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TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベスト?ソング200:Vol.8【60位〜41位】

 長々と続けておりますこのシリーズもいよいよ残り3回となってまいりました。平成時代における思い出の200曲、というよりそれにまつわるアーティスト達のクロニクルメモリーといった趣となっておりますが、ここまで来ますと1人のアーティストやグループで複数の楽曲が取り上げられることも多くなってまいります。それに対して、通常平成時代には欠かせないようなアーティスト達の楽曲が全く取り上げられていないというご不満も出てくるとは思いますが、そこはあくまで個人史ということでご容赦願います。日本のポップス史を俯瞰している訳でもありませんので・・・今までTECHNOLOGY POPSという私が勝手に命名した曖昧なジャンルが聴いてきた経験から感じられる名曲の数々を振り返っているだけです。しかしながら、あの楽曲が好きならこの楽曲も好きですよね?という提示はできていると思います。一見脈絡もない選出かもしれませんが、そこには何かしら共通点があると考えています。一本筋が通っていますので、筋が通っていない楽曲には全く触れることはありませんので、アルバム編とソング編両方に取り上げられなかったということは、そういうことだと思っていただいて構いません。

 それでは、今回は平成ベスト?ソング60位から41位までのカウントダウンです。それではお楽しみ下さい。



60位:「バラ色の人生」 及川光博

    (1999:平成11年)
    (シングル「バラ色の人生」収録)
     作詞:及川光博 作曲:生熊朗 編曲:CHOKKAKU

      vocal:及川光博

      guitars・programming:CHOKKAKU
      bass:松原秀樹
      drums:宮田繁男
      sax:山本拓夫
      background vocals:伊藤理枝

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 1995年に自主制作シングル「S.D.R」を発表し、翌1996年にメジャーデビュー、シングル「モラリティー」「求めすぎてる?僕。」と2枚連続リリース、全裸ジャケットの1stアルバム「理想論」をリリースした稀代のパフォーマー・及川光博は、久方ぶりにヤバイキャラが登場してきたと思わせるシンガーでした。痩身でジェンダーフリーな面持ちで、プリンス調の楽曲を全盛期の岡村靖幸のようなイラッとするような誇張した歌唱であられもなく歌い上げる度胸と根性で、みずから客に王子と呼ばせる天才的なコミュニケーション&パフォーマンスは、すぐさま熱狂的な女性ファンを獲得するのに時間はかかりませんでした。しかし何しろアルバム「理想論」は1曲目が一人芝居の寸劇「宇宙人デス。」ですから、イロモノ扱いされがちなところを実は侮れない音楽性でカバーし、キャラクターとしてギリギリの線を狙っている感覚がありました。なお、「理想論」のほとんどの楽曲をアレンジしているのは、元A-JARIのキーボーディスト・伊藤信雄です。前述のシングルのほかに代表曲の1つであるアイドル歌謡アプローチ「死んでもいい」や、堂々とシャンソンを歌い上げる「SNOW KISS」といった良曲も収録されており、伊藤信雄のアレンジにより一定のクオリティを備えていたことが、その後じわじわと知名度を獲得していく下地となっていきます。1997年になると及川はシングルリリースの頻度が多くなっていきまして、SFアメコミ調な「悲しみロケット2号」で歌謡ロック路線を志向すると思えば、宝塚PVな「三日月姫」、ファンクギターが唸る「その術を僕は知らない」、そして彼の最初のヒットソングとなった及川の魅力が詰まった魅惑的ファンク歌謡「フィアンセになりたい」が個性的なパフォーマンスによるライブの話題性も相まって、一般的認知度が高まっていくことになります。そしてそれまでの集大成として、2ndアルバム「嘘とロマン」をリリース、途中に寸劇が入るコンセプチュアルな作品ながら、当然前作よりもヒットとなり彼の人気を決定づけることとなりました。
 さて、この1998年からは現在の活動基盤となっている俳優としてもデビューしますが、彼の演劇めいた王子役が乗り移ったような違和感ないパフォーマンスからすれば、個性派俳優として名を上げていくのは自明の理でありました。しかし彼自身はシンガーとしてのポジションを忘れることはなく、同年もD.I.Eアレンジのデジロックな「僕のゼリー」とお得意のゴキゲン歌謡ポップ「今夜、桃色クラブで。」で新境地を見せると、遂に翌1999年の世紀末に、及川が最もキャラクターとパフォーマンスを存分に発揮できる名曲が生まれることになります。それが彼のメジャー8thシングル「バラ色の人生」です。この及川自身の作詞による超ロマンティックな名曲に作曲者として名を連ねているのが生熊朗、そして編曲が90年代の代表的なアレンジャーとして現在も第一線で活躍しているCHOKKAKUです。本格的ファンクバンドE-ZEE BANDのフロントマンであった生熊と、広島出身のこれまた実力派ファンクバンド・FLEXのギタリストであったCHOKKAKUのコンビによる楽曲ということで、超ギラギラしているファンクに仕上がると思いきや、美しいメロディとストリングスによるフィリーソウル的なダンサブル歌謡に仕上げてきました。もちろんファンクなギターやベースラインは残しながらも軸となるのはキャッチーなメロディというところですが、何より及川光博という稀有なパフォーマーのポテンシャルを最大限に生かせる抜群の相性の良さが、この楽曲にはあります。無駄にゴージャスでセレブな雰囲気に溢れたサウンドと血湧き肉躍るリズムワークが、及川のクセのあるボーカルに見事にハマっています。そして極めつけはこの楽曲のPV。これほど完成度の高いPVも珍しいでしょう。特にキャスト全員の壮観なダンスシーンは圧巻です。及川のダンスも完璧ですが、何より楽しそうなのが素晴らしいです。音を楽しみながら歌い踊る、これぞ音楽の醍醐味であると思います。
 このように世紀末にこの名曲を生み出した及川は「バラ色の人生」も収録された3rdアルバム「欲望図鑑」、ベストアルバム「ニヒリズム」をリリースして一区切りつけるも、21世紀に突入してもニューロマスタイルの「パズルの欠片」、沢田研二TOKIOスタイルのテクノポップ調「CRAZY A GO GO」など良曲を残しつつ、シンガーと俳優の両立を高レベルでこなしながら、現在もなおお茶の間の人気者として視聴者を楽しませています。

【聴きどころその1】
 左右で鳴らされるCHOKKAKUの2種類のカッティングギターが両方とも実に良い味を出しています。クリアなレフトギターとファンク特有のワウなクチュクチュキュルルルなライトギター。この両ギターのノリでこの楽曲の魅力の7割は体現していると言ってよいでしょう。これにベースのグルーヴィーなライン(一瞬の気の利いたフレーズがニクい)が加わると、さすがE-ZEE BAND & FLEXの強力連合の完成です。
【聴きどころその2】
 PVで抜群の王子パフォーマンスを披露している及川光博の立ち上がりの早いボーカルテクニック。リズム感が重要視されるタイプのダンサブルチューンだからこそ最大限に魅力が発揮される発声の立ち上がりの良さは天性のものでしょう。この気持ちよさそうに流れていく歌唱に、メロディ&演奏に圧倒されがちなこの楽曲に主役を譲らないプライドが見え隠れしています。


59位:「夏いまさら一目惚れ」 田原俊彦

    (1991:平成3年)
    (シングル「夏いまさら一目惚れ」収録)
     作詞:松井五郎 作曲:荒木真樹彦 編曲:新川博・荒木真樹彦

      vocal:田原俊彦

      electric guitar・background vocals:荒木真樹彦
      keyboard:新川博
      latin percussion:浜口茂外也
      trumpet:荒木敏男
      sax:本田雅人
      background vocals:清水美恵
      background vocals:Miki Conway
      synthesizer operation:倉地雄志

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 1988年の大ヒット曲「抱きしめてTONIGHT」で再び息を吹き返したと思われたトシちゃんこと田原俊彦でしたが、既にアイドルとしては円熟期に入っていた田原は「ごめんね涙」といったオリコン第1位のヒットソングもリリースしますが、それも田原主演のドラマ「教師びんびん物語」のタイアップによるもので、楽曲としてはやや煮え切らない仕上がりのものが続いていました。そんな1990年、大人の階段を上り切った田原の楽曲新たに手がけることになったのが、当時名盤アルバム「Baby,You Cry」をリリースし、全日空CMソング「XX,XY」でタイアップを勝ち取るなど才能を開花しつつあったマルチプレイヤーシンガー・荒木真樹彦です。同年冬に田原の39thシングル「NUDE」を作曲(編曲は船山基紀)、渋いAORバラードで田原に新境地を与えると、翌1991年には田原の18thアルバム「夏の王様 ~MY BLUE HEAVEN~」を全面プロデュース、ラテンの香り漂う落ち着いた作風と「博士テストの時間です」のような荒木特有のカッティングギター満載のダンサブルファンクチューンを収録したサマーソング中心の本作は、ダンス一流、しかし歌は・・・な田原俊彦というアイドルシンガーを一段階上の味のあるシンガーに押し上げる記念碑的な作品に仕上がっています。
 さて、このアルバム「夏の王様」の先行シングルとしてリリースされたのが、田原の記念すべき40thシングルである「夏いまさら一目惚れ」です。この年はしつこく「夏」で攻めてくる田原ですが、この楽曲は典型的なサマーチューンというよりも仕上がりは落ち着きのあるAORなミディアムバラードです。「どうかなりそう!」「かまうもんか!」のフレーズとキレの良いカッティングが印象的なAメロから、ウォーミングなシンセパッドによる美しいコード展開が思い切り夏を感じさせるBメロの雰囲気づくりが秀逸で(このあたりは共同編曲の新川博の仕事かも)、かつ乾いたブラスと共にサビに雪崩れ込む構成ですが、圧巻なのはこの楽曲最大の盛り上がりである魅惑のギターソロ(&うっすらスキャット)からの転調Bメロです。荒木真樹彦が弾いているこのギターソロ(TV用パフォーマンスでは外国人が弾いていたのでガッカリした思い出がありますが)は、これまで数多くの荒木ソロ作品で聴くことができたあの繊細なギターサウンドを歌うように分かりやすいメロディに落とし込んだもの。平成POPS史上に残る名フレーズであると個人的に最大級の評価をしてしまうほど、このフレーズでなければならない必然性をはらんでいます。このフレーズがあってこそ転調後の大盛り上がりなサビが生きてくるものと思われます。ジャニーズを独立し個人事務所DOUBLE "T" PROJECTを設立した彼ならではの背伸びした新境地は、新鮮ではありましたが一般的に受け入れられたとは言い難く、その後は舌禍事件の余波もあって90年代のCD売り上げ全盛時代の中で勢いは衰えていきました。しかし、この隠れた名曲を生み出しただけでも平成時代に田原俊彦が果敢にアダルトオリエンテッドに挑戦した意味はあったのではないかと思います。

【聴きどころその1】
 誰がなんと言おうとこのギターソロのフレージングの素晴らしさ。音階の1つ1つに細かく気を使ったメロディラインを築き上げていることがわかります。うっすらとスキャットが加わることで音に輪郭が加わりさらにフレーズが際立っています。そして最後のナチュラルに転調へと導く洒落た展開。この計算され尽くしたソロプレイが荒木真樹彦の真骨頂です。
【聴きどころその2】
 サウンドを下支えするシンセパッドの妙味。荒木真樹彦が得意とするカッティングギターが目立つことは理解できますが、楽曲の実験性を一筆で普遍性に変化させる美しく包み込むようなパッドサウンド。このパッドでリゾート感2割増といったところでしょうか。このパートが入ると入らないとではが曲の印象がまるで異なってくるのです。


58位:「夢見るメカ〜未来のデタラメ・モーニング・コーラス〜」 くるくるメカ ver.2.0 

     (1995:平成7年)
     (オムニバス「トルマリン3」収録)
      作詞・作曲・編曲:くるくるメカ

      vocal・system:中山マコト(マコピ)
      keyboard(mono):斉藤マキ
      keyboard(poly):斉藤ヒロキ

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夢見るメカ

 1990年代初頭には既にテクノポップは死の時代を迎え、当時の世間で言うところの「テクノ」といえば、シカゴやデトロイトが発祥のダンスミュージックとしてのTECHNOであり、歌モノやバンドが主体でったテクノポップは前時代の産物としてアンダーグラウンドに追いやられていました。とはいうものの、もちろん京浜兄弟社やそれに連なTRIGGER(トリガー)レーベルなど、テクノポップ志向のマニア達の受け皿は存在していましたが、その中でもP-MODELやヒカシューなどのテクノポップ御三家〜有頂天等のナゴムレコード系に影響を受けたニューウェーブバンドの後継者達も根付いており、その1つとして東京を中心に活動していたのがカズウこと山田カズミ率いるパラペッツでした。1988年結成の彼らは、1990年に「パラペッツ第一作品集」、1991年に「パラペッツ第一作品集 未来のウタ」をカセットテープで販売(後にCD-R「鍵穴に指を」としてまとめてリリース)、1992年には「パラペッツ第三作品集 地の果ての部屋で」をリリース(後にCD化)、1993年にラジオ番組「トロイの木馬」のオムニバスにて代表曲「ハガネのダミー」が収録されてからは知名度も上がり、ミニアルバム「ハガネのダミー」とその双子的カセットテープ作品「鋼鉄のダミー」をリリース、P-MODELのコピーバンド大会にも参加するなどアンダーグラウンドながらその名を大きく知られていくことになります。そして1994年、パラペッツは彼ら周辺のお仲間バンド達を集めた自主制作オムニバスシリーズを開始します。それがカセットテープ作品「トルマリン農場」です。この「トルマリン農場」にはパラペッツや彼らのP-MODELリメイクユニット・パラモデル、カズウのソロ曲やSuper Get Get Two、プーニープーニーマーブルファッジ等のアングラなニューウェーブバンドが収録された貴重な音源ですが、この作品のトップを飾っていたのが、この項の主役である脱力系テクノポップバンド・くるくるメカです。中山マコトことマコピをリーダーとするこのバンドとして、本作には「くるくるメカのテーマ」を収録、カズウが提供したこの牧歌的な歌詞が不思議とクセになる楽曲は、本作においてもなぜか喉に小骨が引っかかるような無視できない印象を植えつける存在感がありました。
 さて、この「トリマリン」シリーズは3枚続くわけですが、1995年リリースの「トリマリン3」になると遂にカセットテープから媒体をCDに変更します。前述のバンドに加え、P-MODELのコピーバンド大会「Errors of P-MANIA!」に参加していたトランスジェニックや、後にヤング100Vのメンバーとなる奥村幹男のユニット・短パン帽子ーズ等が収録される中、マコピは本作が解散前最後に収録したと思われるパラペッツ「ラストパレード」にメンバーとして参加すると共に、自身のバンド・くるくるメカとしても堂々の2曲参加で花を添えます。"へぼへぼチープな童謡テクノ"を標榜して、80年代歌謡曲や童謡、アニソン、特撮ソング等をへっぽこテクノポップにリアレンジしてきた彼らはトリオバンドとしてくるくるメカ ver.2.0と銘打ちバージョンアップ、本作において遂にオリジナルソングを制作し勝負に出ます。それが今回取り上げる名曲「夢見るメカ〜未来のデタラメ・モーニング.コーラス〜」です。ここで仕上がった楽曲は80年代ゲーム音楽のBGMやS.E.のサンプリングが散りばめられたチープな電子音サウンドに、脱力感溢れるボーカルが乗ってくる、いわゆるチップチューン歌謡です。当時はまだチップチューンという単語はないに等しく、歌モノチップチューンとしてYMCKあたりが世に出てくるのが2000年代前半ですから、恐らく彼らは当時ほとんど誰も手を出していなかったチップチューンに歌を乗せるという斬新なアプローチを図らずも試みていたということです。大袈裟でもなくチップチューンの歴史に刻まれるべきグループであるこのくるくるメカですが、当然アングラ過ぎてそういう正史からも無視されている存在ですが、この楽曲を聴いてみると理解できると思いますが、チップチューンサウンドの中でとにかく忙しく叩きまくられるリズムボックスを基調に、リズムが一部三拍子に変えてきたり、ジャジーなピアノで変化をつけたり、後半にはスピードアップの末に高速リズムボックスがドラムンベース(1995年はまだドラムンベース黎明期)に近くなっていたりと、1曲の中で目まぐるしく場面が転換していく様々な工夫が施されています。まさに1曲入魂なこの楽曲は、さまざまなジャンルを先取りしつつテクノポップの意志を感じさせる、まさに平成時代の知る人ぞ知る名曲と言えるのではないかと思います。
 その後くるくるメカはマコピのソロユニットとして緩やかに残しつつ、後にキーボードで参加していたさくらいなつを引き連れて、テクノポップバンド・プリセットチーズが結成され、ニューウェーブ復権時代のミレニアム周辺の時代に積極的にライブ活動を行なっていきます(00年代にはテクノユニット・フォーチューンめがねに参加したこともありました)。しかしこのあたりの活動はこのネット全盛時代にあってもほとんど記録には残っておらず、当然音源を聴くこともままならない状態です。90年代後半から00年代後半の10年間はいまだ盲点の時代ですが、その後やってくるであろうリバイバルムーブメントの際には、このあたりの音源もサブスクでもbandcampでもSoundCloudでもよいので、一般の方にも聴くことができる環境にしていただきたいと願っています。

【聴きどころその1】
 リズムにしてもシーケンスにしてもノリを絶対的に失わない緻密なプログラミング。そこにゲーム好きなら皆が知っているあの効果音が散りばめられていくのですから、テンションが上がるというものです。そしてこの牧歌的なボーカルが実によくマッチしています。へっぽこテクノとは良くいったもので、この力の抜け具合が(マスタリングの音量の低さも含めて)このユニットの魅力と言えるでしょう。
【聴きどころその2】
 後半間奏前に1UPしてからのスピードアップしてからは怒涛の展開です。矩形波の効いたソロから、再び歌が始まればバスドラの4つ打ちは4小節のみアクセントが強調されると、続いて変拍子に変化、ジャジーでオシャレなピアノで味変、最後に全部乗せのごった煮ドラムンベースのカオスな展開が待っています。ラストのオシャレなピアノのシメも完璧です。


57位:「Flow」 エース清水

    (1993:平成5年)
    (アルバム「TIME AXIS」収録)
     作詞:本田恭之・KEN蘭宮 作曲・編曲:本田恭之

      vocal・guitar:エース清水

      keyboards・programming:本田恭之

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1985年にデビューした魔界からやってきたヘヴィメタルバンド・聖飢魔IIのギタリストであるエース清水(現:ACE)は、コンセプトに振り回されがちな聖飢魔IIという個性的なバンドをヘヴィメタルにとどまらない多様性があり一般的に受け入れられるような音楽性に導き、結果として日本を代表するロックバンドに成長させたバンドの屋台骨として活躍した優れたギタリスト&コンポーザーです。彼が聖飢魔IIにおいて初めて手掛けた楽曲が収録されたのは4thアルバム「BIG TIME CHANGES」で、ゼノン石川の高速スラップが炸裂する(エースはキーボードも弾く)「EARTH EATER」、エース自身がボーカルを担当する美メロバラード「ANGEL SMILE」といったヘヴィメタルらしくない楽曲でバンドに新味を追加、1988年にはエースが作曲した初のシングル「STAINLESS NIGHT」がリリースされ、その哀愁を感じさせるメロディはヘヴィメタルの域を脱しつつあることを予感させるものでした。極めつけは聖飢魔II初のバラードシングルであり紅白歌合戦でも歌われた1989年リリースの「白い奇蹟」で、そこにもはや悪魔は存在しないと言えるほどのピュアなバラードによって、エース清水はコンポーザーとしての実力を一般的に認知されることになったわけです。
 このような聖飢魔IIとしての活動を続けつつ、エースは他の歌手への楽曲提供も少しずつ手掛けていくことになります。1988年の漫画家・清水玲子イメージアルバム「Milky Way」に小柴大造が歌う「Emotion」「Silent Eyes」(両曲とも編曲は笹路正徳)を提供、また同年リリースの小笠原ちあきの1stアルバム「ちゃきちゃきはうすのサウンド・カーニバル」には「Dog Days〜真夏日〜」を提供します(編曲は安西史孝。イントロのFairlightスラップがズルい。)。このようにイメージアルバム系の仕事が多いエースでしたが、大西結花「HEARTLESS DANCE」(編曲は内藤慎也。後に詩子とのユニットlargoを結成。)のようなアイドルソングも手掛けるなど作曲家としての経験を積んでいくと、いよいよ1993年に自身の初ソロアルバム制作の機会が訪れることになります。この「TIME AXIS」と名づけられたアルバムにおいて、エースが相棒に指名したのが、聖飢魔IIのレーベルメイトであったGRASS VALLEYのメインコンポーザー兼キーボーディストの本田恭之(現:本田海月)です。1992年にロック化の末にGRASS VALLEYを解散した本田を待ってましたとばかりに指名したのは、エースが本田のサウンドセンスを非常に買っていたためであり、彼とのコラボに大きな可能性を感じたからではないかと思われますが、実際に仕上がった本作はその期待に予想以上に応えるものでした。(「TIME AXIS」については、本noteの別記事「TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベストアルバム100:Vol.4【40位〜21位】」の第36位をご参照ください。)

 この名盤の中から今回取り上げるのが、本作の中で唯一本田恭之が作曲と編曲を同時に手掛けた珠玉のバラードソング「Flow」です。このアルバムではエースの作曲能力が存分に発揮されたメロディアスでキャッチーな楽曲が満載ですが(ラストのバラード「Higher-Self (Silent eyes, Silent heart)」は前述の清水玲子イメージアルバム収録曲「Silent Eyes」がモチーフとなっている)、その中でもこの本田作曲の「Flow」の世界観は抜きん出ています。GRASS VALLEY時代から情景描写に優れたサウンドデザイナーとしての能力が飛び抜けていた本田が紡ぎ出すシンセサイザーの緻密な音作りはまさに職人芸で、そこには電子音を超えたナチュラルな自然のざわめきが散りばめられているようです。Aメロ→サビという単純な構成ながら、シンセサイザーマジックとオーガニックな癒しのコード展開で世界観を完璧に構築、メロディと歌の押しつけが時にはくどく感じてしまうバラードをサウンド面とアレンジテクニックの魅力で印象を変化させることに成功した典型的な楽曲に仕上がっています。これは優秀なコンポーザーであるエースが本田作曲のこの楽曲を収録したことも肯けるというものです。この天才的な名曲をはじめとしたアルバム「TIME AXIS」において抜群の相性を見せたエースは、聖飢魔IIの解散後すぐに本田を再び招き入れ、パーマネントなエレクトロポップデュオ・face to aceを結成しますが、エースが聖飢魔IIを捨ててまでこのユニットを20年も続けていることからも、彼の本田への抜群の信頼度は揺るぎないものになっていると言えるのではないでしょうか。

【聴きどころその1】
 絵画を描くようにシンセサイザーを操る本田恭之のサウンドデザインは他の追随を許さないクオリティを見せています。鳥の声を思わせるようなわずかなビブラートや、鳴き声を模倣したようなベンディングの技術、パッドにかけられた独特のリバーブ、そしてGRASS VALLEYの「星の棲む川」でも登場する尺八のような飛び道具S.E.・・・。多彩な音色で叙情的な本田ワールドに引き込んでいきます。
【聴きどころその2】
 間奏のピアノソロも圧巻。Roland MKS-20と思われる本田特有のエレクトリックピアノと、その音を過剰に増幅させるロングリバーブの魔力に否が応でも吸い込まれていきそうです。そしてアウトロで加わる高音域のパッドが素晴らしい。このパートが加わることで、さらにノスタルジーという名の余韻が襲ってきます。なんという計算され尽くされたサウンドデザインでしょうか。


56位:「HOLE-SINGLE MIX-」 CUTTING EDGE

    (1991:平成3年)
    (シングル「HOLE-SINGLE MIX-」収録)
     作詞:柴田卓俊 作曲:内山肇・柴田卓俊
     編曲:CUTTING EDGE

      vocal:柴田卓俊
      guitar:内山肇
      bass:前田久史
      drums:広瀬充寿
      keyboards:山崎彩平

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 福岡県発祥の「めんたいロック」を象徴するバンドであるザ・ルースターズを1984年に脱退した池畑潤二が地元北九州で人気を博していた若手バンド・HI-HEELのボーカリストであった柴田卓俊を引き抜き、さらに十字軍というバンドからギターの奥山尚樹とベースの国分一郎をピックアップ、元HI-HEELのメンバーであった山崎彩平を加えて結成されたのが、レッドスティック&スペクターズです(なお、同時期にザ・ルースターズの井上富雄は柴田のHI-HEELから残りのメンバーであった木原龍太郎・冷牟田竜之・広瀬充寿をピックアップ、BLUE TONIC & THE GARDEN(後のBLUE TONIC)を結成。)。翌1985年ZEROSPECTREとバンド名を改めた同バンドは、自主制作アルバム「VERNAL EQUINOX」をリリースすると1986年にメジャー進出を果たしますが、メジャー1stアルバム「DOLDRUMS」は池畑の強面ルックスからは想像しにくいエレクトロポップ仕様のポストニューウェーブ系バンドに仕上がっていました。その後「EUPHORIA」「ZERO GENARATION」と順調にアルバムをリリースし続けますが、1988年に池畑潤二のCOMPLEXへの参加の話が持ち上がり、池畑は布袋寅泰とのコラボへの道を選択したためZEROSPECTREを脱退するという憂き目に遭います。
 バンド結成の呼び掛け人であり精神的支柱でもあった池畑の脱退の影響は大きく、ギターの奥山も脱退した柴田ら残されたメンバーは、バンド名をCUTTING EDGEと改名して再スタートを飾ります。池畑が抜けたドラマーにはBLUE TONICを脱退していた広瀬充寿が加わりギターレスの4人組での再出発となりますが、1stアルバム「CUTTING EDGE」は売れっ子プロデューサー佐久間正英が手がけるとともに、佐久間がギターまで担当するなどサウンド面を補完することになります。その後、ギタリストとして元ショコラータの寺師徹をメンバーに迎え、1989年にミニアルバム「EDGE ON」、2ndアルバム「All or Nothing」と連続リリースしますが、ここでZEROSPECTRE以来の盟友であった国分一郎と加入したばかりの寺師の弦楽器勢が脱退、再びバンドの再構築を迫られることになります。しかし、少しインターバルが空いた1991年、再びシーンに姿を現した彼らは急激な進化を遂げていました。ギターに内山肇、ベースに前田久史が加入すると演奏力が格段に向上、そのテンションの高い演奏力が1991年のシングル「HOLE-SINGLE MIX-」に結実します。スキーメーカー"サロモン"のCMタイアップも勝ち取ったこの楽曲はスピード感のあるビートとスラップ中心のテクニカルなベースライン、多彩な音色で幻惑するギターサウンドと、発振音風のフレーズでアクセントを挿入するシンセプレイなど、王道とは言えないチャレンジングな音作りで、その演奏面でのテンションの高さは(言い方は語弊があるかもしれませんが)全盛期のPINKと並び立つほどです。想像以上に作曲もこなせる内山とプレイ一つ一つに個性を発揮する前田の加入による影響は大きく、この楽曲からもCUTTING EDGEというバンドが遂に理想のサウンドに辿り着いた充実感というものが伝わってきます。そしてそのテンションは3rdアルバム「WAVE」で見事に昇華し、この作品の稀有な完成度に満足した彼らはCUTTING EDGEとしての活動を終了することになるわけです(「WAVE」については、本noteの別記事「TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベストアルバム100:Vol.4【40位〜21位】」の第38位をご参照ください。)。

【聴きどころその1】
 内山肇の前へ前へと出てくる苛烈なギターワーク。乾いた歪み系の音色をかき鳴らし、ラジオノイズのエフェクトで工夫したり、間奏では過剰なエフェクトによる一発でインパクトを与える活躍ぶりで、作曲者としてこの楽曲のテンションを保ち続けています。
【聴きどころその2】
 これまでのZEROSPECTRE〜CUTTING EDGEにはなかったテクニカルなベースライン。前田久史のベースプレイは岡野ハジメもかくやと思わせる見事なスラップでリスナーの度肝を抜くことでしょう。アルバム「WAVE」ではフレットレスベース中心のプレイでその多彩なテクニックを披露しています。彼の加入が最後にCUTTING EDGEにもたらした影響は非常に大きいと思われます。


55位:「ねぐせ」 北白川たまこ(C.V:洲崎綾)

    (2013:平成25年)
    (シングル「ねぐせ」収録)
     作詞:宮川弾 作曲:山口優 編曲:赤羽俊之・山口優

      vocal:北白川たまこ(C.V:洲崎綾)

      programming:赤羽俊之
      programming:山口優

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 昭和〜平成をまたいで古今東西のモンドミュージックを制作・紹介する総合芸術集団・京浜兄弟社は、1993年に中古レコード店「マニュアル・オブ・エラーズ」として事業化しますが、もともとが音楽制作集団であった彼らですから、1998年に音楽プロダクション「有限会社マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ」(以降マニュエラ)として分社独立します。代表である山口優や松前公高のEXPOや、ヒゲの未亡人のゲイリー芦屋、元Instant Cytronの片岡知子、元コンスタンスタワーズの岡村みどり(Mint-Lee)、元onoroffの谷口尚久等、京浜兄弟社関連やその他のクセのあるPOPSマエストロ達が集まったこの音楽事務所では、数多くのアーティスト達がTV番組やCMの音楽仕事をこなしつつ現在に至りますが、2012年のTVアニメ「キルミーベイベー」の劇伴をなぜかEXPOがオファーを受けたことから、アニメ音楽にも手を伸ばしていくことになります。EXPOが手掛けた主題歌「キルミーのベイベー!」「ふたりのきもちのほんとのひみつ」は、そのキテレツな2ビートロシア民謡と和風エレクトロのとぼけた味わいがこれまでのアニメソングとは一線を画すと話題を呼ぶと(「キルミーのベイベー!」のremixの1つである「キルミーのベイベー!2062」の京浜兄弟社的完成度が素晴らしい)、2013年には当時良質なアニメ制作会社として高い評価を得ていた京都アニメーションのオリジナルアニメ「たまこまーけっと」の劇伴仕事が舞い込みます。
 京浜兄弟社もといマニュエラの久しぶりの大仕事ということで、「たまこまーけっと」における音楽面での制作にはマニュエラ人脈を駆使して、彼らの音楽性をあますことなく注ぎ込むべく真摯に取り組んでいきます。劇伴には片岡知子を起用、オープニング主題歌「ドラマチックマーケットライド」には作曲に片岡、編曲には宮川弾が起用され、強烈な転調マジックによる渋谷系を意識したソフトロック歌謡に仕上げられました。一方、エンディング主題歌として山口優代表本人が手掛けた楽曲が今回選ばせていただいた「ねぐせ」です。この楽曲では作詞を宮川弾、作曲を山口が担当していますが、注目は編曲です。アレンジャーとして山口と共に名前を連ねているのが赤羽俊之ですが、彼はクラブミュージック向けのサンプルライブラリー制作ブランド・Katana Bitsを主宰するDizzi Mysticaの別名義(本名?)で、山口はKatana Bitsの音質の良さを見極めて彼にオファーを出したと推測されます。現在はアミューズメント遊技機用サウンドクリエイターとしても活動している赤羽ですが、山口が期待していたのはその電子音の音質ということで、この楽曲では研ぎ澄まされた剥き出しのシンセサイザーサウンドの粒立ちが際立っています。空間の奥行きを意識したそのサウンドデザインは、アニメソングの域を超えたマニュエラの本気を垣間見せるクオリティと言えるでしょう。しかも北白川たまここと洲崎綾の無垢でキュートな声質に実によくマッチしています。是非ハイレゾでその音像を確かめていただきたい逸品です。
 そのほかにもこの「たまこまーけっと」関連楽曲は名曲が数知れず。「ドラマチックマーケットライド」のカップリング曲「ともろう」は、岡村みどり作編曲で完全に京浜兄弟社カラーを押し出していますし、「ねぐせ」のカップリング曲「キミの魔法」は「キルミーのベイベー!」でキテレツな歌詞を担当した藤本功一が打って変わって美メロの贅を尽くした哀愁エレポップ歌謡です。キャラクターソングでもサウンドも歌も電波な山口優式ストレンジエレクトロ「おもちアフェっクション!」、松前公高節全開の大工エレクトロ「カンカン・マキマキ」、片岡知子の後期Instant Cytronなモンド・ポップ「太陽とドラム」、その派生曲で山口優の南国エレクトロヒップホップ(?)「太陽とドラムと喋る鳥」、ゲイリー芦屋による直球ソフトロック「二重奏クレッシェンド」等、どれもが恐ろしいほどのクオリティを備えています。極めつけは劇中のレコード店“星とピエロ”で流れるBGM集「星とピエロ」の洋楽オールディーズを中心とした収録曲は、すべてがマニュエラ組がオールディーズをシミュレートしたオリジナル楽曲というこだわりようで、アニメソング史に残る充実した音楽集を残しています。しかしこの素晴らしい仕事もマニュエラ=京浜兄弟社の音楽性の一部分ということですから、つくづく恐ろしい芸術集団と言わざるを得ません。

【聴きどころその1】
 Aメロのパッド音色に天から降りてくるアルペジオが美しいことこの上ありません。このアルペジオとシーケンスの音の粒立ちと、EDMを意識したフワフワパッドと遠くで聴こえてくるキーンというフライング音のコントラストが見事にハマっています。
【聴きどころその2】
 そして何と言ってもハイライトは2周目のAメロ2回り目のパッドを抜いたギミックとアルペジオのせめぎ合いで、この部分の音数の少なさによる無音部分の多さが、アルペジオの美亜をより際立たせています。特にBメロに入る直前にアルペジオの残響音をバッサリ切って無音にするセンスが秀逸です。


54位:「Big Brother」 核P-MODEL

    (2004:平成16年)
    (アルバム「ビストロン」収録)
     作詞・作曲・編曲:平沢進

      vocal・all instruments:平沢進

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 P-MODEL活動20周年を記念した制作された1999年リリースのアルバム「音楽産業廃棄物」は、当時急速に進化し続けていたインターネットによる音楽配信の流れにいち早く呼応してMP3配信を想定した楽曲制作が行われました。しかし当時の音楽業界はMP3配信に対してまだ体制と覚悟が整っておらず、P-MODELはメジャーレーベルを脱退し、インディーズへの活動に移行した上でこのアルバムをリリースすることになりました。しかし、既にメンバー間が集合せずとも楽曲制作が可能な環境ができ上がっていく中で、バンドとしての活動の意義を見出せなくなったためか、P-MODELは「培養」という名の無期限活動停止、事実上の解散という選択をせざるを得なくなったわけです。P-MODELを解散させた2000年以降、平沢進はMP3版とCD版のアレンジが異なるソロアルバム「賢者のプロペラ」をリリースするなど順調なソロ活動を開始しますが、翌年急激にエコに目覚めた平沢は、必要な電気エネルギーの全てを太陽発電で賄って音楽制作を試みるプロジェクト「Hirasawa Energy Works」をスタート、前述の音楽制作スタイルによる省エネリメイクアルバム「SOLAR RAY」をリリースするとともに、太陽発電ならびに自然蓄電によるライブ「SOLAR LIVE」を敢行、マッドサイエンティストぶりに拍車がかかっていきます。そのような活動と並行していく中で、P-MODELのほぼ全音源を収録するBOX SETの企画が持ち上がりますが、実はこの太陽発電を用いたSolar Studio(studio WIRE SELF 2002)でリマスタリングされ2002年にリリースされたBOX SET「太陽系亞種音」のブックレットにおける平沢自身による序文が、2004年より開始する平沢のソロプロジェクト・核P-MODELの誕生に大きく関わっていくことになります。
 このBOX SET「太陽系亞種音」の序文では、「過去20年以上にも渡り、メディアの大小を問わず、また国内外を問わず、私がインタビューなどに応えて語って来たP-MODELについての事柄は全て嘘である。」(BOX SET「太陽系亞種音」序文より引用)と完全に(後出しジャンケンで)ちゃぶ台をひっくり返し、加えて「私と、私と共に働いた同僚が、かくも長期に渡ってP-MODELを稼働させて来たのは、アシュオンと呼ばれる物質にまつわる大規模な人体実験のためだった。」(BOX SET「太陽系亞種音」序文より引用)と大胆にも設定を再構築し、それまでの活動(平沢は偽の通説と呼んでいる)と共に、壮大に練り上げられたSFストーリー的設定によるライナーノーツが、「太陽系亞種音」のブックレットに記されました。これは一過性の企画でもパロディでもなく、それから20年近くにも及ぶ壮大なブレない物語として、平沢進のあらゆる活動の基本コンセプトとなっていくわけですが、2004年に「世界の実像を映し出すビストロンと、マスメディアを通じて人為的に放出され誤った世界像を見せるアンチ・ビストロンにまつわる物語」としてリリースされた核P-MODELの1stアルバム「ビストロン」収録の楽曲タイトルに使用されている単語、「ビストロン」「アンチ・ビストロン」「πドゥアイ」「パラ・ユニフス」「プシクラオン」・・といった固有名詞は既に「太陽系亞種音」ブックレットの妄想ストーリーの用語として使用されていることからも、既に2年前に構想は完成していたものと思われます。(「ビストロン」については、本noteの別記事「TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベストアルバム100:Vol.2【80位〜61位】」の第66位をご参照ください。)。

 そのような背景がありスタートした核P-MODELプロジェクトのお披露目となった先行無料配信楽曲が、今回選出した「Big Brother」です。新しいプロジェクトにおいて最も大切なのはインパクトですが、この楽曲の初聴の際の衝撃は尋常でないものでした。ヒリヒリした悲壮感すら感じるテンションのイントロからのAメロから殴り込んでくる痙攣しているかのようなシンセフレーズにとにかく圧倒されます。P-MODEL解散以降ソロ活動を含め、やや落ち着いた作風に移行したと思われた平沢が再び牙を剥き出しにしてきたような荒々しい曲調には、平沢ソロでは表現しにくくなってきたかつてのP-MODEL的な側面、特にそのような側面を期待するリスナーへの配慮(平沢はあのように見えて非常にファン思いのアーティスト)が感じられてなりません。そしてこのようなリスナー対応も考えた上で既にP-MODEL解散後から、平沢ソロと核P-MODELの両輪での活動を見据えていたのだとすれば、なんという用意周到な、ご利用は計画的な、コンセプチュアルな進行が大好きなアーティストなのでしょう。しかし、たとえコンセプチュアルであっても「Big Brother」のような想像以上のインパクトを提示できる底知れぬセンスとアヴァンギャルドな精神を持ち合わせているわけですから、稀有な現存するカリスマキャラクターとして常に期待せざるを得ないアーティストであることに間違いはないのです。

【聴きどころその1】
 イントロの期待感しかない素っ頓狂シンセフレーズでまず全てを持っていかれます。平沢特有の音程を大きく上下させるフレージングが炸裂。フレーズの中に一瞬高音を挿入することで、イレギュラー感を演出するのが彼の構築術の得意技の1つです。もちろんAメロから雪崩れ込む煩過ぎる痙攣シンセがこの楽曲の主役ですが、これらのサウンドで隙間という隙間を埋めまくることによる容赦のなさがこの楽曲の最大の魅力と言えると思います。
【聴きどころその2】
 「ヤイヤイヨー」のサビで駆け下りてくるベースラインが小節内でピッタリハマった際のカタルシスが半端ありません。フレーズがアヴァンギャルドであればあるほど、決められた範囲内でジャストでハメることこそシーケンスの醍醐味と言えます。


53位:「Bye Bye Bye!」 ℃-ute

    (2009:平成21年)
    (シングル「Bye Bye Bye!」収録)
     作詞・作曲:つんく 編曲:平田祥一郎

      vocal:矢島舞美
      vocal:鈴木愛理
      vocal:萩原舞
      vocal:梅田えりか
      vocal:中島早貴
      vocal:岡井千聖

      programming:平田祥一郎

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 2002年のハロー!プロジェクト・キッズオーディションに合格した15人のうち、嗣永桃子や菅谷梨沙子ら8人が2004年にBerryz工房としてデビューしましたが、その他7人は1年半もの間、"選ばれなかった者たち"として比較され冷遇されていました。しかし、2005年にはこの残された7人のメンバーによる新ユニット・℃-uteの結成が発表され活動を開始、翌2006年にはインディーズながら1stシングル「まっさらブルージーンズ」でデビュー、それから「即 抱きしめて」「大きな愛でもてなして」「わっきゃない(Z)」と怒涛の3ヶ月連続で4枚のシングルをリリースしこれまでの鬱憤を発散すると、2007年に遂にシングル「桜チラリ」でメジャーデビューを果たします。長身でスポーティーな矢島舞美と、歌唱力抜群の鈴木愛理の2枚看板を生かし、下積み期間で鍛えたダンスパフォーマンスを誇った℃-uteは、爆発的なヒットはないものの安定的な人気に支えられ、メジャー3rdシングル「都会っ子 純情」で紅白歌合戦に出場することになるわけです。
 この「都会っ子 純情」の編曲を担当したのが、ハロー!プロジェクト(以下ハロプロ)御用達のアレンジャー・平田祥一郎です。コナミコンピュータエンタテインメント東京の社員として同社のゲーム音楽に携わった後、2001年にSHO-1名義でシェキドルのアレンジャーとして初めてハロプロに関わると、2003年には後藤真希のシングル「スクランブル」のカップリング曲「長電話」(良曲!)のアレンジを手掛けると徐々にそのエレクトロポップに長けたサウンドメイクに対する評価を上げていきます。同年には初のA面シングルとして、カントリー娘。に紺野と藤本
(モーニング娘。)「先輩 〜LOVE AGAIN〜」、ZYX「白いTOKYO」を手掛けるとハロプロの1軍アレンジャーとして認められ、Berryz工房「恋の呪縛」「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」等のエレクトロダンス調の楽曲を中心に担当、2005年には安倍なつみ・後藤真希・石川梨華・松浦亜弥という当時ハロプロ所属の人気タレント4名によるユニット・DEF.DIVAのシングル「好きすぎて バカみたい」のアレンジャーに抜擢されるなど、順調にキャリアを重ねていきます。そして2007年、前述の「都会っ子 純情」で℃-uteの楽曲アレンジを初めて担当した平田は同年の紅白歌合戦でもハロプロワンダフルオールスターズとして歌われ、後に℃-uteのシングルとしてもリリースされた「LALALA 幸せの歌」のアレンジを手掛けてから、少々間を置いた2009年に再び℃-uteの楽曲を任されることになります。それが今回選出させていただいた℃-uteの通算12枚目のシングルである「Bye Bye Bye!」です。
 これまではどちらかといえばやや軽めのリズムに直線的なシンセベースをシーケンスで鳴らしながらのエレポップ仕様であった平田アレンジでしたが、この「Bye Bye Bye!」ではサウンドの重量が大きく変化しています。その大きな要因となっているのがヘヴィーなスネアドラムです。90年代後半以降のスネアドラムには過剰なエフェクトをかけるよりもデッドな音響やTR系リズムボックスのような腰の入っていない音色が一般的に好まれており、リズムの工夫としてはバスドラ(キック)に重点が置かれいかに重低音を確保するかに労力を注ぎ込まれていましたが、この楽曲では時流に逆らうようなまさに80's的なビシバシスネアが炸裂、00年代版New Jack Swingと言ってもよいグルーヴを構築することに成功しています。この強力なスネアのおかげでメリハリが効いたサウンドは、奥行きとキレを獲得しおのずから℃-uteのパフォーマンスレベルを向上させることにも貢献することになりました。メジャーデビューから3年、脂の乗って来た時期であるからこその勝負曲とも言えるこの楽曲は、急成長期にあったグループの勢いと平田祥一郎というサウンドメイカーの充実ぶり、そして何よりもプロデューサーであるつんくのトレンドを先取りするセンスを象徴するハロプロ屈指の名曲として記憶されるべきでしょう。

【聴きどころその1】
 本文でも述べましたが、強烈でノイジーなスネアドラムに尽きます。このスネアでボトムがしっかりしたリズムトラックになっているため、鋭利なシンセフレーズが対照的に生きてくるわけです。特に全体がバキバキしたサウンドの中でのサビにおけるシンセの暴れようは楽曲全体のギラギラした印象を強く残す役割を果たしています。
【聴きどころその2】
 Cメロからサビへ転換する際の転調が秀逸です。恐らくサビが先に決まっていて、それに合わせるABCメロが作られていったと思わせる構成ですが、「Shake My Soul!」の一発で場面転換する転調のなんという潔さ。サビが始まる直前のズッシリスネアのフィルインも含めても見事なチェンジオブペースであると思います。


52位:「BLAZE」 KOTOKO

    (2008:平成20年)
    (シングル「BLAZE」収録)
     作詞:KOTOKO 作曲・編曲:高瀬一矢

      vocal:KOTOKO

      synthesizers・programming:高瀬一矢

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 2000年から2010年にかけて札幌の音楽制作集団から全国区に上り詰めたI'veの歌姫のトップランナーであったKOTOKOのシンガーデビューは、2000年のOuter名義で制作されたトランスナンバー「Synthetic Organism」でした。ほどなく彼女はKOTOKO名義でソロデビューを果たしますが、まず彼女の名を知らしめたのが2002年放映のTVアニメ「おねがい☆ティーチャー」シリーズでした。KOTOKOはオープニング主題歌「Shooting Star」を担当、折戸伸治&高瀬一矢という当時の泣きエレクトロポップ全盛時代黄金コンビによるこの楽曲が挨拶がわりの名刺となります、続いて2004年にオリコンベスト10位内にランクインするヒット曲が生まれます。TVアニメ「神無月の巫女」オープニング主題歌「Re-sublimity」で、カップリング曲で同アニメエンディング主題歌の「agony」と合わせて、高瀬一矢のトランス魂全開のこれらの名曲はKOTOKOの代表曲となり、ここからはアニメソングシンガーとしての彼女の全盛期が到来することになります。2006年にはI'veが総力挙げて取り組んだ大ヒットアニメ「灼眼のシャナ」シリーズ第1期の後期オープニング主題歌としてKOTOKO自身が作曲まで手掛けた「being」(高瀬一矢編曲)がタイアップされ、この名曲はKOTOKOにとってオリコン第4位まで駆け上がり最大のヒットソングとなると、その勢いは止まることを知らず、2007年からはこれも大ヒットアニメとなる「ハヤテのごとく!」のオープニング主題歌も2期にわたり3曲タイアップ(「ハヤテのごとく!」(作編曲:高瀬一矢)「七転八起☆至上主義!」「daily-daily Dream」(以上2曲は作編曲:C.G mix)、その後も「リアル鬼ごっこ」や「ASSAULT GIRLS」主題歌「SCREW」(両楽曲とも高瀬編曲)といった実写映画のタイアップにも起用されると共に、TVアニメ主題歌も継続して2008年放映の「仮面のメイドガイ」オープニング主題歌「Special Life!」(C.G mix作編曲)や2010年放映の「もっとTo LOVEる -とらぶる-」オープニング主題歌「Loop-the-Loop」(KOTOKOと中沢伴行、尾崎武士の共作編曲)が起用されるなど、2011年にI'veを離れるまで第一線で活躍を続けていくことになります。
 そのような00年代の10年間で数々の名曲を生み出してきたKOTOKO楽曲の中でも今回選出させていただいたベストソングが、2007年から2008年にかけて放映された「灼眼のシャナII」後期オープニング主題歌「BLAZE」です。カップリングとして収録された同アニメ後期エンディング主題歌「Sociometry」(C.G mix作編曲)も吸い込まれるようなシーケンスが心地良い良曲ですが、さすがにインパクトとしては高瀬一矢節全開の「BLAZE」に軍配が上がります。高瀬楽曲のほとんどの傾向なのですが、イントロがとにかくカッコ良い。直球ど真ん中の表現ですが、そのような言葉しか見つからないほど「カッコ良い」のです。この楽曲では少し暴れ気味な跳ねるベースラインと、直線的に突っ走るベースラインの2種類のシンセベースのシーケンスが絡み合って、I've特有のトランスグルーヴを作り出していくわけですが、歌パートが始まるとピアノやストリングス音色を導入して途端に涼しげな曲調へ移行する優しげなAメロ&Bメロへと移行、四つ打ちリズムとシンセベースのノリを維持しながらメロディは癒しが軸になっているという、リズムパートと上モノフレーズの対照的なコントラストがこの楽曲の持ち味です。間奏部分での強引なチャレンジを考えるとどうしてもサウンド面に耳が偏ってしまいますが、どこかサビになるとバタ臭さが残ってしまう高瀬楽曲にしては、非常にメロディラインの流れ方が優れていて、苛烈なリズム&ベースに浮遊感のあるメロディがハマり、サビでは音階を上下に振りながら歌い手のテクニックの見せ場を作りつつ、効果的なS.E.で遊び心を加えていくという、キャッチーでありチャレンジングであり、そして大胆さと楽しさも兼ね備えている、聞き手も作り手も楽しめる完成度が高い名曲であると感じています。

【聴きどころその1】
 2種類のシーケンスベースが絡み合う中で、直線的ベースラインが大胆にフィーチャーされる間奏部分が挑戦的で楽しませてくれます。サウンド面をアピールすべき間奏部分にあっては、多くの音を動かしたくなるはずですが、16ビートで同じ音階を続けることの潔さは現在では古臭さとの紙一重とも言われるかもしれませんが、このシンプルさが時にはインパクトにつながることを忘れてはいけません。途中からもう1種類のベースが追加され変化を演出していきますが、それもこれも最初の連続同音階シーケンスで意表をついたからこそ、異なった印象のノリが生まれるのです。
【聴きどころその2】
 全体として(特にサビ部分で)合いの手的に加わってくるソナー音のS.E.が非常に効果的です。このソナー音のフィルインが暴れまわることで、さらに楽曲としてのテンションが上がっていきます。この部分はプログラミングではなくマニュアルでパッドが叩かれているという印象を受けるのですが、それほどの自由度のあるフィルインとなっているということです。MPCあたりのパッドにサンプルがアサインされて、それを叩いているのかもしれません。あくまで予想に過ぎませんが・・。


51位:「We Are So in Love」 花澤香菜

    (2015:平成27年)
    (アルバム「Blue Avenue」収録)
     作詞・作曲・編曲:矢野博康

      vocal:花澤香菜

      synthesizer・percussion・hihats・programming:矢野博康
      piano・synth lead:諸岡大也
      guitar:後藤秀人

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 2013年の1stアルバム「claire」が渋谷系の遺伝子を継ぐ作品ともてはやされるなど好評であったことで勢いに乗ったスター声優・花澤香菜は、ある程度の無茶が許された2014年リリースの2ndアルバム「25」では、25歳にちなんで25曲収録の大作アルバムの制作を敢行、前作に引き続き北川勝利をメインコンポーザーに据えながら、宮川弾・沖井礼二・奥田健介・中塚武・mito・小出祐介・古川本舗らのポスト渋谷系を中心としたPOPS人脈をフル活用、余りに曲数が多過ぎて散漫な印象を与える作品でしたが、相変わらずのプロフェッショナルな対応力で、最低限のクオリティは維持した作品となりました。この豪華な作家陣の中に当然のように名前を連ねているのが、前作「claire」でも「シグナルは恋ゴコロ」を提供していた矢野博康です。矢野はこの「25」でもキラーソング「Brand New Days」を提供、Negiccoの名曲「トリプル!WONDERLAND」と同時期にリリースという作詞・作曲・編曲すべてにおいて充実期にあった矢野プロダクションの作品ということで、その安定感は多数ある「25」の収録曲の中でもトップクラスのクオリティを備えていました。
 矢野博康は1997年にCymbalsを結成し、以降インディーズでミニアルバム2枚、2000年のメジャーデビューからは4枚のフルアルバムをリリース、ポスト渋谷系と呼ばれる美メロギターポップは、一時代を築きました。他のメンバーが土岐麻子と沖井礼二ですから、彼らのその後の大活躍を考えますとスーパーバンドの部類に入るかと思いますが、矢野自身も同バンド解散後はドラマーのとどまらず作詞作曲からアレンジまでこなすマルチクリエイターとして徐々にキャリアを積んでいくことになります。まずは2002年にSPANK HAPPYのアルバム「Vendôme,la sick Kaiseki」収録の「chic/シック」「Un monstre elegant/エレガントの怪物」、Olivia Newton-Johnのリメイク「PHYSICAL」にアレンジャーとして参加することで作家活動を開始、Nona Reeves周辺の仕事をこなしながら、2008年に南波志帆を発掘して彼女のアルバム「はじめまして、私。」「君に届くかな、私。」「ごめんね、私。」、そしてメジャーデビュー後の「水色ジェネレーション」「乙女失格。」に至るまでフルプロデュースで、彼女を一人前のシンガーに育て上げます。その後は中島愛「風のフィルム」、三森すずこ「恋のキモチは5%」、夢みるアドレセンス「くらっちゅサマー」と声優やアイドルに楽曲を提供しつつ、2015年にはNegicco「二人の遊戯」ではバキバキの80'sエレクトロアレンジで度肝を抜き、牧野由依のアルバム「タビノオト」の全面プロデュースを手掛けるなど、主にガールズポップの分野ではその安定感のあるサウンドメイクと美しくもキャッチーなメロディセンスで欠かせないクリエイターに上り詰めています。
 かたや花澤香菜は3rdアルバム「Blue Avenue」を2015年にリリース、一部ニューヨーク録音を敢行し、Will Leeなど海外の一流ミュージシャンをバックに歌うというますます濃厚なポップミュージックに傾倒したアルバムを仕上げることになるわけですが、本作においても矢野博康が1曲のみ提供しています。それが今回選出いたしました「We Are So In Love」です。恥ずかしいくらいの夢見心地なラブソングを軽快で爽やかなサウンドと花澤特有のキュートで繊細な声質で歌い上げるポップチューンえすが、数ある名曲の中でもなぜこの楽曲なのかと言いますと、それはひとえにギタープレイです。この鮮やかなギターを奏でているのは2002年に「二人のアカボシ」がヒットし紅白歌合戦にも出場した早過ぎた平成シティポップバンド・キンモクセイのギタリストとして活動している後藤秀人です(当時はキンモクセイが長期活動休止中でした)。平成昭和歌謡とも呼ばれていた、どこか古臭くもバタ臭いメロディをストイックに追求していた稀有なバンドであったキンモクセイのサウンドを、渋さ満点のリードギターで支えていたのが後藤でしたが、この楽曲ではまるで70年代末のフュージョン全盛期のようなギタープレイで、爽やかながらやや単調になりがちなこのポップチューンの印象を激変させています。イントロ・間奏・そしてアウトロに至るまで、シンプルな音色でテクニカルなフレーズを涼やかにプレイする玄人はだしの演奏はまさにいぶし銀といったところでしょうか。もちろん矢野博康による楽曲構成もキャッチーであることに間違いありませんが、この楽曲に限っては、後藤秀人の起用が見事に当たったというほかありません。「Blue Avenue」はニューヨーク録音にSwing Out Sisterまで参加した濃厚な味わいの作品ですが、その中でもこの「We Are So In Love」は一瞬の清涼剤のような役割を果たしています。そしてその清涼剤の大きな成分の1つとして後藤秀人のギターの存在は欠かせないものとなっているのです。

【聴きどころその1】
 本文でも触れているように後藤秀人のギターが絶品です。フュージョン風味全開のリードフレーズももちろんですが、何気ないカッティングプレイにも余裕が感じられます。諸岡大也のピアノとストリングスが軽快なだけにそれを邪魔せず前へ出過ぎない、いわゆる楽曲を壊さないプレイはまさにスタジオミュージシャンそのもの。この楽曲は何度も言うようですが彼の貢献度が非常に高いです。
【聴きどころその2】
 ピアノとギターの生演奏陣が素晴らしいプレイを聴かせてくれるおかげで、この楽曲のその他のパートがほぼ全てプログラミングであることを忘れてしまいそうになりますが、歌詞でもスペーストラベルな世界観なので当然シーケンスやアルペジオがふんだんに使用されたエレクトロポップ仕様となっています。しかしそれを感じさせない雰囲気を作り出しているのが、矢野博康のサウンドデザインの秀でたセンスと言えるでしょう。


50位:「colour」 over rocket

    (2000:平成12年)
    (ミニアルバム「blue drum」収録)
    
https://youtu.be/AJvmOBAMyeE

      vocal:本田みちよ

      synthesizers・programming:鈴木光人
      synthesizers・programming:渡部高士

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 思い切りよく単身渡英しロンドンでエンジニアとしてのキャリアを開始した渡部高士の名前が知られるようになったのは、1995年リリースの戸田誠司初ソロアルバム「Hello World :)」です。渡部は戸田からシンセサイザーとコンピュータープログラミングの技術を買われ、戸田と共に共同アレンジャーとして名前を連ねることになりました(エンジニアは飯尾芳史)。それからは石野卓球の1998年リリースのソロアルバム「BERLIN TRAX」にエンジニアとして起用されたことをきっかけに、電気グルーヴとの関係性を深めていくことになりますが、こうした活動のかたわら渡部は自身のユニット活動にも精力的に取り組んでいくことになります。そこで相棒として白羽の矢を立てたのが、細野晴臣主宰のレーベル・daisyworldのコンピレーションアルバムに参加していた新進テクノクリエイター・鈴木光人で、1997年より渡部は鈴木とデモテープ制作を開始しますが、歌モノのテクノユニットを志向していた彼らは同時にボーカリストを探すことになります。そこで彼らはテイトウワプロデュースのボーカルオーディション準優勝の経歴を持つボーカリスト・本田みちよに辿り着きます。晴れてトリオグループとなった彼らは、グループ名をover rocket(まだoverとrocketの間に空白が入っていました)と命名し楽曲制作に(文字通り)打ち込み、2000年には東京青山にある複合文化施設・Spiralが主宰する新音楽レーベル・Urban Primitiveよりミニアルバム「blue drum」がリリースされることになるわけです。 
 さて、この「blue drum」は一聴して驚かされるのが、独特の曇り空のような視界の悪そうなサウンドにクールでオシャレな女性ボーカルが乗ってくる、アーバン仕様の歌モノエレクトロポップチューンの数々です。この視界の悪さは中期YMOを彷彿とさせるもので、使用される音色もくぐもったストレンジ音響が多用され幻想的なアトモスフィアを全面に押し出しています。そこにはインテリジェンスこそ感じられるものの、テクノポップ的なオプティズムな空気は全く感じられず、ただひたすらにクールでストイックな作品集となっています。そして本作の中で今回選出させていただいたのが、2曲目にラインナップされた「colour」です。ミディアムテンポな曲調が多く、リズムもいわゆるクラブ系に寄った重低音を重視したキック中心であったり、ドラムンベースであったりと軽めのループが多用されている本作にあって、この「colour」はまずスネアがゲートリバーブ処理された重い音処理がなされていると同時に、コシの入ったシンセベースがリズムを補完しているため、ボトムがしっかり整えられて安心感があります。加えて浮遊感のあるシンセパッドが全体を支配するさまは、まさに中期YMO、的を絞ればあの従来のファンを切り捨てたいわくつきのアルバム「BGM」期のサウンドといえるものであり、あの特徴的なドラムと共に異常なこだわりを持って緻密にシミュレートしつつ、当時のテクノトレンドにも配慮した見事なサウンドデザインです。当時はまだあの「BGM」期のYMOを「それらしく」リメイクできたオリジナル楽曲は非樹に少なかったわけですが(まにきゅあ団の別ユニット・O.M.Yのようにピンポイントでそのサウンドをシミュレートする目的のグループは別にして)、over rocketの「colour」はあの「BGM」サウンドの雰囲気を忠実に再現した数少ないチャレンジングな楽曲であると言えるでしょう。この楽曲は彼らのテクノなサウンドに対する類稀なセンスをこれ以上なくアピールした名曲であると思います。

【聴きどころその1】
 フヮ〜ンというシンセパッドの音色。このアタック感のない手応えのないパッドに代表される空間的なサウンドデザインだけでも、彼らのストイックなテクノクリエイトの能力の素晴らしさが理解できます。そしてサビのシーケンスとシンセベースの絡み合いで生まれるマシングルーヴが実に良いです。特にシンセベースの低音の尖った響き方が絶妙です。不穏なパッドによるエンディングも大正解。
【聴きどころその2】
 この楽曲を語る上で欠かせないスネアドラム。かつてYMOが「BGM」収録曲でスネアに施したいにしえのゲートリバーブです。ドラムンベースやトランスなど四つ打ち全盛時代にこの「ドーッ」という音色は異質ですが、やはりドラムはこうでなくてはいけません。意識的にチューンを下げた「ドーッ」の魅力を再認識させただけでもこの楽曲がこの時代に存在した意義があると見ています。


49位:「motto☆派手にね!」 戸松遥

    (2008:平成20年)
    (シングル「motto☆派手にね!」収録)
     作詞:辛矢凡 作曲・編曲:神前暁

      vocals:戸松遥

      keyboards・programming:神前暁

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 京都大学在学時代から同人音楽活動を行い、卒業後はナムコのサウンドクリエイターとして、数々のゲーム音楽を手掛けてきた神前暁の良質なテクノポップ仕事として有名なのが、「ことばのパズル もじぴったん」シリーズでした。このゲームのBGMを担当した神前が手掛けた古原奈々が歌う「ふたりのもじぴったん」は、2004年のPSP版「ことばのパズル もじぴったん大辞典」に使用された中田ヤスタカremixバージョン(完全にcontemode)が有名ですが、2003年発表のオリジナルバージョンから既に純度の高いテクノポップフレイバーに確かなポップセンスを感じさせるものでした。しかしほどなくして2005年、神前は幅広い音楽活動を志してクリエイターとして独立、同じくナムコ出身のクリエイター・岡部啓一が立ち上げた音楽制作会社・MONACAに参画することになりますが、ここから神前の快進撃がスタートします。彼の運命を変えたのは社会現象にもなった2006年放映の大ヒットTVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の劇伴を担当したことで、特に00年代アニメ屈指の名場面、ハルヒ達の文化祭でのバンド演奏の場面で使用された挿入歌「God knows...」は、実際の演奏をロトスコープにより再現した精巧なアニメーションも相まって話題となり、一躍神前暁の名が一般的に認知されるきっかけの楽曲となります。加えて彼の名声を決定的なものにしたのが、これも大ヒットとなった2007年放映のTVアニメ「らき☆すた」のオープニング主題歌「もってけ!セーラーふく」です。「God knows...」と同じく畑亜貴とのコンビで制作された電波ソングを神前はラップ・ファンク・テクノ・ロックをごった煮にしながらキャッチーな主題歌に仕上げ、全対応型のサウンド&メロディセンスを披露、このゴチャゴチャしたいかにもアニメから飛び出したような電波曲を、ゴールドディスクに認定されるほどの大ヒットに導いたのは、神前暁(と畑亜貴の恐ろしい歌詞)の功績によるところが大きいでしょう。
 2008年に入り完全にアニソン系のトップクリエイターとしてポジションを確立した神前は、TVアニメ「セキレイ」のオープニング主題歌「セキレイ」といった好楽曲を生み出すなど高いクオリティを維持していきますが、ここでさらに彼のメロディメイカーとしての才能を爆発させた楽曲が生まれます。それが今回選出したTVアニメ「かんなぎ」のオープニング主題歌「motto☆派手にね!」です。この楽曲は「かんなぎ」のヒロイン・ナギ役を務めた当時売り出し中の新進声優であった戸松遥の2ndシングルで、下敷きとなっているのは中山美穂の80'sアイドル期の名曲「「派手!!!」」というのは有名な話ですが、確かに「派手だね♪派手だね♪」のオマージュで「地味だね♪地味だね♪」と歌われていたり、ブラスセクションがサウンドの中心であったり、スラップベースや特徴的に連打するハンドクラップがアクセントとなっていたりと、想像以上に原曲を意識していることがわかります。しかし、原曲がライブ感のある重厚なドラムによるキレのよいダンサブル歌謡であるのに対して、この楽曲はよりキャッチーに展開するメロディラインと明るき元気なタイプのアイドル像を意識したポップチューンとなっており、そのあたりは比較できないほどどちらにも高いレベルでの完成度が感じられる結果となってます。オマージュという手法はパクリと揶揄されがちですが、オマージュにオリジナリティをどのように加えていくかで原曲を凌ぐほどのクオリティを獲得することが可能であれば、それは聴き手をより楽しませることができる効果的な手法として納得させることができると思います。「motto☆派手にね!」は、そのオリジナリティとオマージュの狭間に咲いた00年代の名曲の1つとして現在も語り継がれているのです。

【聴きどころその1】
 あの筒美京平のペンによるオマージュの原曲「「派手!!!」」よりも格段にキャッチーなメロディラインに驚かされます。サビ前の「なんて背伸びだらけの あなたが好き」における「あなたが好き」のメロディも非凡ですし、サビの「地味だね!」のフレーズが続く場面でも2回り目「ホントの恋だね!」の少し音階が上がるメロディも秀逸。ラストのキメである「hard day's naightmare」もバッチリ決めてきますし、これがキャッチーでなくてなんというのかというくらいの非の打ちどころのないメロディ構築には脱帽しかありません。
【聴きどころその2】
 サンシャインという言葉が頭の中をグルグル回り続ける明るく爽やかな曲調を支えるのがブラスとストリングス、そしてベル音色という80'sマナー溢れるサウンドメイクですが、最も「「派手!!!」」のオマージュに忠実なのはハンドクラップでしょう。しかも正直に言えば原曲よりやり過ぎで、とにかく当たり構わず鳴らし続けていて実に過剰です。しかしこうしたやり過ぎ感というか遊び心がさらに楽曲を明るく楽しませてくれるのです。こうした効果も80'sな空気を感じさせる要因の1つではないかと思います。


48位:「PERFECT LOLITA」 スマイル学園 電音部 UNDER FACE

    (2013:平成25年)
    (シングル「PERFECT LOLITA」収録)
     作詞:サトウタクヤ・金城利安 作曲:stts 編曲:ARM

      vocal:田谷菜々子
      vocal:永島穂乃果
      vocal:岡崎いちご

      programming:ARM

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 地下アイドル集団・スマイル学園の部活動・電音部として結成されたサイバーゴシックエレクトロアイドルトリオ・UNDER FACE。クラブ系エレクトロを得意とする音楽制作チームNUMANを楽曲制作に迎え、「SKYTOWER」を自主制作リリースしたUNDER FACEですが、音が潰れるほどクラブ系に寄り過ぎてしまったためアイドルファンとしては戸惑いを見せるリスナーも多かったようです。しかし思いのほか国内外のコアなリスナーからは密かに認識されていたようで、ほどなく2ndシングル「PERFECT LOLITA」がリリースされることになります。この楽曲のジャケットをご覧いただいてもわかりますように、前作から比較しても異様にスチームパンク的なサイバーガジェットが増えております。リーダーの田谷菜々子は2段鍵盤一体型の電飾DJセットを鎮座させ、永島穂乃果はビームライフル(のようなもの)を抱え、最年少の岡崎いちごに至っては、煙が出ている妙なブースターみたいなものを重たそうに持たされていたり、挙げ句の果てに鍵盤に改造されたリュックを背負わされて永島が弾いたりと、もはや何を言っているのか自分でもよくわかりませんが、こだわり過ぎたサイバーSFワールドに特化したパフォーマンスでさらに進化した姿を見せつけています。
 さて、肝心のこの楽曲のサウンド面ですが、NUMAN制作の「SKYTOWER」や「yutori」のような重低音重視のクラブ系エレクトロ感は後退していますが、世界観は崩さず、逆にEDMまで視野に入れたより苛烈で攻撃的なエレクトロサウンドで勝負に出ています。アレンジを担当したのは札幌の同人音楽制作チーム・IOSYSの中心的クリエイターであるARMです。IOSYSは主に東方Project(既に1つの同人文化と化した弾幕系シューティングゲーム)の楽曲アレンジを手掛けるとともに、その音楽制作能力が評価されている同人作家集団で、ARMをはじめとする音楽制作部門のクリエイター達は他のゲーム音楽やアニメ音楽シーンへと進出、特にARMのアニメ仕事としては、2008年のWEBアニメ「ペンギン娘はぁと」のエンディング主題歌「揺れてはじけてあふれちゃう☆魅惑のペンギン娘」の作編曲を皮切りに、2011年のTVアニメ「夢喰いメリー」エンディング主題歌「ユメとキボーとアシタのアタシ」や2012年のTVアニメ「あっちこっち」オープニング主題歌「あっちでこっちで」、また2013年のTVアニメ「ディーふらぐ!」オープニング主題歌「すているめいと!」の作編曲を手掛けるなど、主に直球エレクトロかつ電波ソング系の楽曲にて力を発揮していきます。その最たる楽曲が人気アイドル育成ゲーム「THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER」の安部菜々が歌うキャラクターソング「メルヘンデビュー」で、強烈な電波ソングにもかかわらずオリコン第7位を記録するなど奇妙キテレツな作風ながらもヒットメイカーの仲間入りを果たしています。この「メルヘンデビュー」の同時期にリリースされたのがこの「PERFECT LOLITA」というわけで、いわゆるARMが尖りまくっていた時期ということも相まって刺激的な電子音が満載、とにかく小中学生アイドルには似つかわしくないグイグイと音で突き刺してくるサウンドメイクに、アイドルソングであることを忘れてしまうほどです。恐らくここまで電子音の種類で攻めまくったアイドルソングも珍しいのではないでしょうか。
 この楽曲の過激なクオリティに味をしめたUNDER FACE運営は引き続きARMに作編曲を依頼、しかしもう少し親近感(Perfume感)のあるエレクトロポップを志向した3rdシングル「WALL BREAKER」をリリース、来る1stアルバムに期待感を持たせますが、ここからグループが瓦解するのは一瞬でした。翌2014年になると余りにガジェット制作チーム(電音部UNDER FACE制作チーム)がやり過ぎたのかスマイル学園運営との方向性の違いから軋轢が生じ、運営スタッフがガラリと変わってコンセプトが崩壊、新メンバー水野あおいが加入したり、新曲「Mr.PUSHER」はデジロックに転身したりと戸惑うばかり、リーダー田谷の卒業も重なって、迷走の末にUNDER FACEは解散することになります。そしてその後UNDER FACEのメンバーはそのゴシック性とともに事務所主導のDEEP MINDに引き継がれ(ほどなく解散)、ガジェット制作チームのSFコンセプトは新アイドルMETROPOLISへと継承していきます。奇しくも地下アイドル運営の難しさを垣間見せられることになりましたが、UNDER FACEというサイバーエレクトロに特化してチャレンジしようとしたアイドルグループは是非皆様も忘れずに、しっかり記憶していただきたいと願っています。

【聴きどころその1】
 ほぼ声だけがアイドル仕様で、その他は刺激的なフレーズを連発する過剰なエレクトロサウンドで攻めまくっています。露骨なフィルタリングとザラついた電子音で仕上がった音はザックザクでギュインギュイン。にじみ出るマシン制御感がたまりません。まさに過激な電子音の博覧会といった様相を呈しています。
【聴きどころその2】
 刺激的なエレクトリックサウンドに耳を奪われがちですが、メロディ構成も複雑で興味深いです。サビから始まりイントロを挟んでA→B→C→サビとメロディが続いてからの妖しいアルペジオをバックにしたDメロの挿入が秀逸です。間髪入れずさらにA→B→C→サビと繰り返しますが、ここでまた異なるEメロが入ってきてBメロに繋げるセンスに感心させられます。キャッチーに見えて複雑かつ凝った構成で間奏も入れずラストまで突っ走る上に、各パートでは軟性度の高い電子音で粗さの目立つ硬派な電子音を織り混ぜてくるものですから、そのカオスな音像たるや尋常ではありません。電波系エレクトロクリエイターARMの面目躍如といったところでしょうか。


47位:「BEAUTIFUL≒SENTENCE」 メイガス・トゥー

    (2014:平成26年)
    (シングル「BEAUTIFUL≒SENTENCE」収録)
     作詞・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

      vocal・rap:浅見リリス(C.V.原由実)
      vocal・rap:神無月アリン(C.V.内田彩)

      bass・programming:フジムラトヲル
      keyboards・programming:石川智久
      12 strings guitar:松井洋平
      Simmons SDS-V・cymbal:よしうらけんじ

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 アニメソングに渋谷系周辺を巻き込んだフライングドッグの福田正夫や、トランス&エレクトロで一世を風靡したのがI'veの高瀬一矢など、アニソンの音楽的発展においてはプロデューサーの役割が大変重要であることは皆様もおわかりのことと思いますが、彼らのようにアニメソングにテクノポップのエッセンスを注入した張本人が、元ランティスで現在はPrecious tone代表の佐藤純之介です。YMOやTM NETWORKといったテクノポップ・エレポップ周辺の音楽に影響を受けた佐藤は、1990年代後半からエンジニアとしてYellow Generationや上戸彩といったJ-POP作品に参加して経験を積むと、2006年よりアニソンの大手レーベルで、元LAZYのポッキー・井上俊次が代表、元midoriの伊藤善之が副代表を務めるランティスにディレクターとして参画、もともとプロデューサー志向の強かった佐藤はランティス所属の数々のアーティストのプロデュースを手掛けていくことになります(あの「ひだまりスケッチ」シリーズの音楽制作も彼のディレクション)。一方、佐藤には重度の機材マニアという側面がありまして、特に80年代を象徴するサンプラーであるEmulator IIFairlight CMIを複数台所有するなど、シンセサイザーマニピュレイターとしての側面も持ち合わせているわけですが、そのような彼が存分に趣味性を発揮できるパートナーが現われ、その趣味性を全開にしたアニメ作品を共に手掛けることになります。それが2014年放映のTVアニメ「ウイッチクラフトワークス」です。
 佐藤の格好のタッグパートナーとして登場したのが石川智久フジムラトヲル松井洋平の3人組テクノポッパー・TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDです。TECHNOBOYSとして1994年に結成したキャリア豊富な彼らは、YMO由来のテクノポップを基調にエレクトロニカやラウンジといった要素も取り入れながら、独自のテクノミュージックを目指して、数枚の自主制作CD販売やオムニバス「TECHNO 4 POP Vol.1」への参加、ライブ活動等で方向性を試行錯誤しながら地道に活動していくものの、2005年にはTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下TPG)といささか長いグループ名に改名することになりますが、これが功を奏したのか徐々に楽曲発表の機会が増えていきます。2006年には1stアルバム「music laundering」をリリース、デトロイトテクノの重鎮・Claude Youngのremixが注目を浴びると、2007年には茶太のシングル「うたたね」のカップリング曲「まどろみ」や、劇場アニメ「EX MACHINA」に「LOST SECOND」を提供、2009年には、のみこが歌うTVアニメ「アキカン!」エンディング主題歌「恋空リサイクリング」を13種類の異なるアレンジをパッケージングにして売り出すなど(手元に資料はないが恐らく佐藤&TPG仕事としか思えない)、徐々にではありますが、アニソン分野で実績を作っていきます。そして彼らも本格的に注目を浴びることになったのが彼らが劇伴を担当した前述の「ウイッチクラフトワークス」となるわけですが、同じ電子楽器マニアである佐藤純之介とTPGが手を組めばこのアニメのタイトルからして当然KRAFTWERKを意識するわけで、サウンドトラックからKRAFTWERKのアルバムジャケのパロディであったり遊び心を存分に発揮します。もちろんサウンド面も完全なるテクノポップ。特にエンディング主題歌となったKMM団「ウィッチ☆アクティビティ」は、SIMMONSの響きも軽やかなピッピコテクノポップが話題を呼び、晴れてアニソンにテクノポップ魂が(もともと親和性が高かったものの)本格的に植え付けられたのでした。
 しかしながら今回選出させていただいたのは「ウイッチクラフトワークス」からではなく、この成功によって仕事が急増した佐藤&TPGの次なるTVアニメ劇伴仕事である2014年放映「トリニティセブン」のエンディング主題歌の1つ、「BEAUTIFUL≒SENTENCE」です。2014年は彼らの2ndアルバム「good night citizen」もリリースされまさに旬といった時期ということもあり、「BEAUTIFUL≒SENTENCE」ではまるでその勢いのスピードが反映されたかのような「ウィッチ☆アクティビティ」以上の疾走感抜群の高速テクノポップが展開されています。ボーカル編集ソフトMelodyneでモザイク状に組み合わされたロボット化されたリリス&アリンのボイスから始まり、のっけから幾重にも重ねられたシーケンスが猛スピードで走り始めます。随所にSIMMONS SDS-Vのフィルインが連打される中でクールにAメロが始まったかと思えば、Bメロからはリリス&アリンの早口ラップが炸裂、イカしたピアノのフレーズをバックにした繋ぎのCメロから大胆な転調でサビに突入する部分が圧巻です。サビになるともう音が重なり過ぎて隙間が埋め尽くされる中歌メロは非常にテンションが高く息つく暇もありません。シンセソロとソロの間に挿入されたDメロも良いクッションになっています。そしてラストのサビではほとんどヤケクソ気味の音の重ね方と早口歌唱ですが、この圧倒的音の洪水によるテンションの高さこそがこの楽曲の魅力ですので、とにかく音という音を重ねまくったサウンドデザイン手法はこの楽曲に限っては正解と言えるでしょう。電子楽器マニアの溜飲を下げつつ、急激なアニソンテクノポップ化の波に見事に乗った中でのこの名曲でさらに評価を高めた佐藤&TPGコンビは、その後も「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」「紅殻のパンドラ」「賭ケグルイ」といったTVアニメ劇伴や、「おそ松さん」エンディング主題歌「SIX SAME FACES 〜今夜は最高!!!!!!〜」や「この美術部には問題がある!」エンディング主題歌「恋する図形 (cubic futurismo)」等、アニソン界で引っ張りだこの音楽制作チームに成長していくのです。

【聴きどころその1】
 なんといってもシンセソロ。Dメロの前後に登場するソロプレイに注目です。前半のソロはRoland Jupiter-8の流れるような繊細なシンセリード、そして後半の唸りを上げるソロはご存じProphet-5のシンセリードです。これが石川智久が言うところの日米シンセサイザー対決。Bメロのラップ場面やラストのサビでのリードフレーズも実はソロ以上に存在感を放っています。
【聴きどころその2】
 イントロ以外にも随所で登場するロボットボイスは目立ち過ぎな部分もありますが、この楽曲はメイガス・トゥーの2人がどれだけBメロの早口ラップやサビ(何度聴いても抜群の転調!)の早口言葉を熱唱できるかに成功がかかっていますので、目立ち過ぎは間違いではありません。シンセやスラップやTR909&808のリズムマシンが活躍していますが、主役は彼女達の「声」なのです。


46位:「いいくらし」 チームしゃちほこ

    (2014:平成26年)
    (シングル「いいくらし」収録)
     作詞:もちいしりり 作曲・編曲:吉田哲人

      vocal・rap:秋本帆華
      vocal・rap:咲良菜緒
      vocal・rap:安藤ゆず
      vocal・rap:大黒柚姫
      vocal・rap:坂本遥奈
      vocal・rap:伊藤千由李

      programming:吉田哲人

いいくらし

 1999年にP-vineがシリーズ化したオムニバス「テクノ歌謡」。世間にテクノ歌謡という単語を一般認知させたこのシリーズの選曲を担当していたのがDJ集団・8-bitsです。このDJユニットに福田剛士(DJフクタケ)や山本展生と共に所属していたのが吉田哲人でした。この3名の中でも比較的クリエイター志向であった吉田は2000年にThe Orangers名義でアナログ盤EP「I ♥ NW e.p.」をリリースし収録曲「Dislocation Dance Rock」が話題を呼ぶと、2001年より小西康陽のマニピュレーターとして数多くの作品に参加しますが、並行してソロ名義として小西康陽のレーベル・レディメイドのオムニバス「WORLD IS WAITING FOR US.」に「Liaisons Dangereuses」、永田一直主宰の老舗テクノレーベルTRANSONICのオムニバス「TRANSONIC 11」に「Listen Up」を提供するなどオリジナル楽曲を制作、永田とはFANTASTIC EXPLOSIONの再結成メンバーとしても参加し、2003年にはアルバム「RETURN OF FANTASTIC EXPLOSION」をリリースします。この頃はどこか昭和な匂いをするハウスミュージックを志向していたようで、中田ヤスタカ主宰のcontemodeのオムニバス「contemode 2」に吉田哲人&ラブ・サウンズ名義で「キーファー・サザーランドみたいな奴」を提供したり、小西が早くからメンバーを脱退したふかわりょうの音楽活動名義ROCKETMANのアルバム「愛と海と音楽と」「THE SOUND OF MUSIQUE」でプログラミングを担当するなど、小西に鍛えられながらキャリアを積んでいきます(2008年に独立)。
 そのような中、吉田が参加するFANTASTIC EXPLOSIONは、2010年に「SOUNDS IN SPACE」をリリースします。このアシッド&スペイシーな作品で気を良くした吉田は、2014年のとあるアイドルグループに大胆にもTB-303系のアシッドハウスの導入を決行いたします。それが今回選出のチームしゃちほこの6thシングル「いいくらし」です。当時大ブレイクを果たしたももいろクローバーZ系列として名古屋のローカルアイドルグループとして出発したチームしゃちほこは、2013年に晴れてメジャーデビュー、ラッパーのSEAMOがプロデュースした「首都移転計画」、コモリタミノルが手掛けた「愛の地球祭」とトリッキーなシングルを連発し勝負のメジャー3発目が期待される中でのリリースとなったこの「いいくらし」は、サウンド面では完全にクラブ仕様のアシッドハウス、HARDFLOORもかくやというほどのTB-303丸出しのアシッドベースが暴れ回る中、ラップパートでは吉幾三をオマージュ、後半ではTRFオマージュで悪ノリするなどやりたい放題。恐らくこれまでのアイドル歌謡の中でここまでTB-303が主役となった楽曲はなかったのではないかと思います(細川ふみえや篠原ともえでもここまでのアシッド性は感じられませんでした)。しかし2010年代のアイドルソング界はもはやジャンル・バトルロイヤルのような状態で、どのようなサウンドスタイルが採用されても驚かないほどの多様性に満ちたシーンであったと思いますので、そういった意味では比較的トリッキーな楽曲が持ち味であったチームしゃちほこの勝負曲としては絶妙にハマったと言えるのではないでしょうか。結果として「いいくらし」はオリコン第2位のスマッシュヒットとなり、吉田哲人の代表曲となったわけです。 
 その後完全に「いいくらし」を意識したと思われるNegiccoからオファーを受ける形で同系統のアシッドチューン「Space Nekojaracy」を提供しますが、吉田はこれを機にアイドルプロデュースに力を入れることになり、3B juniorの別ユニット・マジェスティックセブンに「未知とのSo Good!」を提供したり、近年では札幌出身のアイドルデュオWHY@DOLLに「菫アイオライト」「ケ・セラ・セラ」といった良曲を長谷泰宏とタッグを組んでプロデュースするなど第一線で活躍中ですが、本人も小田和正スタイルのシンガーソングライターとしてシングル「ひとめぐり」でデビュー、アルバム制作が待たれるところです。

【聴きどころその1】
 ハウス特有のピアノ系リフが硬質過ぎてマシナリー感を増している部分。このガチガチの音色がTB-303のグニョグニョなレゾナンス&フィルターサウンドに絶妙に合うのです。TB-303ベースの独特の粘っこいレゾナンスはアイドル歌謡には似つかわしくありませんが、特にラップパートにおける強烈な存在感は絶品です。
【聴きどころその2】
 ラップパートに入るまでの「タメ」が素晴らしいです。アシッドベースのワンフレーズを16回繰り返した後の「アシーッド!」からの12カウント目での「Let's Go!」のタイミング。この12カウント目というセンスが秀逸です。飽きさせず焦らし過ぎずの絶妙なタメは、この楽曲の最大のハイライトです。


45位:「太陽の戯れ」 木村竜蔵

    (2015:平成27年)
    (アルバム「碧の時代」収録)
     作詞・作曲:木村竜蔵 編曲:奥野真哉

      vocal:木村竜蔵

      guitars:木暮晋也
      chorus:AZUMA HITOMI
      programming・keyboards・other instruments:奥野真哉

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 名曲「兄弟船」で知られる大物演歌歌手・鳥羽一郎の息子である木村竜蔵は、弾き語り系シンガーソングライターとして高校在学中よりアコースティックギターを片手に歌手活動を開始、2012年にミニアルバム「6本の弦の隙間から」でメジャーデビュー、1stシングル「舞桜」をリリースし弾き語りツアーを行うなど、フォーキーな音楽性を露わにした活動を続けていきます。2014年には2ndミニアルバム「恋愛小説」をリリース、持ち前のイケメンと美声でアコースティックロック道を順調に歩んでいくように見えました。と、ここまでは特にTECHNOLOGY要素とは正反対の音楽性でしたが、2015年に木村は一念発起して80'sカルチャーの探求・再検証するプロジェクトを開始、1stフルアルバム「碧の時代」はがっつり80年代を意識したサウンドメイクに木村本来の美しい歌謡メロディを乗せて歌い上げることで、新旧世代の融合を図ることによるケミストリーを起こそうと画策します。そこで本作には80年代感を生み出すために必要な4人のサウンドプロデューサーを迎えることになります。1995年デビューのシンガーソングライター・堂島孝平が3曲、1987年のワウワウ・ヒッピーズでのデビューからロッテンハッツヒックスヴィルにてネオGSからカントリー・ネオアコなど幅広い音楽性のバンドで活躍してきたギタリスト・木暮晋也が3曲、木村と同年生まれの若手エレクトロ系サウンドクリエイター・AZUMA HITOMIが2曲、そして1986年デビューのミクスチャーロックの先駆者的バンドであったニューエスト・モデルソウル・フラワー・ユニオンのキーボーディスト・奥野真哉が4曲をプロデュースした計12曲となる本作は、4人それぞれの音楽的背景を生かしたサウンドデザインが施され、これまでギター一辺倒であった木村の楽曲に華やかさをもたらすことになりました。
 そして今回ベストソング50位以内にランクされる名曲として紹介したのが本作6曲目に収録された「太陽の戯れ」です。アレンジャーは奥野真哉。彼はソウル・フラワー・ユニオンとしての活動の他にもBonnie Pink、斉藤和義、布袋寅泰、ウルフルズ、LA-PPISCH等々数多くのアーティストやバンドのサポートやプロデュースを手掛け、30年近くのキャリアの中で常に第一線で活躍しているプレイヤー兼クリエイターですが、この楽曲では彼が若かりし頃に過ごした80年代の空気を惜しみなく注ぎ込んだエレクトロポップ歌謡に仕上げてきました。ドラムやベースといったリズム隊は全てプログラミング、木暮晋也のギターは脇役に徹し(さすがにアウトロではソロをプレイしますが)、ほぼ全体のサウンドメイクはシンセサイザーを弾きまくる構成となっています。本作「碧の時代」において奥野がプロデュースする他の3曲(「落蕾〜ラクライ〜」「約束の鐘」「うたかた」)では、ドラムは生演奏ですが、この「太陽の戯れ」ではDX7によるコクのある跳ねるシンセベースと絡みやすいリズムマシン系のドラムが使用されており、その大胆なエレクトリック感覚による木村のこれまでの音楽性を逆転させる新鮮さが非常に魅力的です。結果としてこの木村80's化の試みは売り上げには繋がらなかったかもしれませんが、彼のこれまでの音楽環境からすれば再評価著しい80'sシティポップのようなオシャレな方向ではなく、しっかり昭和歌謡の基盤の上に成り立つメロディがあってのあの時代の雰囲気を表現できているという点では、独自の80's解釈を成し遂げた貴重な記録になっているのではないかと思われます。

【聴きどころその1】
 これまでの木村竜蔵のイメージを完全に覆すシンセサイザー大博覧会です。イントロのリードシンセからシーケンス、メタリックなFM系ベル音色、何種類ものパッドサウンド、スラップまでシミュレーションするシンセベースライン、そして極め付けの3度に及ぶシンセサイザーソロ・・・。特にシンセソロは1周目サビ後にシンプルかつLFOで揺らした滲むようなリード、2周目のAメロ後にギターライクな歪み系リード、そして2周目サビ後からCメロにかけての浮遊するアルペジオをバックにしたブラス系のリードという3種類を巧みに使い分けてまで、奥野真哉のシンセにこだわる姿勢が抜きん出ています。
【聴きどころその2】
 跳ねるファンキーなベースラインが目立ちがちですが、ドラムパートもプログラミングですがその存在感を主張しています。特に2拍目のロングリバーブ一発のハンドクラップは、楽曲全体に影響を及ぼすほどの強烈なインパクトです。こうした過剰なエフェクト処理も80'sの醍醐味で、平成時代においてはやや忘れられていた効果手法なのです。


44位:「UPPER ROCK」 アップアップガールズ(仮)

    (2012:平成24年)
    (シングル「UPPER ROCK/イチバンガールズ!」収録)
     作詞・作曲・編曲:michitomo

      vocal:仙石みなみ
      vocal:古川小夏
      vocal:森咲樹
      vocal:佐藤綾乃
      vocal:佐保明梨
      vocal:関根梓
      vocal:新井愛瞳

      programming:michitomo

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 ハロー!プロジェクト(以下ハロプロ)研修生組織であるハロプロエッグの2010年に体制変更により、ハロプロエッグ卒業を余儀なくされハロプロからデビューできなかった7名が選抜された新グループ・アップフロントガールズ(仮)が2011年に結成されます。このグループは同年夏のあるイベントでグループ名を誤記載されたことをきっかけに、グループ名をその誤記載のままアップアップガールズ(仮)と改名し本格的に活動を開始、2012年にシングル「Going my ↑」でインディーズデビューを果たしますが、この年アップアップガールズ(仮)はシングルを実に8ヶ月連続8枚リリースするなどこれまでの鬱憤を晴らすかのように快進撃、飛躍の年となるわけです。同年初夏の3rdシングル「アッパーカット!」ではアップテンポのハイパーユーロビートチューンに挑み、そのハイテンションな勢い任せのスタイルは同グループの個性となりグループの代表曲になると、同年秋にさらに彼女たちの方向性を決定づける超強力なダンスチューンがドロップされることになります。それが今回取り上げる重厚EDMナンバー「UPPER ROCK」です。
 不遇のハロプロエッグ時代からデビューに至るまでの逆境を跳ね返す精神力と根性が鍛えられていた彼女たちは、フィジカルトレーニングまで取り入れた体育会系パフォーマンスに昇華することで、グループの個性とすることに成功していくわけですが、その重要なキーとなった楽曲がこのゴリッゴリのEDMナンバーです。この楽曲の作編曲を手がけるのは、デビュー当時からアップアップガールズ(仮)の主要サウンドプロデューサーとして多くの楽曲を手掛けてきたmichitomoです。2000年代からリミキサー兼作詞作曲編曲家としてJ-POPフィールドで活動してきたmichitomoはそれまでは目立った活躍はなく、2010年のももいろクローバー(早見あかり在籍時)「走れ!」「全力少女」のアレンジャーとして名が知られていたほどでしたが、2011年からハロプロエッグ組の吉川友とアップアップガールズ(仮)を手掛けるようになってから彼のトラックメイカーとしての才能が開花します。その最たる楽曲がこの「UPPER ROCK」で、暴力的なまでにサウンド全体をズタズタに切り刻まれた素材をリズムトラックに変換するお腹いっぱいのやり過ぎEDMでもはや主役の彼女たちのボーカルはバックに追いやられ歌詞の判別がつかないほどです。全編において何かしらのギミックが施されているため全く気が抜けず、聴き終えた後の疲労感は半端ないのですが、その分インパクトは強烈です。アイドル戦国時代といわれた玉石混交のアイドルソングの中でも、ここまで強引なサウンドのパワーで押し潰そうとしてくる楽曲は後にも先にもほぼないと言ってよいでしょう。デビュー1年にしてここまでのやり過ぎ感を演出してしまったアップアップガールズ(仮)はもう後には引けない個性を確立してしまったためか、その後もゴリゴリEDMなシングルを何曲もリリースし続けますが(「サバイバルガールズ」「SAMURAI GIRLS」「(仮)は返すぜ☆be your soul」「パーリーピーポーエイリアン」等)、彼女たちの弛まぬ努力と根性が現在までグループを生き長らえさせています。新井愛瞳というスターも飛び出しつつあるこの体育会系アイドル集団がどこまで時代の荒波を乗り越えていけるか、見守っていきたいと思います。

【聴きどころその1】
 ボーカルを含む全てのサウンドにギミックが施されてグチャグチャにされているやり過ぎ感。これがEDMと言われてしまえばそれまでですが、この突き抜けたチャレンジングな楽曲がグループの個性と方向性を決定づけたとするならば、大成功でしょう。2周目のAメロではさらにブレーキと緩急を効かせたトラック自体を歪みに歪ませていますが、2周目の後はもうカオスの極致。楽曲のデータをバラバラにしてグチャっとごった煮したような恐ろしいエレクトロは、既に他のどのようなアイドルでも真似できない域に達しています。
【聴きどころその2】
 通常であればドラム&ベースでリズムを決定づけるところをデータそのものをねじ曲げてしまうことでグルーヴを生み出すEDM手法。これをアイドルソングに持ち込んだ思い切りの良さに脱帽です。その追い込まれ方というか限界突破型キャラクターは、かつてのセイントフォーを彷彿とさせるものがありますが、ハロプロで鍛え上げられたダンスパフォーマンスと体育会的フィジカルに見合っており、この暴力的なエレクトロサウンドとのマッチングは強力と言わざるを得ません。


43位:「ランジェリーでダバダ」 メテオール

    (2005:平成17年)
    (アルバム「ふるめたる夜」収録)
     作詞・作曲・編曲:山田カズミ

      vocal・programming:山田カズミ(カズウ)

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 1988年の結成以来1995年まで東京のアンダーグラウンドなテクノポップ界隈で確かな足跡を残したバンド・パラペッツにおける長身の絶対的なフロントマンであった山田カズミは、パラペッツ末期にはパラペッツ周辺のバンドを集めたオムニバスカセットテープ「トルマリン農場」シリーズに自身のソロ活動名義・カズウとして楽曲を提供、1994年に自主制作カセット「ロココ」を制作、1995年のパラペッツ解散後には8cmCD仕様の「LOVE OR KISS」、P-MODEL&ヒカシューオマージュな「20世紀の終わりに会った人だろ」「パカリ・タンプの3つの穴」という3枚のミニアルバムを発表、1996年にはカズウとしてのフルアルバム「僕の赤い観覧車」をリリースしてソロ活動に区切りをつけると、新バンド結成に動き出します。AMIGA使いのトオコ・ベースのカンチャン・ドラマーのトミーの3名をメンバーに迎えたカズウの新バンドは、同年ソロ活動を発展させる形で本業のCGと音楽の連動を模索したバンド・メテオールとして活動を開始、翌1997年にはメテオールとして初のカセットテープ「流線形」を制作、1999年にはCGムービーデータと一体化したハイブリッドCDによるミニアルバム「コビトの化学」をヒカシューの坂出雅海プロデュースによりリリースします。この頃はまだパラペッツ〜カズウの時代を引きずったニューウェーブ仕様のサウンドでしたが、2000年代以降彼らの音楽性はカズウ以外のメンバーの変節と共に多様化していくことになります。
 2001年には特撮風パロディソング「超戦隊グレート5」が収録された企画アルバム「秋葉原電気GUY」を制作(この頃にはギターのミタマ2(海琳正道2)こと阿部洋勝、コーラスのみつこが加入)、2002年にはパラペッツ時代からの盟友イラストレーター・コジマケンとのコラボによるアルバム「エーテルワイズ」をリリース、ニューウェーブ一辺倒ではなくフォークもロックも民謡もミクスチャーした個性的なサウンドへと変貌していきます。そしてその3年後の2005年にリリースされた15曲入りの大作アルバム「ふるめたる夜」では遂に"地球民謡"という宣伝文句を標榜し、民謡や演歌をテクノポップ風に料理する新機軸を垣間見せ後の宇宙民謡路線への予感を感じさせる仕上がりとなっています。とはいえ、本作はまだまだニューウェーブ要素の強い作風を保っておりまして、その中でもアイデアとセンスに衝撃を受けた楽曲があります。それが今回選出の「ランジェリーでダバダ」です。この楽曲はとにかく情報量が多いです。イントロからしてスチールドラムの沖縄音階、そこにスペースシーケンスが入ってくるいつもの近未来感からの本編フレーズを聴いてひっくり返りました。ランバダでした。あの80年代末に席巻したラテンアメリカ発祥のいかがわしい雰囲気のダンスミュージック。石井明美がカバーしたことでも知られるこの有名なフレーズを大胆に引用しています。ここまで来てもう理解していただけるでしょうが、ランバダ=ランジェリーでダバダの短縮形・・なんてベタなんでしょうか。しかも普通に歌メロとして昇華されてなぜか民謡の雰囲気まで醸し出してパロディなのにオリジナリティを感じさせる矛盾が面白いです。途中ではムエタイの踊り・ワイクルーの笛(音色は日本式のピーヒャラ田舎笛ですが)まで登場、しかし歌詞は場末の酒場のお姉さんのランジェリー・・酒場でダバダ・・・そうです、沢田研二の名曲「酒場でDABADA」をもじっているのは明白です。1曲の中でここまで突っ込みどころの多い楽曲も珍しいのですが、ランバダとスキャットのダバダの掛け合わせ、上記のようなパロディに次ぐパロディの嵐、沖縄にタイまでブッ込むなんでもあり状態の情報量を、テクノポップに統一させる見事な交通整理が、この名曲の魅力でもあるのです。
 なお、メテオールは本作の後は試行錯誤の末に大幅にメンバーチェンジ、元秘密キッチンのヒロックを相棒に迎えたデュオスタイルとなり、宇宙テクノ民謡化を本格的に進めると、2013年に傑作アルバム「コスモ越さぬも」をリリース、民謡・会津磐梯山の独自解釈「ワイズマン第3の眼」やソーラン節の独自解釈「ソーラー節」「船漕ぎ流し唄 宇宙篇」といった伝統民謡を宇宙SF感覚の歌詞とサウンドでリプロダクトした楽曲で、独自の存在感を示すことになります。

【聴きどころその1】
 様々な情報量をネタとパロディと仕掛けのある楽曲ですが、サウンドの基本は紛れもなくテクノポップ。レゾナンスとLFOで揺らしたグニョグニョシーケンスが効いています。そしてリズムトラックのブレイクビーツもどこかしらグラウンドビート気味で、土着的な雰囲気をしっかり醸し出しています。もちろんワイクルー場面での田舎笛も恐らくサンプリングです。
【聴きどころその2】
 歌っているフレーズはまさしくランバダなのに、コブシの効いたカズウの歌い方やリズムの取り方、歌メロに入る前のカウントの取り方や「ランジェリー」のハモリ方など、ランバダであることを忘れてしまう独自性を感じてしまいます。まるでランバダが日本古来の伝統民謡であったかのような錯覚を起こさせるのです。その時点で聴き手もメテオールの思うツボなのでしょう。


42位:「X次元へようこそ」 やくしまるえつこ

    (2014:平成26年)
    (シングル「X次元へようこそ/絶対ムッシュ制」収録)
     作詞・作曲:ティカ・α 編曲:菅野よう子

      vocal・chorus・dimtakt:やくしまるえつこ

      synthesizer・keyboard・programming:菅野よう子
      guitar:今堀恒雄
      tenor sax:山本拓夫
      strings:藤堂昌彦ストリングス
      synthesizer manipulating:浦田恵司
      synthesizer manipulating:坂元俊介
      percussion sound:Jimanica

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 昭和時代なら薬師丸ひろ子、では平成時代では?という下手な紹介も陳腐なものに成り果てるほどの天才カリスマアーティスト・やくしまるえつこ。やくしまるがコンセプターでありプロデュサーでもある自身のギターポップバンド・相対性理論を2006年に結成、2008年リリースの1stアルバム「シフォン主義」が第1回CDショップ大賞を受賞するなどサブカル周辺を中心に話題を呼ぶと、2009年の2ndアルバム「ハイファイ新書」はオリコンベストテンにランクインするなど早くもトップバンドとして高い評価を獲得します。そして2010年の3rdアルバム「シンクロニシティーン」はオリコン第3位の大ヒットとなり、相対性理論は2008年からの3年間であっという間に邦楽ロック界を席巻していくことになるわけです。こうなるとやくしまるえつこという強烈なキャラクターを世間が放っておくはずはなく、そしてやくしまる自身もバンドにとどまるはずもなく、2009年にソロ活動を開始、1stシングル「おやすみパラドックス/ジェニーはご機嫌ななめ」でソロとしてデビューを飾ります。「おやすみパラドックス」は近田春夫の作編曲によるもので、TVアニメ「夏のあらし! 〜春夏冬中〜」オープニング主題歌に起用されましたが、以降やくしまるのソロ活動はアニメソングとのタイアップが中心となっていきます。2010年には「ヴィーナスとジーザス」「COSMOS vs ALIEN」の2曲が人気漫画「荒川アンダー ザ ブリッジ」のTVアニメ化に際してオープニング主題歌に起用され、いしわたり淳治&砂原良徳+やくしまるえつこ名義として「神様のいうとおり」がTVアニメ「四畳半神話大系」エンディング主題歌に登場します。2011年にはTVアニメ「電波女と青春男」エンディング主題歌「ルル」を提供、同年のTVアニメ「輪るピングドラム」には、やくしまるえつこメトロオーケストラ名義で「ノルニル」「少年よ我に帰れ」をオープニング主題歌として提供するなどアニソンシンガーとして活躍する一方、2011年には坂本龍一+やくしまるえつことして「adaptation 05.1 - eyrs 〜 adaptation 05.2 ballet m_canique - eyrs」を配信シングルとしてリリース、NHK番組「みんなのうた」に提供した「ヤミヤミ」を収録したシングル「ヤミヤミ・ロンリープラネット」を2012年にリリース、そして2013年にはソロ名義での1stアルバムでありスタジオセッション録音となる「RADIO ONSEN EUTOPIA」をリリースと、彼女のソロ活動は非常に活発となっていくわけです。
 さて、前述のシングル「ヤミヤミ・ロンリープラネット」から、やくしまるは自身の発案およびメディアアーティスト・真鍋大度開発によるオリジナル9次元楽器・dimtaktを楽曲に使用していきます。相対性理論の4thアルバム「TOWN AGE」でも使用されたこの杖型のセンサー楽器はミリ単位で方位や位置や傾きなどの情報を把握し多彩な音色を発するというものですが、このdimtaktを積極的に使用した2014年リリースのシングルが今回取り上げる「X次元へようこそ」です。「絶対ムッシュ制」との両A面シングルであるこの楽曲は、TVアニメ「スペース☆ダンディ」のエンディング主題歌として、1986年のてつ100%のキーボーディストとしてのデビュー以降、「COWBOY BEBOP オリジナルサウンドトラック」などのアニメーション音楽界を中心にその才能を開花させた日本を代表する女性作編曲家・菅野よう子をアレンジャーに迎えた豪華仕様ですが、菅野のテクニカルでスペイシーなサウンドデザインに負けないほどのやくしまるのdimtaktプレイがフィーチャーされており、稀有な女性アーティスト2人のセンスの熾烈なせめぎ合いが楽しめる楽曲です。やくしまるのポエトリーリーディングからナチュラルに歌へ移行するような歌唱も絶妙で、常に宇宙空間を浮遊しているようなストレンジなサウンドにおしゃれなストリングスなフレーズを入れてくる菅野のアレンジメントセンスも流石で、高次元でクオリティが重なり合ったこの楽曲は、スペイシーシンセポップの名曲としてアニソンの枠に留めておくには余りに惜しい完成度です。
 やくしまるは「X次元へようこそ」もdimtaktを片手に数々の実験作を世に送り出していきます。特に2016年には、Yakushimaru Experiment名義のアルバム「Flying Tentacles」や、人類史上初めて音源と遺伝子組換え微生物によるバイオテクノロジーによって制作された同年の配信シングル「わたしは人類」、格段にバンドサウンドとしてクオリティが上がった相対性理論の5thアルバム「天声ジングル」をリリースするなど、エレクトリックの枠を超えた活躍が認められ、メディアアート界のオスカーと称されるアルス・エレクトロニカ・STARTS Prizeにおいて、日本人初となるグランプリを受賞し、名実ともに世界へ羽ばたいていくのです。

【聴きどころその1】
 多彩な宇宙音が飛び交うこの楽曲において、人間の肌触りを感じさせる今堀恒雄のギターは脇役ながらいぶし銀のプレイぶりです。ストリングスの滑らかな演奏にしても、間奏のエモーショナルなサックスソロにしても、スペイシーな音像の中での生楽器が一層映えるサウンドメイクは、流石は菅野よう子のプロフェッショナル仕事です。
【聴きどころその2】
 かたや電子音パートでは、菅野よう子が信頼するシンセサイザープログラマーの大御所・浦田恵司と坂元俊介のコンビが音色制作に活躍していますが、その完成されたエレクトリックワールドにタバスコをぶっかけてくるやくしまるえつこのdimtakt。全編にわたり大活躍のUFOが飛び交うようにぐるんぐるん回りまくる音の杖に聴き手も振り回されっぱなしです。


41位:「BODY TO BODY」 SOFT BALLET

    (1989:平成元年)
    (シングル「BODY TO BODY」収録)
     作詞:遠藤遼一 作曲:森岡賢 編曲:SOFT BALLET

      vocal:遠藤遼一
      computer programming・keyboards・vocal:森岡賢
      computer programming・synthisizers・voice:藤井麻輝

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 昭和の名編曲家・森岡賢一郎の息子であり、そんな恵まれた音楽環境の中若い自分から音楽業界でサポートキーボーディストとして下積みを経験していた森岡賢は、1984年に、ボーカリストを失い再構築を迫られていたニューロマンティクス系バンド・volage(ボラージュ)から加入の誘いを受けます。その頃森岡は、モデル風のイケメン少年・遠藤遼一と出会い、音楽的趣味で意気投合したことから遠藤と共にvolageに参加することになります。その後遠藤は一旦volageを離れますが、森岡はその頃インダストリアル系を好む青年・藤井麻輝と出会います。森岡は藤井とも音楽的志向で意気投合、2人で自主制作デモテープを交換するなど交流を深めていくうちに、藤井もvolageに参加することになります。さて、一時期森岡と藤井の2人になったvolageは交互にボーカルを担当するなど、2名完結型でライブをこなしていきますが、やはり本職のボーカリストがいないと難しいということで、バンドを離れていた遠藤を呼び戻して3名の新たなバンドとしてバンド名をSOFT BALLETと命名し再始動を図ることになります(1985年〜1986年頃)。ここからは音楽的に試行錯誤の連続が続きますが(当時のデモテープ曲「See You」「AD-1999」はDead Or Alive風のユーロビートの匂いが強い)、藤井が旅行先のイギリスでNitzer Ebb(SOFT BALLETは彼らの名曲「Let Your Body Learn」をライブでカバーしたこともあり)に感化されて帰国してから、彼らは踊れて盛り上がれるエレクトロなダンスミュージック、EBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)に傾倒、1987年にはインディーズにてシングル「TOKIO BANG!」(c/wは「PLANET FUNK」)をリリースし、いよいよメジャーデビューが視界に入ってまいります。
 そしていよいよ彼らが温めてきたキラーチューンが世に送り出されることになります。1989年春にサワキカスミが主宰する自主レーベル・太陽レコード(デビュー前のBUCK-TICKも在籍)より、インディーズ2ndシングル「BODY TO BODY」がリリースされます。しかしまだ当時の「BODY TO BODY」はやや野暮ったいアレンジが施されていました。この太陽レコードからはSOFT BALLETとしてオムニバス「太陽の子供達」に「BORDER DAYS」「SOMETHING AROUND」の2曲が収録されますが、これはアルファ・レコードからのメジャーデビューの助走期間に過ぎず、同年秋にようやく、待ちに待ったメジャーデビューシングル、誰もが知っているSOFT BALLETの代表曲「BODY TO BODY」がリリース、同時に1stアルバム「EARTH BORN」がリリースされ、その斬新かつダンサブルなエレクトリックサウンドデザインと強烈なビート、そして驚きのパフォーマンスで一部の熱狂的なファンを獲得していくことになるわけです。SOFT BALLETとしては名曲は数多く存在し、その後の活躍は皆様もよくご存知のことと思いますので説明は割愛いたしますが、結局その後の名曲達もこのメジャーデビュー時のインパクトに勝るものはありません。したがって、今回選出させていただいたのは、直球で彼らの代表曲「BODY TO BODY」ということになります。縦横無尽に駆け巡るシンセベース、圧の強いスネアとメタリックパーカッションの響き、そしてキャッチーなメロディセンス、シンセはシンプルながらビートで押しまくる初期衝動を抑え切れないこの名曲が、やはり彼らのNo.1ソングと言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 16ビートで駆けずり回る高速シンセベースと爆音スネア。これぞダンサブル化したEBMといったビート構築はインパクト十分です。時代はオーガニックなアコースティックサウンドがもてはやされつつあった平成元年(1989年)、ここで果敢にテクノロジーを前面に押し出した(しかもイケメン強面の)妖しいトリオの存在感は、流石に衝撃的でした。
【聴きどころその2】
 SOFT BALLETの最大の武器はやはりこれほどサウンド面ではマニアックな方向性ながら、メロディは至ってわかりやすいということです。森岡賢は常にポップであることを意識しており、EBMが得てして繰り返し(リピート)によるミニマル効果で麻薬効果を起こさせるタイプである長所にも短所にもなり得る性質を、持ち前のポップセンスでキャッチーに料理することでEBM的なサウンドへの一般的認知を広げることに成功したという点で、「BODY TO BODY」の功績は非常に大きかったと思います。


 ということで、60位から41位でした。今回も難産でした。
 とはいいつつも、そろそろラストスパートが近づいてまいりました。ここから先が正念場ですので、心してかかっていきたいと思います。
 次回はいよいよトップ40、21位までの予定です。お楽しみに。







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