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自分にとって大事なものとまた会えて嬉しかった

年末、昔地元にあったイタリアンに行ってきた。昨年の6月に、平塚に新店舗を構えたという。

私たち家族はその店に、よく行っていた。「サルティンボッカ」という名前のお店で、当時はビルの1階にあった。少し階段登って入るから2階といえば2階だったかも。10段もないような階段と、階段を上がったところにあるベンチに何組ものカップルや家族や友人たちが並んでいたことを思い出す。

2年ほど前に父と行こうとしたら、閉店していた。愕然とした。子どもの頃から通っていたお店で繁盛していた場所が、二度と行けない場所になってしまうなんて、思ってもみなかった。そうか、生きている時間が増えるとこういう、二度と手に入らないものというのが増えてゆくのだなと、悲しい気持ちになった。あのサラダも、あのパスタも、あのリゾットも、あのピザも、あの空間も、あの看板も、もう失われたのか、と思うと、もっと行っておけばよかった…と後悔の念に苛まれた。それこそ閉店のことを知って、最後にお礼を言えるくらいの頻度で、最後を知れるくらいのタイミングで行ければよかったのに、と、思ったのだった。

私はその夜お店のアカウントにメッセージを送ったのだが、もうログインしていなかったのか、既読がつくことはなかった。

「別の場所での開店も視野に入れて、またどこかで会える日を」という旨の最後の投稿だけが頼りで、それから私はしばしばそのアカウントを見たり、お店の名前をよく調べたりしていた。

平塚に新店舗を構えたと知った時は、とても嬉しかった。昨年6月のことだそうだ。私がそのことを知ったのは夏頃だっただろうか。平塚であれば、気軽に行けない距離では無い。むしろ、湘南の方は私にとっては何かしら機会を作って行きたいエリアだ。ディナーのみから、ランチあり、とだんだんと増えていく営業日を眺めつつ、行くタイミングを探していた。

最近は鵠沼の方に行く機会があるのだけど、鵠沼と平塚だと湘南エリアといえどもなかなか立ち寄れない。年末に父に頼んで車を出してもらうことにした。

新店舗は前の店とは店構えがかなり変わっていて、テラス席もあった。外でも食べたいな。


私は過去への思い入れが強い。どれくらい強いかというと…という話はここですると止まらなくなるので割愛する。だけど、今の自分の幸せとか、楽しかった時間が、そういうもののひとつひとつの延長にあるし、いまの自分を形作っているということを強く感じる。私の友人たちも、程度の差こそあれ、そういった過去に対する慈しみみたいなものを持っている人が多いと思う。経緯の先に自分がいることを意識していると思う。お目当てのものがあれば遠出する人も多い。自分にとって特別なものの価値を知っている人たちだと思うのだ。私は彼らよりは執着が少ない方だと思うんだけど、食と食べた場所については自分の過去に対して極めて強い思い入れを持ちやすい。自分の舌を楽しませて、心を楽しませ、身体の一部になって次の日を生きる活力になってくれたものを思い出すことは、すごく温かいことだと思うからだ。

平塚の新店舗は、懐かしさを感じるメニューと、当時はなかった新しいメニューが両方あった。例えば、ブリの照り焼きなんて、和食寄りのメニューもあってそれがとても美味しかった。店主さんによると、前店舗で加盟していたイタリア料理店のグループから独立したこともあり、独自メニューが増えたのだという。場所は変わったけれど、お店にとっては新しい門出で、また新しい料理が食べられて嬉しいなと思った。

新店舗になりドレッシングが少し変わっていたが、面影がある。ちょっと和風寄りになってた?相変わらず美味しい!



私の地元から平塚まで訪ねてくるお客さんも何組かいたという。父も私も大満足で、やっぱり美味しいねと言いながら食べた。2人で行ったのにランチ3つ頼んだ。お店の方ともお話しできて、とても嬉しかった。お腹がいっぱいでドルチェを食べ損ねた。次は食べたい。私はグラスワインを飲んだ。多分この店でお酒を飲んだ回数は、まだそれほど多くない。お酒と一緒に食べたら、料理だけ食べていた頃とは違う美味しさを知れる。その変化が嬉しい。食後のコーヒーも、香りが高くて深みがあって落ち着いた気持ちになった。

帰り際、車内で父に「やっぱり、前のお店のあった場所から、平塚まで来る人いるんだね」と言ったら、「や、そんないないんじゃない?」と言っていた。興醒め。別に他意はなく、父は"大多数ではない"という意味で言ったんだと思うんだけど、それはそうだが、私からしてみれば、私以外の何組かがその味を求めて訪ねてきたことを知れたことが、大事なことのような気がしたのだった。だって、あれだけ行列ができてて、いろんな人たちが食べにきてて、いいな、と思っていたはずなんだもの。


豚バラのトマト煮込み。
お肉柔らかくて絶品だった!


私の部屋には都築響一の本『Neverland Diner: 二度と行けないあの店で』という閉店したレストランの記憶を題材にさまざまな人たちの文章を集めた本が積読されている。──あまりに悲しくて読めないのだ。


お店の閉店を知った時、私は「サルティンボッカ」が二度と行けないお店になってしまった…と思って悲しくなったが、ありがたいことに、また行くことができたし、これからも行くことができる。その上さらに美味しくなっている。湘南方面にも行くことができる。新しいものよりも馴染みのものが好きだ。積み重ねてきたものが好きだ。自分にとっていい時間をもらったものが、大事に守られていて嬉しくなった。ありがとうございました。

カニ🦀
トマトクリームスパゲティが美味🍅


もしよければ、友達と一緒に行きたいなー。

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