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友達に服を選んで写真を撮ってもらった話

「みやじさいかをクレイジーフルーツにします」

彼女はそう言って、山盛りの衣装を持ってやってきた。古着屋で私に似合うものを見繕ってくれたらしい。ドンドンダウン高円寺で購入したというディオールの黄色いタンクトップ、花のついたショートパンツ。仲良しの先輩に頼んで先輩の神戸のご実家から持ち帰ってもらったお花のついた麦わら帽子。ハートのサングラスに、厚底のサンダル、恐竜のネックレス。おもちゃ箱をひっくり返したようなかわいい服たち。これを着て、私は彼女に写真を撮ってもらうのだ。


事のはじまりは、彼女からの「みやじさいかの写真を撮りたい」というLINEからだった。

彼女はチンチラ。チンチラと言うのはあのモフモフのネズミみたいなやつだ。詳しいことは忘れたんだけど、彼女が自分を「チンチラだ」と言うので、なんだかそういうことになっている。

最初は私も、「チンチラなのか…」と思っていたけど、なんか仲良しの先輩も「私はプードルです」とかいうので、結局そういうことになった。チンチラとプードルとは本当に仲良しで、よく遊ぶ。

彼女たちとの出会いや、面白い出来事の話は遡ればいくらでも話せるのだけど、それはまた今度にしよう。私たちはよく集まって、「この世にないものしりとり」をしたり、チンチラのバイト先だったイカれた雑貨屋さんに遊びに行ったりする。

彼女たちと話しているといつも次元のスキマに入ってしまったような妙な気分になる。


写真を撮ってもらった話に戻ろう。早速袖を通すと、「ほらぁ、似合う~。」「かわいい~。」と褒めてくれる。今日の私は超かわいい。めちゃめちゃに似合っていた。

鏡でポーズを決める私に、彼女が麦わら帽子を差し出す。そしてふと思う。

「これ…ルフィに引っ張られてない?…」
そう、チンチラの理想のタイプはルフィなのだ。あとロン毛が好き。

ルフィは正義の男だし、どんなヤツにも優しい。だけど、チンチラちゃんはちょっとビビりでナイーブな部分もあるので、実際デリカシーのないルフィに出会ったら「おメェ、シンキくせぇなぁ!」とか言われるのではないかと心配しているらしい。


さて、そんな彼女に麦わら帽子を託されたらノリノリでやるしかない。チンチラがiPhoneを触ると、部屋にウィーアーが流れる。前にお泊り会したときもウィーアー踊りまくったな。あとマツケンサンバⅡ。

歌を口ずさみながら、メイクが始まる。彼女は思いついたように「私、ナミにしたかったんだと思う!」と言った。ナミ、かわいいよね、私ずっとなりたかったから嬉しかった。骨格ストレートスプリング女の憧れだよ。帽子あるし限りなくルフィに近いと思うけど、どっちでもいいや。最高に楽しい。


ヘアメイクのために彼女が持ってきた雑誌は「クレイジーバージン」。90年代に作られた「ViVi」の増刊だ。かなり攻めたファッションとハイブランドもあるのに、高校生向けだというから驚き。だいたい「クレイジークリスマス」って何なんだ。自分の娘が年頃になって「クレイジーバージン」読んでたらビビるよな。


チンチラはドンキで以前に買ったという華やかなパレットを取り出して私にメイクを施していく。白いキラキラのシャドウに青いアイライン。90年代のYUKIみたいな真っ赤なぽってりリップ。鏡に映るのは、90年代のポップでファンシーなギャルだった。かわいい~。


ハートのサングラスに帽子、それからドライフラワーを持って、撮影に繰り出す。(マスクは撮影時以外はしているよ。)

写ルンですとスマホのシャッターが切られる。彼女と歩くと、普通の道もあっという間に異空間に変わる。ここの駐車禁止の看板の前で!とか、コインパーキングで撮ろう、とか。古いコインランドリーでシャッターを切れば、とっておきの写真が出来上がる。


出来心で入った証明写真機(かなり古い)と、そこで撮った証明写真。


本当に楽しかった。今年の夏は、夏らしい思い出もなかったけど、とっておきにキラキラした出来事だった。

写真屋さんで現像した写真を見て、私はなにかひとつ飛び越えられた気がした。

思えば、いつも持ちえないあざとさとか、しとやかさみたいなのに憧れてたな。しばしば似合わないフリフリのワンピースを着たりしていた(別に着てたのしかったらいいんだけど。)


枠に合わせても、はみ出してしまうことが多くて、そのすべてにいつも申し訳なさとかを感じていて、誰かの顔色を窺うように、気に入られるように生きてた気がする。

対人間全般においての話なのだけど、想定内のあざとさより、こぼれだすエネルギーに触れると、私は嬉しい。なんだかこの日、私はそういう人に少し近づけた気がするのだ。

最高に似合う服を着せてもらって、どこか別の宇宙から来た女の子みたいに暴れられるなんてどんなに幸せだろう。

来月は私のお誕生日なのだけど、彼女曰く、少し早めのお誕生日プレゼントをくれたらしい。


とっても素敵なプレゼントだ。似合う服も、揺らぐような街並みも、瞬間を切り取った写真も、私を次のステップに押し出してくれるような体験も、とびっきりのギフトをもらってしまって、私はルフィだろうが、クレイジーフルーツだろうが、なっちゃおうと思うの。


帽子を貸してくれた先輩のプードルからは暖かいご感想をいただいた。


いつもトンチキで温かいふたりが大好きなのだ。

チンチラちゃんのユニークさとナイーブさと反骨精神が好きなのです。これからもセンス抜群で!

理想のロン毛と出会えるといいね!

追記:チンチラが喜んでいた

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