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TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベストアルバム100:Vol.3【60位〜41位】


 新型肺炎コロナウイルスの感染拡大の影響による自粛モードが広がる中、ライブ等のイベントも中止や延期になる状況が続いています。一刻も早い終息を願うばかりですが、こういう時こそ溜め込んできた音楽をゆっくり聴く機会にしたいものですね。
 さて、何度も申し上げておりますが、今回のこのシリーズは、評価が一般的に追いついていないなあと個人的に感じている作品を優先的にランクを上げてカウントダウンをしています。そのようなわけで、ランクには一喜一憂しなくてもよろしいかと思います。一般的に名盤と言われているものはそれなりのクオリティを備えた皆様が認める作品ですが、遜色ないレベルにありながら扱いがよろしくない、と思われる作品であり、TECHNOLOGY POPSというブログの観点から見て注目すべき作品をここでは取り上げたいという気持ちも働いた結果でのランキングでもあります。しかし選ばせていただいている100枚はどれもがTECHNOLOGY POPS的に見て重要な作品であることには間違いありませんので、もうしばらく楽しんでいただければ幸いです。

 というわけで、恒例の今回のシリーズでは対象外の個人的に平成時代に良く聴いた洋楽アルバムの紹介です。


その3.「DESIGNS IN RHYTHM」 Ice Choir (2016)

 本家ブログでも特別レビューで応援させていただいたNew York・Brooklynを拠点とするシンセポップユニット、Ice Choirの2016年リリースの2ndアルバムです。元The Pains Of Being Pure At HeartのドラマーでありThe Depreciation Guildでも活躍していたKurt Feldmanが2011年より始めたソロプロジェクトで、ライブではPatrick South、Avery Brooks、Raphael Radnaを加えた4人組バンドとなります。音楽性はメロディの訴求力が非常に強いエレクトロポップ。しかも日本人の心の琴線を絶妙に突いてくる80's〜90'sを意識した洗練されたサウンドデザインと癒し効果のある優しいボーカリズムによる美しいフレーズの嵐による素晴らしい楽曲が満載です。それもそのはず、Kurtと盟友Patrickは大の80's J-POPフリークで(初めてお会いした時の目印が島崎路子「フルーレ」でしたw)、その情報収拾の過程で当ブログTECHNOLOGY POPS π3.14に出会い、そこで数々の名盤を見つけ出してその影響を楽曲に昇華させたのが本作らしいのです(本人達から直接聞きました。驚き!)。つまり、日本の一般人ブログが紹介した音楽を海外のミュージシャンがその影響を自身の作品としてアウトプットしてくれたという(私のようなレビュアーにとって)夢のような作品なのです。KurtのiPhoneは日本の音楽ばかりでしたw 
 ↓ 本作の音楽性を理解してもらうために作られたKurt & Patrickの80's J-POP Mix。当ブログのために作ってくれたそうです。


 ということで、通常営業に戻ります。今回は平成ベストアルバム60位から41位までのカウントダウンです。それではお楽しみ下さい。



60位:「Jellyfish Sensation」 jellyfish  

 (2000:平成12年)

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1.「jellyfish sensation」 詞:石垣三詠 曲:石崎智子 編:増山龍太
2.「マーメイド」
 詞:石垣三詠 曲:石崎智子 編:ケンカツマタ・石崎智子
3.「bambi walk −her incredible map」
 詞:石垣三詠 曲・編:イシガキアトム
4.「なつのうた」 
 詞:増山龍太・Matthew Forrest 曲:増山龍太 
 編:増山龍太・三井ゆきこ
5.「luv vibration 00」 
 詞:石垣三詠 曲:イシガキアトム 編:イシガキアトム・石崎智子
6.「Do you love me?」 詞・曲・編:石崎智子
7.「満月の瞳」 詞:石垣三詠 曲:清水太郎・石崎智子 編:清水太郎
8.「egare en les premier jours de lete」
 詞:石垣三詠 曲・編:イシガキアトム
9.「jellyfish girl」 詞・曲:石崎智子 編:ケンカツマタ・石崎智子
10.「space☆gigolo」 詞:石垣三詠 曲・編:石崎智子
11.「星の輝く夜に」 詞:石垣三詠 曲・編:イシガキアトム
12.「snow white ("Secret Garden" Version)」
 詞:石垣三詠 曲・編:石崎智子
13.「snow white ("Popmagic Meets Humining" Version)」 
 詞:石垣三詠 曲・編:石崎智子

 既に昨年大特集を組んでしまいましたので、本別邸ではもはやお馴染みの感があるjellyfish TYOの2000年リリースの2ndアルバム(当時はまだ「jellyfish」のままでしたので、TYO抜きの表記でいきます)。トモコ(石崎智子)、ミエ(内田(石垣)三詠)、サチコ(山川佐智子)の女の子3人組を早稲田大学多重録音芸術研究会OBを中心としたクリエイター達が、質の高い楽曲で活動を支える構図・・・と思いきや、YMO世代〜TECHIE世代〜渋谷系やテクノ黎明期を一本線で繋ぐような絶妙な立ち位置で1990年代〜2000年代初頭までを駆け抜けたガールズポップグループであったjellyfishのこの作品は、石崎智子、イシガキアトム、増山龍太を中心としたクリエイター陣の自由奔放かつ泣きのメロディを駆使した幅広い音楽性で、グループの魅力を最大限に引き出した会心の仕上がりとなっています。

 各曲のレビューは上記の全曲レビュー特集を参照いただければと思いますが、実はこの質の良い楽曲に支えられるがールズポップグループというスタイルは、それこそ後年のPerfumeやTomato n' Pine、NegiccoやRyutistといった楽曲の質が評価される10年代アイドルグループムーブメントの系譜に繋がっていくものでもあります。しかしこれらのグループと異なるのは、メンバーがDTMに果敢に挑戦し作詞作曲編曲も手掛けていたということ、ライブで電子楽器やエフェクターを演奏しつつパフォーマンスを繰り広げていたこと、そういった要素からアイドルではなくれっきとしたPOPSグループとして扱われていたこと。そのような絶妙なポジションを獲得していた彼女達の本領発揮の名盤が本作である、というわけで2019年にbandcampで再発した本作を是非聴いていただきたいと思います。


59位:「End of Silence ハイスクール・オーラバスター2」 本田恭之

 (1994:平成6年)

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1.「COUNTER BREAK」 曲・編:本田恭之
2.「銀の血脈」 曲・編:本田恭之
3.「ANGEL COLOUR」 詞:若木未生 曲・編:本田恭之
4.「3:30の偶然」 曲・編:本田恭之
5.「JUST ANOTHER DAY」 詞:K.INOJO 曲・編:本田恭之
6.「反射率」 曲・編:本田恭之
7.「SAVE YOUR HARDBLADE」 詞:K.INOJO 曲・編:本田恭之
8.「HEAVENLY」 詞:若木未生 曲・編:本田恭之
9.「END OF SILENCE」 詞:藤谷直季・若木未生 曲・編:本田恭之

 80年代〜90年代を代表するポストニューウェーブ系ロックバンド・GRASS VALLEY(以下GV)のメインコンポーザーであり、唯一無二のキーボーディスト兼サウンドデザイナーでもあった本田恭之は、1992年のGV解散後は聖飢魔IIのギタリスト・エース清水のソロアルバム「TIME AXIS」やKei-Teeのデビューアルバム「頭が割れそう」のサウンドプロデューサー等の活動していましたが、忘れてはならない仕事の1つが、若木未生の長編ライトノベルシリーズ「ハイスクール・オーラバスター」のイメージアルバム。1993年の第1弾ではFENCE OF DEFENCEの西村麻聡と楽曲を持ち寄った形でしたが、翌年リリースのこの第2弾では全作曲&編曲が本田に任せられ、紛れもない本田サウンドワールドが展開されています。

 この「ハイスクール・オーラバスター」イメージアルバムが貴重なのは、本田が自らボーカルを担当していることです。本田海月に改名した現在でこそface to aceの楽曲で歌うこともありますが、GV解散直後の時期において、ソロアルバムの布石かと思わせた本作のボーカル(しかも非常に繊細で透明感のある声質)は、一聴の価値があるものでした。本作でも第1弾と同じく「JUST ANOTHER DAY」「HEAVENLY」の2曲を見事に歌い切っています。そして肝心のサウンドは原作のイメージを損なわず、「銀の血脈」や「反射率」ではシンセサウンドで和楽器音を操り独特の空気を醸し出すことに成功、絵画的なシンセサイザーワークとイメージ豊かなコードワーク、美しいメロディラインでインストゥルメンタルであっても歌モノのように楽しめる楽曲ばかりが収録されています。なお、本田以外のボーカル曲にはVELVET PΛWのドラマー・桐生千弘と前作に引き続き山本寛太郎(KEN蘭宮)を起用、特に山本の起用は後のOPCELL結成の布石となります。


58位:「Cold Blood」 FLEX

    (1990:平成2年)

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1.「Cold Blood」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
2.「Hot Shot」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
3.「Gina Gina」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
4.「Dance With The Shadow」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
5.「お願いMr. Boss」 詞・曲:長原裕三 編:FLEX
6.「Rose & The Moon」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
7.「One Shot Lover」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
8.「Temptation」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
9.「夢でいいのかい」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX
10.「Goddess Of Shuffle」 詞:長原裕三 曲:CHOKKAKU 編:FLEX

 数々の大ヒット曲を生み出したヤマハポピュラーソングコンテスト第31回グランプリの長原裕三が同郷のメンバーを集めて結成した広島出身の歌謡ファンクロックバンド・FLEXのデビュー作にして唯一のアルバム。生と機械を混ぜ合わせたドラムにレゾナンスの効いたシンセとスラップを併用した軽快なベースライン、隙のないギターのカッティング、そして多彩な音色を使い分けるシンセプレイが鮮やかな既に新人らしからぬ貫禄を見せる作品です。

 ポプコングランプリ男の長原裕三の長身パーマのルックスのインパクトに負けない特徴的なボーカルも本作の魅力ですが、やはり魅きつけられるのはバンドメンバーの確かに実力に裏打ちされたハイクオリティなアレンジメント。バンドリーダー兼メインコンポーザーのCHOKKAKUは、現在ではジャニーズ系を中心に多数の楽曲を手掛ける日本を代表するアレンジャーに成長しました。本作ではSMAPの「青いイナズマ」「SHAKE」のようなCHOKKAKUのプロフェッショナルなアレンジメントの原点となったという点でも、今一度振り返ってほしい作品の1つでもあります。実は彼らが所属していたMIDIレコードの公式サイト・MIDI RECORD CLUBのFLEXの紹介文「長原裕三のパワフルなハイトーンボイスと、CHOKKAKUやBASAMI、矢野のリズム隊のキレがあり安定した演奏力と、キーボード佐藤剛のシャープなシンセ中心のサウンドでスタイリッシュかつファンキーな楽曲。」は当ブログのレビューから引用されています(光栄です!)。


57位:「天国と地獄」 CARNATION

 (1992:平成4年)

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1.「オートバイ」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
2.「体温と汗」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
3.「未確認の愛情」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
4.「ハリケーン」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
5.「ファームの太陽」
 詞:直枝政太郎 曲:矢部浩志・直枝政太郎 編:CARNATION
6.「いくいくお花ちゃん」
 詞:佐藤信・直枝政太郎 曲:岡林信康 編:CARNATION
7.「学校で何おそわってんの」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
8.「毒よ眼ざめなさい」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
9.「おはよう」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
10.「愛のうわばみ」 曲:鳥羽修 編:CARNATION
11.「愛のさざなみ」 詞:なかにし礼 曲:浜口庫之助 編:CARNATION
12.「The End of Summer」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
13.「地球はまわる」 詞・曲:直枝政太郎 編:CARNATION
14.「天国と地獄」
 詞:直枝政太郎 曲:矢部浩志・直枝政太郎 編:CARNATION

 前作「エレキング」からの鳥羽修の参加によりポストニューウェーブからロックバンドへの移行を開始、その後ベーシスト馬田裕次の脱退と共にGRANDFATHERSの大田譲が加入したことにより血の入れ替えが完了、CARNATIONは新たな音楽的地平へと旅立つことになります。その記念碑的作品がこの4thアルバム。前作からのヘビーなロックスタイルも継承しつつ、ニューウェーブバンドとしての出自を生かしながらサンプリングの多用やハウスなリズムパターンの導入、電子音の積極的な活用も厭わない、バラエティ豊かな楽曲を14曲も詰め込んだ力作となっています。

 またカバー曲のセンスも秀逸で、土着的なレゲエ調に料理した岡林信康の「いくいくお花ちゃん」、ラウドなハードロックに変身させ熱唱する島倉千代子の「愛のさざなみ」の2曲は、本作のカオスで何でもありな作風に多大な影響を与えています。そして何といってもハイライトである「The End of Summer」〜「地球はまわる」〜「天国と地獄」のノンストップ3曲の充実ぶりが半端ではなく、特にニューウェーブ期の代表曲「地球はまわる」をグルーヴィー&キャッチーに変身させたニューアレンジメントは、次作「EDO RIVER」におけるブレイクを予感させるものでした。黄金期の5人となったバンドの充実感と創造意欲、そして実験精神がここまで前面に出た作品も珍しいのですが、それもまた1990年代前半らしい空気感の賜物ではなかったのではないかと思われます。


56位:「All the World is Made of Stories」松尾清憲

 (2018:平成30年)

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1.「All the World is Made of Stories」
 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
2.「Midnight Train Called Desire」
 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
3.「恋するテレフォン」 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
4.「アンダーグラウンド・アイドル」 
 詞:鈴木博文 曲:松尾清憲・掛川陽介・本澤尚之
 編:掛川陽介・本澤尚之
5.「I Love You, Girl」 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
6.「Some Boys Don’t Cry」 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
7.「エコノミック・ダンサー」
 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
8.「雨のスペースロケット」
 詞:姫乃たま 曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
9.「イエロー・グリーン・パープル」
 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
10.「月はイリュージョニスト」
 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
11.「透明人間の告白(インビジブル・マン)」
 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之
12.「モダンタイムス」 詞・曲:松尾清憲 編:掛川陽介・本澤尚之

 1980年のUKフレーバー溢れるPOPSバンド・シネマでのデビューから、「愛しのロージー」「サニーシャイニーモーニング」といった代表曲を生み出したソロ活動、杉真理とのBOXとしての活動など、一貫してUK風味のロック&POPSにこだわる作風で既に40年近いキャリアを誇る松尾清憲が、2018年にして新たな音楽性を獲得したキャリア最新作。松尾といえば何と言ってもキャッチーなメロディラインを基軸としたポップミュージックというイメージですが、本作ではかなりエレクトロポップ寄りにシフトしています。それもそのはず、本作ではサウンドプロデュースを旧知のクリエイターズユニットTOMISIRO(掛川陽介・本澤尚之)に前面的に任せています。

 未来感を意識したコンセプトを表現するために彼らが起用されたと思われますが、ボーカリストを迎えたエレクトロアンビエントポップトリオLanguageとしての活動や鈴木さえ子とのコラボ、リンダ3世といったアイドルソングに至るまで、80'S風味を感じさせながらも当代のエレクトロサウンドを咀嚼したサウンドデザインで、良質なメロディを想像以上に引き立てることに成功しています。しかしながら謹製の松尾メロディとTOMISIROのスペイシーテクノサウンドのケミストリーをここまで絶妙にマッチングさせたのは、アルバムという性質を生かし切った壮大なコンセプトによる12曲の映画のようなストーリー性の高さにほかなりません。


55位:「散歩前」 村上ユカ

 (1998:平成10年)

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1.「ブランコ」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
2.「moon night holograph」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
3.「恋はルリ色 (L' Amour Est Luri)」
 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
4.「banana moon」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
5.「野ばら」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
6.「遠い瞳」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
7.「散歩前」 曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
8.「padoma」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
9.「はちみつ」 詞・曲:村上ユカ 編:熊原正幸・村上ユカ
10.「Spiral wind」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
11.「morn tale」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ

 1997年にシングル「はちみつ」でデビューした北海道出身のシンガーソングライター村上ユカが翌年リリースした1stフルアルバム。矢野顕子や遊佐未森を彷彿とさせる歌唱はもちろん弾き語りでも映えるスタイルですが、村上が一貫として得意とするサウンドは、本人もプログラミングで参加するテクノポップ。アートワークも手掛けるなどコンセプトワークに長ける村上の独特の童話的世界観は、シンセサイザーによるキュートな音色がふんだんに使用されるエレクトリックなサウンドにより豊かに表現されるわけですが、まだまだ駆け出しであった村上の原曲をさらにスケールアップさせプロフェッショナルなアレンジを施しているのが、当時は東京藝術大学出身の新鋭クリエイターであった田尻光隆です。

 村上や田尻が志向するテクノポップとは、所属レーベルがThink Sync Integralですから、当然レーベルオーナーであり、本作のミックスも手掛ける寺田康彦直系のYMO風サウンド&リズムをリバイスしたもの。特にシンセパッドの音色やリズムパートのプログラミングにその影響が顕著です。本作ではさらに「恋はルリ色」のポエトリーリーディングや、「遠い瞳」のピアノ弾き語り、「banana moon」ではソフトなラップ調?にも挑戦して、既にただ者ではない個性を見せつけています。そのような玄人はだしのテクノポップな音とメランコリックな楽曲をリンクさせるのが村上ユカというシンガーの個性であり、それは現在でも常に彼女のアイデンティティとなっているように思えます。


54位:「Oh Là Là」 かの香織

 (1996:平成8年)

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1.「ANGEL TOWER」 曲・編:かの香織
2.「1秒だけタイムスリップ」 詞・曲:かの香織 編:羽毛田丈史
3.「BEST FRIEND」 詞:さいとうみわこ 曲:かの香織 編:CHOKKAKU
4.「DAISY」 詞・曲:かの香織 編:菊地成孔
5.「水のエゴイスト」 詞:さいとうみわこ 曲:かの香織 編:鴨宮諒
6.「アナタをこわしたい」
 詞:さいとうみわこ 曲:かの香織 編:CHIBUN
7.「PIETA」 詞・曲:かの香織 編:上野耕路
8.「あいまいだね私たち」 詞・曲:かの香織 編:三谷泰弘
9.「SOS」 詞・曲:かの香織 編:門倉聡
10.「ばら色の人生」 詞・曲:かの香織 編:野見祐二

 1980年代はイタリアンオペラ+ニューウェーブなアヴァンギャルドPOPSバンド・ショコラータのメインボーカルとして、国立音楽大学声楽科出身ならではのオペラボイスで音楽界を席巻するとともに、個性的なファッションリーダーとしてもカリスマ的な存在であったかの香織は、90年代に入ると音楽性を一変させ、清潔感とオシャレ感を前面に押し出したキャッチーなガールズPOPSシンガーとしてソロデビュー、94年の「青い地球はてのひら」がFM局を中心に話題となると、CMソングに抜擢された96年リリースの「午前2時のエンジェル」がスマッシュヒット、美メロを生み出すコンポーザーやシンガーとしての実力が一般的に認知された同年に制作されたのがこの6thアルバムです。

 本作の特徴は各曲ごとに異なるアレンジャーを起用していることでしょう。羽毛田丈史、CHOKKAKU、菊地成孔、鴨宮諒、CHIBUN(鈴木智文)、上野耕路、三谷泰弘、門倉聡、野見祐二というこの個性的なアレンジャーのラインナップが圧巻で、彼らは当然のことながら自身の得意技とセンスを楽曲に生かしていくわけですが、そのクオリティに負けず劣らずかの香織印のオシャレな空気は、彼女のますますデフォルメされていくボーカル&コーラスワークと美しい「かのメロディ」のおかげで依然として真空パック状態に保たれており、結果的にアーティストとアレンジャーのヒリヒリしたせめぎ合いを肌で感じられる作品に仕上がっています。余りに濃厚な味わいで完成したため、さらなるヒットは臨めずスターダムへの進出は失敗した形なため、思ったより評価されていないアルバムですが、彼女の幅広い音楽的人脈と個性的な才能達に渡り合えるアーティスト性が発揮された重要作品であると言えるでしょう。

 

53位:「blue in green」 Manna

 (1992:平成4年)

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1.「青い魚」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna・国本佳宏
2.「太陽海岸」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna・村田陽一
3.「自転車と夏と」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna・村田陽一
4.「甘い考え」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna
5.「in green」 曲:鴨宮諒 編:Manna
6.「すいれんの花」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna・国本佳宏
7.「一番好きなもの」
 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna・村田陽一
8.「青い制服の男」 曲:鴨宮諒 編:Manna
9.「happening」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna
10.「イヤイヤ」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna
11.「青空の向こうへ」 詞:梶原もと子 曲:鴨宮諒 編:Manna

 1987年のPIZZICATO FIVE(以下ピチカート)の1stフルアルバム「カップルズ」は、それまでのYAMAHA製のFM音源シンセサイザーDX7主導のテクノポップ的アプローチからオーケストレーションサウンドへの大転換を果たしたエヴァーグリーンPOPSの傑作でしたが、その後ソウル化を進めていくピチカートを脱退した鴨宮諒は、DX7がメインであった初期ピチカートのサウンドを継承したユニットを構想、同時期にピチカートを脱退したメインボーカル佐々木麻美子と似た雰囲気を持っていた梶原もと子を迎えて、MANNAを結成し、1stアルバム「MANNA」ではシンプルな音像によるフレンチテクノポップで、初期ピチカートマニアの溜飲を下げたわけです。本作はそんな彼らの勝負を賭けた2ndアルバムです。1stは完全に2人のみで制作された多重録音作品でしたが、本作ではストリングス編曲に国本佳宏、ブラス編曲に村田陽一を迎え、管弦を起用したゴージャズなアレンジに進化、サウンド面での表現力は格段に向上しました。この管弦アレンジの成功のみならず、コンピュータープログラミングに加えてアコーディオンやペダルスティール、バンジョー等を駆使した鴨宮本人の多彩なアレンジ力は、元来のアンニュイな作風を演出するメロディラインにさらに磨きをかけることになり、アルバム自体の全般的な質の向上に多大な貢献を果たしたと言えるでしょう。最も鴨宮の作編曲家としてのポテンシャルは発揮できた作品として、記憶にとどめておきたい名盤です。


52位:「女王陛下のピチカート・ファイヴ」 PIZZICATO FIVE

 (1989:平成元年)

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1.「オードリィ・ヘプバーンの休日」
 曲:高浪慶太郎 編:PIZZICATO FIVE
2.「〜イントロダクション"ジェイムズ・ボンドとヴェトナム"」
3.「新ベリッシマ」 詞・曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
4.「恋のテレビジョン・エイジ」 詞・曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
5.「リップ・サーヴィス」 
 詞:田島貴男・小西康陽 曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
6.「「女王陛下のエロチカ大作戦」からの抜粋」 
 〜a. ナイロビの女王陛下 曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
 〜b. スパイ対スパイ
   詞:田島貴男・小西康陽 曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
 〜c. スウェーデン娘
   詞:田島貴男・小西康陽 曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
 〜d. 自白剤 詞・曲:高浪慶太郎 編:PIZZICATO FIVE
 〜e. 陽動作戦 曲:高浪慶太郎 編:PIZZICATO FIVE
7.「トップ・シークレット(最高機密)」 
 詞:田島貴男・小西康陽 曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
8.「バナナの皮」 詞:小西康陽 曲:高浪慶太郎 編:PIZZICATO FIVE
9.「トップ40」 詞・曲:田島貴男 編:PIZZICATO FIVE
10.「ホームシック・ブルース」 詞・曲:高浪慶太郎 編:PIZZICATO FIVE
11.「衛星中継」 詞・曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
12.「遠い天国」 曲:高浪慶太郎 編:PIZZICATO FIVE
13.「女王陛下よ永遠なれ」 詞・曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE
14.「夜をぶっとばせ」 詞:小西康陽 曲:田島貴男 編:PIZZICATO FIVE
15.「ゴーゴー女王陛下」 曲:小西康陽 編:PIZZICATO FIVE

 急速にソウル化に進みつつあったPIZZICATO FIVE(以下ピチカート)から鴨宮諒と佐々木麻美子が1987年に脱退すると、残った小西康陽と高浪慶太郎は、当時ネオGSブームの新興勢力として台頭しつつあったORIGINAL LOVEのボーカリスト田島貴男をスカウトし、ピチカートは男性3人組の新編成となります。そして88年には2ndアルバム「bellissima!」をリリースし、どっぷりソウルに浸かったわけですが、ここから平成に入ると早速彼らは、前作の経験を生かしつつ豊富な音楽知識を存分に取り入れた映画サウンドトラック風のこの大作アルバムを制作しました。

 テクノポップ色の強い「恋のテレビジョン・エイジ」「衛星中継」、前作を継承するソウルフレーバーな「リップ・サーヴィス」「トップ・シークレット」、田島貴男作曲のキャッチーな名曲「夜をぶっとばせ」等々、実に15曲を掻き集めたと言っても良い多彩なジャンルをごった煮したようなバラエティ豊かで、それでいて良質なポップソング揃いの本作は、多彩なゲストシンガー&プレイヤーを招いて豪華絢爛な陣容による楽曲達が次から次へと繰り出されるジュークボックスのような楽しさすら感じさせるパーティーアルバムとなっています。成長著しい田島やコンポーザーとしても大活躍の高浪がメインボーカルを務めてはいますが、「女王陛下よ永遠なれ」では珍しく小西自ら朴訥としたボーカルを披露するなど、3名の共同制作体制も最高潮に達していたように思える仕上がりです。特に作詞作曲にコンセプトワーク、サンプリングやカットアップを多用したサウンド構築等八面六臂の活躍を見せる小西の貢献度はすこぶる高く、結果的に平成のスタートを飾るにふさわしい名盤が生まれたのでした。


51位:「もういちどあの場所へ」 米村裕美

 (1991:平成3年)

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1.「はじめの一歩」 詞:岩切修子 曲:米村裕美 編:亀田誠治
2.「白い月」 詞:岩切修子 曲:米村裕美 編:亀田誠治
3.「Summers」 詞:岩切修子 曲:米村裕美 編:亀田誠治
4.「7月7日」 詞:岩切修子 曲:米村裕美 編:亀田誠治
5.「33階の窓より」 詞・曲:米村裕美 編:亀田誠治
6.「ときどき」 詞・曲:米村裕美 編:亀田誠治
7.「愛をこめて」 詞・曲:米村裕美 編:亀田誠治
8.「夜の窓がダイアリー」 詞:大本友子 曲:米村裕美 編:亀田誠治
9.「I am」 詞・曲:米村裕美 編:亀田誠治
10.「夏が終わる」 詞・曲:米村裕美 編:亀田誠治

 1990年代はガールズPOPS全盛期ということで、様々なタイプの女性シンガーソングライターがデビューを果たしていきましたが、その中でも訴求力抜群のメロディと菊池桃子を彷彿とさせるウィスパーボイスで微かな光を放っていたのが米村裕美です。彼女の1stアルバムである本作は、ひとときの夏のワンシーンを叙情的に切り取った楽曲の数々が収録されており、そのナチュラルで真っ直ぐな、どこかほんわかする癒しの作風は、ガールズPOPS好きのハートを射止めるのに難くない匂いを感じさせます。米村の(本人は普通に声を出していると思える)ウイスパー歌唱は可愛らしくもあり、どこか哀愁を感じさせたりと様々な表情を見せてはいますが、何よりもあの夏へと引き戻すノスタルジー感の強さが半端ではありません。

 そしてそんな彼女の歌を引き出すサウンドを手掛けているのが、当時はまだ駆け出しの若手アレンジャーであった亀田誠治。CoCoのシングル「夏の友達」等を手掛けていた彼は、1991年当時に相馬裕子の1stアルバム「Wind Songs」と共にサウンドプロデュースを担当した本作においてその才能の片鱗を遺憾なく発揮、生楽器とプログラミングを融合させたデジタルアコースティックなアプローチは、米村裕美というシンガーのキャラクターにもマッチしていましたし、過剰なデジタルサウンドのカウンターとしての当時の空気感をしっかり捉えていました。この時流を読むセンスは後年椎名林檎仕事等でブレイクして、日本を代表するプロデューサーの仲間入りを果たす亀田誠治の最大の武器となっていくのです。


50位:「a new day」 face to ace

 (2003:平成15年)

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1.「a new day」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
2.「ノンフィクション」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
3.「CLOUDY DAY」 詞・曲:ACE 編:face to ace
4.「栞」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
5.「残像」 詞:ACE・本田海月 曲:本田海月 編:face to ace
6.「ピュア」 詞・曲:ACE 編:face to ace
7.「パンドラの空 (album version)」
 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
8.「UNDERCOVER」 詞・曲:ACE 編:face to ace
9.「HOW SILLY?」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
10.「SPEED OF LIFE」 詞・曲:ACE 編:face to ace
11.「RAIN」 詞・曲:ACE 編:face to ace

 2002年のデビューアルバム「FACE TO FACE」以降、ACE(エース清水)&本田海月(本田恭之)のAORエレクトロポップユニット・face to aceは、「CLOUDY DAY」「RAIN」と次作の予告編となるシングルを連発、翌2003年のこの2ndアルバムがリリースとなります。クオリティは高かったものの手探り状態という面も否めなかった前作と比較して、本作はいよいよこの相性抜群のユニットの本気度が窺える内容で、特にその類稀な才能に反比例して日本音楽界で最も評価されていないと言ってもよい天才サウンドクリエイター・本田海月が作曲を担当した楽曲が半数を超えるなど、本田率の高さが嬉しいところです。

 前作同様微に入り細を穿つシンセワークは相も変わらず美しく絵画的に楽曲を彩っていますが、この本田サウンドは彼が作曲と編曲を同時に手掛けてこそ本領を発揮します。メジャー7thを多用する流麗なコードワークに美意識溢れるメロディラインが加われば、唯一無二の本田ワールドへ否が応でも誘われることは間違いありません。しかしながらACEも聖飢魔II時代は屈指のメロディアス派として知られた優れたコンポーザーであるため、本田が紡ぎ出すシンセ音色の乗りも良く叙情的かつノスタルジックに仕上げられたサウンドは「旅情エレクトロ」と呼ばれ、彼らの音楽性の代名詞となっていくのです。


49位:「MILLION MIRRORS」 SOFT BALLET

 (1992:平成4年)

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1.「FRACTAL」 詞:遠藤遼一 曲:森岡賢 編:SOFT BALLET
2.「WHOLE THE WHOLE」 詞:遠藤遼一 曲:森岡賢 編:SOFT BALLET
3.「A SHEPHERD'S SON」 詞:遠藤遼一 曲:森岡賢 編:SOFT BALLET
4.「VIETNAM」 詞:遠藤遼一 曲:藤井麻輝 編:SOFT BALLET
5.「INSTINCT?」 詞:遠藤遼一 曲:森岡賢 編:SOFT BALLET
6.「HYSTERIA」 詞:遠藤遼一 曲:森岡賢・藤井麻輝 編:SOFT BALLET
7.「FAIRY TALE」 詞:遠藤遼一 曲:森岡賢 編:SOFT BALLET
8.「MEDDLER」 詞:遠藤遼一 曲:藤井麻輝 編:SOFT BALLET
9.「THRESHOLD (YELLOW-MIX)」
 詞:遠藤遼一 曲:藤井麻輝 編:SOFT BALLET
10.「THRESHOLD (WHITE-MIX)」
 詞:遠藤遼一 曲:藤井麻輝 編:SOFT BALLET

 3rdアルバム「愛と平和」のスマッシュヒットで、ダンサブルエレクトロロック路線の集大成を迎えた90年代を代表する孤高のトリオバンドSOFT BALLETは、ライブアルバム「Reiz (raits)」を挟んでアルファレコードとの契約を解消し、ビクターXEOレーベルへ移籍し、名刺がわりとなる移籍第1弾のフルアルバムをリリースします。しかしこの4thフルアルバムは、それまでのテンションが高く跳ねるリズムによるダンサブルチューンは影を潜め、格段に研ぎ澄まされた電子音を中心としたインテリジェンス感覚溢れるテクノサウンドに彩られておりますが、シングルカットできるキャッチーな楽曲は見当たりません(欧州でアナログレコードリリースされた「THRESHOLD」のMIX違い2曲はボーナストラック扱い)。

 実質は8曲目までが本編という内容ですが、遠藤遼一のボーカルはますます呪術師のようなおどろおどろしいアニミズム歌唱となり、森岡賢は多くの作曲を手掛け「FRACTAL」や「FAIRY TALE」のような壮大でロマンティックな作風を全開にアピール、藤井麻輝は「VIETNAM」や「THRESHOLD」等のインダストリアルノイズ志向をさらに推し進めるなど、三者三様で音楽的センスをフルに生かしながら極限までにサウンド面を突き詰めた結果、リスナーを置いてけぼりにするかのような孤高のクオリティに到達した作品に仕上がってしまいました。いわゆるYMOでいうところの「BGM」に位置する作品とも言えますが、そのサウンドの振り切れ方は尋常ではなく、本作をSOFT BALLET史上最高傑作に推すリスナーも少なくありません。なお、2009年にリリースされた藤井監修の全曲アルファベット順のベストアルバム「INDEX - SOFT BALLET 89/95」においては、本作の楽曲はリマスタリングと言いながら原曲に音源が追加されたりミックスが違うなど反則技が繰り出されています。


48位:「ナイチンゲール」 水谷紹

 (1992:平成4年)

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1.「私は 恥ずかしい」 詞・曲・編:水谷紹
2.「男か女」 詞・曲・編:水谷紹
3.「人生工作」 詞・曲・編:水谷紹
4.「ダイクへの注文」 詞・曲・編:水谷紹
5.「家族天国」 詞・曲・編:水谷紹
6.「藁の家」 詞・曲・編:水谷紹
7.「うなずく二人」 詞・曲・編:水谷紹
8.「今日の計画 〜OAO〜」 詞・曲・編:水谷紹
9.「Yah! Boy!」 詞・曲・編:水谷紹
10.「誰もいないのに何かにむかって」 詞・曲・編:水谷紹
11.「ある微笑」 詞・曲・編:水谷紹
12.「愛の涙」 詞・曲・編:水谷紹
13.「水と生活」 詞・曲・編:水谷紹

 友部正人や高野寛のサポートギタリストとして活動していたシンガーソングライター水谷紹。彼のこのデビューアルバムはジャケットと内容とのギャップに驚かされるものでした。メンズノンノのモデルのような容姿は高野寛の2番煎じを狙った感がありありでしたが、そのビジュアルイメージに騙されてはいけません。収録された楽曲は全てがポップの皮を被っているように見えて中身は毒だらけという一癖も二癖もあるようなねじれワールドを展開しています。

 独特の視点と心理的描写で迫る個性的な歌詞に、ギクシャクしたようなリズム&シーケンスプログラミングによるサウンドデザイン、明らかに誇張されたような開き直りにも似た明るいメロディライン、そして歌唱は普通にソフトタッチという、キャッチー性を表向きには見せながら裏では歪な構造で出来上がっているような、なんとも不思議なアヴァンギャルドPOPSが満載。他のアーティストならば躊躇しそうなサウンドギミックも節操なく使い倒し、越えてはいけない一線を軽く越えていく思い切りの良さが水谷紹というアーティストは持ち合わせていて、その傾向はこの1stアルバムから全開担っているからこそ、リスナーは意表を突かれるとともに呆気にとられる結果となったのでした。当然このストレンジなPOPS作品は高野寛のようにヒットとなるわけはなく、以降も水谷は徐々に地下へ潜行しながら、東京中低域やトリコミといった個性的な編成のグループによる活動と並行して、唯一無二の存在感を放つ作品を手掛けていくことになります。


47位:「snow mobiles」 スノーモービルズ

 (1996:平成8年)

1.「さいくりんぐる」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
2.「ビビアン」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
3.「きみのこと」 詞:折原信明 曲:endorihara 編:snow mobiles
4.「神無月のころ」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
5.「冬の精霊」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
6.「転がる雪」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
7.「ゆうぐれ薄紫」 詞:折原信明 曲:遠藤裕文 編:snow mobiles
8.「氷質幻想」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
9.「夏降る雪のうた」 詞・曲:折原信明 編:snow mobiles
10.「風景と思考」 曲:折原信明 編:snow mobiles

 YMOやSOFT BALLETのエンジニアとしてアルファレコード全盛期を支えてきた寺田康彦が、1994年に設立した音楽クリエイター集団がThnk Sync Integral。この集団が手掛けるMezoTechnoを標榜したポストテクノポップ作品を世に送り出すためにThnk Sync Recordsが設立されたのが1996年。このレーベルから突如としてアルバムデビューを飾ったのが折原信明と遠藤裕文の2人組ユニット・スノーモービルズでした。

 しかし全くの無名から始まったこのユニット名を冠した1stアルバムは、聴き手を驚かせるに十分な他に類を見ない個性を備えた作品で、緻密にプログラミングされたシンセサイザーを中心とするサウンドは流石の寺田康彦謹製の味わいで、既にこれだけでも彼らの非凡なセンスが見え隠れしていますが、最も衝撃的なのは情景描写豊かで詩集を読み上げるような歌詞の素晴らしさ。昔話の絵本の世界に迷い込んだ錯覚に陥るようなその「詞」ではなく「詩」は、強固な世界観に基づくものであり、デビュー時にして既にスタンスが確立されていることに驚かされます。いわゆる「歌詞」では使わないような単語を違和感なく楽曲に溶け込ませる言葉落としのセンスや、どちらかと言えばアナログ的な言い回しをテクノ的サウンドで表現するという鮮やかなコントラストによるこの作品の、そのファーストインパクトの質は現在に至ってもなかなか味わえないものであると言えるでしょう。


46位:「LIFE」 bambi synapse

 (1998:平成10年)

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1.「find a cascade」
 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
2.「kazeteki」 
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse
3.「flock」 
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse
4.「quiet words」
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse
5.「Y605」
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse
6.「baby mosquito」
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse
7.「extra pool」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
8.「green ray」
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse
9.「blanket」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
10.「yellow parallelogram」
 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
 編:bambi synapse

 京都で30年以上も活動を続けている日本の老舗オルタナティヴロックバンド・Convex Levelのフロントマンである渡辺良は1990年代中盤にTECHNOミュージックに影響を受けたスピンオフユニット・bambi synapse(バンビシナプス)の活動を開始します。妻の渡辺美智代(以下MICHIYO)をボーカルに迎え自身はドラム等の裏方に専念、そしてTECHNOを体現するエレクトロニクス担当には、1994年、UKのRising Highレーベルからアルバム「Sinsekai」をリリースし話題を呼んだ、大阪が誇るテクノユニット・Tanzmuzikの佐脇興英(以下OKIHIDE)を迎え、トリオ編成で歌モノアンビエントTECHNO路線を極めるべく1996年に1stアルバム「weather forecast」をリリース、その美しい歌声ときめ細やかな電子音によるアンビエント空間サウンドが高評価を得ると、すぐさま2ndアルバムの制作に取り掛かります。

 こうして出来上がったのが本作ですが、前作とは打って変わって野太いリズムを強調しながら切り貼り感覚で土着的なパターンを構築し、さらにはサンプリングや電子音をダブ気味に処理しながらOKIHIDE特有の音の拡散波動砲的サウンドを楽曲というキャンバスにぶちまけていきます。長尺かつマニアックなアプローチの楽曲も多い中、本作がキャッチーな要素を失わないのは、ひとえにMICHIYOの無色透明で神々しさを感じさせる繊細な声質によるボーカルスタイルのおかげです。そして圧巻なのは20分にも及ぶプログレッシブアンビエントテクノ「Extra Pool〜Green Ray」で、その研ぎ澄まされた電子音の波に呑まれながら、加工されまくったMICHIYOボイスが散らばっていく様は、間違いなく本作のハイライトと言えるでしょう。


45位:「Belong To You」 三浦理恵子

 (1991:平成3年)

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1.「友達より遠い人」 詞:及川眠子 曲:松本俊明 編:米光亮
2.「日曜はダメよ」 詞・曲:小西康陽 編:船山基紀
3.「テンダー・クリスマス」
 詞:和泉ゆかり 曲:平松愛理 編:山川恵津子
4.「5日遅れのバースデー」 詞:澤地隆 曲:MAYUMI 編:山川恵津子
5.「天気雨の街から」 詞:及川眠子 曲:安部恭弘 編:米光亮
6.「水平線でつかまえて」 詞:及川眠子 曲:都志見隆 編:船山基紀

 フジテレビタレント育成講座・乙女塾2期生の三浦理恵子は、1989年にアイドルグループCoCoのメンバーとしてデビューしますが、既にデビュー時から「魅惑のキャットボイス」と呼ばれるキューティーな声質を武器に存在感を発揮していきます。そんな個性的なキャラクターを放っておかれるはずもなく、CoCoのメインボーカルであった瀬能あづさより先んじる形で、1991年にシングル「涙のつぼみたち」でソロデビュー、続く2ndシングルはオリコン第6位のスマッシュヒットになります。そして同年、このクロールクロールしたくなる「水平線でつかまえて」が収録されたデビューミニアルバムが順調にリリースされることになるわけです。

 しかしながら6曲に厳選された本作は三浦理恵子というシンガーとしてのキャラクターを正確に捉えた清廉で上品な印象を与えるTHE アイドルソングとして完成度の高いクオリティを誇っており、松本俊明や都志見隆、MAYUMIといった気鋭の職業作曲家や、小西康陽・平松愛理・安部恭弘といったミュージシャンズコンポーザーが丁寧に作り上げた楽曲を、ご存知大御所船山基紀、エレガントなガールポップに無類の強さを誇る山川恵津子、80年代末から90年代初頭にかけてエレクトリックマジックに秀でたサウンドを次々と生み出していた米光亮が雰囲気抜群のアレンジを施していますから、高品質な作品であることは保証済みです。しかし主役はあくまで三浦理恵子の「魅惑のキャットボイス」。この無垢な天使の声(しかもほとんど音程は外さない安定感!)は平成時代のどのようなアイドルソングと比較しても、いまだに他の追随を許さないインパクトを与え続けてくれています。


44位:「FUTURITY」 CUTEMEN

 (1993:平成5年)

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1.「GO YOUR WAY」 詞・曲・編:CMJK
2.「TRIBAL BEAT」 詞・曲・編:CMJK
3.「FRIENDS」 詞:CMJK・PICORIN 曲・編:CMJK
4.「3-D ON CD [JUNORBIT MIX]」 詞:CMJK・PICORIN 曲・編:CMJK
5.「TORMENT」 詞・曲・編:CMJK
6.「TIME'S UP」 詞:CMJK・PICORIN 曲・編:CMJK
7.「RESON 8」 詞・曲・編:CMJK
8.「FUTURE IS OURS [SUBMARINE MIX]」
 詞:CMJK・PICORIN 曲・編:CMJK
9.「ENJOY THE LIFE」 詞・曲・編:CMJK
10.「MY HEART」 詞:CMJK・PICORIN 曲・編:CMJK

 伝説の品揃えを誇っていたレンタルレコード店・ジャニスに勤務していたことでも知られる仙台が生んだテクノマスター・CMJKが、福島県出身の声質がDavid Gahan気味なボーカリスト・Picorinと結成した歌モノテクノユニットがCUTEMEN。1991年にシングル「Love Deeep Inside」でデビューした彼らは、ミニアルバム2枚、フルアルバム1枚をリリースするなど順調な活動を進めた後、1993年には待望の2ndアルバムとなる本作がリリースされます。

 3曲目までアシッドにトライバルにノンストップで突き進むダンサブルチューンの嵐にグッと引き込まれる巧みな構成にまず耳を奪われますが、本作は単純にメロディの訴求力が劇的に向上した感があります。シングルカットされた哀愁のサビが印象的な「3-D ON CD」や(少し寂しさが同居する)開放的な明るさが魅力の「TIME'S UP」、流れるように最後まで突っ走る美メロ近未来エレポップ「MY HEART」など名曲揃いで、Picorinのボーカルは独特の陰りがある声質を生かして歌い上げることも多くなり躍動感をアピール、CMJKはRoland JUNO-106やOberheim Matrix-1000といったテクノ御用達のシンセサイザーを駆使して小気味好いシーケンスラインを中心としたエレクトロサウンドをさらに充実させることに成功しています。そして何よりも近未来をコンセプトにした世界観が素晴らしい。1stアルバムも似たようなコンセプトではありましたが、本作はサイバーテクノロジーが培われた近未来というようなイメージで、30年近く経過した今となってはレトロフューチャーとも言えなくもないですが、世界観を描写し切った作品全体の構成力は再評価に値するものです。


43位:「microstar album」 microstar

 (2008:平成20年)

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1.「フィーリン!」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
2.「スウィート・ソング (album version)」
 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
3.「魔法のドア (album mix)」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
4.「ルミナス・ルミナス」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
5.「 ドライブ (album version)」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
6.「doo-da-loo」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
7.「ラヴィー・ダヴィー (album version)」
 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
8.「Girls are all alone」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
9.「東京の空から」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
10.「モーターサイクル・ボーイ」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜

 1990年代前半にはテクノポップとエヴァーグリーンPOPSを良いとこ取りをしたような文字通り素晴らしいアルバムを4枚残して解散したnice musicの片割れとして活躍した佐藤清喜は、解散後はほどなく作編曲家に転身しつつ、nice musicのサポートを務めていたベーシストの飯泉裕子を公私にわたる相棒として新ユニット・microstarを結成します。1996年にThink Sync Recordsからリリースされたミニアルバム「birth of microstar」はnice musicの名残を残したエレポップ風味とバンドサウンドを融合させたアメリカンPOPSといった風情でしたが、徐々に古今東西のグッドミュージックの美しいフレーズをかき集めたかのような最高品質のアーバンポップ〜シティポップ〜ソフトロックな作風に進化し、デビューから実に10年以上経過した2008年に遂にこの待ちに待った1stフルアルバムがリリースされました。

 60年代の黄金時代におけるポップ・ミュージックのエッセンスを随所に散りばめた、まるで日曜日の昼間にBGMとして聴こえてくるような既聴感のある楽曲が多数収録されていますが、佐藤清喜はストリングスやブラスセクションを中心としたオーケストレーションサウンドを、緻密な調整によるプログラミングでシミュレーションしており、手法としては実は擬似的なアプローチではありながら生演奏と遜色のないサウンドメイクが施されています。飯泉のバブルガムポップなボーカルもこのサウンドスタイルに落ち着いてからは非常に相性が良く、夫妻ユニットとしての理想の形を提示しています。本作はPOPS愛好家界隈でも非常に高評価を得られている作品で、まさに00年代におけるマストアルバムの1枚であると言えるでしょう。


42位:「e.s.s.e」 eyelush

 (1997:平成9年)

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1.「脳走〜Brain Drive」 詞:15 曲・編:eyelush
2.「1000th Venus」 詞:15 曲・編:eyelush
3.「Domino Of Noise」 曲・編:eyelush
4.「未遂」 詞:15 曲・編:eyelush
5.「r.s.q (before the last order)」 詞:15 曲・編:eyelush
6.「融雪〜A long way off, Here〜」 詞:15 曲・編:eyelush

 エレポップ界の河村隆一とも言うべき過剰で情熱的なボーカルを聴かせる秋葉伸実と、その傍らでルックス&サウンド両面で強烈な存在感を放つ男・大竹正和のシンセサイザー大好きデュオユニット・eyelushのデビューは1996年。既にエレポップなんてどこへ行ったのかわからなかった時代に、全編シンセとリズムマシンによる大胆なエレクトリックまみれのサウンドと、90年代に隆盛を極めたヴィジュアル系を強く意識した耽美的なボーカルによって、強いインパクトを与えました・・と言うことができればよかったのですが、現実は厳しく想像以上に売れることはありませんでした。

 翌1997年にリリースされたこの2ndアルバムも1stの進化版といった仕上がりでその求道的なシンセサウンドは圧巻の一言。KORG MS-50(MS-20のラック版)や、KORG Prophecy、Roland JX-8Pといった他のメジャーシーンの作品では余り見ることができないマニアックなシンセをふんだんに使用した芳醇なエレクトリックワールドに、粘っこい熱唱型ボーカルが絡む様は他の追随を許さない独特の美意識への執念に近いものを感じさせるほどでした。そして何と言ってもほぼ全曲に必ず入れてくる強烈なシンセソロ、MONO/PolyやPolySixあたりを駆使したここが見せ場だ!と言わんばかりの派手なソロフレーズは彼らの最大の魅力でもあり、アイデンティティであると言えるでしょう。惜しむらくは収録曲の少なさ。1stと合わせてフルアルバムサイズにできたなら、(一部の好事家達の中で)さらに評価は上がったことでしょう。


41位:「水の冠」 鈴木祥子

 (1989:平成元年)

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1.「Swallow」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸
2.「サンデー バザール」
 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸・西平彰
3.「水の冠」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸
4.「電波塔」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸
5.「Get Back」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸 
6.「最後のファーストキッス」
 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸
7.「月の足音」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:西平彰
8.「Sweet Basil」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:佐橋佳幸
9.「ムーンダンスダイナーで」 詞:川村真澄 曲:鈴木祥子 編:西平彰

 高野寛や遊佐未森らと並んで「POPS新感覚派」と呼ばれることもあった鈴木祥子は、主にサポートプレイヤーとして原田真二のバックバンド(パーカッション)、THE BEATNIKS(高橋幸宏&鈴木慶一のユニット)のサポート(パーカッション)、小泉今日子のシングル「水のルージュ」のTV演奏のために結成されたガールズバンド「IMAGE」への参加(キーボード)等々、様々なパートをこなすマルチプレイヤーぶりを見せつけていましたが(本業はドラム)、徐々に持ち前のソングライティング能力が評価され、シンガーソングライターとしてシングル「夏はどこへ行った」でデビューしたのが1988年となります。アコースティック風味の地味な作風の中にメロディセンスが隠れていた同年リリースの1stミニアルバム「VIRIDIAN」では未だ才能を隠し持っている状態でしたが、翌年間髪入れず発表されたこの2ndアルバムでは、格段に洗練された瑞々しいポップソングに急成長を遂げていました。

 相棒の佐橋佳幸の安定感抜群のキラキラしたギターワークと、ドラマー出身ならではのリズム感覚による楽曲はどれもがキャッチーなフレーズを備えており、その独特の湿っぽい声質の歌唱も相まって単純にその聴きやすさは群を抜いていました。中でも「電波塔」や「ムーンダンスダイナーで」のようなバラードソングでそのセンスは際立っており、特に秀逸なAメロの入り方は他のアーティストにはなかなか真似できない天賦の才能と言えるのではないでしょうか。なお、ネオアコースティック調の落ち着いた作風ながら、「ムーンダンスダイナーで」ではFairlight CMIを使用したクールなサンプラーストリングスで楽曲のクリスマス後のうらぶれた街頭のイメージを見事に広げるなど、テクノロジーな側面も見せているのは平成の中でも唯一の80年代である元年ならではのサウンドデザインが施されています。



 ということで今回は60位〜41位でした。大したことを述べていないのに記事が長い!次回はやっと後半戦の佳境に入った40位〜21位です。何卒よろしくお願いいたします。


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