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ビジネスモデル研究「金型業界のAmazon」ミスミ

僕とミスミとの出会い

製造業界に足を踏み入れた当時、僕は勉強しなければならないことだらけだった。機械部品にどういったものがあるのか。工作機械とは何か。旋盤やマシニングという基本的な用語も何一つ知らなかった。

そこで社内の先輩に「何から勉強すればよいですか?」と聞いてみると、返ってきたのが「ミスミという会社のカタログを見るところから始めるといいよ」とのことだった。

ミスミ・・・?

それは初めて聞く社名だった。しかし、調べてみるととんでもない会社であることがわかった。製造業以外での知名度は低いのかもしれないけれど、そのビジネスモデルや社内文化については他業界も参考にできる部分があると思ったので記事にしてみる。

ミスミのプラットフォームビジネス

株式会社ミスミ会社紹介
https://www.youtube.com/watch?v=S4OACqWYZ9Q

ミスミは「ものづくりの、明日を支える。」をスローガンに掲げている。その事業内容は流通業と製造業を併せ持ったユニークなもの

1963年以降、ベアリングの販売から事業を開始し、その後幅広くを金型部品の販売を手掛けている。自社で製品を受注し製造・販売するメーカー事業に加えて、他社製品の販売も手掛ける代理店のような役割も果たしている。その圧倒的品ぞろえから、「金型業界のAmazon」なんて呼ばれることも。

もちろん、歯車だって取り扱われております。

つまり、製造業界のプラットフォームとしての立ち位置を確立しているということ。機械設計するときも、部品の調達をするときも、工場の自動化を進めたいときにも、ミスミを使えば解決できる!ということになるのだろう。

とこれだけでもかなりインパクトのある内容だと思うが、ミスミが注目される理由はそれだけではない。ミスミはこれまでにいくつものイノベーションを製造業界にもたらしてきた。それらのうちいくつかを紹介する。

ミスミのすごさ① 辞書のようなカタログ

上述した通り、ミスミは「金物業界のAmazon」である。ミスミを頼れば製造業で用いられる備品の調達はほぼ完結できる。それを象徴するのがミスミのカタログだ。

注目してほしいのはこの分厚さ。辞書か?と疑いたくなるほど分厚い。

でもひょっとしたら、本当に辞書なのかもしれない。

機械設計をしたいときや、どんな部品が存在するのかを調べたいとき、このカタログを見れば理解することができるからだ。

部品メーカーのHP情報を一つ一つ調べていると、時間がいくらあっても足りないし網羅性がない。先輩が「ミスミから知るとよい」とアドバイスしてくれた理由もよくわかる。

近年ではカタログもアプリとなり、重い冊子を持ち歩かなくてよくなった。

ミスミのすごさ② 部品の標準化

金属部品の「標準化」を行ったこと。これがミスミの偉大な業績だろう。

ほとんどの金属部品というものは以前はすべてオーダー品だった。機械メーカーが図面を描き、部品メーカーがそれを元に一から設計・製作を行う。注文を受けてから納入の納期は長く、メーカーもその都度金型を作ったり機械の設定を考えければならない。当然、コストもかなり高くなる。

「標準化」によってつくられる標準品は、オーダー品とは真逆の考え方だ。需要の多い製品の規格をあらかじめ決めてしまい、決められた製品を提供する。機械メーカーが仕様を決めるのではなく、部品メーカーが仕様を提案してしまう逆の流れを作ったのだ。

これによって、短納期・低コストの実現が可能になった。

それだけではなく、より機械設計にくわしくない担当者であっても製品の発注ができるようになった。機械メーカーの担当者は指定された製品を購入するのだから、図面を書く必要がない。型番を指定するだけでよい。上述したカタログビジネスが成功した背景には、こうした標準化という発想の転換があったのだ。

ミスミの人材

そんなミスミは人事制度や育成理念もユニーク。

「経営者人材の育成」という言葉が頻繁に使われており、高い視座を養うことや自分自身で事業をつくることが推奨されている。

企業口コミサイトopenwork(旧vorkers)を眺めても、そのことは多くの人が言及している。これは、かつて多くのミスミ社員が社内の全体最適ではなく部分最適に陥ってしまっていたことからの反省で生まれたものだと聞いている。プロ経営者である三枝氏の本に詳しく書かれているので、この本についても後日感想を提出する予定です。

『ザ・会社改造』 三枝匡 著

感想

「標準化」による発想の転換は学ぶところが大きいと思った。新しいアイデアは既存のアイデアの組み合わせなので、他業界の企業こそミスミから新たなビジネスモデルのヒントを得られるかもしれない。

ただし、当然ではあるけれども、すべての企業がミスミの真似をすればよいというわけでもない。

ミスミにはQCTモデルという言葉がある。Quality(高品質)・Cost(低価格)・Time(確実短納期)の頭文字であり、ミスミの内部で最も大切にされているものの一つだと思われる。

部品の標準化とそれによって実現したカタログビジネスも、このQCTモデルに沿って試行錯誤し続けたことによる賜物だろう。逆にオーダー品を一つ一つ丁寧に手掛けることを大切にする企業がこのモデルを使ったとしても、きっとうまくいかないに違いない。

まずは自社の文化や大切にしたいこと知ること。そのうえで、必要に応じてミスミのフレームワークを活かせないか検討してみたい。

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