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第3話 企画展を中心とした蓄積の仕組み

 当館は開館当初、標本も資料も文献も何も無かったので、それらを多くの方の協力を得て少しずつ増やし、標本も資料も文献もだいぶ充実してきました。
 
 また、常設展示は当初 スカスカでしたけど、今ではギュウギュウになっています。まぁ、展示面積が狭いというのもありますけれど。
 
 さらに、内容も分野も異なる企画展を年間10回くらい開催してきましたし、観察会などの体験学習も年間50回くらい毎年続けています。

 博物館には「展示」、「教育」、「研究」、「収集」という4つの大きな役割があります。ただ、当館は開館以来、職員が事務・学芸合わせても一人しかいませんので(第2話参照)、これらをすべて一人で別々に作業していくことなどできません(手伝ってくれる優秀なパートの人達はいます)。

 そこで、開館当初に考えたのが「企画展」を中心とした「展示」、「教育」、「研究」、「収集」を効率的に蓄積する仕組みです。それこそが、現在の当館の形そのものであり、それにより生じた試行錯誤や失敗の数々をnoteでご紹介しようと思っているのです。

 では、企画展を中心にどのようにして、これらが蓄積していくのかをご説明しましょう。

 まず、企画展を年間10回くらい開催します。

補足:企画展と言っても当館では、企画展、テーマ展、特別企画など、色々な期間を限定して行う展示を行っていますので、これらをすべてまとめて「企画展」と、ここでは称します。

 企画展はだいたい2週間で作りあげると決めていて、その期間に文献を読んで、採集して、撮影して、解剖して、絵を描いてなどを諸々を行い、データを蓄積していきます。

 そして、それらをまとめて展示室に展示する「パネル」を作ります。さらに、標本の説明をするための「ラベル」も作ります。他にも展示の内容に応じて模型を作ったり、電子機器を作ったりもして企画展を作り上げていきます。

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▲企画展はこんな感じです。
壁に掲示してあるのが「パネル」で標本の横に配置されているのが「ラベル」です。パネルもラベルも、分野に関わらずすべて同じフォーマット・デザインです。模型やジオラマも実物を見ながら当館の職員が作ります。

 このようにして、企画展を完成させるわけですが、企画展の「展示」だけに労力をかけていたら、他の「教育」や「研究」、「収集」といった部分を別にやらないといけません。そこで、企画展を作ることで、これらも同時にできるようにしたのが「企画展を中心とした蓄積の仕組み」です。

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 企画展で作った展示物はそもそもが期間が終わったら常設展示に入るように考えて作ります。ですから、企画展が終わるとすぐに常設展示の所定の位置に収まり、「展示」が蓄積されていくのです。つまり、常設展示に収まる形で企画展の展示を作るのです。

 さらに、パネルラベルはそもそもが自然ガイドシリーズという冊子になるように作ります。つまり、パネル1枚が冊子の1ページになり、ラベル1枚が冊子の図鑑ページの1ページになるのです。ですから、企画展ができると同時に自然ガイドシリーズという冊子が1冊できあがります。

 この冊子は、観察会という「教育」の中での教材として参加者に配布します。観察会の度にテキストなどを準備する必要がなくなるので、観察会を開催する時の準備の手間が省けます。ちなみに、現在この冊子は118号まで作成しているので、少なくとも当館は118種類の内容の異なる観察会を開催することができるのです。

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▲観察会の様子です。
観察会の内容は、動物、植物、化石、岩石、天体と多岐に渡ります。詳しくはこちらか、下のPDFをご覧ください。

 そして、企画展は2週間で作りあげないといけません。その間に怠惰な私は否が応でも勉強して調査して、「研究」しなければなりません。そうしていると、私の知識と技術が増えます。その知識と技術を観察会で参加者に教えるのです。

 さらに、企画展の度に調査しますので、標本が「収集」され、増えます。そして、標本を蓄積することで、それがまた別の企画展や「展示」、「研究」、「教育」で利用されていくのです。

 つまり、企画展を1つ作りあげると、「展示」としての常設展示が充実し、冊子が1冊出来上がることで「教育」としての観察会が開催でき、調査することで「研究」も進み、「収集」としての標本も増えるわけです。

 ただし、これをするには一つだけやらないといけないことがあります。

 それは、写真にしても、映像にしても、標本にしても、模型にしても、借り物だと返さないといけないし、誰かにお願いすると時間がかかって締め切りに間に合わないから、すべてを自分で作る必要があるのです。

 あと、すべてを自分で作るということは、展示物となる主役はその辺りに落ちている虫けらや石ころですから、お金もほとんどかからないのです。

 これまで、企画展は170個くらい作ってきましたので、これらの作業を170回くらいしてきたのが、当館なのです。 
 
 また、私がパソコンで打ち込んだ文字一つ漏らすことなく、すべてを蓄積するという考えは当館のHPにも表れています。

 普通でしたら観察会などは開催の広報はするけど、実績報告などはあまりしない場合が多いけど、すべてを蓄積するために可能な限り実績報告も蓄積しているのです。(HPは新しいものに改変予定ですが、新しいHPでもこれまでの蓄積は継承する予定です。)

 これら、「企画展を中心とした蓄積の仕組み」こそが、一人で無理なく博物館を運営するために、昔の私が考えた当館のエンジンなのです。