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TOKYO PARALLEL GUIDE -Ideas for Meaningful City- が目指すこと

2019年12月、代々木上原にあるカフェバーNo.(ナンバー)にて、「Meaningful City -意味から都市を考える- 」のVol.1イベントを開催した。
Meaningful Cityは、スケールの大きな都市と比べると、とてもマイクロな“個人の意味づけ”から描く都市のアイディアであり、それは、”ありえるかもしれないもう一つのパラレルトーキョー”を描き出していく。そして、これらアイディアの集積が、ありえるかもしれないもう一つの東京のシティガイドブック「TOKYO PARALLEL GUIDE」となって発行される。詰まりは、このプロジェクトの目指すゴールである。

プロジェクトのコアメンバーは、イベント開催までに、約1年2ヵ月議論を続けてきた。

ここでは、イベントでは時間の都合上明かせなかったプロジェクトの経緯や議論のプロセスから、なぜ始めたのか(WHY)、何をやるのか(WHAT)、そして、どのようにやるのか(HOW)を紹介し、このプロジェクトの目指す真意を紐解いていきたい。

業界間のコミュニティ分断の気付き

2018年10月CITY TRIP REPORTというイベントが、デザインチーム301主催により開催された。クリエイター・デザイナーと、まちづくりに関わるメンバーが、夏に各自訪れた海外の都市をレポートするというシンプルなフォーマットであったものの、業界内でよくある海外視察報告会などとは少し雰囲気が違った。同じ都市の報告会でも、それぞれ異なった文脈から語られる都市は、見ている視点や切り取られるシーンが微妙にズレ、それが全く別の都市の様相にすら感じさせたのである。

打ち上げの後(渋谷スクランブル交差点あたりで)、改めて都市についての話となった。それぞれの文脈や用いる言語は微妙に違うものの、今の都市を少しでも良くするために何ができるだろう、という根底部分の課題意識は共通していることがわかった。合わせて、業界間のコミュニティが分断されていることに気付かされた。

(山﨑)少し私の話をすれば、私は都市開発事業という業界に席を置き、約10年ほどになる。この業界は近年、都市開発事業を「街づくり」と呼ぶ。それは、最高の眺望、豊かな緑、都会らしい流行りのお店、子供と遊ぶ家族の賑わい、空には色とりどりの風船が飛ぶ・・・そんな数々のワンシーンを“未来の”思い出アルバムのように並べ、ライフタイルという見えない糸によってストーリーとして紡がれる。それは、まるでユートピアのようで、あなたの幸せが実現される街が出来上がりました、といった具合に。ふとグーグルマップの航空写真で「街」を俯瞰すると、多少の色や形に違いがあるにせよ、そのユートピアは、他のビルと変わらない鉄筋コンクリートの塊として実在しているように見えるのである。

こんな経験を日常的に10年もしていると、都市という場所は、幻想や現象なのではないかと、蜃気楼でも見ている気になる時がある。(先日のMTGで認識論として、ユクスキュルの環世界、日高敏隆のイリュージョンの話をしていた、この辺りも今後掘り下げたい。)
また同時に、この「街」は、資本主義社会における「商品の街」なのではないかと。

東京という都市を都市開発だけで語るのは、あまりに不足していて、あくまで東京の都市づくりの一端にしかすぎない。
これまでも、現在も、国や行政、都市専門家らによって、国内外の事例調査や統計データから導き出した手法や技術、まちづくりの理論など、本当に多種多様な取り組みがされていて、私がここに文章として書くことすら躊躇いを感じるほど。

その一方で、街の使い手たち、つまりそこで暮らす人や訪れる人は、なぜこんな街が出来上がっているんだ、ちっとも綺麗じゃないし、面白くない、欧米の都市はあんなに素晴らしいのに、、、、という感想を聞くことがある。(私はJ-WAVEをながら聴きするが、少なくとも1ヶ月に1回はこの話題が出る。)
その要因は「見る人側」にあるのか、「見られる都市側」にあるか、またはその両側にあるのか、一概にいえない。その要因自体も複雑だし、要因同士が絡み合い超複雑化している。
少し角度を変えて、街の使い手の“都市の捉え方”として、「自分の都市」か、「自分以外の誰かの都市」か、で分けて考えてみると、多くは後者なのではないかと推測できる。それは、自分の手が介入していない、又は自分の手が介入することができないという前提に立った感想のように思われるからである。

二手に別れた話を収束させ、私の抱えていた課題感を整理するとこうなる。
一つ目は、幻想や現象のように見える都市開発事業を、認識論的観念論から実在的観点で本質的な街づくりに少しでもシフトさせていくため、合理性や効率性を唯一の基準とするではなく、文化的(資本主義社会によって知らぬうちに規定される“ふるまい”から消極的自由を手に入れる方法として)で、人間的(感性や楽しいことなど)な基準をもつことの必要性を感じていること。
そのためには(都市開発事業に限った話ではなく)、二つ目の、街の使い手側が「自分の都市」であるという状況になり、作り手と使い手が一緒になって都市を描く必要性を感じていたこと。

(大谷)301が目指すのは、すべての人が「人生を通してやりたいこと」と「仕事として向き合うこと」を等しくできる社会である。そのためには「個人の絶対価値」と「社会的な相対価値」を一致させていく必要がある。言語やビジュアルや体験を通してそれらを論理的に実現していく。301が考えるデザインの役割とは、そういうものであるという思想がある。

この理想を現実へと変えていくには、対象のスケールが大きくなればなるほど難しいという問題に直面する。数席の小料理屋という経済圏では実現可能なものが、都市や街という関与者の数のスケールが大きいものになるほど、この理想の実現は難しい。だから、それはそういうものでしょ、と割り切って生み出されている建前的都市が、今自分たちが生きている場所なのだと思う。

個人の「意味」の集合体によって、都市全体が成立する世界。そんな理想を追求しようとするのがこのプロジェクトのビジョンである。そしてそのための第一歩であり最も重要なことが、「断絶しているコミュニティ」の接続である。価値観を共有できる、しかし異なる領域にいる人々をつなげること。「都市をデザインする人々」と「都市を使いこなす人々」を、利害関係ではなく、人間的につなぐということ。それによって、遥かなる理想のように思える世界が、意外と手が届く距離まで近づいてくるかもしれない。

作り手と使い手が共に都市を作ったとしたら

その数日後、表参道の蕎麦屋で、301メンバーが「if City」というコンセプトを持ってきてくれた。SF風の画像が上部にあるA4サイズの一枚の紙には、『あらゆる創造性はすべて「if」という想像から始まる。もし、あらゆる規制が変更可能だと想定したとき、都市計画の裁量が市民に委ねられたとしたら、この世界には何が起きるだろう。』と書かれていた。
その一枚の紙から、このプロジェクトが小さくスタートした。

最初の議論は、主に自分たちが暮らす東京の都市について。
どういう都市、どういう暮らしが理想的かという話題が中心となった。そのあと次第に、なぜ、今の都市はこのようになっているの?という話になってくる。そして現代の都市は、経済や機能の合理性や効率性に支配されすぎている、という結論に行き着くことが多々。さらには、創造性を失った都市のイメージが輪郭を現してくると、それがデストピアにすら見えてきて、これから私たちは都市に未来を見出せるのだろうかという疑問がわいてきた。

そしてその場には、もっと文化的なにおいのする都市が良いな、という漠然だが、なんとなく共有できる価値観ができてきた。

「もっと個人的な感情や情熱、感性といった面から都市を描いたらどうなるか。」

そして都市を描く過程には、都市の作り手(都市に関わる専門家や実践者ら)と一緒に理想の都市を描いていくことで、作り手と使い手の分断されているコミュニティの接続にも繋がっていき、描かれた都市が、単なるユートピアではなく、現実の都市に少しでも変化を与えられる、実装可能なアイディアにできればという話にまとまっていった。

“価値”ではなく、“意味”から考える

理想の都市を描くにあたり、個人にとっての“意味”のある都市とは、という起点を作った。

理想的な都市とは?という問いを立てると、感覚や感性の答えから遠くなる。
例えば、気持ちよく過ごせる屋外空間、心にゆとりが生まれる木々があるなど、機能的な答えになることが多いのではないだろうか。(都市計画の書類は、さらに簡素化され、物理的機能や効能のみでまとめられる。)
これらの回答に基づき整備された都市・都市空間の「機能」は、「価値」を持つことはできる。

一方で、その価値のある都市・都市空間には、“わたしの感情や感性”が消えてしまうのではないかと考えた。(価値のある都市・都市空間自体を否定したいわけではない。)

そこで、個人にとっての”意味”、つまり、わたしの感覚や感性そのままの、他人に共感されない共有できないレベル(実際には言語化する時点で共有できるレベルにはなるが)から、理想の都市のアイディアを考えるという起点を立てた。
このアイディアを集積させた都市が、ミーニングフルシティとなる。
これは、合理性や効率性の基準に対するカウンターであり、当プロジェクトのコンセプトでもある。

人と文化を感じるのは、合理性ではなく、”感覚” や “想い” といった、もっと非合理的な個人の ”意味” だ。(TOKYO PARALLEL GUIDE statement)

“ありえるかもしれないもう一つの東京”のシティガイドブック

当プロジェクトは、都市の作り手=コラボレーターが順次入れ替わり、個人の “意味” を起点にしたMEANINGFUL CITYのテーマを毎回それぞれ設定し、ありえるかもしれないもう一つの都市を、メンバーとともに描いていく。
そしてこれらアイディアが集積されたMEANINGFUL CITYは、東京のパラレルワールドとして、架空の東京のシティガイドブック、TOKYO PARALLE GUIDEとして制作していく。これは、架空の世界の人々にとってはリアルな街の「ガイドブック」であり、現実の世界の人々にとっては理想とする都市づくりの「ガイドブック」となるものである。

冒頭述べた通り、このガイドブックを制作することは一つの当プロジェクトのゴールである。ただしそれはあくまで手段であり、この制作プロセスを通して、都市の作り手と使い手、業界間のコミュニティを融合させていくことが、我々の本当の願いである。

おわりに

イベント「Meaningful City -意味から都市を考える- 」Vol.1のテーマは「偶然性を設計する」とした。その詳細は、別の記事としてまとめていく予定だが、このテーマを設定するにあたり、都市とは何か、都市の意味とは何かという再定義の議論を再三おこなった。そして、設定されたテーマに対して、コラボレーターと各メンバーそれぞれの文脈を語り、ディスカッションやリサーチを通して、それぞれの解釈論を展開した。これらのプロセスも、とても有用な知見が蓄積される可能性を感じたので、うまくアーカイブして、発信していきたい。

今後は、イベントとともに、公開オンラインミーティングなどのアクションに加え、得られた知見を、記事などでアーカイブ・発信していきたい。また、よりコミュニティの融合を図るための施策も考えたい。ぜひ、一緒にパラレル東京を描いていく仲間を集めていきたい。

コアメンバー

山﨑 正樹 
森ビル株式会社 / 日本大学理工学研究所客員研究員。大学・大学院で都市計画を専攻。都市開発と公共空間の研究を行い、2010年森ビル入社。これまで都市計画、タウンマネジメント、住宅新規事業の業務に従事。また、都市の文化やアイデンティティを創ることに繋がる都市開発論について研究を行う。
大谷 省悟 
301 プランナー/ディレクター/CEO。映像プロダクションにてCM制作に携わった後、プランナー兼ディレクターとして独立し、多様な文化領域を横断するプロジェクトを多数主導。2014年、株式会社301を設立。ビジネスとカルチャーを横断する様々なブランド開発プロジェクトに参画。プロジェクト全体のコンセプト開発やスキーム設計を担う。
石川由佳子 
N/A アーバン・プロジェクト・ディレクター。ドイツで暮らしていた経験から日本の都市のあり方や人の営みが起こる“源”に関心を持ち上智大学にて都市社会学を専攻。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立。体験をつくることを中心に「場」のデザインプロジェクトを数多く手掛ける。渋谷の都市づくりをボトムアップ型で実践していくShibuya Hack Project、足立区との産業支援プログラムGood Survive Projectの立ち上げに関わる。現在は編集者の杉田まり子とリサーチユニットを立ち上げ、Good News for Citiesというプロジェクトでポッドキャストやニュースレターを配信している。http://na-tokyo.com/
宮崎 悠 
301 グラフィックデザイナー/ディレクター/CCO。1984年 東京生まれ。たった0.1秒のコンタクトでも人の心を射つビジュアルコミュニケーションに魅了され、グラフィックデザインの道を志す。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、広告会社を経て独立、301設立に参加。同社Chief Creative Offcerとして活動中。グラフィックデザインに軸足を置きつつも、ブランドコンセプトやビジネススキームの設計提案など、多岐に渡る表現を得意とする。フリーランスデザイナーとのパラレルワーカー。
細川 紗良 
301 プロジェクトマネージャー。2019年武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科卒業。片山正通ゼミでインテリアデザインを学ぶ過程で、インテリアという領域を超えて食文化や音楽、都市空間など、人をとりまくあらゆる領域を横断的に行き来できるようなプロジェクトに関わりたいと感じ、デザインチーム301に参画。No. の立ち上げではプロジェクトマネージャーを経験。
中村 拓朗
1996年生まれ。慶應義塾大学SFC在学中。大学では、前半でデザインや心理学を学んだ後、現在は人間と計算機の関係性に興味を持ち、脳波データと機械学習を使った研究を行なっている。学外ではフリーランサーとして主にUX/UIデザインに取り組んでいる



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