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ようこそ! ちょっと風変わりで、とても短い掌編小説はいかがでしょう。

第8話 お化け屋敷(その一)
https://note.com/tozoshort/n/n450dec058db6

第9話 お化け屋敷(その二)
https://note.com/tozoshort/n/ne0fbf742eb31

第10話 お化け屋敷(その三)

 どうにか、山本君のアルバイト初日が終わった。だが、その夜のこと。自宅に帰った彼に不思議な現象が起こった。

お化け7

「よっ、俺様は冥界を取り仕切る〝ヤマラージャ〟というもんだ」
「な、な、な……んですか?」突然、何の前触れもなく、化け物が目の前に現れたのだ! これには、山本君も焦った。いったい自分はどこにいるのか? どういう経緯で魔物と遭遇したのか? と必死に考えた。そのうえで、当然ながらこの場から逃げようと試みた……が、何故か体が言うことを聞かない。例えるなら、ゴムでがんじがらめに縛られているかのようだ。
……あっ! ということは――ここで彼は、はたと気づいた――いつものあれか? つまり、この現象はお馴染みの二文字! そうと分かれば、気持ちも少しは落ち着いた。……とはいえ、ストーリーは終わりを告げず、
「なあ、わけーの。ちょいとおめえの意見を聞かせてくれや。訳あって、今度娑婆に出るんだが、人間どもを怖がらせなければならなくなった。そこで、どの面を見せればいいのか迷い始めてなぁ。これから顔を変化するから、どれが最高にウケるか教えてくれや」と唐突なお願いをされたのだった。そして、有無も言わせず、

お化け8

「先ずはこの顔だ。どうだ?」と言って、魔物は不気味な顔を突き出してきた。
 全く、何てことだ。不条理な展開になることは重々承知していたが、これほど強引に話を進めるなんて。彼は、本当に慄いた。それでも、
「ええ、ええ、十分怖いです。怖いですとも!」と答えた。自分ではコントロールできなかったのだから、仕方なく話に付き合った。
 すると、次に魔物は、
「じゃあ、これはどうだ?」と言って、怯えた山本君など気にも留めず、さらなる魔界顔を晒した。

お化け9

 こうなると、「ヒィ―、もうたくさんですよ!! 勘弁してください」と彼は悲鳴を上げた。流石に、恐ろしい顔を続けざまに見せられては、我慢がならなかったのだ。
 しかし、魔物の攻めはまだまだ止まらなかった。
「おいおい、確り見ろや。おめえの意見が大事なんだからよ」と言った後、「これが最後だ。取って置きの恐魔容姿を見せてやる。いいか、怖くてションベンちびるなよ。行くぞ!」と背筋も凍って全身がフリーズするかのようなことを宣言したではないか!
「うわぁ―、まだあるの? これ以上は耐えられないよォォー」とうとう、魔界の中で最も強烈な顔を目にする羽目になったのだ! 一目見ただけで、心臓が止まるかもしれない。
 彼は、心底、恐怖した!

お化け10

お化け11

……が、

お化け12-2

ええっ!? なんで? 全く、予想外の展開だ!
 別の意味で、彼は驚いた。開いた口が塞がらない。と同時に、前にもよく似たシーンを経験したような……と思った。
 けれど、魔物の方はどこでどう間違えたのか、
「おい、どうだ? 怖いだろう」と自信満々に言った。

お化け13

 とはいえ、言うまでもなく、そんなことはあり得ないのだから、
「いや、その姿はちょっと……」と口を濁した。
 そしてその後、やはり真実を教えておいてやるほうがいいだろうと考え直し、彼は正直に答えることにした。「怖いというより、もの悲しい感じですが……」と。
 すると魔物は、困惑したような表情で――否、既に悲しげな幼児なのだが――
「もの悲しい? おいおいなんだよそりゃー。全然ダメじゃないか。ルシアンもデイモンも、この姿が一番だと言ってやがったのに……。ははぁん、もしやあいつら、俺を嵌めやがったな。チクショウ!! 次に地獄で会ったら、翼をむしり取ってやる!」と怒号を発した。それから、「よく教えてくれた。三番目を選んでいたら、赤っ恥をかくところだった。おめえには感謝するぜ」と言った後、あらら?――どうやら用が済んだみたいで――あっという間に姿を掻き消していた。
 要するに、難儀な山本君の夢も、漸く終わったという訳だ。

 空には、すがすがしい朝日が顔を覗かせていた。


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