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第9話 自然ガイドシリーズ

 当館の刊行物の中に、「自然ガイドシリーズ」という冊子があります。これは、企画展ができるとそのパネルやラベルをまとめてできる冊子なのですけど(第3話参照)、これがどのようにしてできて、どうして作り続けているのかについてご紹介しようと思います。

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 この冊子は、現在120号までできていまして、内容は化石のことから植物のこと、昆虫のことから、魚の脳のことなど、身近な自然史に関する内容を1つの冊子で1つの内容をまとめたものになっています。そして、観察会では、事務所の印刷機でA4サイズに印刷して、1回折って、折ったところを向きが横になるホッチキスで縦2ヶ所を留めることでA5サイズの冊子にして教科書として使いますし、PDFを来館した方に直接wi-fiでお客さんの端末だけに飛ばして電子書籍として販売したりもしています。

 今から遡ること18年前、当館が開館して間もない頃の私は、企画展を作っては展示期間が終わるとそのパネルなどは捨てていました。せっかく苦労して文字を打ち込み、写真を撮って作ったのに、もったいないと思ったものですが、企画展で作ったパネルは他では使えないので仕方がありません。

 そんなある日、全国チェーンの弁当屋さんで、注文した弁当ができるのを待っている時に「自由にお持ち帰りください」と書かれたA5サイズの冊子に出会いました。それは、どこにでもあるチラシでしたが、それをパラパラ見ていたら、「これくらいだったら自分でも作れそうだな」と思えました。

 そして、それを持ち帰って、またパラパラ見ていた時に、このような冊子を作ることはできそうだけど、この冊子を作るためだけに労力と時間をかけるのは大変だと思いました。でも、これまで捨てていた企画展で作っていたパネルをこの冊子になるように、最初から作れば簡単に冊子にできるし、展示を捨てなくて済むし、なにより知識を蓄積できると気づきました。

 そして、冊子を作る方法を模索し始め、とりあえず作ってみたのが、「No. 1 豊田のホタル」でした。この時はまだ作ることに一生懸命で今後に合わせてレイアウトやデザインを考えるなんてことはしていなかったので、いい加減な作りです。

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自然ガイドシリーズ No.1  豊田のホタルの表紙
この時はまだ表紙のレイアウトも定まっていないので、他のとは違います。

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自然ガイドシリーズ No. 1 豊田のホタルの裏面です
もし、この冊子が人気が出たら裏に広告を入れて、その広告費でこの冊子を大量に印刷しようなんて、浅はかな考えをこの1号の時には考えていたので、裏には空白の部分が多く残してあります。恥ずかしいことに、現在まで120号作ってきましたが、この裏面はすべてこれを踏襲して同じレイアウトになっています。広告なんて募集してないし、そもそも広告なんてつくはずもないのに。

 次に「ホタルとこの地域の人の歴史」に関する企画展をしていたので、それをまた冊子に作り替えました。それからも、チョウの企画展やトンボの企画展などを少しずつ冊子に作り変えていきましたが、作りながら ある壮大な計画を考えるようになっていきました。

 それが、「この地域のすべての自然物を1本の検索表に載せる」というものでした。

 「検索表」というのは生物などの種名を調べる時に、似た種との違いをフローチャートのような感じで調べることができる表なのですが、これを各分野の各冊子で絵解きで作っていましたので、このように各分類群で絵解き検索表を作っていったら最終的に動物も植物も化石も岩石も菌類も1本の線に載せられるのではないかと思ったのです。

 そのため、すべての分類群で絵解き検索表を作っていきました。

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実際に作った絵解き検索表の一部
左上:チョウ、右上:アンモナイト、左下:トンボ、右下:バッタです。昆虫も化石も植物もこのような識別する部位をイラストで示しています。識別する部位を絵でわかりやすく示した検索表を絵解き検索表と言います。

 すべての分野で検索表を作らないといけないと思っていましたので、虫の声の企画展の時には「虫の声」の検索表というのまで作っていました。

 今にして思えば面白いものだと思いますが、誰でもがわかる音で検索表を作らないといけませんから、色々な身近にあるもので音を出してみて、「シュリ,シュリ,シュリと百円玉同士の表面をこすり合わせたような声」とか、「ツィ,ツィ,ツィと百円玉同士のギザギザをこすり合わせたような声」とか、そのような感じで形態だけでなく音までも検索表を作ったのです。

 ただ、この壮大な計画は、途中でやめることにしました。それは、壮大すぎて難しいとか、作るのが大変とかいう理由ではなくて、検索表の冗長性の乏しさに限界を感じたからでした。

 検索表は素晴らしい仕組みですが、1回でも間違えると正しい種に辿り着かないという問題があります。もし、全自然物をこの線に載せることができたとしても、生物を調べようと思って進んでいったら、どこかで1回間違えただけで、岩石に同定されるなんてことになりかねません。だから、この計画は途中でやめて、それとは別の計画を進めることにしました。

それが、「この地域のすべての自然物を図鑑にする」というものでした。

 それまでも、各分野の図鑑のようなページを作っていましたが、それらは分野毎にバラバラに作っていました。もし、図鑑としてすべてをまとめた場合、レイアウトがバラバラだとカッコ悪いし、比べられないと思いました。そこで、すべての図鑑のページは同じレイアウトにしようと決めました。

 でも、レイアウトがダメだったら、すべての図鑑がうまくいかなくなります。そこで、色々と考えて作ったのが、現在も使っている図鑑のページのレイアウトでした。このレイアウトでよかったのか未だにわかりませんが、もう既に120号まで作って来てしまいましたので、「これでいい!」と自分では思うようにしています。

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図鑑のページのほんの一部
生物から岩石薄片、植物、蛍籠、地形、魚の鰭や脳、葉脈に至るすべてが同じレイアウトになっています。

 ですから、各分野によって多少の違いはあるものの、図鑑のページは、生物から無人島、化石や岩石薄片に至るまで、すべてが同じフォーマット、デザインになっているのです。この冊子を作り続けていくと、いつか図鑑ページをまとめるだけで、この地域の自然物に関する1冊の図鑑になるわけです。

補足:各冊子を作る時には専門家に見て貰って最新の知見を確認してもらいますが、特に学名はコロコロ変わりますので、どの時点で作った冊子かわかるように、必ず裏に発行年月日を入れるようにしています。もし、これらの冊子をまとめる際にはこの学名の確認をしないといけないから、まとめること自体大変そうです。
 あと、図鑑のページだけでなく表紙も中身も裏も同じレイアウトで作っています。そのため、冊子を作る度にデザインなどを考えなくていいので、作るのが楽だと今にして思えば思います。

 ただ、この冊子(元々は企画展のパネルやラベルですけど)を作るのは結構大変です。

 なんと言っても、構成や写真や文章、イラストなどを自分で作らないといけないのですから。

 しかも企画展は2週間で作ると決めていますから、その間に展示も作って、この冊子も作らないといけないのです。また、電子書籍として販売するため用と印刷用に1つの冊子は2種類作らないといけません。

 まったく、あの弁当屋さんで、あのチラシに出会っていなければ、こんな冊子を作るなんて辛い修行はしなくてもよかっただろうにと、作っている時は思います(この冊子を作らなければ企画展のパネルもラベルも、もっとシンプルで簡潔でいいのです)。

 でも、作っていない時は、私自身の備忘録としても、いろいろなところでの教材としても使えて便利だから、あの弁当屋さんであのチラシに出会ってよかった、なんて思います。

 ちなみに、この弁当屋さんのチラシは未だに大事に持っています。

 そんな感じで自然ガイドシリーズを作り始めて、遂に120号までできました。目標の350号まであと少し、、、って半分も出来ていないではないかぁ~、、、先は長い。