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Concierge Story [子育て中に出会った「名前も知らない、とんでもない人〜1人目]

<このnoteは、コンシェルジュリーダーの日暮美樹が書いています。>

目の前に困っている人がいたら、どうします?

様子を見る?
声を掛ける?
手を差し伸べる?
なんかした方がいいよね?
私を必要としているよね?
偽善とかじゃないよね?
笹川良一の一日一善だよね?

なんて頭の中でグルグルっと一周している3秒間くらいに状況は進展し
(あ、なんか終わった)
って経験ありません?

事件事故ってほどではないけれど、手伝った方がよかったのに、
何もできないままに終わって、
ドキドキした心臓音が自分を慰めているようなあの瞬間。

そのたった3秒間にギューと答えを出して、
スーっと手を差し伸べてくれたすごい人たち3人に出会ってしまった。

しかも子育て真っ只中の人生の中で一番キツかった3年間に。
そのお話を少し。

今回は、一人目のとんでもない人。

長女が産まれて10ヶ月。
育休取得期限1年を待たずちょっと早めに仕事復帰。

「ちょっと人員配置を検討する中で、ぜひ戻って欲しくて。
いつから復帰できる?」と電話で言われた時の恍惚感。

あぁ、社会が私を待っているー、会社が私を待っているー、
これほどテンションの上がる上司からの電話は初めてかもしれない。

やる気満々なところをまわりにアピールしながら

『私、何でもできるので!』

と米倉涼子よろしく、張り切ってガンガン仕事しながらも、
休憩時間にトイレの個室でパンパンに張った乳房ギューと絞っている、
経産婦の姿はあまり知られていないかもしれない。

でもそんなことさえも

「頑張ってる自分、これこそ私!」

と楽しめていた日々も束の間。
なんと、復帰2週間で第二子の妊娠発覚…。
嬉しい気持ちよりも「うそやん…今…?」という
受け止め切れない気持ちになりながら、
ちっちゃい赤ちゃんの世話をしながら、妊婦になるという
ダブルブッキングな状況に、悶々とした気持ちになる日々。
緊張感いっぱいの毎日の始まり。

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平日は7:30に保育園へダッシュし、
そのまま1時間掛けて大阪から京都に向かい18:00に帰ってくる、
帰ってきたら洗濯、メールのチェック、ご飯、仕事の電話、お風呂、
寝かしつけ、FacebookとTwitterのチェック、明日の準備、
意識のないままパタっと寝ると子供が起きる、2回目の寝かしつけ、

そんな毎日続く。

子供がいることを理由に手抜きしていると思われたくない、
そんな理由で常に120%でフル回転。
誰かに助けをもらうくらいなら全部自分でやってしまった方がいい、
そんな強気なモードでずーと走っていた頃。

週末くらいはちょっとだけ贅沢、一息入れさせて…、と
土曜日のお昼、
旦那と1歳児と3人でランチに出かけることに。

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初夏に入った6月の空、やや雲行きは怪しいものの、
雨の降りはじめは夕方という天気予報だったので
ベビーカー用のカバーも持たずに、身軽にそのまま出発。

久しぶりに、そしてゆっくり、美味しいパスタお腹いっぱい食べよう、
という小さな野望も束の間。

当然ながら1歳児は空気も読めず、すぐにグズグズに。
キラキラ光る目の前のパスタを5分で頬張り、
味わうよりも空腹を満たすだけのワンプレートに。
旦那もその雰囲気を察してか、帰ってゆっくりしよう、という
妥当な提案をしてくれたので、受け入れることに。

たった一回のランチ、たった一食のことだけれど、
何だかやり切れない気持ちを抱えたままお店を出て
トボトボとした気分での帰り道。

空模様は一転し、雨雲が広がる。

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初夏の天気を甘く見てたぁ、と後悔も間に合わないうちに、
大阪人がいうところの『ぼっとぼと』な雨がザザッと降り始める。
歩いて5分。走ればすぐそこ。
ベビーカーをぐーーーとダッシュで押しながら、
雨が当たらない様に自分のバッグを子供に被せて、
マンションを目指しながら

(もう、あかん)

たまたまランチ中に子供がぐずって、
たまたま雨が降って、
たったそれだけのことだけど、
張り詰めたモノが伸び切ってしまったような、
何だか全てが上手く行かなくなりような、全部失敗してしまいそうな、
そんな気持ちがふっとこみ上げてくる。

無気力感と絶望に近い気持ち、
どこにもぶつけどころのない黒いモヤモヤ。

(もう、いや)

その時、車道から路肩に近づいてくる白いバン。
小さな水しぶきと共にきゅっとブレーキの音がすぐ聞こえると
30代くらいの男性がぐっと腕を伸ばした。

「これ、よかったら使ってください!」

車の窓から差し出されたのは2本のピカピカの真新しいビニール傘。

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(ん? え?)

グッと差し出された傘を無意識に握り、唖然としていると

「赤ちゃんも大事やけど、お父さん、お母さんが風邪ひいたら大変や。
 傘、使うて」

そう言って白いバンは走り去ってしまった。

(ありがとうございます、って言うた?あれ?知ってる人?)

自問自答しながら、何が起こったのか整理しながら、
手にした傘をさしながら、旦那と二人で顔を見合わせる。

「こんなことある?こんなことする?」

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と、繰り返しながら
マンションの入り口にたどり着いた。

どこの誰だか知らない人、しかも瞬時に困っている人に
手を差し伸べることができる人、あぁ、こんな人がいるんだ。

子供を育てながら仕事も家事も頑張っている私、
もう一人の子供を身篭りながら頑張っている私、
お昼ご飯をゆっくり食べられなかった私、
雨にどっぷりと濡れている私、

小さい箱の中で、自分のことしか考えていなかった自分に
ちょっと笑った。

(小っさいな、自分、)

誰かのために何かしたい、その気持ちでいっぱいになる。

(いただいた傘を誰かのために使わなきゃ)

ちょうどマンション前を通りかかった、
雨に濡れる小走りの若い女性に

『これ、よかったら使ってください』と、

1本の傘を手渡した。

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