MEANINGFUL CITY MAGAZINE vol.2/Generation-Y/3取材全文記事

”「purpose」を中心に集まり、寄り添えるような場所は「meaningful」だなと思います”

大谷 ミーニングフルシティとは何かをブレイクダウンして考えると、ミーニングフルと人々が思えるような場の集積のこと。ミーニングフルな場は、実は想像できるくらい近いところにあるのかもしれない。まずは、ミーニングフルな場だと自分が思える場所は、都市の中でどのような場所か?という目線合わせから始めていきたいと思います。

 まず浮かんだ言葉としては、「パーパスフル(Purposeful)」。パーパス(Prupose)が個人や会社、社会との接点のような意義で使われることが増えていますよね。自分自身や会社のパッションや、やりたいことが、会社として具現化されつつ、社会と接面を持ち、そこに価値や意義が見出されたりする。そういうことがミーニングフルだなと考えています。

なので、自分がミーニングフルだと思える場所も、同じパーパスで集まっているコミュニティがあるのではないですかね。パーパスがあるパーパスフルな場所。あとは、自分の中でいつもテーマにしている「イリプレイサブル(irreplaceable)=代替不可能」なものという要素もあるなと。

ミーニングフルと聞くと、その2つの言葉に解釈が分岐され、その2つが足し合わさるとミーニングフルな場所になると思いますね。

具体的な場所でいうと「ル・キャバレー」。街の中であそこにしかない、常にいいシーンを繰り出しています。

あとは、恵比寿の「coya coya」という中華。小弥太さんという店主がカウンターの真ん中に立っていて、それを囲うように10人ぐらいが座れるようになっています。コミュニティもあるが、新しい人も3割くらい常にいる。毎日シーンが変わっているけど、常に真ん中に小弥太さんがいて、店主とお客さんの関係が、寿司屋や割烹のような「人が見えている状態」なんですよね。それは代替不可能だなと思います。

あと、パーパスフルでいうと、僕らのプロジェクトの「SOIL Nihonbashi」の話をさせていただきますね。コロナのステイホーム期間2年を経験して、都心での生活の限界や、地方での生活の可能性を我々はみんな考えたんじゃないかなと思うんですよね。2拠点目あるかもな、移住あるかもな、みたいな。

これは、都市そのものに互換性があるのか、代替不可能なのか、というような問いなんじゃないかなと思っています。都市化は必然だし、都市化することのメリットが多いけど、反都市化の選択肢はあるのかもしれない、というのが自分にとっては大きい問いかけ。「SOIL」は、それを謳って企業や人を集めたわけではないですけど、結果として、この問いに共感をしている、同じパーパスを持つ10の企業と30人のフリーランス、計100人ぐらいの人たちが集まったんです。

ビジネスと社会とクリエイティビティ、3本の柱で成り立っている人たちが、リアルな場に集まることで、仕事につながり、仕事が広がる感じがありますね。

例えば三井不動産の建物を例に挙げると、三井不動産が北海道で森を1番多く持っているという話から、「森と共に生きる」をビジョンとして掲げているADXという会社とつながりました。そして、森の価値を可視化する診断事業を提案する「森のカルテ事業」を始めるという話が進んでいたりとかするんですよね。あとは、「SOIL」の次の店舗を、「SOIL」に入居するSANUとともに展開する、というような動きもある。みんな、リアルな場にいることで繋がっていっている感覚がすごくあって。

このようなことは、「クリエイティブでフリーな人たち集まれ」と呼びかけるだけでは起き得なくて、もう一歩踏み込んだ「purpose」があり、人が集まってきたが故に起きる可能性なのかなと。これは都市でしかできないかな、と思っています。

「purpose」を中心に集まり、寄り添えるような場所は「meaningful」だなと思います。

”ウォーカブルでコンパクトな、「ネイバーフッド」ぐらいの規模”

大谷 これに気付いたきっかけが何かあったんですか。

 僕はやりたくないことは絶対やりたくない、やりたいことだけをやっていたいタイプの人間なんですよ。その上で、自分のやりたいことと社会の流れや、社会がよりよい方向に向かうベクトルがマッチしたときに、やる気がマックスになるタイプの人間なんですね。

自分は昔から一つの場所にいるのが苦手だったんです。旅が大好きで、旅に人生を何度も助けられてきました。旅で出会う街角の、「そこにしかない景色」を見て救われたり、そこで飲んでいたときに出会ったベルギー人と仲良くなって人生が豊かになっていったり、ウクライナ人の友達ができたから今戦争が起きているのも心から憂いることができたり・・・。自分の人生において、旅のインパクトが、自分のやりたいことを形作ってきているんです。

そして、「ホテルをやりたい」「ホテルをやってそこにしかないシーンを作りたい」というような思いが、自分のキャリアの原点にあったんですよね。年月をかけて、1個目のホテルを生み出しましたが、やればやるほど「ホテルだけだと社会に対して何も生み出していないな」と感じるようになりました。例えば、ホテルの中で働いている人たちが本当に楽しく幸せに働き、生きていくことを考えると、ホテル単体だけじゃだめだな、と運営すればするほど身に染みてきたんです。「K5」をやっていても、瀬戸田で「Azumi」をやっていても同じ。

そのときに、ホテルを中心とした数百メートル圏内までのウォーカブルでコンパクトな、「まち」でもない、「ネイバーフッド」ぐらいの規模で考える必要がある、と感じたんです。お客さまがホテルの外に出たときに体験してもらうことや、ホテルで働いている人たちが幸せに生きていけることを目指して環境を作ろうとすると、やはり「ネイバーフッド」や「まち」を意識していかないといけないんですよね。

ホテルをやりたいからホテルを作るのではなく、ホテルをやりたいからその地域のことを考える。地域の問題や、地域の魅力から逆算してホテル作りをしていくような感覚ですね。

「旅したい」「旅をし続けるに足る世の中にしていきたい」というのは20歳の頃からずっと思っていて、「代替不可能性に意味がある」と言う考えは、旅をルーツに思い始めたのかもしれません。ホテルを一つ本気で作ってみた結果、「それだけじゃだめだった」という感情が出てきたので、シティ単位やエリア単位で考えるようになりました。一つの場作りから、もう少し拡張された範囲までを意識して仕事をしないとな、という感情が湧いた気がしますね。

”資本主義的な方向性を逆転するような場をつくったり、逆転するような活動”

大谷 社会的な目線は結構強かったですか?

 社会的なところに目を向けたのは「社会をよりよくしたい!」というよりは、「そうじゃないより絶対そっちのほうがいいから、そうしたほうがいいよね」ぐらいのものですかね。生まれながらにして「世界平和を目指したい!」というタイプの人間では全くないので。

自分のルーツとして、アメリカと日本の半々ぐらいで二重人格的に育ったことが大きいです。英語を喋っているときと、日本語を喋っているときの自分は違うということや、「アメリカは自由な発想で物ごとを考えているのに、日本はなんでこんなに凝り固まっているんだ?」というような日本卑下をしている自分もいて、それがすごく嫌だったんですね。自分の中でアンバランスだったし、日本語を喋っている時は自信がなかったりもしたし。だけど、大学4年間ずっと旅をしていたことで、二重の人格がパタッと一つになった瞬間が訪れました。自分の二重性を受用して許容でき、一つになるような感覚が持てたんですよね。日本は今のままでいい、など色んなことが少し許せるようになったりしました。世界の多様性が自分にこうやって価値を提供してくれたなと思っています。

僕は昔金融業界にいたんですが、資本主義的考え方やグローバリゼーション的な考え方は、一定のクオリティのものを、世界中どこに行っても食べられるように推進していきますよね。行き付く先は、自分が旅をして「世界って素晴らしいな、多様だな」と思っていた世界とは全く違う方向である気がして。その都市のユニークさとインフラでいうと、インフラの部分ばかりがでかくなっていき、その都市の個別要因が減っていくのであれば、めちゃくちゃつまらないじゃんと思ったんですよ。

それを踏まえると、社会的にいいことをしよう、というより、世の中の資本主義的な方向性を逆転するような場をつくったり、逆転するような活動をしたりしたいな、という個人的な思いがスタートです。それが偶然地方創生や、都市化による社会課題の解決などに結びついたということなのかなと。

やりたいことは、「旅をしたくなる世の中を自分が作っていたい」ということなのかなと思いますね。

”出会いをきっかけに変わったので、他の人たちも社会も、そうやって変わるだろうなと思っています”

大谷 小池さんにバトンタッチしましょうか。どうですか?今の話も踏まえて。

小池 すごい勉強させていただいたという感じでした。(笑)僕も最近、人と出会うことや、そのコミュニティに入ることによって色んな気付きが得られたと思っているんです。だから、人に出会える場所はめちゃくちゃいいなと、今強く思っていますね。

自分からは少し遠い領域にいる人と会えたり喋れたりするのはいいなと思うし、一つのコミュニティというよりは、色んなコミュニティが混ざり、うねりが起きているような場だと、よりいいなと思います。

このような現象が、すごくスペシャルな場所というよりは、日常的な場所で起きているといいなと思います。もっと身近に増えてくれたら嬉しいです。

大谷 色んな人と出会えるということが「便利さ」のような方向での豊かさと捉えられる場合もあるだろうし、自分自身がハッピーな感覚でいられるという豊かさもあると思います。今の話はどのような感覚ですか。

小池 自分自身がハッピーという感覚が強いですね。自分自身が出会いをきっかけに変わったので、他の人たちも社会も、そうやって変わるだろうなと思っています。このような良い現象が起きる場所がどんどん増えるというのは、自分にとってもハッピーだし、人にとってもハッピーなのでは。

大谷 自分と異なる価値観の人と会って話すことで、自分自身の認識やものの見方、生き方などに変化が起きることが「meaningful」と感じるということですかね?

小池 そうですね。僕的にはそういう場所はすごく「meaningful」だと感じます。僕が能動的に行きたいと思わなくてもいいというか、そこに対してハードルがないというか。

異業種交流会のような場所ではなくて、日常の中にあるというのがめちゃくちゃいいなと思うんです。居心地がいいから行ってみると色んな人に出会えてしまうような場所に意味を感じますよね。

大谷 普段仕事の中で、プロジェクトメンバーや、会社の人たちとこのような会話をする機会はあるんですか。

小池 プロジェクトメンバーとは話しますが、会社内では一部の興味がある人としか話さないですね。

大谷 どんな会話が行われるんですか。

小池 普通の業務ではそこに至らないことのほうが多いですよね。仕組みをつくれないからこそ歯がゆい、どうやったらできるんだろうね、というような会話のほうが多いです。

大谷 自分たちのプロジェクト以外で、良い体験だな、いい場所だな、と感じるのはどういう時ですか?誰かと出会って考え方が変わった、ということも含めて伺いたいです。

小池 僕は「Nui」に少し住んでいる期間があったんです。その時に、「Nui」のカズさんや、BnAの方とかと知り合いました。住むということによって人と接点を持ち、そこからさらに人を繋いでもらったりして広がって…という経験が、「こういう場所がいいな」と思ったきっかけです。デベロッパーだと、このような接点がありそうでなくて、会話はできるけどコミュニティに入るのはすごく難しいという印象があったんですけど、そのときは住むという行為がきっかけで入れたんですよね。

”ミクロな基盤である「ネイバーフッド」を日本中に作っていくのが「ソフトデベロッパー」”

大谷 この議論の中では「meaningful」な場所をどうやったら具体的に実装していけるのかを考えています。この間「Meaningful City」のチームで話をしていたときに、クラフトビールなどに関して議論をしていて。

坂本 そうですね。

大谷 クラフトビール、ナチュールワイン、コーヒーなどは、クラシックな業態がありながら、そのあとにクラフトや、サードウェーブ、ナチュラルワインのようなものが出てきていますよね。コーヒーだと、スペシャリティコーヒーのような、お堅い、クオリティを称するものがあり、その上で文化がある種インターフェースとして人々の中に広がったと思うんです。都市においても既存の都市の考え方と、クラフト的な考え方があるんじゃないかと思っていて。クラフトシティなのかクラフトプレイスなのかわからないですけど…。

ナチュール、サードウェーブ、クラフトビールなどが広がった時に、何がインパクトドライブになったのかというと、マイクロブリュワリーやマイクロロースタリーのような実行者が増えてきたことなんじゃないかと思うんですよ。それを都市の話に置き換えてみると、「マイクロデベロッパー」なんじゃないか、という話をしていたんですよ。

今までは「マイクロデベロッパー」は、デベロッパーの中の一つの位置づけとして認識していたんですけど、クラフトカルチャーに見立てて考えてみると、「マイクロデベロッパー」のようなものが台頭していくシーンをつくることが、都市に変化を起こしていくことなんじゃないかと思っています。

ビールの支出は、アメリカでも全体の10%ほどで少ないけれど、アメリカの中ではクラフトビールの市場やポジションが認知されてきていて、大手も無視できない状態になっているんです。

都市でも同じような現状を起こせないかと考えると、「マイクロデベロッパー」自体の数を増やしていくという発想も大事なんじゃないか。クラフトビールを飲みながらそんな話をしていました。

坂本 ほんと最近したばかりですね。(笑)

大谷 ね。数日前ぐらいの話。

大谷 「クラフト」という言葉で想起されるのは、1つ1つ丁寧にこだわって作ることや、作り手の思想や顔が見えること、スモールではなくてインデペンデントなこと、競合ではなくて仲間やコミュニティで盛り上げていく、というようなことかなと思っています。みんなの頭の中に「クラフト」という言葉から想起するイメージが出来上がっている気がしていて。この文脈に、デベロッパーを転換していくことは、割とあり得るんじゃないかなと思っています。

岡さんは「ソフトデベロッパー」という表現をしているじゃないですか。これはどんな考えなのかを、もうちょっと深堀って聞いてみたいなと思います。

 「マイクロデベロッパー」は英語で調べると、規模感を指すイメージで使われている言葉なんですよね。それは自分たちのことを、半分言い当ててはいるけど、半分言い当ててないなと思っていて。「マイクロデベロッパー」という言葉以外の選択肢を探っていたときに、僕は普段から「ハードじゃなくてソフト」という言葉をよく社内で使っているので「ソフトデベロッパー」に命名したという感じだったんです。大谷さんが使っている「マイクロデベロッパー」という言葉とほぼ同義なんですよね。

「クラフト」や「マイクロ」など、小さくないとできないと思っている、という解釈が正しいのかな。僕らがやるホテル一つをとってみても言えることで、「K5」も「Azumi」も、200部屋ではなく20部屋。これは、寿司職人がカウンター7席、8席が1人で見られる限界、という感覚と一緒。これはホテルにも言えるし、場の連なりである街にも言える気がしています。科学的な根拠はないですが、半径2~400mぐらいの単位が自分たちができるまちづくりの範囲なのかなと思っています。「まちづくり」という言葉もいろんな解釈があるからあまり使わないようにしているんですけどね。

今は、色んな権限が個人に委譲されてきていますよね。旅行業会で言えば、かつては大手代理店が全ての情報を握り、「大手がいいという場所ならいいんだろう」という軸でツアーに申し込む、というのが一般的でした。今ではインターネットが普及し、情報社会化してきたことで、OTAが出て、個人が個人で情報を調べて、各々でブッキングをして旅をセッティングする、というような世の中になってきました。

国や自治体も同じで、行政の区分けによらない人の生きる選択肢があるんだと思うんですよね。例えば移住するときは、どこに住民票を移すかが移住の定義だったりすると思うんですけど、そこじゃないと思っています。

もっとミクロな単位だと思うんです。だって尾道市に引っ越したからといって、尾道市全部を享受するわけじゃないですよね。個人の生活範囲はもっとミクロ。今関わっている、池尻はネイバーフッド的。

人の生活範囲の目線で見たミクロな基盤である「ネイバーフッド」を日本中に作っていくことが「ソフトデベロッパー」だと思ってます。

情報化社会になっても物理的近接性が大事だと思うので、歩いて行ける、自転車でいける、車で5分以内にいける、という範囲内に多様なコンテンツがあり人とつながり合えることが、人生の喜びになると思うんですよね。

仕事の進捗はオンラインで良いけれど、人生の楽しみや喜びは、コンパクトな範囲内でどれだけ多様な人と繋がれるか、多様なライフスタイル・コンテンツがそこにあるか、が大事だと思うんです。そういうものが立ち上がっていったら世界はもっと面白いなと思います。これをどんどん仕掛けるのが「ソフトデベロッパー」「マイクロデベロッパー」の仕事なのかなと思っています。

”「マイクロデベロッパー」の定義は「自分のためにやる」「自分事としてやる」ということ”

大谷 なるほど。では、既存のデベロッパーは何を作っているんですかね。

小池 それは世に言う一般的な?

大谷 そう。

小池 インフラの機能が大きいんじゃないですかね。

大谷 確かに。

小池 インフラを整備していたら人が来ていたけれど、そうはいかない時代に直面して、大企業が今焦っている状態だと思うんですよね。

大谷 そのような状況の中で、今岡さんの話を聞いてどう思いましたか?

小池 今僕が話したのは、一般的なデベロッパーの状態だと思いますが、これまでのやり方では人が集まってこないという現実に皆気が付いていて、何か違うことをやろうとしている状態になっていると思うんですよね。

デベロッパー側も、マーケティング的な思考で人を考えるのではなく、その場所にどういう人がいて、どうなっていくことを目指すのか、という目線から開発を考えていくべきだと思っています。でも、その方法が今のデベロッパー側ではわからない状態だと思うんです。

大橋会館に期待しています。1階で、ここまで話したような「meaningful」な場所をつくることにより、それが上層階の旨味になって価値が高まる。完全な収益物件よりは儲からないと思いますが、意味のあるものを作っていけるんじゃないかと思っています。このような経済性と定性面の交差点というか、ちょうどいい塩梅の部分を、色々なデベロッパーがここから定義していくんだろうなと思っています。

今は1個の建物の話をしましたが、僕もさっき岡さんがおっしゃっていた「半径何m」の考え方に共感しています。1つの建物からエリアに滲み出しする部分をどんどん生み出していくというようなことを、今後はやっていくんですよね。今はまだ事例があまりないので、皆クリアな解像度は持てていないんだろうな。

「BONUS TRACK」や「大橋会館」のような事例が増えていけばいいなと。それがデベロッパー内での動きをどんどん加速させていくだろうなと思っています。

 ちょっと言い忘れたことを言ってもいいですか。自分の中で「マイクロデベロッパー」の定義があるんです。それは「自分のためにやる」「自分事としてやる」ということ。クラフトビールも自分が作りたいから作っているからこそ、クラフトレベルまで拘ろうということですよね。これは、大手デベロッパーがソフト性やマイクロ性を求めたときに、ずっと悩み続けるとこなんじゃないかなと思います。

大谷 確かに。

 マーケティングによって「多くの人はこういうのが好きでしょ」という考えで、場や街や商品を作っていくことと対極にあると思っているんですよね。皆を思いつつ自己表現もする、というバランスをとりながら、「自分の半径何メートル以内においしいものを提供したい」「いい街にしたい」「いいホテルを作っていきたい」というような自分事の思いを持っている人たちがデベロップメントという手法を身に着けるのが「マイクロデベロッパー」や「ソフトデベロッパー」なのかという気がしているんです。

だから「今年100億円使わないといけない」というような大きいノルマや金額感が決まっているなかで、強制的にミクロな何かをやるとか、ソフトな何かをやる、ということが成り立ち得るのかという興味があるんですよね。

「マイクロデベロッパー」が本当に増えていくか、世の中の潮流に沿って大手資本がそれをやりにいくか。どっちかなんですよねきっと。大きな資本を使い、新たなまちづくりの手法としてミクロなネイバーフッドを作るとしたときに、いかにマーケティング的観点ではなく、自分事的観点で街をつくっていけるか。これが、大手デベロッパーにとって、とても挑戦しがいのある面白いテーマなんじゃないかと改めて思いましたね。

瀬戸田の街づくりが面白くなっているのは、うちの社員2人が地元のおっちゃんと飲んで腕相撲した瞬間なんですよね。その夜に「俺ら引っ越してもいいですか」という感じにならなかったら、絶対何も起こっていなかったと思うので、属人的かつ個人の思いでしか成り立っていないんですよ。これを多拠点や、もう少し大きいスケールでやろうとしたときに成り立ち得るのかは、僕らも初めてやることなのでまだわからない。

小池 僕も、やれるかどうかは置いておいて「マイクロデベロッパー」のようなものはいいなと思う。会社の中で調整して、なんとかそれを形にしているという状態です。今も一定数の「マイクロデベロッパー」いるし、今後はきっと増えていくと思うんですね。経営層の理解もだんだん進んでいっているとは思う。

調整を頑張れば形にできる状況はどんどん増えてくると思うんですけど、コミュニケーションコストがめちゃくちゃ高い、というのが正直なところ。受け皿を企業側で準備できているといいなと思います。

不動産で稼ぐことと、やりたいことをやることは、対極にあるスタンスだと思うので、デベロッパーや開発担当の全員がそれをやるのは結構無理な話しだと思うんですよね。だからこれをやりたい人を別で作ったほうがいいのかなとも思ったりします。

 「マイクロデベロッパー」かどうかは別として、京王が「ReBITA」を買ったり、小田急が「UDS」を買ったりしたような動きは、発想として似ているかもしれませんね。同じグループだけど分けていて、横断的にやるという発想と似ているのかなと。それがマイクロデベロップメント的にやれているかどうかはわからないですけど。

大谷 確かに。同じような話だと、デザインが経営の中のキーワードやトレンドっぽくなったじゃないですか。あれは、海外の強力なスタートアップがデザイン出身の人を経営層に入れていることから、日本でもその潮流が起きて、デザイン経営宣言が経産省から発信されたんですよね。そこから、大手企業が「C」がつくポジションを作り、CTOとか、CCOのような人を入れていくという流れでした。国の発信と大手企業が実行することで空気を作り、世の中の流れを作っていった感じだったなと。

これまでの経営者の中では、デザインは儲かるものではなくて文化行為だと思われている節があったと思うんですよ。それが数字、収益性に直結していくことを、国が言い出して大手もやり始めて、となると「やらねば」という空気になるじゃないですか。SDGsも一緒で、「みんなやってるからやらなきゃ」という感じの圧力というか。

そのような推進力となる空気の作り方が大事なのかなと思ったときに、デベロッパーも今話してきたことを考えられる人が役員クラスに入れるような突破力がないと、現実があまり変わらないのかなと思いましたね。

坂本 社外取にでっかい会社のOBとか入れている場合じゃないっていう。

一同 (笑)

"自分達とは違う領域にいる人たちと出会うきっかけがあって、エンパワーメントされる"

大谷 現状はまだ、「収益に繋がるかわからない」「たまたま有名になった事例があり会社が少し認知されるようになった」というくらいのレベルでしか考えられていないと思うんです。

それをどうやって、客観的な評価や指標などから説得性を持たせるか、ということを考えるのも大事だと思います。

このようなシーンを広げていくためには、大手デベロッパーとの関係性や、街の中でどんなポジションを取っていくのか、ということも大事だと思うんです。岡さんは現状をどう捉えますか。

 そういう案件が今2つあります。1つは小池さんとやっている「大橋会館」。あとは三井不動産とやっている案件。両方とも、今のところ驚くほど理解してくださっていて、僕らのやりたいことをかなり正しく捉えていただいた上で、一緒にやろうとお声がけをいただいているんですよね。

そういう意味では、世代というのもあるかもしれない。担当者がどちらもまさにY世代なんですよね。30歳を超えて、社内でも声がどんどん大きくなってきているときに声を掛けていただいている、ということなのかもしれません。

三井不動産だと、「SOIL」を起点に半径数百メートル以内にいくつか企画を始めていたりするんです。共感してくれて始まったけれど、次のもっとでかいプロジェクトができたら僕らみたいなのは忘れ去られるのかな、ぐらいに思っていた部分もあったんですよね正直(笑)。あそこまでの大手の会社の方が、小規模な日本橋の建物一つに時間をしっかり割いてくれて、親身に一緒にやってくれている。会社全体としての理解があるからなんだろうな、と思います。

大谷 坂本さん、いまちょっと笑った背景を説明して(笑)。

一同 (笑)

坂本  日本橋はある意味、治外法権的に動いているエリアだったりするので、ここを担当できている社員はすごく幸せだな、と思ったんです。今笑ったのは皮肉めいて笑ったわけではなくて、今ここを担当しているメンバーはすごく楽しいだろうなと思っただけなんですよ。

大きい会社は、どうしても個人的であることを削がれていってしまうと思うんです。属人的であることが削がれていくというか。特に不動産業だと「権利者」となる人がいて、権利がある人たちをまとめていこうとすることで、一番わかりやすい価値が経済性になる。そういう世界では「個人的なやりたい」ではなく「平均的になんとなくいいもの」が出来上がってしまう。「この物件面白いな」と思うのは、誰かの意思がめちゃくちゃ感じられる場所だったりするじゃないですか。けどその対極になるというか。

日本橋の担当者は、今岡さん達やそのコミュニティにいらっしゃる方達に出会って、一緒に「やりたい」を形にしているということなんだと思うんですよね。その瞬間って、めちゃくちゃ楽しいんじゃないかなと思ったんですよ。

そんな出会いや機会が増えること自体が、とても意味あることだと思うんですよね。一人一人の社員に、自分達とは違う領域にいる人たちと出会うきっかけがあって、エンパワーメントされてリアルを知れるようになる。そういう現象がもっと起きるといいんじゃないかなって思いましたね。

大谷 岡さんとの出会いがその人たちのマインドを変えていっているということ?

坂本 そういう部分があると思います。ここでも、そういうことが起きているんじゃないかな。そういう経験がすごく大事だなと改めて思いますね。

大谷 人なんですね、やっぱり。

”自分たちが関わっているまちにわかりやすい値段や価値がつくイベントを起こすこと”

 全然カルチャー的な話ではなくて、どちらかというと投資とか経済的な話をしてもいいですか?

街やネイバーフッドができていく、ということに価値がついてないことを課題意識として持っています。「マイクロデベロッパー」が増えたはいいけど、それが減らないようにするためには儲けないといけないし、誰かが価値をつけないといけないんだろうなと思っていて。誰も上場したことがなかった業界で上場企業が一社できるだけで、その業界の出口が一個見えるようになり、入口が広がるということもあると思うんです。

「ユーグレナ」が上場したことで、微生物を活用した研究のようなものにどっと世間の注目とお金が集まるようになったのと一緒かなと。今は世の中のまちづくりのほとんどが、そのまち出身で電通・博報堂に就職した人が辞めてUターンで戻るとか、2拠点で通うようになってコワーキングスペースを作ってコミュニティのような場ができて…というようなことから始まっていっていると思います。そういう動きが20年、30年持続可能なのか?という懸念がありますよね。それは東京という都市の中におけるネイバーフッドづくりも、瀬戸田のようなローカルな地域でのまちづくりも同じです。僕らの会社は、投資家がいて、ビジネスモデルをつくり上場しよう、という会社ではないけれど、一つミッションとしているのが、日本橋や瀬戸田など、自分たちが関わっているまちにわかりやすい値段や価値がつくイベントのようなものを起こすこと。例えば「3億で仕掛けたものが3~4年後に12億になった」というような事例があると、ネイバーフッドをつくることで経済的意義を生み出すことができるということがわかりやすい。その方法には何があるんだろうね、という議論を最近社内でめっちゃしています。

坂本 めちゃめちゃ大事ですね。

 それでいうと不動産はわかりやすい。まちができて密度が高い場所に多様なコンテンツが生まれると、そこが住みよくなり、楽しくなる。そうなると不動産の価値が上がり成熟する瞬間みたいなのがある気がしていて。ニセコは行き過ぎた事例かもしれないですけど、わかりやすくそうなっている。価値が積みあがっていき、抜ける瞬間をちゃんと記録して発信するという役割を担っていくのは大事だなと思っています。世の中の空気を変えるという視点で見ると、めっちゃ大事だと思っています。

 それをやる上で大事なことは、なんなんでしょうね。

坂本 みんな悩んでいますよね。

 瀬戸田を事例に出すと、直線距離400mの商店街の不動産を預けてもらい、買って、改装して、コンテンツを入れ込んで、というまさに瀬戸田の「Meaningful City」化のようなことを進めているんですね。今は東京だとたくさんあるチェーン店を、よりクラフテッドなものに変えていくという流れかもしれないですが、瀬戸田の場合はシャッターが閉まっているところを開けていくという行為なんです。一つ一つの物件の価格も安いし、全てのハードルが東京都心より低いので、僕らでやれちゃうんですよね。

外の人が移住しやすくなるような住宅と、1階にライフが見えるようなお店を商店街に整備していき、僕らが運営しているホテルと商店街の不動産全部を1個のパッケージとして、機関投資家に売る。cap12%ぐらいで回っているのを7%ぐらいで機関投資家に売ると、不動産価値としては1.7倍とかになるじゃないですか。

こういうことを一つ事例として作れて、地域性やこれからの日本の社会の在り方として、ミクロな街が育っていくことに社会的・SDGs的意義を感じた機関投資家が投資してくれると、「世の中にはこういう価値の生み出し方があるのね」「もっとミクロ単位でのまちづくりが起きていいんだ、起きるべきなんだ」というような風潮が広がっていくんじゃないかと思っています。それを瀬戸田でやりたいなと思って。そこに向けて資金の調達を今しようとしているというのが具体的な話としては一つあります。

"循環の先にあるのは、やっぱり均質化であり「gentrification」"

大谷 都心でそれが起こる可能性を、どういう風に考えていますか?

 都心・都内も同じなんじゃないかなって気はしますよね。池尻も日本橋も、出物があると競争になるが、東急や三井不動産は売らないと思う。土地と建物をたくさん持っていて、我々のような会社をコンテンツとして呼んでいただくことできっと価値は上がっているけれど、明確にはならないというか。そういうのが可視化されたらいいんじゃないかなと思っています。

瀬戸田の場合はおじいちゃん、おばあちゃんたちが土地を持っていて、それを僕らが買いに行って…。まさに線路を作るとき東急がやっていたようなことを、僕らが今瀬戸田で超ミクロにやっているんです。結局ビジネスモデルとしては同じ不動産デベロッパー運営者なので、超ミクロなだけであってやっていることはそんなに変わらないんですよね。

東急も三井不動産もめっちゃ不動産を持っている分、情報のオープンソース化のようなことをすることで、明らかになることがたくさんあると思うんですよね。

小池 まさに、池尻で実現したいなと思っています。話が脱線しますが、池尻で東急が関わる案件が何個か出てきそうで、これができる機会じゃないかなと。

坂本 日本橋も、本当はそういう評価をできるはずですよね。特にここは、「SOIL」ができて公園の景観が変わったじゃないですか。住宅にわかりやすく跳ね返っているんじゃないかと思います。今後、公園も変わるんですもんね。

 そうですね。

坂本 となると、またさらに価値も上がるだろうな。価格が上がることだけが是ではないんですけど、価値が上がるという現象があったことをしっかり記録しておくことは、かなり大事な気がしますよね。

 そうなんですよね、価格が上がったら上がったで今度はカルチャー層が生きにくい世の中になるので常にジレンマです。でも、世の中の「マイクロデベロッパー」への風向きを変えるという意義で考えると、やはり資本主義社会の中で資本の価値が上がったと言えると大きく変わりますよね。

カルチャー層は、常に次の場所を探していくんですよね。ソーホーの次はブルックリンというような感じで、見つけることがカルチャー層の役割とも捉えることができるのかな。いや、ジレンマですけどね。

その循環の先にあるのは、やっぱり均質化であり「gentrification」だから。自分のこのロジックにも、何かしらの「illogical」な部分が含まれていますよね。

坂本 そうなんですね。ここのあたりを三井不動産がやっていることでいいなと思うことが一つあります。室町のエリアの再開発で地域の土地の価値がぐっと上がったんです。それと対照的にこの東側のエリアは中小ビルを買って、価格をあげない努力をしたんですよ。室町や西側の不動産価値が高まり、東側も住宅が増えて本当は土地の価値が上がっているはずなので、高い賃料で貸そうと思えば貸せると思うんです。けど、多様性を担保するために上げないという判断をしたということなのかなって。

 すごいことですよね。

坂本 上がったエリアがあるから上げないエリアを作るという判断をしたのはいいなと思ったし、デベロッパーの責任なのかもしれないと感じました。上げないエリアをあえて残しておくということも大事なんじゃないかと思っていた時期がありました。

"リターンの目線や、ミーニングフル指数のような評価指数もデータとしてサンプルされているといい"

大谷 それで思い出したのは「鎌倉投信」という会社。

坂本 近しいマインドですよね。

大谷 投資をする対象の人たちに、稼ぐことだけでなく、社会にとっていい活動を求めていて、その上で投資される人たちは「頑張ってリターンもつくります」というスタンス。そういう概念が必要なのではという気がする。

坂本 時代的にもそういうことを評価しようという流れがでてきていますよね。

大谷 リターンは、金銭以外のほうがいいかもしれないですよね。意味的報酬がそこには絶対にあるはずで、「鎌倉投信」は記憶曖昧ですが、投資を行った人とファウンダーや経営者が対話する場を丁寧にセッティングしたりしていたはず。

坂本 対話の場があると意味を見出しにいきそうですよね。

大谷 そうだよね。金銭化されない意味的報酬がそこにあるというか。

坂本 対話しないと、わかりやすい価値、例えば数字だけで判断されがちになる気がしますよね。対話があるから投資した側も何か価値を引き出そうと思うし、その仕組み素敵ですよね。

 面白いですね。ミーニングフル指数とか作ったらいいんじゃないですか。(笑)

大谷 そういう話がよく出るんですが、自分は全然数字とか弱いタイプで、とにかく作りたいという感じなので、そこはプラットフォーム内で同じ思想を持ってる人たちが作っていけるといいんだろうなと思っています。

 それめっちゃいいなぁ。

大谷 さっきのクラフトビールのアナロジーで考えると、数が増えてこないとインパクトが出ないということなんでしょうね。大手の人たちも「こっちもやらなきゃ」と思うような状況をどうやって市場全体で作っていくのかが、改めて大事なのかなと。増やしていくために、さっきの価値付けのようなことも大事になってくる。

 うちで新しく、非常勤で役員をやってもらっている人がいるんですが、その人が社長として「ニューローカル」という新しい会社を作ったんですね。で、うちもそこに出資をして。

その会社は「ローカルデベロッパー」や「マイクロデベロッパー」のための情報と金の取得費用を極限にまで下げるということをミッションに掲げています。それはある意味、民主化するというか、もっといろんな人がマイクロデベロップメントをやれるようにする世の中を目指しているので、ここまでの議論とどんかぶりしているなと、今改めて思いました。

僕らが瀬戸田でなんとかやれているのは、僕が元々金融出身者だからというのも一つあると思っています。普通の運営会社だったら難しいファンドレイジングのような部分が、他の会社よりは少しハードルが低かったかなと。そもそも瀬戸田だと土地も一軒あたり200〜300万円とかなんで。

坂本 素敵(笑)。

 素敵でしょ(笑)。そういう世界観なのでなんとかやれているけど、そもそも意志やクラフトマインドセットがある人や、「自分事としてこのビルを作りたいんだ、こういう街にしたいんだ」という熱い思いがある人は、ファンドレイジングスキルやロジカルシンキングのような能力がない方が普通なんだと思うんですね。そういう人たちが参考にできる事例や成功モデルがあって、リターンの目線や、ミーニングフル指数のような評価指数もデータとしてサンプルされているといいなと思いますよね。

不動産投資の延長線上だと、国債の利回りに対してどのくらいのリスクとスプレッドがあるか、という目線でしか投資判断されないと思うんですよね。例えば、「マイクロデベロッパー」にお金を預けるという投資判断をするときに「国債と比べて何%追加で利回りもらえます」というような判断軸の世界じゃ絶対だめじゃないですか。その辺の軸を作っていかないといけないと思っています。個数を増やすためにやるんだけど、個数がないとそのデータは取れないので、悩ましいところですけどね。

極論、個数が増えていないのは、人も情報もお金も全部足りていないということだと思うんですが、最も取得コストが高いものの一つがお金だと考えると、そこを解決することでもう少し加速していけるんじゃないか、と金融出身者として感じています。

今の話だと難しく聞こえますが、クラファンに近いことだと思うんですよね。「こういうお店をやりたい」「こういうビルを作りたい」という人を応援するだけではなくて、「このNFTを買うと街の全体の盛り上がりにベットできる」というようなスタイルでファンドレイズやクラファンができたりするということ。

「ビールやウイスキーをつくるから金をくれ」というようなクラファンは、各個人のプレゼン能力や経歴に依拠しちゃうところもありますよね。それは、自分事として街を良くしていくというような思いを持っている人とはちょっと性質が違うので、もう少し街に焦点を当てた資金調達の方法が確立されて、資金調達コストを下げるというようなことは結構大事かと。

大谷 そういう、ネイバーフッドファンドみたいのあったらいいですよね。

坂本 会社にいた頃に構想していたことがあったんですよね。リスクが高いということで動かなくなっちゃったんですけど。

大谷 何をリスクと考えるかだよね。人間の関係性ほどリスクを減らすものはないというか。困ったときはみんなで助けようと思える関係性こそが1番リスクヘッジであるという。

 ですね。

坂本 取得コストが高いのも含め、不動産はわかりにくくて気軽さのない世界だと思われていますよね。さっき岡さんもおっしゃっていたけど、そこのオープン化も必要ですよね。もうちょっと気軽に一歩踏み出せるような世界になるということも。

 あれですね、飲みに行きたいですね(笑)。

一同 (笑)

 うちの会社メンバーも入れて話したいですね。

”必ずしも決まったスキルを持っていないとできないというわけではないんだな”

大谷 「Meaningful City」の取り組みは「何かをやる」という定義は明確になくって。自分や坂本さんは、このようなリアルな実践の方に興味があるので、今回このインタビューを企画してみたんです。一方で立ち上げメンバーの山崎さんは、アカデミアの方に興味がある。本をたくさん読んでそれを分析して統合していくみたいな。

 すごい。

大谷 業界にも影響力のあるアカデミアの世界に、どう伝えれば説得性を持つのか、というようなことが大事だと言っていた。その通りなんですよね。全員で一緒に、合意形成をしながらやろうと思うと、マガジン一つ作るにもなかなか話がまとまらなくて(笑)。それをやりながらも、それぞれの興味単位で小さなプロジェクトを何個か立ち上げていって、とりあえず知とネットワークをぎゅっと集めて、みんながアクセスできる状態を作れたらいいなと話をしていたりします。

 めっちゃいいですねそれ。

小池 お金をしっかりつくるというところができる人は、以外と少ないような気がしています。岡さんのような動きが出来る人が、なかなか増えていないのはどういう背景なんですかね。

 どうだろうな。あ、話が地方よりになっちゃっても大丈夫ですか?

坂本 全然大丈夫です。

 自分は日本橋の捉え方も、心臓のポンプのようなものとして考えているんです。地方に人を送り出すような場所として捉えているので、自分が「Meaningful City」というテーマを考えるときの「city」は、「town」や「village」に近い単位で考えがちなんですよね。

周りで起きているパターンをみたときに、まずは「スイデンテラス」の山中さんを想像するんです。まさに自分とちょっと似てるというか、多分歳も近い。まだお会いしたことないですが、三井不動産出身ですよね。価値ゼロだった農地を農転して商業化し、価値を出して、お金を借り入れて「スイデンテラス」を建てたり、産学連携で研究室を補助金貰ってつくっていったり。その地域をよりよくする意志というよりも、不動産業界で得た知識を活かしてオポチュニスティックに街づくりに入って行った事例かなと思っています。

あとは富山県井波の山川さんという建築家の方とか。建築家だからこそ、その地域の古民家や使われていない建物を見たときに、「いくらぐらいかけるとこんないい感じのものになる」というのがわかるんですよね。だから自分で最初から借りてやり始め、それを周りの人も真似していくことで、いい感じの街並みが新たにできていったというパターン。

どちらもやはり専門知識があってなんぼ、というところがあると思っています。まちづくりとはそういう人がやるべき、という結論もあるのかもしれないですけど、民主的にいろんな人が参画したりできてもいいよなと思っていて。

それでいうと、めちゃくちゃ尊敬している事例がもう一つ。香川県の三豊というところの、古田秘馬さん。「六本木農園」や「丸の内朝大学」などをつくった人。三豊に縁もゆかりもなかったが、本当にあらゆることを知っているんですよ。慶応を出ているんですけど、セリエAの下部リーグでサッカー選手をやっていたこともあって。経歴が宇宙すぎて世界のあらゆることを知っている人。

喋るのもうまいから色んな会議に呼ばれている中で、三豊の街づくりに絡むようになったんだと思うんです。彼はプロデューサー的な仕事をするんですよね。「自分が三豊の街づくりの旗振り役をやってるぜ」というモデルじゃなくて、地元にいる人に「お前多分こういうの得意だから、こういうのやったらいいよ」とけしかけまくってやっているパターンなんです。

坂本 エンパワーメント、めちゃめちゃ大事ですね。

 そう。俺ができていないことだったからすごく尊敬しているんですよね。全部のプロジェクトを誰か1人でやるのではなくて、地域の企業みんなでお金を出し合って、議決権をそれぞれ1票ずつ持ち、絶対まとまらないであろうリスクを取りながらホテルを作ったり飲食店を作ったりしているんですよね。で、利益をみんなで分けようみたいな。

「甲子園にあと一歩で出られたくらいのエースピッチャーが不良になって地域でくすぶっていたんだけど、レストランをやってみたら成功した」というような事例が結構ポコポコあるんですよね。誰か1人がまちづくりの旗振り役をやっているわけじゃないけれど、まちづくりは確かに起きている。かつ、まちづくりをやりたい、不動産に詳しい、金融に詳しい、などでは全くなくて、オーガニックに立ち上がっている事例だと思っています。その動きを作ったのは間違いなく秘馬さんなんだけど、「秘馬さんが三豊をつくっている」という感じには全然なっていなかったりする。

このようないくつかの事例をみると、必ずしも決まったスキルを持っていないとできないというわけではないんだな、と思いましたね。

大谷 ある種、黒崎さんもそういう感じですかね。

 かもしれないですね。確かに。「やっちゃいなよ」という感じ。

大谷 自分はどちらかというとプロデューサー側の人間だと思うんですけど、これは天才クラスというか、努力でどうこうでなるレベルではないというか。

一同 (笑)

大谷 偶然の産物に近いというか。自分も飲食の人たちと会話できたりするのは、本当にたまたまで。めっちゃ努力してきたかといったらそうでもなくて、流れの中で一生懸命やってはきたけど、狙っていたわけじゃない。難しいのは、ビジネスの言語を喋れる人がカルチャー側に入ってくるということの、そもそもの総数が少ない気もしていて。なぜかというと、そっちに興味を持つのは、ある種の狂気性のようなものを持っている人が少ないのかなって。

「BnA」は元々コンサル出身のメンバーがいるから、よくわからない大人の遊びのようなことが成り立っていますよね。「Minimal」も、山下さんが元々コンサル出身なのでビジネスをうまく立ち上げられたのではないかな。では、そのような人たちをどう量産するのか、ということになると、さっきのプロデューサー天才領域に近いのかなと思う。結構むずかしいな、と思ってはいたんですよね。

 確かに。それは本当に悩ましいというか、その通り。

大谷 いなくないですか、あんまりそういう人。

 世の中に必要なネイバーフッド的なものの総数と、そのきっかけをつくれたり、旗振り役をやれる人の総数にめちゃくちゃギャップがあると、結局同じような街がたくさんできちゃうというジレンマはありますよね。始めのコストを下げて、自発的に始める人たちを増やすということをしないといけない。もしくは、大谷さんの言うように、それは偶然の産物でしかないから、偶然の産物で仕事に関わっている人たちが思いっきり活動しやすい領域を大企業とともに作っていき、スーパー成功事例のようなものを、世の中に5件とか10件とか作るとか。それくらい事例ができると、あとは勝手に裾野が広がっていくのかな。

とりあえず「meaningful」なネイバーフッドを10件つくっていこう、みたいな。その10件はそれぞれ旗振り役だったり関わっている人がちょっとずつ異なり、多様な10件を作ろうよ、というぐらいでフォーカスするのが実はいいのかもしれないですね。

坂本 こういう「マイクロデベロップメント」みたいなことをやっているおじいちゃんは、まだいないじゃないですか。今はまだ若い世代がやっている。

 確かに。ジェネレーションの話に戻ってくるとそれはその通りですね。ここに興味を示す層が10代から90代として見たときに、すごく限定的な層な気がします。それは育った社会背景などが影響しているのかな。どうかわからないですけど。

坂本 そうですよね。それに、まだ若い層に留まっているから母数が少ないってこともあるのかなって。経験した人が増えていくとそれを見て下の世代にも降りていくんじゃないかな。場合によっては上に広がっていくこともあるかもしれないけど、今その広がり始めのタイミングなのかなって感じもする。

 そうですね。それは確かに。

大谷 ビジネスや金融の言語を持った人たちが文化やカルチャーに進む確率を増やすことはできると思いますか?

 絶対できると思います。自分が金融にいた頃は、「カルチャー側にいってやる」と思って仕事をしていたわけじゃないですが、人との出会いなどをきっかけに流れていったんですよね。それをちゃんと誘発できれば確率はすごく上がるんじゃないかな。僕自身そうだったから。坂本さんも三井不動産に入ったときに、今のこの状態になっているとは想像してなかったでしょ?

坂本 ずっといると思ってました(笑)。

 ですよね。「御社に入りたいです」って言うもんね。

一同 (笑)

 そういう意味では、人と出会って考えが少し変わっていくとか、相関し合うこととかが「meaningful」だという定義に立ち返れる気がしますよね。自分の生きているベクトルの世界線の中で、出会わなかった人と出会う機会が誘発できることで、その可能性は上がる気がします。

坂本 そうだと思います。

 それでいうと、僕はBackpackers' Japanに27歳ぐらいのときに出会い、4年ぐらい役員をやらせてもらったことは大きいですね。僕がそれまで培った、いわゆる会社での能力をカルチャー側の彼らが欲していて、手伝ったことで自分はもっとこっち側で生きていきたい、生きていけるという勇気が湧き、今の仕事をしているというような流れだったりします。

でも、そのきっかけは完全に偶発的なので、それをどう誘発できるかはめっちゃ難しいですけど…。そう思っているカルチャー側の会社だったり、そう思ってるコーポレート側の人だったり、潜在的にニーズとしてはすごくある気がしています。

"飲食ど真ん中の会社じゃないから、ということですかね"

大谷  だいぶ自分が話しちゃった(笑)。小池さん何かありますか?

一同 (笑)

小池 僕は飲食をやることがめちゃくちゃ大事だなと思うんですけど、insituは飲食をやるときにすごいプレイヤーを連れてくるじゃないですか。そういうプレイヤーの方たちがinsituを頼るときの価値は、どういうところだと思われますか。結構すごい人たちが集まっているような気がするので、その方たち単体でもできるんじゃないかとも思ったりするんですけど、どうやって一緒にやられているのかなって。

 よく言ってもらえるのは、飲食ど真ん中の会社じゃないから、ということですかね。超ドライな話でいうと、料理を作れる、コーヒーは淹れられるけど経営やお金を調達することができなかったり、ハードスキルとして持っていないところに対して「カルチャー側の自分を超リスペクトしてくれて、その残りのところを全部やってくれそうな岡さん」みたいな期待のされ方はある気がしています。

一同 (笑)

 これめっちゃあると思ってて。実際そうなので。僕「すげーな」しか言わないから。料理も「おいしい、おいしい」しか言わないから(笑)。

一緒にやりたいなと思ってくれる理由として、それはすげーありますね。あとは飲食の人たちがよく言うのは、「業界がもっと変わるべき」みたいなこと。ホテルでも飲食でも、労働環境や給与はもちろん、クリエイティブに対して支払われる対価や、社会性みたいなこととかも。土壌を大事にする農業を兼農しているとか、食って社会性のあるテーマに密接しているけれど、レストラン単店だとマニアックなことを言うだけで終わってしまう感じがあるよねと。

「LURRA」みたいに、上手くやれているところはありますけどね。ローカルソーシングや京都の大原の野菜のプレゼンなどを、他よりもしっかり発信しているなと思う。「BEARD」の原川さんも、地方の食の可能性やサステナブルの食などを啓蒙していたりするが、おいしい料理を出すだけではなくて、自分のやっていることの社会的意義をちゃんと外に出して語っているんです。これは、ほとんどの人はできないですよね。

そこまでをやれそう、という声は結構もらったりしますね。飲食も複数店舗やっているし、もう少し広く「まち」というテーマでもやっている分、共感するムーブメントがあり、そこに乗っかれるとか、そこを一緒に作れるとかっていうことは、ただ厨房に立って料理を作っているだけではできない。そういう声も多いかもしれないですね。

大谷 イートクリエイターってあるじゃないですか。イートクリエイターの立ち上げからいた森枝君も長い付き合いなんですけど。

イートクリエイターは、スキル的にお互いができないものを持ちあうという感じで組んでいると思うんですけど、ずっと愚痴を言っているんですよ、結局。

「金融の論理みたいなことであれやこれや口だけ出して」みたいな感じとか、立ち上げてからずっと言っているんですよね。

一同 (笑)

大谷 そこ結構むずいなって思うんですけど、永砂さん的には歩み寄ろうとしているし、永砂さんの力が必要というのをシェフたちもわかってはいるけれども、究極的なカルチャーフィットみたいなところは、深くコミットすればするほど難しいんだろうなって。

 めちゃくちゃ難しい領域ですよね。料理と経営に限らず、さっきのカルチャーとか、マイクロと大企業とかも。このテーブルは、対比の存在を何かしら解決に導こうとしていると思うので。そもそも、今の世の中の構造上会ってこなかったものを会わせようとしている感じだから、難しいですよね。

永砂さんと森枝さんに関しては歩み寄ってはいると思うけど、永砂さんは最初から資金調達して上場目指しているし、合わない中でもより合わないんじゃないかって気がしてますけど。

大谷 双方打算があるんですよね。組んでる時点で。

 あ、打算の話良いですね。打算とか邪気のなさっていうのは意外とでかいテーマかもしれないですね。人間関係、会社関係なんで、利害はあるけど打算的じゃない、共通の利があるみたいなのはすごくいいキーワードの感じがしますし、そこが崩れるとやっぱり。

大谷 揉めたときによりどころになるのはそこしかないですもんね。そもそもボキャブラリーが違うし。

 ですね。


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