冬休み読書感想文『神に愛されていた』木爾チレン 著

「スキ、スキ!全部スキ!!」読んでる最中ずっと心の中で叫んでいました。ロイド・フォージャーに心酔する夜帷のごとく、私の脳内は「スキ」で溢れてしまいました。作中の登場人物に例えるなら冴理先生を神として崇める熱狂的ファン、『雨』のようになってしまった豊洲銀行です。

「これ、木爾先生の自伝じゃないの?」しばらく読み進めるとこんな思いが湧いてきました。主人公の冴理は小説家ですし、登場人物の多くが小説に関わっています。書くことへの目覚めから華々しいデビューまでの道のり、女流作家だからこそ直面する周囲からの評価、ライバルの台頭、小説家であり続けることの苦しみなど、その描写はとても迫真的です。「きっと木爾先生も今に至るまでこんな想いをしてきたんだろうな」、そんな妄想を膨らませずにはいられませんでした。
先生と私のいるところはメジャーリーグと少年野球くらい違うことは百も承知ではありますが、私の心にもグサリときたシーンがたくさんあります。Twitterで自己満足の文章を垂れ流していた勘違い素人の私も、実際に本に作品が掲載され、プロの皆さんと出会い、ごくごく一部ながら業界で生きることがどんなものかを知り、随分とショックを受けた記憶が蘇りました。
また、青春時代を陰キャとして過ごしてしまったタイプの人間の描写は本当にキテます。スクールカーストのように社会性を競う世界でうまく立ち回れない一方、熱中したものに異常なエネルギーを傾けるオタク系人類。その内も外も見事に表現されていて、陰の者のハートを鷲づかみにすること間違いなしです。章の合間に挿入される「雨」のファンレター、本当はものすごく切ない内容なのですが、尊敬している人間に対してなぜか文字でも早口になったり、オジサン構文的になってしまう感じとか、すごくよく出ていると思います。

色々な見方があると思いますが、豊洲は本作品は女性同士の友情物語だと思っています。別の記事で紹介させて頂いた『みんな蛍を殺したかった』でも木爾先生が描く女子高生二人の美しい絆が脳髄にメガヒットした私ですが、『神に愛されていた』で描かれる女性たちの想い、関係性の描写もめちゃくちゃ尊いものになっています。キュンキュンします。
例えば文芸部メンバーのズッ友ぶり。大人になっても変わることなく、自分には帰る場所があると思わせてくれるような救いがあります。冴理があるバイトを始めた先で出会うヨーコさん。夢を追いかける者同士が励まし合い、冴理が自らの気持ちを確かめるシーンに胸を打たれます。こういった人間のキラキラした部分も丁寧に描かれていて、とても甘酸っぱい気持ちになるのです。
物語の中心となる女性たちの関係はミステリー作品の種明かしのような展開をしていきます。まさに肝の部分にあたるので、この記事を読んでくださった方にはぜひ本著をお手に取って確かめていただきたく思います。

さまざまな苦難、挫折、すれ違い、そして悲劇を織り交ぜつつも、大切な人を心から真剣に思いやり、献身的に行動した結果、最後はみんな救われた。誰もが赦し、赦され、神に愛されていた。最後はとても幸せな気持ちになれる。そんな素敵な作品です。


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