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夫の借金29,035,436円と私⑱

第18話 二度目の借金

令和3年の8月、私はいつものように夜仕事から帰り、ポストを開け中身をチェックしました。

すると、「東急カード」からの二つ折りに糊付けされた、あの禍々しいハガキが入っていたのです。
部屋に入るまで待ちきれず、エレベーターの中でシールをはがし内容を確認した私は、全身の血が逆流するような感覚を覚えました。

そこには「残債1,272,000円」の文字が・・・
カードの内訳には「キャッシング」と「リボ払い」が記されていました。

私はマンションの廊下を歩きながら「嘘でしょ・・ 嘘でしょ・・」とひとり呟いていました。

わずか一年ほど前、夫の借金17,684,043円を肩代わりしたばかりなのです。
私が断腸の思いで支払ったお金・・・

しばらくソファーに座って呆然としていました。

そこへ夫が、いつもの変わらぬ調子で「ただいま~」と帰って来ました。

私は帰ってきた夫にハガキを突き付け、「これ、何?」と詰め寄りました。

夫はたちまち顔色が変わり「・・・」
前回の借金を返済した後、新たな借金をしたことを認めました。


私は「何でこんな事するの?!  何がそんなに欲しいの? 何が足りないの?!」と怒鳴りました。
「私に何か不満があるの?! だったら今すぐ別れてあげるよ!」
私は夫を殴りたくなる衝動を必死で抑えました。

夫は、不満があるわけじゃない、と言いました。
「仕事のストレスからつい、飲みに走ってしまった」

飲みに行けばストレスが解消されるのでしょうか。
居酒屋とは、天国のような素晴らしい所なのですね。
どんな類の「飲み屋」に行ったのかは、あえて聞きませんでした。

私は「あんたは多重債務者なんだよ?!  私が前の借金を返済していなかったら、この部屋にも住めてないし、仕事だって続けられなかったんだよ?! 」

「もうあんたとはやっていけない。もう無理」

夫は、ひたすら私に謝っていました。

前回の借金の時、債務整理について少しは勉強したものの、すっかり知識は私の頭の中から抜け落ちてしまっていました。
前回の17,684,043円の借金は、私の中でもう思い出したくない過去、闇に葬りたい過去だったのです。

でも、今目の前にある「東急カード」の残債1,272,000円・・・
私の中に再び、あの時の恐怖が蘇りました。
切除し完治したはずのがんが、再発したような絶望と恐怖です。

早く、切除してしまわなければ・・・

私は夫の免許証、保険証、パスポートなど、身分を証明できるものはすべて預かることにしました。
鞄と財布の中身を全部机に出させ、カード類がないか隅々まで調べました。

私は「今回だけは私が払う。もう本当にこれが最後だよ」
「こんど借金をしたら、問答無用で離婚するから、そのつもりでいてね」
私は夫の目を見据え「他にはもう、無いよね」

夫は頷きました。

この時、なぜ夫の言葉を素直に信じてしまったのでしょうか。
なぜもっと、ちゃんと調べなかったのか・・
私は夫の肩を掴み「もうこれで最後だよ!ちゃんと生まれ変わるんだよ」

この時の私に、現在と同じくらいの債務整理の知識があれば、と悔やまれます。
令和4年11月の11,351,393円の借金は、この「東急カード」以外のクレジットローンが膨れ上がったものだったのです。
夫は、前回の借金を返済した後数か月後に、またキャッシングをしていたのです。
あまりの無分別さに、脱力し「無」になってしまうほどです。

私はその翌日、1,272,000円を返済しに銀行の窓口へ向かいました。
毎日家計簿をつけ、20円の価格差のために遠くのスーパーへ買い物に行っていた自分の努力はなんだったのか・・・
銀行に着いたところで、夫の身分証明書を忘れた事に気付き、33度の真夏の陽気の中、走って家に取りに行きました。
返し終わって家に着いた頃には、滝のような汗をかいていました。

そのころから夫は給料振り込みの口座を2つに分けており、片方の口座を借金返済ようにしていたのです。
私はそんなことにまったく気付かず、給料が大幅ダウンしたのはコロナの影響だと思っていました。

1,272,000円を返済した夜、私は夫に「何があっても、私がこのマンションに安心して住めるようにしてね。これだけはお願い」
「私はあなたと、ここで一生静かに暮らしただけなの。ただそれだけだから」と泣きながら訴えました。

夫は「わかった」と言いました。

その夜から私は「債務整理」と「離婚」について猛烈な勢いでネットで調べ始めました。
「夫、借金、調べる方法」「離婚、慰謝料」「離婚、弁護士、費用」など、あらゆることを検索し、疲労でめまいをおこすほどでした。

私はただ平凡に夫と二人、平穏に静かに年を取っていくだけと思っていました。
それに何の不満も無く、そうあればいいといつも願っていました。

この時さらなる借金が発覚したことで、夫との将来がぼやけ道が二つに分かれたような気がしたのです。
夫と別れて暮らす、新たな人生・・・

それはとても寂しくみじめなものになるでしょうが、覚悟はしておかなくてはいけません。

借金残額 令和5年2月現在 8,316,557円












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