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 博物館には「展示」、「教育」、「研究」、「収集」という4つの大きな役割があります(第3話参照)。これまで、「展示」のことについて色々と説明してきましたが、「教育」についてはあまり触れていませんでしたので、夏休みも終わり今年も色々な観察会などを開催したので、この折に少し「教育」の一端である観察会について説明しておこうと思います。

 なお、当館の役割としての「教育」には観察会以外にも個人や団体に直接指導したり、出前講座のように小中学校に出向いて授業したり、学校の先生に対してや学芸員になりたい人に対して教えたり、色々なケースがあるわけですが、観察会というのは基礎自然科学を一般の人に対して、直接体験して頂くという展示ではできない「教育」です(今年度の観察会についてはこちらを参照ください)。
 
 観察会は毎年40回くらい開催していますが、だいたい一つの観察会の内容は、まずはじめに観察会の対象のこと(岩石の観察会だったら岩石のこと)をなるべくわかりやすく詳しく講義します。その中で本物(生体や標本など)をなるべく見てもらうようにします。次に、野外に移動して観察や採集をします。そして、どのような環境にその対象がいて、どのように観察し、どのように採集するのか、ということを体験して頂き、それを持ち帰って講義を行った部屋(多目的ホール)で採集した対象をラベルを付けて標本にしたり、飼育キットを差し上げて家での飼育の仕方を教えたり、解剖して顕微鏡で見たりします。最後に、質問を受けて終わりというのが、だいたい観察会の一連の流れです。なお、観察会で使う教科書は当館作成の自然ガイドシリーズという冊子を印刷したものを差し上げています(第9話参照)。

多目的ホールで最初に講義している様子
野外での採集の様子
昆虫の体を解剖しながら一つずつ顕微鏡で観察する様子
採集した岩石をラベルを付けて作成した標本

 当館の観察会の内容は生物から植物、化石、岩石、菌類、天体と様々です。一年間のスケジュールを考える時に大事にしていることは、似た分野が続かないように心がけています(イベントカレンダーはこちらを参照)。例えば、昆虫関連の観察会をやったら次は天体関連、そして次は岩石関連といった感じで分野をばらけさせるようにしています。それには、ある特定の分野だけに固執してほしくないという想いがあります。昆虫だけが好きな人が昆虫だけに興味を持つよりも、「昆虫以外にも色々と興味深いものがあるのですよ」、ということを気づいて頂ける場こそが博物学を扱う博物館の役割であるように思うからです。昆虫館や植物園であれば、昆虫や植物だけでいいのでしょうけど、博物館というのは人や人が作った物以外の万物を対象とした唯一のシームレスの施設ですから、なるべくすべての分野を垣根なく体験してほしいと思っています。ただ、これらほとんどすべての観察会は、私一人で講師しますから、昆虫の観察会に参加した人が岩石の観察会に参加しても、講師として私が出て来ますので、たまに小さな子供が「あっ、またあの人だ~」と言われることもあります。まぁ、それは仕方ありません。

 ただ、最近では、博物館の中でも観察会を開催しなくなったり、開催しても屋外に出ないで室内だけでする施設も増えているようで、そのような博物館の学芸員に話しを聞くと「リスクだけあってお金にならない」とか、「室内で完結した方が参加者も喜ぶから」といった話しを聞きます。確かに、観察会というのは、野外で活動したり、移動したりしますのでリスクが伴います。ですから、事前に下見をしたり、色々と準備したりして手間がかかります。また、一年間で計画を立てるので、相手が生物の場合は発生が早かったり、雲が突然出て星が見れなかったりと色々なハプニングもおきます。まったく、本当に手間がかかって大変だ、と思うこともあります。
 しかし、やっぱり野外に出て自然な状態で自然物がどのように居るのか、それを見るだけでも、そしてそれをどのような道具をどのように使って捕まえるのか、それを体験してもらうだけでも自然の見え方は変わるような気がします。たとえ、せっかく現地に行ったのに全然見つけられなくても、どのような環境に居るのか、その生き物が暮らしている環境の空気を肌で感じてもらうだけでいいと思っています。

 これまで、開館して19年間毎年40回くらい観察会を続けてきました。そして、延べ728回の観察会を実施し、10,550名の参加者に指導してきました。この中の一人でも観察会に参加して自然の見え方が変わった人がいたなら、「やってよかったな」と思います。

 ただ、観察会を開催しているときは「誰も怪我も事故もなく、安全に出来たら、それでいい!」、とだけ想っているのです。