MEANINGFUL CITY MAGAZINE vol.2/Generation-Y/2取材全文記事

イントロダクション

坂本 それではよろしくお願いします。今回我々は「Y世代」を担当しているんですけど、この世代はこれからこの開発の担い手の中心になる世代だと思っていて。今もそうだと思うんですけど。その世代の「作り手」側として、今日は粟谷さんが来てくれています。今考えていらっしゃることとか、興味の対象とか、お話いただくところからスタートできればなと。それをもとに小野さんにもお考えをお話しいただき、対話のように展開できたらと思っています。結果粟谷さんも何か会社に持ち帰りたくなるようなヒントみたいなものが紡げるといいのかなと思っています、よろしくお願いします。まずは簡単にお二人の自己紹介、お願いできますか?

粟谷 僕は今三井不動産にいまして、8年目の社員です。元々最初は商業施設の営業、リーシングをやっていました。1年目はわけもわからないままららぽーとシリーズの担当をしていました。2年目からはMIYASHITA PARKの企画に関わって、リーシングをほとんど終えたところで異動になりました。今は商業施設本部全体の数字面を見ていて、中長期どうするかの戦略立案などに関わっています。

 坂本 ありがとうございます。では小野さんお願いします。

小野 肩書きがすごくたくさんあって…(笑)。この「BONUS TRACK」で言うと、オーナーである小田急さんからマスターリースを受けている「散歩社」という運営会社の代表ということになります。活動のもとになっているのは、25歳くらいの時から、15年くらいやっているgreenzです。当時はその副編集長みたいな肩書きで動いていました。いまはプロデューサーみたいな風に呼んでいます。その副編集長の時の役割っていうのは、ウェブマガジンで繋がった取材先や、ネットワークみたいなものを「お金に変えていく循環」を生み出すようなものでした。「greenzにいた」って言うと、「どの記事書いた人ですか」って言われるんですけど、記事3本くらいしか書いたことなくて(笑)探すとあるんですけど探さないでくださいって感じですね(笑) 

greenzはソーシャルデザインということを実践しているんですが、ビジネスじゃなくてデザインって呼んでいるのには理由があって。ビジネスっていうのはお金が回る方にフォーカスしているんですけど、デザインっていうのはより概念が広いと考えていて。なにかプロジェクトみたいなものでもいいし、NGOやアフター5、、ボランティアなどでもいいし…。社会的な活動って、お金にしづらいから社会的活動であるとも言えると思うので、必ずしもビジネスにしなくてもいいと思うんですよね。保育園仲間のパパママで子供達に何かやってあげる、というようなことも、それが継続性をもったりとか、保育園側のプログラムとして内部化されたりとかすると、一個のデザインができたっていうことなんじゃないかってことで。そんな思いもあって、広義の意味としてのデザインを使っています。

greenzが始まった背景を簡単に話しますと、社会起業家、ローカルベンチャー、SDGs、エシカル消費とかに象るように、あらゆることが社会善に向かっている、そんな空気があある中で、ビジネスとソーシャルみたいなものが別に語られていると感じたことが大きいですね、意識としては混ざっている部分もあったんだと思うんですけど…。そうした中で、ビジネスの中での意思決定者たちが「社会的なことやると稼げない。世の中にニーズがあるのはわかっているけど。」というようなことを、僕たちは「納税はしているんだから大丈夫だよ」というくらいのテンションでやってきたって感じというか。 

社会が多様化していくと、行政もきめ細やかにサービスを行き届かせることはできないですよね、当然。いまは上の世代が膨らんでいることもあって社会保障費も増加の一途を辿っているわけだから、ビジネスのプレイヤーたちが社会的なところ、儲からないところっていうのを経済内部化したりとかして回していかないと立ち行かなくなっているのではないかとも思うわけです。そうじゃないとなかなか幸せな社会にならない、みたいなとこがあるのかなと。

坂本 そうした中で注目されていた動きなどって何かありますか?

小野 大きく変わったのは2011年の東日本大地震ですね。やっぱりあそこで結構大きな会社も含めて意思決定の基準が変わっていきましたよね。例えば当時トヨタがアクアの工場を岩手の雫石というところにつくったんですよ。「地元の雇用を作るために作って、これをやると社会的にいい」という理屈じゃなくて「こうすることで売れるんだ」っていう、そういう言い方でトヨタは意思決定したんです。しかもそのプロジェクトの収益を環境保護団体に寄付し続けてるんですよね。もう10年続いていて。利益を生み出して社会をよくするみたいなところをちゃんと売り文句としても使うし、社会的なバランスもとっていくというその姿勢を、僕らgreenzもメディアとしてお手伝いさせていただいて。規模も結構大きかったんですけど、そういったことが社会のひとつのエンジンとして回り始めるようになった感覚がありましたね。そこから本当にウェブマガジンとしても食べていけるようになったかなと思います。

その一方で、さっき雑談の中で「分断」みたいなキーワードが出ましたよね。「社会的なことを考えられる人の方が偉くて、考えられない人はちょっと頭の悪いやつ」みたいなこととか、「おじさんと非おじさん」みたいな枠組みで「おじさん」というものが昭和な価値観として揶揄されたりっていう風潮も出てきてるよなと。ソーシャルな活動をしている人たちのプレゼンスが上がった分、過去のモデルを支えてくれた人のことをちょっと小馬鹿にするみたいなフェーズに今なっているのは僕も感じています。

これ、やりすぎると、説教臭くもあるし、分断をより深めるなと思うんですよね。メディアとして社会的なものを目指すとうのは大事ですけど、実現する難易度が社会的には下がっていないのに「大事だ大事だ」って言いすぎると、「現実を論調が追い越す」みたいな、そういうことが起きるよな、と思うんですよ。もう既にそうなってると思うんですけど、そういうことが起きかねないなと。だからいろんなとこで炎上しまくってるんだと思います。

メディアとして社会を煽るみたいなことをやりすぎると、そういうことが起きるかなって思っていて。で、そんなことを考えていた頃に、ちょうどこの「BONUS TRACK」のご相談がきたりしたんですよね。「語って実現していく」のではなく、「実践しながら実現していく」っていうこととか、それをまた知識に変える、社会に普及していくみたいなことを同時にやらないと、と思っていたタイミングだったこともあって、結果、「BONUS TRACK」のお仕事をお受けすることにして。

「greenzに載っていた起業家の方達がテナントとして入るような施設を運営してほしい」というご要望をいただいたので、結局まるごと借りて、今こういう形になってるっていうことなんです。

僕は施設全体の運営もやるんですけど、一方で発酵デパートメントっていう発酵食品のお店の役員もやっていたりします。秋田の食材を扱っているA N D O Nというおにぎりやさんも経営しています。今後も事業は増やしていきたいなと思っていますね。先ほど言った通り、伝える側だけじゃなく、実践者側にもなっていこうかなっていう感じなんですよね。さっきmeaningful city のご説明の時にあった「NATIONからMOMENT」までを縦横無尽に駆け回って、それぞれ別の言語を使いこなしてやっているという感じじゃないかなと思います。

坂本 小野さんの使える言語の広さの所以ですね。 

小野 そうですね。けど共通言語を生み出すことの大事さの一方で、それは専門性の否定でもあったりするんですよね。共通言語を目指せば目指すほど、抽象的になったりとか網羅的になって行きますよね。専門家からしたら抽象度の高いものにどれほど意味があるのかってなるんじゃないかっていうか。専門性がわからない人も専門性のことはわからないし、逆に専門家も他の専門がわからないとかってことだと思うので、それは人が介在して、翻訳する人が駆け回らなきゃいけないんだろうなって思っています。未来はわからないですけど、今は少なくともそれをやる人が必要なので、本当にいろんな方達とお仕事させていただいています。

坂本 ありがとうございます。簡単に粟谷さんからも、今感じていることを、会話のきっかけにもなり得ると思うので、先にお話しいただいても良いでしょうか?それから本旨に入ろうかなと思います。

粟谷 今日インタビューの前から色々拝見させていただいて。「BONUS TRACK」自体も何回か来させていただいていて、今日聞きたいこといっぱいあったんですよね。例えばコンセプトの立て方とか。僕らみたいな企業って最初にがちっと自分たちで決めてしまうんですよ、最初に。そうじゃないと社内を通らないし、通さないと進めないし…。けどそれがじわじわ自分たちを苦しめる時があって。コンセプトの立て方自体にも問題がある気がしているんですが…コアはブレないけど泳ぎしろはあるようなゆるさというか…そういう決め方ができない。こういうソフトな頭の使い方は僕らもっと学ばなきゃいけないところだなと思っていて。

あとは仲間の巻き込み方とかについても少しお話できたらと思っていました。今僕らみたいな会社だとプロジェクトと担当のマッチングに依存するところが大きかったりして。リーシングの仕方とかも。強い思い入れのある一人が推進して、コネクションとかネットワークとか広げながら自然に進む時は良い時で、けどそういう時だけじゃなかったりとか、異動があったりとか。「BONUS TRACK」はメディアを通じた仲間で、ということもあったと思いますし、それも含めいい巻き込みを起こしながら進んでいる感じが少なからずしていて。人の巻き込み方とか、そういったところのリーシングの仕方とか、伺いたいなと。

あと、先ほども少しお話がありましたが経済合理性とのすれ違いみたいなこととか…。大きな会社になればなるほど、経済合理性を基準に考えすぎて面白いものが作れないっていうところがあって、担当としても歯がゆいところがあったりするんですけど、その辺のバランス感についてとか、ぜひお伺いしてみたいですね。

坂本 経済性の指標で考えていくと解がほぼ一個になってしまって同質化していくみたいなことか、ありますよね。

粟谷 そう、経済合理性に基づく解が重視されてしまうんですよね。遊び、ということで言うと施設のルールも。営業時間からなにからきっちり決めて「これを守ってくださいね」ってスタンスなんですよね。ゆるさを許容できないというか…。運営って場所を育てていくことにおいてすごく大事だと思うんですけど、僕らの場合ジョブローテーションしていくので、そこに思い入れを持っていた人が現れたとしても変わっちゃうんですよね。

「BONUS TRACK」だとオーナー、運営している方の顔が表に出てると思うんですけど、僕らの場合異動も見込んで、「誰でもできるように、効率的に」回していくのでそういう風にもならない。その辺、ちょっと限界がみえてきているかなって思ったりしてしまうんです。効率性・経済性を重視する結果、金太郎飴化しちゃっている。アナログとか人の力みたいなところが力を発揮する領域だと思うんですけど。 

坂本 粟谷さんありがとうございます。一旦今いただいた課題意識なども意識しながら進めていきましょう。スタートの議論はもう少し上のレイヤーから、対話を始められればなと思っています。

 ”その人にとっての良さみたいなところに近づいていくきっかけを創りたいなっていう感じ”

大谷 はい、ではスタートしていきましょうか。皆さんにこの問いから始めさせていただいているのですが、「meaningful city」ってどういう場所なんだっけ、というところからお話しできたらなと。この話の中で粟谷さんからいただいた問いにも自然に答えが出てくるのかなと思ってます。 

小野 「人が変化するきっかけが得られる」ということを、意味のある場所として定義してやっているかなと思います。場所というきっかけが、起業になったり転職になったり引越しになったり結婚になったり…。その人にとっての良さみたいなことに近づいていくきっかけを創りたいなっていう感じですね。

大谷:施設を運営する中でそこに至ったのか、最初からその考えがあったのかで言うとどうでしょうか。

小野 僕も元々メディア出身なので、「こういう書き方をすれば、読んでいる人にこういう風に感じてもらえるんじゃないか」みたいなことを思いがちな人間ですし、一緒に運営している内沼も本屋の店主。本屋っていうのは知識の玩具箱みたいなのを運営する場なので、当然、「普段とらない本とってほしい」とか、「普段読んでいるものをより深めてほしい」とか、そういうスタンスを持っている主体なんですよね。

集客とか商業性とか、居心地の良さとかも大事なんですけど、良い違和感とか、普段は手に取らない物を手に取ってみるとか…そういう体験を通して、価値観を広げた中で選んでもらう、みたいなことが増えるといいなっていう考えが、根本的にある気がしています。

大谷 自分自身が手掛けられていることろ以外で、そういうことを感じる場所ってありますか? 

小野 そうですね。そうだな。コロナで忘れちゃっている気がするな。

一同 (笑)

小野 コロナ前はすごい色々出かけていくタイプだったのになぁって思って(笑) 

いくつかありますね。例えば、那須黒磯というところの「ショウゾウコーヒー」というコーヒー屋。ここは40年前に創業しているんですけど、自分と同い年くらいの方がオーナーさんで、今だと珍しくなくなりましたけど、寂れた商店街の物件を次々に変えて行って。自分で家具屋とかやるタイプもあれば、友達の洋服屋さんを呼んでアパレルのお店を展開したりとかもされていて。家守みたいなことをされているんですよね。まちづくりの原点みたいなことをやり始めた人ですね。今は第二世代、第三世代くらいになって、30-40代の経営者がどんどん入ってきていて。

今中心になっているのはチャウスっていうゲストハウスですかね。チャウスは一階にスーパーマーケットがあって、奥にカフェがあって、上にゲストハウスがあるみたいな複合施設なんですけど。代表の宮本さんは、ショウゾウコーヒーを中心とした、前の世代が作ってきたものの世界観への憧れがあって、クリエイターが集まったりとか、職人が集まったりとか、そういう場所を作って、たくましく自分達の街を変えて行っていて。それが一過性のイベントのような賑やかしではなく、日常的に、自分たちの暮らしを良くするようなプロダクトを作ったり選んだりしてきた人たちがそこで商売を営むっていう、めちゃくちゃ原点な世界観を目指されていたんですよね。チャウスに至るまでに色々とチャレンジされて、失敗もあったようですけど、チャウスは今ちゃんと面白い人たちが集まる、人の求心力を生み出している場所になっています。 

その後「やっぱり経済性も必要だ」とう発想に至って。飲食店とか小さなゲストハウスだけだと、次に投資するための欲みたいなことを生み出すことが難しいので、「バターのいとこ」っていう商品を製造し始めたんです。牛乳の生産量本州No.1の那須塩原なので、チーズの製品とかたくさんあるんですけど、いわゆるスキムミルクって言われるような、油分を絞った後の牛乳が廃棄物になっているということを知って、そのスキムミルクを使ったお菓子をつくって。

 お菓子は製造業なので、一旦軌道に乗り始めると大きくしやすいんですよね。けど、地元に雇用を生むため、よりまちを豊かにするために製造業だけをやるつもりは彼らにはなくて。街を面白くするためのコンテンツとして製造業が必要だし、街を面白くするための構図として経済性が必要なので、サービス業だけじゃなくてメーカーも必要だしっていう目線でやっている。

居心地が良いカフェと思って使う人もいるし、街を面白くする装置だと思って観にいく人もいるし、そこはすごく刺激がある場所で、面白いなって思ったりしますね。 

大谷 確か次の動きも起きていますよね?

小野 そうですそうです。 GOOD NEWSっていう場所ですね。まさにバターのいとこの製造拠点半分、商業施設半分っていうか。リーシングをして他にも貸していて、その仕組みづくりとか大家業みたいなことをやるのがはじめてなので、「BONUS TRACKどうやってんの?」って聞かれましたね。ビール奢ってもらって答えるみたいなやりとりをしました。

一同 (笑)

"クリエイションとビジネスってやっぱりぶつかる部分もあるんですよね"

大谷 今の話って、ローカル性みたいなこともあって、さらに、ストーリーとしても魅力的に思えるところが良さの根源にあると思っていて。少し視点を変えて、都市部の場所で考えるといかがですかね?都市である意味というか。ローカルでいいということなのか、都市だとこういう意味があるっていうことなのか、とか…。

小野 純粋に、都市だと圧倒的に「人がいる」っていうことが、ポテンシャルとしてありますよね。あとお客さんの種類が個人だけじゃなくて企業もっていうことも大きい。粟谷さんを「お客さん」として見立てられるし、「三井さんの代表の粟谷さん」としてもお仕事ができるっていうのは、地方だとなかなか難しい部分がありますね。僕なんかはチャウスの代表の方とかと話をしていても、「鉄道会社さんと連携したりできないの?」とか思っちゃうわけです。そこがくっついていないのがむしろこちらとしては意外で。一方で都市だと製造業は難しいですよね。地価なんかを考慮すると物理的に選べないっていうか。

単価の高い商品であり、場所を必要としないビジネスが都市に集積している、個人が個人としても動きながら企業の代表としても動いている、という感じですね。簡単に言うと、カフェをやっているとそこでクライアントと打ち合わせるみたいなことが都市だとかなりやりやすいけど、地方だとほぼ意味を持たないっていう。みんなプライベートで来ているので、結構違いとしては大きいなっていうのはあります。

大谷 小野さん、とても仕組みで捉えているんですね、社会の見方として。 

小野 あんま血が上手く通ってないのかもしれない(笑) 

一同 (笑)

大谷 視点がマクロというか。けど実際に場を作られて、日々の営みが生まれてくるわけじゃないですか。その尊さというのはやっぱりありますか?

小野 そうですね、基本そこが大好きなんじゃないかな。でも自分がそこにいてバリューを出せない。接客とか、ライティングとか…そういうバリューを出せないので、あくまでもこの空間のために、僕はマクロな視点を持ってやっているという感じでしょうか。 

よくする例え話をするんですけど。僕、宮崎駿と鈴木敏夫が大好きで。鈴木敏夫っていつからか監督をやめてプロデューサーしかやらなくなったんですよね。駿さんが10年がかりで一本、本当に命を削るようなクリエイションをしている中で、敏夫さんは「トトロのぬいぐるみって意外と大人に売れるらしいぜ」とかっていう話をしている。『夢と狂気の王国』っていう映画でこの対比が描かれているんですけど、多分多くの人は宮崎駿さんの命を削るクリエイションに共感するんです。けど僕は「鈴木さん偉いな」っていうか。「自分は多分こっちのタイプだな」って思ったんですよね。

クリエイションとビジネスってやっぱりぶつかる部分もあるんですよね。「お前現場知らねえじゃん、作ってるのこっちだし」っていう現場のクリエイションの人たちと、「お金とか人が回っていかない中で制作するっていうのは無理だよね」って考えるプロデューサーとでずっとバトルがあるというか。けどそのバトルは健全なものでもあるので、今後もあり続けるんだろうなと。けど年齢が上がってくればくるほど、若い時みたいにぶつかっているだけではなくて、実現していかなくちゃいけないフェーズになりますよね。実現させてもらえる立場になったら、ここで戦っている場合じゃないよねって。もっと同じ方向っていうか、社会の方見ようよっていう感じでは思っていますね。

”人が来ていたら良い場所なんですかね?”

大谷 meaningfulな場、良い場みたいなものを増やしていくには、良い仕組みの上で、それを活用してポジティブな変化を作る人たちがいるっていうことがすごい重要であるということですよね。小野さんご自身はこの人たちとのつながりみたいなものは意識的に開拓している感じですか?

小野 そうですね。例えば「BONUS TRACK」で言うと、「BOOK LOVER'S HOLIDAY」に出てるような小さな出版社とか商社の方たちのことだと思うんですけど。そことのつながりを無限に増やしていくっていうのは結構難しいので、その間に立っている編集者やクリエイティブディレクターみたいな人たちと繋がるというか。ライターの方に記事を書いてもらったりとか、カメラマンさんに写真を撮ってもらったりとかっていうことを、一個の物語にしていく人たちというか。

こういう人たちとの繋がりは結構ある方だと思います。「BONUS TRACK」の中での職種も、本当に現場で大工仕事してくれるような人とか出店者になってくれるような人たちと、編集者みたいな役割の人たちと、僕らみたいなプロデューサーみたいなの、レイヤーは3つ分かれています。編集者レイヤーになると、100のアウトプットを作るときに、100手を動かさずに、最後10まとめるみたいな仕事をしているので、僕からも視点を理解しやすいっていうか、完全に縁遠いものだって思わないんですよね。そういう話しやすさっていうのもあって。

大谷  ナチュラルにプロデューサーみたいなことをやっている人たちっていうことですよね?

小野 そうですそうです。昔からクリエイター、ディレクター、プロデューサーって明確に意識しながら仕事しています、特にこの6、7年くらいは。 

粟谷 僕らみたいな会社だと、クリエイター兼ディレクター、両方のことができちゃう会社のみが相手になっちゃってるって状況がありそうです。なので当然お付き合いの門戸が狭まってしまうんですよね。

小野 なるほど。わかる気がします。

大谷 粟谷さんはいかがですか?

粟谷 僕らにとっては「人を集める」っていうのが今までめちゃくちゃ大事だったんですよね。けど、来てもらった人にどういう体験をしてもらうかという目線でもう一段深掘って、解像度を高めていく必要があるなと改めて思っています。僕らの会社は大規模な施設を作ることが多いから、施設とテナントっていう関係の中で解像度が低いまま終わっている部分もあるというか。

小野 実際、人が来ていたら良い場所なんですかね?

粟谷 会社としての共通理解が売上や集客にあるのは事実だと思います。絶対にそれだけじゃなくなっていると思いますけど…。

大谷 粟谷さん個人としては、どういう場所だと捉えていますか?いい場所。

粟谷 心が熱くなる瞬間ってあるじゃないですか。例えば、立ち寄ったコーヒー屋さんから「こんな思いで会社を立ち上げた」って話を聞いたりしたら心が熱くなる、みたいな。そういうふとした気付きとか、誰かの人生にちょっと触れられるみたいな場所はいいなって。そういうところに行くと、いい休日だったなって思いますね。自分の人生にないものと出会える瞬間とかがある場所。

大谷 お二人の中でも共通しているところって、「誰かの心が動く瞬間がある」みたいなことだと思うんですけど、それを生み出す要素ってなんだと思います?

粟谷 会話、かな。 

大谷 人ってことですか?

粟谷 人、ですかね。僕は。 

”感じ取る力って意外と受け手側の状況に大きく左右されるなと思っているんですよね”

小野 僕もチャレンジしてる人がいるかどうか、という点はすごい大事だと思います。あとそのチャレンジを可視化することも大事だなと。コンテンツの提供側からすると、感動してもらう、共感してもらうってことも、変化を起こす源泉になっているかんじゃないなと思うので。

一方受け手側で言うと、ちょっと余裕が必要だと思うんですよね。だから公園のような場所があらゆるところで求められていると思う。ルールがないとか、いろんな使い方をしている人がいるとか、何をしてても良いんだっていう気楽な場所に入ると、人のチャレンジみたいなことに気づく力とか、受け止められる力とかが出てくると思うんです。感じ取る力って意外と受け手側の状況に大きく左右されるなと思っているんですよね。

僕的にいい場所だと思うのは、良い変化を得にいく場所だと思うので、そういう、受け手にゆとりがある場所でないと、なかなか受け取ってもらえないだろうなって感じます。 

ちょっと違う側面で言うと、僕も子育てしてるからわかるんですけど、子供を転ばしておける場所って言うか、親の目を一瞬話せる時間が1秒なのか5秒なのかですごい違うんですよね。僕は性格が適当なんで5秒でも10秒でも目離していられるんですけど。うちの奥さんとかは「目離さないでよ!」って。

子供は一つの例ですけど。スマホの影響もあって、ふとした瞬間みたいなのが作り出せるタイミングって、どんどん少なくなってきている気がするんです。そうすると余白がないので受け取る力を生み出すのがどんどん難しくなっている。

「BONUS TRACK」はたまたま公園じゃなくて、私園。私有地を公園のように使うっていうのが今一番規制がなくて済むかなと思います。オーナーがOKって言えばOKなので。公園だと行政が管理しているので「あれはやるな」、「これはやるな」と。公園なのに「ボールで遊んではいけません」とかってなるわけです。

坂本 張り紙だらけになってる公園とかたまにみますよね。 

小野 そうそう。「じゃあ道路でいいっすか?」みたいになりますよね。でも道路ってもっといけないわけですよね。だからやっぱり私園のように自分たちでルールを決めていい場所が受け取る力を高められる可能性のある場所なのかなって思いますよね。

”そういう場所って、長期的な経済合理性の中でしか生まれないと思うんですよね”

坂本 会社として考える良い場所は「人が来る場所」で、小野さん、粟谷さんが言っていたのは「変化が起きる場所」だったりして。それって人を俯瞰的に「点」として見ているか、人のレベルから良い場所を捉えるか、視点が全然違うんだなって思いました。場所を作っていくことに関して、どの目線から見ているかってこととか、どれくらいの解像度で人の生活を見ていくのかってことの違いが、すごくある気がします。 

例えば「BONUS TRACK」も、小野さんにお話が来る前に色々なものが固まっちゃっていたら、今のような雰囲気や人を生み出そうと思ってもすごく難しかったんじゃないかなと思って。「集客施設をつくります!」みたいなことだけから入っていたら、できなかっただろうなと。

先ほどの会話にあったような「人の変化を起こす場所」をリアルに作っていこうってなったときに、ポイントとなることとか、今課題になっていそうだなって思うことがあればお伺いしたいなと思いました。

小野 そういう場所って、長期的な経済合理性の中でしか生まれないと思うんですよね。短期的に家賃で刈り取ろうとすると、今払える人しか入居できない。今払える人っていうのはチャレンジが終わった人で、仕上がったモデルをインストールするっていうこと。

けど変わり続けるってことは不安定なので、長期的な経済性の中で価値を見ないといけないですよね。長期的な経済性ではメリットあると思うんですよ、僕。この「BONUS TRACK」の中からさらに次のステップにチャレンジをする人がいたとして、それが「BONUS TRACK」発だとしたら、ビジネス面でのメリットを受ける可能性が全然あると思うんです。だからこう言うモデルでやってるんですけど。短期的にしか待てない状況でやると、全然違う解になりますよね。なので僕も「家賃が安い必要はあるよね」っていう風には思っていますし、それは小田急さんとも話をしていました。

ただ、家賃って頑張る理由にもなるわけなんですよ。無料だと「お店あけなくてもいっか」ってなっちゃう。だから人件費と家賃っていうのはかけ続けてもらわないと面白くなっていかないとも思います。それが店舗ビジネスかなと。

そうした紳士協定みたいなものはテナントさん達とも話をしてます。次にどんなチャレンジしますか?とか。もちろんペースはそれぞれのでいいんですけど、チャレンジをしないってことはやめてほしいので。半年に一回とかくらい、面談をちゃんとして、ウォッチし続けていますし、チャレンジしてもらうための余白として、家賃が少し安いということは担保してます。 

この辺りが仕組みの話。次は属人的な側面なんですけど、事業を作るための計画のバリエーションとか、パートナーシップとか、みたいなことは、こちら側からもテナントさんに助言をするようにしています。一緒に今後もやっていく感覚でやっているというか。事業の成長を、ノウハウや機会提供を通じてサッポートしようと思っています。一方的にチャレンジの責任を押し付けてるわけじゃないっていうか。そういうことでフレッシュ感を失わないというか、チャレンジを続けてくださる方ができるだけ増えるようにって思ってやっていますね。

大谷 ある種全体に目線が配れているコミュニティマネージャーみたいな存在ってことですよね。

小野 そうですね。でも結構経験は必要なのかなと思います。

大谷 確かに。小野さんのようなことは、今日本で言われている「コミュニティマネージャー」のスキルセットだと足りない感じがしますよね。もうちょっと経済的な面とか、ビジネスとかともわかりつつ、人間のこともわかる、ということが必要ですね。 

小野 普通の場合は分業なんだと思いますよね。とはいえ、全テナントさんとの面談って半年に一回だけで、日常的に業務が発生するわけじゃないので。コストの問題として、コミュニティマネージャーひとりしかおけないところに三人置くっていうのは結構難しいので、三人に一人分払うって感覚でやってますかね。そういう専門性をパートタイムで提供していくっていうか。パートタイムの時間がプロフェッショナルなので、短時間でも成果が出せるっていうのが理想だとは思いますよね。 

”ニッチなんだけど仕事になるような規模感”

粟谷 良いチャレンジをし続けられていればここに入居し続けているし、大きく成長してしまったら、ある種ここからいなくなってもいいってこととかもありますよね?出口みたいなことってどうお考えですか?

小野 今のところまだここだけですし、2年しか経ってないので、次のフェーズみたいなこと考えてないですけど、パターンとしてあり得るのは2つかなと。

この周辺に管理できる不動産を増やしていくっていうことが一つ。「BONUS TRACK」も「ずっといてくださいね」っていうよりは、チャレンジしたくなったタイミングでチャレンジができて、卒業みたいなものがちゃんとあるような施設にしていきたいんですよね。下北沢の他の場所でやる人がいるかもしれないし、単純に床面積がもっと大きいところでチャレンジしたいって人もいるかもしれないので、他の場所に出ていく時もあると思うんですけど。その時に自分たちが管理できている物件があれば「こっちに移りませんか?」っていう提案もできるのかなって思っていて。

僕も内沼さんもメディア出身なので、今「おみせのラジオ」っていうの始めようと思っていて。「おみせのラジオ」は、ざっくりいうと、まちづくりの目線を持っているお店というものはどういうお店で、どういう人たちが運営していて、普通のお店とはどう違ってっていうことを科学するっていうメディアのイメージです。例えばさっきの「SHOZO COFFEE」は、「なぜ黒磯の商店街を変えたのか」みたいなことをちゃんと多面的な知識として、解像度上げていく、みたいなことをやろうとしていて。

その取材先とか一緒に深めてくれる相手として「BONUS TRACK」の卒業生みたいな人たちは今後ずっと付き合っていける人たちなんじゃないかって思っていますね。取り上げる対象の数としては、決して多くないと思っているので、「テナントに入ってくれる方達の母数をどんどん広げていく」っていうよりは、「もうちょっと言語化を進めて再現性を持たせていく」っていうフェーズなのかなって思っていて。

「BONUS TRACK」で「お店の学校」っていうのもやっているんですけど、そういうことで受講料をお支払いいただくとか、「お店総研」みたいなものを作って、コンサルティング的に散歩社としての知識を提供するとか、その分野はこの人たちに聞いてくださいっていうプロフェッショナルなエージェントみたいな機能を果たしていくとかっていうことは今後やれるのかなと思っていますね。

これは、僕がgreenzでずっとやってきたことなので、やっていることはずっと一緒なのかなって思います。これをすごい大きな規模でやろうと思ったら無理があると思うんですけど、この規模くらいならできるから。ニッチなんだけど仕事になるような規模感。

粟谷 仕事のレイヤーの考え方が面白いですね。

”マクロな仕事とミクロな仕事両方を追求していくっていうのはちょっと無理があるなって”

小野 不動産事業も実はふたつお客さんがいますよね。テナントさんもお客さんだけど、投資家もお客さん。なので、マクロな頭が強い人は運用ということで不動産を見ているし、ミクロなところを見る人はリーシングとか商業施設開発、生活者の生活支援っていう目線を持っている。

ミクロなところに興味がある人はオペレーティブな理解というか…施設運営って「B to B to C」だとも言えるので、to Cのところを集客とか家賃ってことだけで捉えるんじゃなくて、「B to B to C」の方法を使って、大家さんとして店子を助けてあげるってことのバリエーションも持つ必要があったりするんじゃないかなと思いますジョブローテーションの中でマクロな仕事とミクロな仕事両方を追求していくっていうのはちょっと無理があるなってことは感じますよね。

粟谷 そう思います。 

小野 星野リゾートにおける運営と所有の分離ってことだと思うんですけど。ホテルマンのような現場のプロフェッショナルと、資産運用的な目線で不動産を金融商品として見立てていく技量っていうのは、どこかでわかれないとおかしいかなっていうのはありますよね。

粟谷 業界的には両方やるのが善だと思われていますけど、それがちょっと成り立ちづらくなって来ている気がしますよね。

小野 身も蓋もないですけど、ざっくりいうと専門知識が必要なかったんですよね多分。専門性がなかったので両方やれちゃっていた、というか。けど別の仕事だよねっていう。

不動産業の運営と所有みたいなものも、迂闊に手を出しちゃいけない領域として、それぞれのパートナーをしっかり育てていくような感じでやっていかざるを得なくなるんじゃないかなって感じています。そうするともうちょっと長期的な視点に立てられるようになったり、一人一人が仕事にやりがいを見出しやすくなったりするんじゃないかなって思いますよね。今だと育てても終わっちゃうじゃないですか関係性が。3年とか5年とかで。10年なんか絶対付き合えないですしね。そうするとちょっと浅い議論で終わっちゃう。

”視察だけで終わらないためにどうするの、どうやってこの企画通していくのみたいな”

坂本 ちょっと関連するかなと思ったので話を展開しますね。「良い場所」を増やしてくことを考えた時、どういう変化が世の中的に起きていくといいとか、ありますか。

小野 何か機運をすごく高めなきゃいけない領域があるとすれば、生活者側っていうよりは、企業の行動っていうか。視察だけで終わらないためにどうするの、どうやってこの企画通していくのみたいな。これ永遠のテーマだと思うんですけどね。

すでに起こっている社会の変化を、企業がうまく捉えて自分たちの成長力につなげられていない状況があるのかなと思ってます。「ニーズあるんですか」って社内で突っ込まれることに対して、「あります」ってどれだけ言ええるのかに尽きるかなって。

大谷 その話で言うと、企業の意思決定やプランニングをする人たちが、純粋に「遊んでない」って部分もあるんじゃないかって思っていて。実際にカルチャーを作っているような人たちと友達だったりすると、自分の中にリアリティができて、一生活者としての当事者意識っていうのを絶対に忘れないから、「あります」と答え切れるというか。

 それ、めっちゃそう思います。「MIYASHITA PARK」の時とかも、自分がある程度わかる領域とまじでわかんない領域があって。 

音楽カルチャーに関して知ろうと思った時、正直よくわかんないな、から入るんですよ。けど、その領域で信頼できる人ができて、その人が遊びに連れ出してくれたりすると実感できることも出て来たりして、社内でリアリティを持って話せるようになったなと。

そういう経験のバリエーションが作り手側に少ないから、体感を持って判断できないっていうのは本当おっしゃる通りで、自分自身にとっても課題の一つだなと思います。

大谷 良い場所というのが、誰かと対峙することで自分の中の意味付けがポジティブに変化して行くような場所ってことだとすると。より良い場所を作っていくには、作り手の人たちの中に、そういうことのリアリティを持っている人たちが増えていくのが大事なところなんですかね。

小野 僕はやっぱりgreenzをやっていたっていうのはすごいアドバンテージで。クリエーター、ディレクター、プロデューサーみたいなレイヤーで見ると、「BONAS TRUCK」では僕はプロデューサーなんですよね。けど小田急さんからすると僕はディレクター。小田急さん側は、テナントの知識は無くても、「ディレクターが言っているんだからいいんだ。」っていう感覚。僕らがマスターリースしているので権限は移譲していただいているわけですしね。だからリスクが取れるディレクターみたいな人が増えるっていうのも大事だなって思います。当事者性を高めるために意志決定者が現場に出て行くっていうのも大事なんですけど、一方で限界もあると思うので。

いわゆる編集者とかって、これまでの事業の中では経済的価値が出しづらくなってる。でも彼らのような目利き力がある人たちが育って、その力をあらゆる場で発揮するっていうのは大事だなと思います。例えば、BRUTUSが商業ビル一個プロデュースするとか、そういうのもあっていい気がするんですよね。

自分を支えてくれるシンクタンクや編集者とつながっている、みたいなことがあると、今何が楽しそうなのかっていうことのロジックを作り出してくれたり、ボキャブラリーを獲得させてくれたりみたいなことに繋がりそうってのはありますよね。

粟谷 確かに。けど編集者の立場でリスクを負えるっていうのはすごいことですよね、小野さんとかまさにそうだと思うんですけど。まだプレイヤーとしてそんなに多くないですよね?

小野 どうなんですかね。人のネットワークとか知識がすごく集まっている場所にも関わらず情報産業としてのマネタイズしかしないのは勿体無いことだと思ってしまいますよね、出版社とか雑誌社とか。でも情報が集まってるってことは、人が何に興味があって購買行動をするのかっていうのがわかっているということなので、それを何かコンテンツとして、テナントに置き換えて埋めるっていうのは、畑違いのことをやっているとは全く思わないですよね。テナントを集めて面で見せるということとか、一個一個は文脈が無いけど集めてみると文脈が立ち上がってくる、みたいなことは雑誌でやっている業務とわりと一緒なので。

リスクが分からない、とかってことだったら、例えばマガジンハウスに不動産事業部がちゃんとあるとか、そういうことかもしれませんよね。まさに三井さんとかから何人か転職して、あるいは合弁会社を作って、マネジメントの部分を担って、マガジンハウスはコンテンツを集めるところだけに集中して行く、みたいなこともできる気はしますよね。

編集者側に街づくりや不動産の知識がある人が少ないっていう状況があるのは確かですよね。だから僕のところに依頼が来るっていうパターンも多いのかもしれません。(笑) 

けど、今はそういう感じなんですけど、僕も元々そんな感じじゃなくて。雑誌やウェブマガジンと同じように、街っていう単位にもアウトプットができるなって発想が元々あったわけでは全くないんですよね。社会企業っていうものが今後生き残っていくために、とう目線から、マネタイズのポイントをto Cだけじゃなくてto Bに広げたりとか、個人や企業向けだけじゃなくて行政向けのサービスにして行ったりとかっていうことを考えて実践してきた。だからこそそういう発想に至った、という方が近いんですよね。

で、ここから不動産の話と繋がるんですけど。 

例えば、ある自治体は子育て支援にすごい困っているとする。同時に遊休化した不動産があって、これを相場よりも半値ぐらいで貸せるぞ、という状況になっていたとします。この状況って発注を発生させるのと同じことになるんですよ。家賃が安いことによって、発注を疑似的に受けるプレイヤーは自分たちのコストを抑えながら、行政課題解決をリアルなビジネスとして展開して行くことができる。こういう構造からも、ソーシャルの領域と不動産ってすごく組み合わせがいいと思うんですよね。

ほかの業界だとプラスの部分でビジネスをしているのでこういうことって成り立ちづらい。けど、街って言う存在はとてもマイナスを抱えている、困っていることの集積っていうか。多様性も高すぎるので、お客さんも一筋縄で理解ができない。なのでどうしても負の部分を抱えながらビジネスをせざるを得ないっていう業界だなと思っていて。全部はやりきれないですよねっていう領域。これが楽器メーカーとかだったら、一つの楽器好きに向けて素晴らしさやクオリティーを追求していくっていう方向に行けるんですけど。不動産そうはいかないというか。凄い変わった業界だなって思うんですよ。それだからソーシャルと不動産ってすごく相性がいいと思うんでう。

坂本 なるほど。対象の多様さからくる難しさは感じていましたが…、そういう理解ができるんですね、面白い。 

"バリエーションを提供してくれる人達って結構大事な存在かなって思いますよね"

大谷 自分も最近不動産関係のプロジェクトがあって、難しい問題だなあと思っているポイントが二つあるんです。今のお話と直結するかはわからないですけど…。一個は、翻訳者の課題というか。何かを通して行くときっていうのは、翻訳者みたいな存在がうまく立ち回ることによって突破していけることが多いなと感じていて。そうだとすると、良い場所を増やす、ということにおいても翻訳者が増えていくことがとても意味を持つかなと思うんです。で、その翻訳者を増やしていくことを、ただ偶然性に任せるのではなくて、どう再現性を高めていけるか、ということを考えるべきなのかなと思っていて。これが一つ目です。 

もう一個は、企画とタイミングについてで。開発においても、一番最初に何か企画を作るじゃないですか。たぶん、何かをやる、それを通す、ということをのために最初の企画を出さなきゃいけない瞬間があると思うんです。自分の仕事の経験上ですけど、多くの場合、「誰か外部の人にも相談しよう」ってなるタイミングが、ちょっとズレている、遅いな、と思うことは多いんです。

つまり、僕たちみたいなプレイヤーは、ある企画書を一番最初に誰か担当の人が作る瞬間にアクセスできていないと、すでに色んな事が決まってしまっている段階でしか入ることができない。で、大抵「戻して行く」っていう作業が発生するなと思っていて。この地点をどうやって合わせられるのか、どう多様にしていけるのかっていうのが、最近考えていることなんですよね。

粟谷 大谷さんがおっしゃった後者の話、わかります。おっしゃる通り、作り込んじゃってから相談してますよね。個人的に企画のレイヤーをどーんと公開しちゃうみたいなこともあっていいんじゃないかって思うんですよね。。不動産って機密情報が多いので、あまり情報を外に出さないんですけど、どんどん出していった方が良いのかなって言うのは思っています。作る過程にもう少し多くの人を巻き込んでいくような発想というか。

坂本 大谷さんが投げかけられた問いに絡みますが、企業側がオリエンテーションをうまく作れないっていうのも、私は結構課題だと思っていて。例えばコンペをするにしてもコンペのためのオリエンテーションの解像度が高くないと、例えば100アイディアが集まったとしても、集まったアイディアが本当にいいものなのかが分からないなと思っていて。集まったものから解像度が高まることもあると思うんですけどね。けど狙いがしっかりしていないと結局数で判断することにしかならなくて、本質的ではないというか。

例えば商業施設を作るときに、そこに来てほしい人とかコミュニティのイメージがあったとして、その人たちにとって良い施設にするためにコンペをやるんだとしたら、そのコンペをするために、そういう人たちの言語を理解していったり、どうやったらそういった人たちがモチベートされるだろうか、とか、考えることがとても大事だと思うんですよ。なので、最初に旗をたてる、その部分にもうちょっと多様な目線が入ってくることが、大切なんじゃないかと思っています。いちプレイヤーが適切な問いを立てることも難しいと思うので。そもそもコンペのお題が違ったね、なんてこともあるんじゃないかなと思っていて。

例えば、飲食の業界の言語や文脈を、私はわかりきっていないんですよ。それでももし自分が飲食の施設を企画するって立場になったら、絶対自分でオリエンを書ききれない自信があるんですよ。その自信があるから、だったらこの業界のキーマンって誰なんだろうって考えて、知り合いのネットワークを辿って、アドバイスをいただいたり、一緒にオリエンを作っていただいたりっていう形でコンサル的に入っていただくと思うんです。立てるべき問いがわからないから。

そこのフェーズを業として成立させられれば、スタートの段階が少し変わるんじゃないかなと思うんですよ。

今はこのスタート地点を一つの会社の社内で完結させようとしているから、大谷さんが言ったような課題が起きるんじゃないかなと思うんですよね。「自分たちのルールや言語の中だけで書いたオリエンだとちょっと解像度が足りないんじゃないかな」という認知に立って、そこを見直す目線があるだけでちょっと変わってくるんじゃないかと思います。 

会社ってやっぱり同質性の高い人がいるわけだから、どうしても目線が狭く、偏っていくなって思います。だから、企画の一番最初のその部分を開いていくってこと自体には結構意味があるんじゃないかなって。

大谷 うん、そうだよね。翻訳者的な人たちがスタートからアクセスできるってことが大切なのかなって、今聞きながら思った。多数にアクセスするよりも言語が分かる人達が頭からいるみたいなことが。

坂本 そうだと思います。さっきの「MIYASHITA PARK」の話とかでいうと、音楽とか、カルチャーを理解している人といきなり会話しようとしたら粟谷さんも言った通り勇気もいるし、なかなかハードルが高い。言語がわからない人との対話は怖かったりもしますしね。だからそういう言語と企業をつなぐ会話ができる人っていうのに、最初入っていただくみたいなことはすごく価値があると思います。その先のネットワークも広がりやすくなったりしそう。上流でのチームアップの仕方みたいなのが結構肝なのかな。

小野 そうですよね。事業をフォーマット化して、同じような形でビジネスを展開していくという時って、学びや多様性みたいなことって相対的に価値が下がるんですよね。「早く行けるんだから、同じフォーマットでやろうぜ」っていう会社文化になっている時に、多様性みたいなものの価値下がっちゃうの当たり前だなって思うんですけど、今誰もが悩んでいる時代の中で、バリエーションを提供してくれる人達って結構大事な存在かなって思いますよね。 

全部を網羅的にわかっている人なんてこの世に居ないんだから、スタート地点のとっかかりで必ずその道の専門家になにか聞きに行かなきゃいけないってなっていれば、もう少し柔軟な発想が持てるかなって思います。

”開業時に出たリリースってバリューがすごい低いなって感じますよね”

小野 少し話は変わりますけどここまでの話聞いてて思ったことがあって。一個は不動産というものの公共性についてで。公共性、パブリックな存在であることの一つの意味はお金を稼ぎ出す力が比較的強い業界だっていうことだと思うんですけど。そういう特性がある業界なのに、私的利用とか経済利用が進みすぎて社会があんまり幸せになっていないのでは?ということを、研究している研究者が少ないんですよね。如何に私的利用や経済の最大化を進めていくかっていうのを考えている人たちに比べて。

相談する相手がいない、体系だってまとめて行ける方向性にないっていうのは、すごい損失がでかいですよね。

不動産業界に接していて感じますけど、みんな悩んでるんですよね。全部似てきているみたいな。経済合理性に捉われると都市間競争に負けてしまう。でも経済合理性高めろって言われるから結局似たものができる。「なんなんだこの矛盾は」みたいな。経済的な余力がないかっていうと他の業界よりもよほどあるので、損益分岐点っていうのは結構先におけるはずなのに。大学的な研究機関や企業のシンクタンクみたいなところでもっと研究が進んで、悩んだ社会人が学びにいけるってなっていれば、実務レベルでできることがもっと増やせるだろうなって思います。

あと、さっき粟谷さんが言ったように商業ビルの区画は公募してもよいっていう風土はあっても良いなと思いますね。今って、開発を裏で進めて、開業直前にいきなりリリースするのが習慣になっていますよね。「開業時クライマックス主義」って僕は言ってるんですけど。けど開業時に出たリリースってバリューがすごい低いなって感じますよね。「またあの有名セレクト店舗が入ってるのね」くらいというか。

一同 (笑)

小野 そこにニュース性があるって感じるのは多分施設側の人達だけで。もはやそこにニュース性なんかないんだから、プロセスも含めて仕掛けていって、「会社としてここに決めました」ってくらいでいいじゃないかなって思うんです。

5年とか10年とか育てていって、そこをクライマックスに持って行くような意識を持つみたいな。作り上げるっていうところを本当のクライマックスにしようとして現場の人はみんなめっちゃ走ってますからね。

坂本 成果っていうものの期間の考え方、大事ですよね。すごい手前に成果を求めたがるというか、みんなが共通で理解できる数字の話に帰着しちゃうというか。ゴールをもう少し奥にもっていくことができると、変わってくるかもしれないですね。

”チームワークとしてゆるくネットワークを持っていて、簡単にそれを聞ける人がいるといいな”

粟谷 ここまでで僕が思ったのは、ゆるいつながりを持てる人とか、ゆるいチームワーク、大事かなって感じました。不動産の開発時間ってめちゃくちゃ長いんですけど、意外とクリティカルなポイントは短いんですよね。ここまでにこれを決めないともう建ちません、とか言われるから、マニュアル化して、既存のやり方でやっていったほうが楽。さっきの小野さんの話ですよね。

でもいざ「ある領域の専門家の人とか業界にいる人とかに話を聞こう」と思うと、ネットワークが必要になる。それがないと時間かかったり未知なことが多くて不安になりますよね。だからチームワークとしてゆるくネットワークを持っていて、簡単にそれを聞ける人がいるといいなって、とても強く思いました。そういうチームがないっていうのが実は一番の問題なのかなって。そこのゆるいつながりをいろんなところで持てる人が、作り手にもっといれば今まで議論してきたようなやり方が可能になってくるんだなあと。 

大谷 そうかもしれないですね。学びの機会もそうだと思うんですけど、誰でもアクセスできるような状態、開かれたコミュニティがあって、「そういうマインドを持っている人であればどうぞ」みたいな感じのところがあるといいというか。これはデベロッパーのどこ所属、とかは関係なくて、もうちょっと相対的な場や都市のあり方に関するナレッジが集まっている場所というか。そんなイメージですかね。そこでプロジェクト起こすこと自体が目的ではなくて、緩やかなシンクタンク的な機能というか。で、これを活用して何かやろうっていうときには、そこから自由にチームアップして動けるとか、そういう余白みたいなものが大事かなと思いますね。

粟谷 それすごくいいですね。一個一個の領域を攻めていくと時間がないから、とりあえず相談できる受け皿みたいなのがあったら、超ありがたいですね。

大谷 とりあえずそこに課題意識を投げ込めばなんか出てくる、みたいな。

坂本 そういう場所とか人と知り合っているってこと自体で、自分の目線自体が変わる気もします。こういう施設にしたいからこの人に相談してみようかなって、顔が浮かぶかどうかって、企画の解像度を高めることにつながるというか。ルートがあるっていうのが結構大事な気がします。

大谷 さっきの話の中であった、翻訳者になろうという志のある人が、学べるような状況とかがあると、本当はよりいいんだろうなって話を聞いてて思った。 

坂本 それは私も興味あるなぁ。(笑)あ、やばい。取材時間があと5分です。(笑) 

大谷 え、あと5分?(笑)粟谷さんの聞きたいポイント、大丈夫だったかな。

粟谷 お話の中で理解できたことがたくさんありました。大丈夫です。

小野 僕は多少であればオーバーしても大丈夫です。

坂本 ありがとうございます。じゃあちょっと続けましょう。

小野 不動産は余力のある業界なので、短期的な経済合理性を長期的経済合理性にするとか、テナント同士を仲良くする期間や、そのメディア機能みたいなことをテナントさんに渡すっていう期間を作っていくとか、そういう意識や組織運用をできたらいいなと感じましたね。BONAS TRUCKは開発の部隊がそのまま一緒に、丸3年くらい?2年半くらい?継続してやってくれてるんです。開発経緯も認識した上で運営方針も理解してくれているから、駐車場とかすごい安く借りれるんですけど、これ部署が途中で違っていたりしたら、「社内確認するんで」みたいになっちゃいますよね。「こういう基準がないと貸せないことになっておりまして〜」ってなる。でも前者のような判断ができることって街的にはすごい意味あると思う。

坂本 運営フェーズになった瞬間に言語とルールが変わっちゃうの、あるあるですよね。 

小野 そうそう、よくある。自分たちを自分たちで苦しめてるっていうか。

大谷 「確認します」っていう言葉を排除できると、いいですよね。「確認します」じゃなくて「何とかします」みたいな方が。 

坂本 気概的には「なんとかします」って思ってると思うんですけどね。けど色んな事情で「確認します、になっちゃうんじゃないかな(笑)

”人を紹介するみたいなこともしやすくなると思って。遊びに行こうぜ、みたいな感じで”

小野 建築・不動産って、建築は特に、どのゼミ出身者かっていうのを、すごい意識していますよね。だから尚更さっき話したように研究者巻き込むっていうのも大事かなって。実務家の集まりも大事ですけど、体系だって伝えるような大学の先生とかを巻き込んでやれたりすると、不動産建築の人たちが頼りやすいものになって行く感覚ありますよね。

坂本 拠り所があるっていうのは大事ですよね。学問として成立しているものであるという点で、信頼が違うというか。

小野 安心感もって決めたいだけっていう。結局。 

大谷 このmeaningful cityというコミュニティーもそういう拠り所の一つみたいになるといいよね。そこへ行ったらみんな「そういう感じいいね」、みたいなことを体で感じ取っていくような。

 坂本 そこもたぶん、翻訳的な役割を担える人がいるっていうのが大事な気がしますね。言語をちゃんと繋いでいける人がそこに居るかっていう。

小野 僕、あと1年半とか2年したら40になるんですよ。だから一緒にお仕事とかさせていただいたりとかして、発注を受ける発注主が、年下になってくんです、だんだん。 

年上の発注主だと「誰か紹介しますよ」とかちょっと言いづらかったりもするんですけど、逆転すると、人を紹介するみたいなこともしやすくなると思って。遊びに行こうぜ、みたいな感じで。

坂本 嬉しいですよ、そういうお声がけは。

小野 ね。そういうのをもっと単純にやる方がいいんじゃないかっていうか。

大谷 視察っていうの、やめた方がいいんじゃないかな。遊ぶ機会をただ増やすみたいな。

小野 確かに。建築不動産とかの先輩後輩カルチャー強めの所が、そういうコミュニケーション難しくしているっていうのは一部あるんだろうけど。これIT業界とかだと本当にみんな全然気にしない。国籍も関係なくやらないと生き残れないからなんですけど。

でもやっぱり建築不動産は守るものがある業界なので。斬新な発想ばっかりだと仕事にならないっていう、現実的な側面もあると思うんですよね。だから保守的な人とか、慎重な人が多いっていうのは全然悪いことじゃないと思うんです。けど、それが故のコミュニケーションの難しさがあるっていうのは知っておいた方がいいのかなって。その上で分け隔てなく付き合えるようになると、もっと面白くなっていく気はします。

”繋ぎ目になる人がいれば解決するかもしれないな、とは思います”

粟谷 そうですよね。あと全然違う業界で勉強した人たちを巻き込んでいく、とかもあるなと。計算とかできなくていいからデザインめっちゃ強い、みたいなこととか。当たり前の話ですけど、多様性とかって。

大谷 それこそ社内のシンクタンクとかのボスに編集長、みたいなこととかもあるのかな。 

坂本 ありますよね。BRUTUSのPLAN Bとか、メディア以外で稼ぐチームを立ち上げたりとか新しい動きも出てきていたりするから、今度は受容側がそれをどう受け入れていくかっていうところなのかも。

小野 確かに。「BONUSTRUCK」のカレー屋のオーナーさんもP LANBに関わっていたりしますね。結局編集者のグ ラ ンドワークって、どうしてもパンフレット作りとか に なっていて、発注主としてビジネスを作る、場をプロデュースするということができる人は少数派。その方などはそれができる人だし、 自分でも福岡でスナックー軒経営してたりするの で 。そういうタイプの人増えてくるといいなって。

大谷 編集もそうですしデザイナーもそうですけど、転用できる範囲は広いけどやっぱ修行してきたことは結構掘り下げているものだから、優秀なんだけど転用する視点がない、みたいなこともありがちというか。

小野 プロデューサー不足だとも言えるのかなと。デザイナーがお店を持つって言った時に、持てる人と持てない人の差が激し過ぎる。300万の出資を受けるとして、それをうまく運用してデザイン会社としてのバリューも上げるし、リアルの拠点も持てるしっていう、そこの繋ぎ目になる人がいれば解決するかもしれないな、とは思います。

会社を上場させるとか、イグジットを作るタイプって言うよりは、デザイン会社がカフェやるみたいなこととか、ブランディングのために取り組んで、末永く安定的にやっていきたいっていう、そういうことを任せられるプロデューサーはすごい少ないと思う。

坂本 けどいま必要とされていますよね。

大谷 そういう機能をmeaningチームでも実装させていきたいですね。 

坂本 ちょっとまとめっぽくなりますけどこういう場も大事だったりしないかなって。このmeaningfulのチーム自体が拡張して行くことも私は大事だと思っていて。今はない目線を持った人たちもどんどん入ってきて、それがパイプになっていくみたいなことも多分大事だし、作り手側の方達がこのチームに関わっているってことも大事な気がしていて。そこに少しずつ共通言語や文脈が作り出されていくというような雰囲気。そういうものがネットワークとして広くなっていく状態が作れるとすごくいいなあと思いますね。

大谷 じゃあそろそろ、こんな感じですかね。

坂本 すみません時間伸びちゃいました。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?