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第7話 イベントカレンダー

 当館では、年に1回イベントカレンダーという一年間の体験学習を掲載したチラシを作ります。そして、4月のはじめに市内の全児童に配布し、さまざまな博物館や関係施設にもお送りして配布して貰っています。このチラシには、いくつかの『意味』があるので、それを少しご紹介してみようと思います。

 まず、多くの自然史系の博物館では各月の体験学習イベントは、前月くらいにチラシやHPで広報するのが一般的と思いますが、当館のこのチラシでは一年間のイベントを掲載しています。

 これは、当館は職員が一人(第2話参照)ですから、前月くらいに翌月のイベントを決めていたら、「来月はやらなくていいや!」とか、自分を甘えさせるために何かや誰かのせいにしたりして、やらないとか言いかねません(自分のことだから、言うに決まっています!)。
 
 だから、過去の自分から未来の自分に「逃げるなよ」と一年間のイベントを最初に決めるのです。つまり、このチラシには、過去の自分から未来の自分への約束のような「意味」があります。

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 また、一年に1回全児童に配布しますので、毎月チラシを作ったり、配布したりといった手間も一年に1回で済むという『意味』もあります。

 さらに、このチラシは当館や周辺の博物館、関係施設に設置してありますが、一年を通して手に取って貰わないといけません。例えば、カブトムシの写真が表紙にあったら、カブトムシがいない季節には手に取って貰えないかもしれません。

 だから、このチラシの表紙は季節感が感じられないようなデザインにしないといけません。さらに、一年間このチラシを持っていて貰うわけですから、紙は少し厚いものに印刷して、見飽きてしまわれないようにしないといけません。

季節感がなく、見飽きないデザインとは、どのようなものなのか?

 そして、いろいろな物を見ながら考えていると、駄菓子屋さんのお菓子のパッケージというのは、私が子供の頃から変わっていないけど、見飽きないし、季節感もないな~と思って、駄菓子屋に行って、それらのデザインを見て周りました。すると、ある共通点に気づいたのです。

 それが、「カラフルで、よくわからないキャラクターがいる」ということでした。 

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 そこで、このイベントカレンダーには、季節感がなく、一年間持っていても見飽きない(かもしれない)という想いで、駄菓子屋のお菓子のパッケージを参考に、カラフルで、よくわからないキャラクーを配置しています。

当館には開館当初から「ほたるん」というキャラクーがいるので、この黒いキャラクターはこのチラシの表紙にしか出て来ない、よくわからないキャラクターです。ちなみに、一応クロクシヒゲボタルというホタルの雄をイメージして作成したものです。昆虫などのリアルなキャラクターにすると虫嫌いな人が一年間保管してくれないかもしれないので、その点も考えてシンプルに作成しています。 

ホタルキャラ (1) (1)

▲当館のキャラクター『ほたるん』

 このチラシの、変にシンプルでカラフルでよくわからない表紙には、季節感がなく、見飽きないで一年間持っていて欲しいという『意味』があるのです。

 さらに、このチラシを置いて頂いている博物館に行った時にあることに気づきました。それは、このようなチラシは、パンフレットラックなどに他の博物館のパンフレットなどと一緒に配架されるのですが、パンフレットラックによっては、上の1/3くらいしか見えていなかったのです。

 そこで、このチラシの上の1/3に当館のチラシであること、そして、イベントカレンダーであること、がわかるように情報をすべて上に入れるようにしました。

 そして、パンフレットラックからパンフレットを取る人を少し離れたところから観察していると、ピンク色やハートマークのような可愛い印が入ったパンフレットを男女共に手に取ることがわかりました。

 そこで、このイベントカレンダーの右上にはピンク色のハートマークを入れることしたのです。さらに、イベントカレンダーと書いた枠線に不規則な毛を生やすことで、人が「これは何なのだろう~?」と関心を持つこともわかりました。

 これら、人を観察した私の研究成果をこのチラシの表紙に盛り込み、このチラシを手に取って欲しいという想いが具現化されているという『意味』もあるのです。

 つまり、このイベントカレンダーは、私にとっての約束でもあり、児童やその家族に一年間持っていて貰うための配慮や手に取って貰うための工夫を、いろいろな試行錯誤の末に考えて作成したチラシになっています。

 もし、あなたがこのチラシをどこかで見かけて、私の姑息な仕掛けに引っ掛かって手に取って貰えたら、嬉しいです。