレドラのフィルインが強調され、16音符が均等に割り振られたフレーズシーケンスが軸となるサウンドはまさしくoverrocketの流れを汲む00年代型テクノポップと呼べる代物です。全体的にバタ臭さの残るメロディはそれでもキャッチーで覚えやすく、約束事をしっかりと捉えた隙のない展開を見せているため、最後までノリや鮮度を失わない仕上がりです。大久保薫&鈴木光人という当代きってのサウンドクリエイター同士の恐らく今後もあり得ないであろうタッグが残した貴重な音源として、テクノポップ好きとしても是非記憶に残しておきたい名曲の1つです。

【聴きどころその1】
 合いの手にフィルインのギミックにと頻繁に使用されるボイス変調は、人気声優トリオが歌う楽曲ということもあるものの、特に間奏部分においては執拗に畳み掛けるボイス乱れ打ちが堪能できます。
【聴きどころその2】
 等間隔でプログラミングされたテクノポップ御用達のシーケンスパターン。ゲームセンターのような音色選択も含め、サウンドカラーをしっかり染め上げることに成功しています。またここぞという場面でのスネアの圧力が素晴らしい。具体的には間奏終了後のサビへ移る直前の場面転換で使用されたスネアです。あの「圧」があって後半さらに盛り上がる楽曲に変身するのです。


106位:「πラップル」 ヒカシュー

    (1993:平成5年)
    (アルバム「あっちの目こっちの目」収録)
     作詞・作曲:三田超人 編曲:ヒカシュー

      vocal・guitar:三田超人
      口琴・cornet:巻上公一
      sax:野本和浩
      bass:坂出雅海
      keyboards:Torsten Rasch
      drums:つの犬

      vocal:Lauren Newton
      violin:Hans-Jürgen Noack

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 PLASTICSやP-MODELと並んでテクノポップ御三家といわれた、令和の現在にして時代がまだ追いついていない超個性派バンド・ヒカシューは、もともとの音楽性がテクノなサウンドに頼り切るタイプのものではなかったため、1983年のシンセサイザー担当であった山下康の脱退と翌年のサックスプレイヤー野本和浩と、ドラマーの谷口勝の加入により、急激に即興的な生演奏によるフリージャズ風味の歌モノバンドとして孤高の道を歩んでいくことになります。この80年代中盤のヒカシューはライブ活動も精力的に行われ、プレイヤーとしての経験と実力が備わっていく大切な期間であり、その成果が1988年リリースの名盤「人間の顔」、そして翌1989年リリースの「ヒカシューLIVE」に収められることになりますが、この「ヒカシューLIVE」はこの年バンドの屋台骨であった谷口の急逝がきっかけとなった追悼盤ということで、谷口の死の影響は大きく、ここで一旦ヒカシューはバンドとしての存続危機に立たされます。しかしドラマーにつの犬(角田健)を迎えることでこの危機を脱し、1990年に「丁重なおもてなし」、1991年に「はなうたはじめ」(名曲「びろびろ」収録)とコンスタントにアルバムをリリース、逆にバンドは充実期を迎えます。この「はなうたはじめ」はドイツのハンザストンスタジオで録音されましたが、ここでターニングポイントとなったのがオリジナルメンバーのキーボーディスト井上誠の脱退と、ドイツ人プレイヤーTorsten Rasch(トルステン・ラッシュ)の加入です。もともとメンバーの坂出雅海がドイツを拠点とするベーシストであったこともあり、ドイツとの繋がりが深かったヒカシューでしたが、Torstenの正式加入によりさらに国際色が強くなったことと、1992年リリースの巻上公一のソロアルバム、フリージャズのオーソリティーであるJohn Zornのプロデュースによる「殺しのブルース」がきっかけとなり、さらなるインプロヴィゼーションへの傾倒ぶりが顕著になっていくのです。
 そのような中ハイペースで音源をリリースしていくヒカシューは、1993年に11枚目のアルバム「あっちの目こっちの目」をリリースします。前作と同様ドイツ録音による本作には、Vienna Art Orchestraの創設メンバーでもある強力な女性ボイスパフォーマー・Lauren Newtonが参加していますが、ただでさえクセの強い巻上の個性的なコブシの効いた歌唱がバンドの個性となっているヒカシューにあって、Laurenのパフォーマンスは遅れをとるどころか完全にアルバムのカラーを掌握し、ゲストとは呼べないほどの存在感を印象づけています。また、本作はTorsten Raschと彼のドイツ時代のバンド・DEKAdanceのメンバーであったバイオリニスト・Hans-Jürgen Noackの2名の活躍ぶりも目立っており、さながらドイツ勢に乗っ取られた感覚さえ覚えてしまうほどですが、そこはさすがは日本が誇る個性派バンド・ヒカシューが誇る変態ギタリスト・三田超人「πラップル」でやってくれました。徹底的に円環構造にこだわったというこのストレンジな楽曲は三田のセンスが大爆発、ほぼオノマトペともいうべき奇妙な歌詞による三田とLaurenのボイスパフォーマンスの掛け合いが圧巻ですが、現在であればDTMでエディットしたくなるようなギミカルなフレーズもしっかり人力でこなしているのは、ヒカシューメンバーそれぞれの演奏力が成せる業でしょう。なにせこの90年代前半はバンドの充実期。同年にはOVAアニメ「超時空世紀オーガス02」の劇伴や主題歌「不思議をみつめて」も手掛けるなど多方面で活躍、渋谷系やクラブ系TECHNOで沸く日本の音楽シーンにあって独自の道を邁進していったのです。

【聴きどころその1】
 ギターもサックスも口琴も各楽器が好き勝手に動き回りながらも1つの楽曲に収め切るセンス。これぞインプロヴィゼーションの極みというべきなのでしょうが、この難解な楽曲を歌モノに仕上げているという(意味不明な歌詞?造語?)ところに非凡な才能を感じます。余りにもセンスが突出していて、他者へ提供できるのがMCコミヤ「倦怠期です」くらいであったことが悔やまれるところです。
【聴きどころその2】
 ほとんど狂人のようなLauren Newtonのボイスパフォーマンス。素っ頓狂な三田のボーカルの裏であらゆる発声法を駆使して畳み掛けるテンションの高さは日本人には真似できないでしょう(戸川純あたりでもこのテンションとテクニックを保つのは難しいと思われます)。


105位:「10F」 ハイポジ

    (1991:平成3年)
    (ミニアルバム「写真にチュー」収録)
   作詞・作曲:もりばやしみほ 編曲:もりばやしみほ・山口優・Mint-Lee

      vocal・chorus・KORG MS-20・machine:もりばやしみほ
      guitar・banjo・slide-pipe:近藤研二
      machine:山口優

      drums・大太鼓・cymbal・snare:外山明
      trumpet:佐々木史郎
      trombone:村田陽一
      tuba:関島岳郎
      violin:西田ひろみ
      machine:Mint-Lee

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 もりばやしみほのキャリアは1985年に活動を開始したソロユニット・森林倶楽部から始まります。この森林倶楽部が翌1986年に山口優と林茂助のユニット・もすけさんと対バンしたことで、山口が深く関わっていた総合芸術集団・京浜兄弟社との関わりを深めていき、音楽的素養を蓄えていくことになります。森林倶楽部はその後Infantopia Orchestra Unit-5→WOOD the POPへと進化する過程でギタリストの近藤研二が加わり、約2年間はライブを中心に修行を続きますが、1988年末に久万幸子と松本正のユニット・ハボハマニアのメンバーであった荒木尚美(あらきなおみ)と、打ち込みサポートとして元きどりっこであり山口のテクノポップユニット・EXPOの相棒であった松前公高をメンバーに迎え、ここで遂にハイポジが結成、自主制作カセット「天下のハイポジ」が世に送り出されます。こうなると1989年は事態が動き出すもので、7月にはあのバンドブームを牽引したTV番組「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」(通称イカ天)にハイポジ+ハボハマニアとして出演し「さかさまの世界地図」を演奏、そのキャラクターを知らしめると、同年末にはサエキけんぞうプレゼンツのオムニバス「ハレはれナイト」(実質は京浜兄弟社が深く関わっている)に、「エヴァ エヴァ ペー」が収録され認知度が上がり、よやく1991年に東芝EMIよりミニアルバム「写真にチュー」で念願のメジャーデビューを果たす、といった経緯をたどるわけです。
 このメジャーデビューの頃には松前公高が脱退し、陰に日向に旧知の間柄であった山口優が正式に加入、主にサウンド面でのバックアップやプロデュースを(宇宙人の姿に身をやつして)サポートすることになります。ここまで説明してきて、後年のおしゃれでポップなポスト渋谷系的なHi-Posiのイメージのカケラもないことにお気づきかもしれませんが、当時の彼らの音楽性は上記イカ天でもコールされたように、"明るく楽しいヘタクソブラバンミュージック"でしたので、この「写真にチュー」でも、ファニーな脱力感に溢れるどんちゃん騒ぎなブラスバンドPOPS一直線の楽曲が目白押しとなっています。しかしながら本作の中で1曲飛び抜けた名曲が収録されておりまして、それがこの「10F」です。7分以上にわたる大作ですが、こちらはもうブラスバンドの域にとどまらず(ヘタウマ風味を残しながらの)フルオーケストレーションのアレンジに仕上げられていまして、骨組みとなっているのは能天気な歌唱と南国風味な弾き語り癒しソングといった原曲を、ここまで壮大なオーケストラバージョンに仕立てているのは、京浜兄弟社のサウンド面での重鎮であり象徴的なアレンジャーMint-Lee(当時は船越みどり→現在は岡村みどり)です。彼女はこのオーケストレーションをRoland MC-500(シーケンサー)で打ち込みながら構築するスタイルなため、彼女の手掛けたアレンジは独特なストリングスや木管の味が出るサウンドに仕上がるわけです。この楽曲でも生のブラスセクションやドラムに絶妙にオーケストレーションが溶け込ませることに成功しています。メジャーデビューにおける極端なヴィジュアルイメージから、イロモノバンドもしくはコミックバンドとも揶揄されがちなハイポジでしたが、この「10F」1曲だけでもただものではない音楽性の高さを垣間見せていたことが、1993年以降の大胆なイメージ戦略の方向転換に違和感が少なかった理由の1つとも言えるのです。

【聴きどころその1】
 Mint-Leeのオーケンストレーションアレンジに尽きます。特に木管楽器とストリングスのプログラミングによるシミュレーションが絶品で、特に2周目の途中から入ってくる涼しげなストリングスの入れ方が実に素晴らしいです。楽曲の後もしフィアをガラリと変える力がこのオーケストレーションにはあると思います。
【聴きどころその2】
 ブラスセクションもこの楽曲では大活躍。特にチューバの関島岳郎の貢献度が高く、本来であれば正式メンバーであるあらきなおみのベースラインも関島のチューバに差し替えられるなどサウンドの核として機能しており、まさしく楽曲の屋台骨を支える役割を果たしています。


104位:「星屑リフレイン」 COSMO-SHIKI

    (2015:平成27年)
    (アルバム「Alien Syndrome」収録)
     作詞・作曲・編曲:清水良行

      vocal・synthesizers・programming:清水良行

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 白塗りニューウェーブはアンダーグラウンドテクノポップの温床として発展してきた界隈で、もともとテクノポップ&ニューウェーブ、そしてニューロマンティクスはヴィジュアル系に大きな影響を与えてきましたし、Klaus NomiやGary Numanといった白塗りの先輩方も世界にも存在しますので、白塗りとエレクトリックなポップミュージックとの相性が良いということは歴史が証明しているわけです。COSMO-SHIKIこと清水良行も白塗りニューウェーブにどっぷり浸かったアーティストの1人です。90年代後半から地元大阪にて後に妖怪ヘヴィメタルバンド・陰陽座を結成する瞬火と黒猫が在籍していたバンドである空想科学病人~紙とメモ紙~のベーシスト・清水清水として活動していた清水良行は、一念発起して上京後、cali≠gariの桜井青率いるlab.のベーシストKANANとして参加、その後は戸田宏武最高議長主宰の新宿ゲバルトの片腕として、その新宿ゲバルトの別ユニットneuronのcosmo02として、大所帯バンド無恥鞭アナゴのいっつみーとして、白塗りニューウェーブ界隈との交流を深めながら完全にシンセシストな歌モノテクノポップに目覚め、2007年に自身のソロ活動COSMO-SHIKIを開始します。まずは3曲入りシングル「宇宙式」を、翌2008年には4曲入りシングル「ふゆのほし」を制作、そして2010年には待望の1stミニアルバム「VIOLATOR」をリリースしますが、ここまでは高速シーケンスを軸としたチップチューン寄りの四つ打ちサウンドにボコーダー処理された歌が乗る図式の楽曲が多く見られました。
 その後ギターサウンドを取り入れたシューゲイズ風味の別ユニットDivitronを始めるものの、三浦俊一主宰の音楽レーベル・ビートサーファーズに所属してリリースされた2013年リリースの2ndアルバム「BLEEP UFO」あたりから、90年代初頭の代表的なTECHNOジャンルであったブリープ・テクノを意識したプログラミングやリズムが増え始め、現在のところ最新アルバムである2015年リリースの「Alien Syndrome」では、80'sエレクトロや90年代TECHNOの美味しい部分がすっかりハイクオリティなエレクトロポップに昇華した作風に進化しました。ここで取り上げる「星屑リフレイン」は、スペイシーかつドリーミーなノスタルジーワールドが広がる哀愁エレポップで、グッとくるサビのメロディが絶品な名曲です。作り込まれた電子音とプログラミングにこだわるあまり、切ない高音が魅力の声質を生かした歌モノとしてのメロディに沸きらない部分もあったCOSMO-SHIKIでしたが、本作では「Theta in the Sky」といったもう1つの哀愁エレポップチューンも収録され、メロディセンスですらまだまだ成長するポテンシャルを秘めていることを証明しています。近年アルバムがリリースされていないのが寂しいところですが、ライブ活動は精力的に行っているユニットですので、このライブ活動が制限された時期にこそ新たな音源リリースを期待したいところです。

【聴きどころその1】
 四つ打ちに絡む随所で登場するブリブリしたシーケンス。目立たないベースラインを補強する役目であるこのゴモゴモしたシーケンスがあるのとないのとでは、サウンドの締まりが違います。音数が多いトラックの中でも際立つコクの深さは、この楽曲の最大のキモとなっています。
【聴きどころその2】
 恐ろしいほど目の前が開けて眩しさ全開となるスペースファンタジーなサビのmロディ&サウンド。ギラギラパキパキしたフラグメントなシーケンスが幾重にも重ねられたゴージャスな電子空間が表現されていますが、そこに至るまでの不安げなBメロがあってこその場面転換の妙が楽しめます。


103位:「Skills of Heterodox/異端の巧」 Spiky Spoon

    (2015:平成27年)
    (オムニバス「ショップ・メカノ10周年記念/築10年」収録)
     作詞・作曲・編曲:秋元きつね

      vocals・programming:秋元きつね

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 80年代後半に平沢進のローディー(丁稚)として平沢進のもとで彼が使用していたAMIGAコンピューターによるCG制作を学んだ秋元一秀(後の秋元きつね)は、その後TV番組「ウゴウゴルーガ」のCG映像が評価され、CG作家として知られていくようになりますが、音楽活動は本業の裏で長く続けてきました。1989年にジキル浜田+ことぶき光にベーシストとして参加していた秋元は、同バンド解散後ことぶきや元木魚のドラマー・はっちゃきと共にサンプリングポップバンド・バリケフホニウムを結成、1990年には戸川純の昭和歌謡企画アルバム「昭和享年」に平沢進がプロデュース参加したことをきっかけに、戸川のライブツアーにバリケフホニウムとして参加します。しかし平沢のサポートと解凍P-MODELの準備で多忙となったことぶきとCG業界に進出した秋元は時期的にバンドの活動継続が困難になり、バリケフホニウムは解散、秋元ははっちゃきと共に山口修平と新バンド・ProtoAirを結成、音楽とCGと同期したライブに挑戦していきます。そして1994年に秋元は新ユニット・Hz(ヘルツ)を始動、1995年に自主制作1stアルバム「SpiralLink」をリリース、全編平沢進に影響されたプログレッシブテクノポップの本作で遂にこれまでの音楽活動を形にすると、翌年には2ndアルバム「Amphibian」をリリースしHzを2000年の解散まで活動を継続していきます。
 そして2000年からは後期Hzに参加していた田中正一を相棒に、バカ→ジラファント→ジラファント7とユニット名を変えながらCG同期ライブ活動を継続、2006年には「セケンのヨウス」、2010年には「ミンナのヨウス」と秋元きつね名義でアルバムを制作、ジラファントとしては2008年にCDR「ホントホント」をリリース(2011年にremixし正式リリース)、ジラファント7としては2012年に「森のなかまたち」をリリースするなど音源も継続的に発表していきますが、転機となったのは2010年からCG作家として関わった歌舞伎役者・市川染五郎と日本文化キュレーター・君野倫子主催のイベント「妄想歌舞伎」です。市川染五ロボという歌舞伎アニメを制作したことをきっかけにこのシリーズに継続的に関わることになると、2014年に新プロジェクトSpiky Spoonが始動し、早速1stミニアルバム「It Is」でその新たなサウンドを披露すると、同年末に2ndアルバムがリリースされるはずだったのですが・・・突然の病で冥土に旅立ってしまったのです。この2ndアルバムに収録されるはずだった渾身の1曲が7分以上に及ぶ「Skills of Heterodox/異端の巧」。前述の「妄想歌舞伎」にて影響された歌舞伎の口上や見得をふんだんに取り入れた過激なエレクトロポップという新境地は、まさに才気迸るという表現がしっくりくる衝撃的なサウンドで、ただでさえクオリティの高いプログラミングと歌舞伎要素のマッチングがこれほどマッチするとは驚きです。プログレッシブロックのように場面転換の激しい構成ですが、その和風シアトリカルな音楽性にもハマっており、これがSpiky Spoonのアルバムとして正式にリリースされなかったのが実に惜しい名曲です。なお、この楽曲は2015年に、秋元きつね作品を店頭ではほぼ専売で販売し続けてきたテクノポップ系音楽専門店、ショップ・メカノの10周年記念オムニバス「築10年」に収録されています。この名曲がしっかり音源として形にしていただいたことに感謝しています。

【聴きどころその1】
 情報過多なエッジの効いたプログラミング。音数で空間を埋め尽くしながらも、スムースな場面転換も考えられています。多彩な電子音とボイスの装飾が打ち込み一辺倒の楽曲なのに豪華絢爛な印象を与えてくれます。
【聴きどころその2】
 くどくなりがちな歌舞伎の口上や見得を、さらにくどいエレクトロ(しかも現代風といっても通用する)で中和したかのようなサウンドデザイン。しかもそのノリは非常にダンサブルであり、歌舞伎で踊らせるまさに新境地の鬼気迫る伝統芸能エレクトロポップと呼びたいサウンドです。


102位:「Birth of light」 米倉千尋

    (1999:平成11年)
    (シングル「Birth of light」収録)
     作詞:K.INOJO 作曲・編曲:本田恭之

      vocal:米倉千尋

      synthesizers・programming:本田恭之

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 1996年にOVAアニメ「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」オープニング主題歌「嵐の中で輝いて」でデビューしたアニメソングシンガー・米倉千尋は、亀田誠治らのバックアップにより多数のタイアップを獲得しながら1998年までに8枚のシングルと3枚のアルバムをリリース、安定感抜群の歌唱力を武器に90年代後半はアニソンの歌姫として君臨します。勢いに乗る彼女は1998年にあるプロジェクトに関わることになります。それが若木未生原作の超長編ライトノベル「ハイスクール・オーラバスター」シリーズのOVAアニメ化プロジェクトで、1993年より4枚のイメージアルバムをリリースしてきたストーリーと音楽性との調和を重視するシリーズでしたが、遂にアニメ化企画が持ち上がったということでその主題歌担当として米倉千尋に白羽の矢が立ったということです。このプロジェクトの一環としてOVA発売に先駆けて「ハイスクール・オーラバスター 〜CD-1st vision「來訪者」」「CD-2nd vision「烙印の翼」SIDE-A<聖痕>」「CD-3rd vision『烙印の翼』SIDE-B<聖界>」と、1998年に3枚のドラマCDがリリースされますが、このドラマシリーズの主題歌「Crimson of Butterfly」を米倉が担当します。そして本編であるOVA「ハイスクール・オーラバスター<光の誕生(めざめ)>」の主題歌も当然米倉が担当、ということで、今回取り上げるのはこのOVA主題歌「Birth of light」です。
 さて、ハイスクール・オーラバスターシリーズの音楽といえば、イメージアルバムの時代から多数の楽曲を作曲・編曲を手掛け、時にはみずから歌まで歌いながら物語の世界観を見事に支えてきた、元GRASS VALLEYの天才コンポーザー兼サウンドデザイナー・本田恭之です。90年代の声優楽曲としては異色のクオリティを提示した楽曲で、ライトノベル特有のファンタジーワールドを表現してきた本田に対する原作者・若木未生の信頼は絶大で、当然このOVA企画においても音楽は本田恭之ありきということで、「Crimson of Butterfly」「Birth of light」の両楽曲はもちろん本田恭之作編曲による繊細なロマンチシズム溢れるエレポップチューンに仕上がっています。特に「Birth of light」は、必要最小限のシンセの使い方が繊細極まりなく、細かく刻むリフやメインのイントロフレーズも古代から連綿と続く空の者と妖の者の長きにわたる戦いの物語という世界観を、古来の伝統楽器を模したシンセサイザー音色で彩っており、激し過ぎず静か過ぎず、それでいて儚さと夢見心地なファンタジーな質感を、そのサウンドセンスで見事に表現し切っています。さすがはシンセサイザーのフレーズの組み立てや表現力で劇的に音楽的世界観を支配する才能に長けた本田恭之のプロフェッショナルな仕事です。ところが彼が本田恭之と名乗る仕事はこのプロジェクトが最後期にあたり、同時期に本田が女性ボーカリストmiyoと結成した男女デュオユニット・空夜coo:ya(2012年「Crimson of Butterfly」をリメイク)が始動したミレニアム以降は本田海月と改名し、エース清水とのface to aceを活動の軸としながら、音楽性は不変ながらも新たなキャラクターとして活躍していくことになります。

【聴きどころその1】
 ポルタメントを駆使した箏を模倣したシンセフレーズ。細かなシーケンスにも弦を弾くような音色を採用しており、全体的なサウンドデザインを「和」の空気に染め上げています。このような多彩な音色が入れ替わり立ち替わりフレーズごとに登場して退場していくのが本田サウンド。しかし全体的なパート構造としては至ってシンプル。このシンプルさがかえってワンフレーズの微妙なエフェクトの効き具合を際立たせています。
【聴きどころその2】
 間奏のシンセソロは本田ソロとしてはいささか地味ですが、この間奏の後のサビからスッと入ってくる繊細なストリングスの心地よさがたまりません。アニメの主題歌としては全体的な盛り上がりに欠ける部分もあるかもしれませんが、靄に包まれたような儚さと諸行無常の世界観を考えますと、この浮遊感が実にマッチしてくるのです。


101位:「2100年の東京タワー」 長谷川明子

    (2010:平成22年)
    (シングル「Sunrise!」c/w収録)
     作詞:笹公人 作曲・編曲:HIDE-AKI

      vocal:長谷川明子

      synthesizers・programming:HIDE-AKI

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 アイドル育成ゲーム・アイドルマスターシリーズ(通称アイマス)は、発売から10年以上が経過した現在でも根強い人気を誇る、アイドルコンテンツメディアミックスの先駆けであるプロジェクトです。このアイマスがコンシューマーゲーム化された「THE IDOLM@STER (Xbox 360)」においてメインキャラクターの1人として登場したのが、星井美希。もともとはモーニング娘。をモチーフにしたというアイマスですが、星井はその金髪のビジュアルやマイペースのキャラクターからして、さながらアイマスの後藤真希といったところと言えますが、そんな重要なキャラクターの声優に抜擢されたのが、長谷川明子でした。彼女はこれまでのキャリアの中で、声優としてはほぼ星井美希というキャラクターのみで生きていると言っても過言ではありませんが(もちろん他のアニメやゲームでの仕事もこなしていますが)、ここまで1つのキャラにこだわるストイックな姿勢もアイマスファンにとっては彼女の魅力の1つなのかもしれません。
 さて、キャラとはいえどもシンガーの役ですので歌唱力もあるということで、長谷川本人も2009年にTVアニメ「アラド戦記 〜スラップアップパーティー〜」オープニング主題歌「LEVEL∞」で歌手デビューを果たすことになります。このシングルのカップリング曲「XXX」の作編曲を担当しているのが元まにきゅあ団の佐野電磁(佐野信義)で、彼は当時任天堂のポータブルゲーム機・nitendo DS用の音楽制作用ソフトウェア「KORG DS-10」の開発を手掛けていたことから、そのプロモーションのための期間限定ヴォーカルユニットDG-10に長谷川も参加することになります(メンバーは今井麻美=VCO、長谷川明子=VCF、又吉愛=VCA)。DG-10は2009年の間にシングル「DG-10」、リメイク中心のアルバム「LOVE SYNTHESIZER!」「GOLDEN SYNTHESIZER!」をリリース(サウンドプロデュースは佐野電磁と、岡田徹・polymoog・イマイケンタロウのトリオユニット・cto branch→後のCTO LAB.)、ヴォーカル以外のサウンドはすべてKORG DS-10で演奏するというこのユニットを経て、2010年には2ndシングル「Sunrise!」がリリースされるわけですが、ここでやっと今回紹介すべき楽曲が登場します。本シングルのカップリング曲である「2100年の東京タワー」です。今となってはスカイツリーに取って代わられた東京タワーということで時代を感じさせますが、この示唆的な楽曲を制作したのが、歌人・笹公人とゲーム音楽家HIDE-AKI(小林秀聡)による第2期宇宙ヤングです。正式な音源としては高橋名人とのコラボ楽曲である「ハートに16連射」のみであった第2期宇宙ヤングですが、寡作な彼らに取っては貴重な他者への提供曲ですので、独特な歌詞による世界観や壮大な近未来感に包まれたエレクトリックサウンドには並々ならぬ気合が入った仕上がりとなっています。長谷川自身も声優の特性を生かしたアイドル性豊かな歌唱で彩りを加えていますが、約6分にもわたるこのカップリング曲の存在感は、そのクオリティの高さも相まってシングルタイトル曲よりも非常に大きなものに感じられます(なお、もう1曲のカップリングはエレクトロラウンジユニット・ELEKTELが手掛けた「Stay Tuned!」)。結局長谷川明子としての歌手活動はその後2013年までに4枚のシングルとアルバム「Simply Lovely」のみで終了しますが、彼女のタレントキャリアの中でも「2100年の東京タワー」は、星井美希と並んでキャリアのハイライトとなる名曲として語り継ぐ価値のある楽曲と言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 イントロの頭に入ってくるテンションコード。このド頭一発で一気に近未来へダイブする効果抜群のシンセパッドです。このほかにもこの楽曲には美しいシンセパッドが大活躍。これにシンセのストリングスやブラスが絡んでくるゴージャスなアレンジメントが楽しめます。
【聴きどころその2】
 第2期宇宙ヤングでサウンドクリエイターがHIDE-AKIに交代してからは、シンセベースのノリがよりグルーヴィーになりましたが、この楽曲でもAメロの音の長さの微妙な調整具合で「ハネ」を生み出している部分にセンスを感じます。ベースはアタック感が強く、ウワモノは比較的チープなHIDE-AKIサウンドが全開。ほぼ10年ぶりと言われる宇宙ヤングの新曲としても気合の入り方がやはり違います。


 ということで、120位から101位でした。折り返し点にやっと到達です。
 もともとは次の100位からレビューするつもりでしたので、ここまでが前座です・・・というにはそうも言っていられないほどの壮大なレビューならぬクロニクルになってしまっていますが、もはや(いつものことながら)本人しか楽しんでいないこの企画の後半戦をお楽しみに。




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