見出し画像

第3回「好みのタイプ占いは何故当たる? アニマ・アニムスとジェンダーロールの関係」

 連載も3回めを迎えました。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。暗い話ばかりで疲れませんか? フラッシュバックなどは大丈夫でしょうか?
 箸休め的に、今回は私の生い立ちではなく、生業のひとつである西洋占星術の話をしますね。

 占星術は、私をどん底の人生から立ち直らせてくれた大事なピースのひとつです。私はフェミニズム的観点から占星術の効用、特に癒しや精神的自立を助けてくれる作用について何年間も考え続けています。このふたつを融合させた「フェミニズム占星術」の理論を確立させたいなと夢見たりもしています。
 占星術ときいて、まず何をイメージされますか? 恐らく、雑誌の最後のページにあるやつ、もしくは朝の7時55分にテレビで流れる「きょうの星座ランキング。最下位はごめんなさ~い、〇〇座のあなた! レスキューアイテムは…」といった、12星座による星占いしか知らない人がほとんどだと思います。
 しかしあれらは正確にはサンサイン(太陽星座)占いと呼ばれ、本流の占星術とはやや別物です。

 占星術で人間の運命や性格を見るときには、「ホロスコープ」という丸い図に、その人がオギャアと生まれた瞬間の、夜空の星の位置関係を算出したものを書いていきます。昔は、太陽・月・水星・金星・木星・土星と7つの天体を使い、近代ではさらに天王星・海王星・冥王星も加わって10個です。計算上にしか存在しない仮想のポイントをもちいる時もあります。
 このうち生まれたときに太陽がどの方角にあったのかを示すのが、いわゆる「12星座」=太陽星座です。占星術は最低でも10の天体の位置やお互いの角度などで総合的に判断します。
「12星座」の占いは、トッピングが山ほど乗ったピザからたった1枚のサラミだけを味見しているに等しいものなのです。

 このホロスコープ、今はプログラムが一瞬で算出してくれます。
 ためしに検索してみて頂くと、生年月日と生まれた時間、生まれた場所を入力するだけで、ウェブブラウザ上でホロスコープを作ってくれるサイトも色々あります。
 これを試していただくと、「太陽はおうし座だけど、月はみずがめ座、水星はおひつじ座」と、おなじみの太陽星座以外も瞬時にわかります。女性は太陽星座よりも、月星座のほうが自分の性格にあてはまってしっくり来るとよく言われます。月経があるぶん、月のパワーの影響を受けるからなど色々な説があります。ぜひ、調べてみてください。

 さて、このホロスコープをちらっと見ただけで、よく当たる占いゲームを仕掛ける事ができます。
 相手が女性の場合なら「火星星座」を、男性の場合なら「金星星座」の部分をチェックします。それはその人が恋愛するときの好みのタイプをあらわしています。星座からイメージされるステレオタイプを思い浮かべていただいてかまいません。
 たとえば、金星がみずがめ座の男性は「先進的、中性的で、友達感覚でサラリと付き合える女性」。火星がいて座の女性は「冒険好きで好奇心旺盛、日常をワクワクドキドキで彩ってくれる男性」など。
 ちなみに私自身の場合ですが、蠍座の火星を持っています。ズバリ、少しアウトローっぽい、危険な匂いをまとった男がタイプですね。或いは将棋の藤井聡太さんのような、好きなものへのマニア的集中力に長けた職人肌タイプの人にも惹かれます。
 この火星星座なり、金星星座なりを見て、相手に「こういう人がタイプでしょう」と指摘すると、いつも大変驚かれます。どうして分かるの? 占いってそんなことも当てられるの? と。
 何故当たるのか、メカニズムは実は、ユング心理学の用語などを使って説明ができます。

 古代人は火星と金星にそれぞれ戦争の神マルスと美の神ヴィーナスを投影しました。血のように赤くギラつく火星は戦火を連想させて不吉で、日暮れ前に夜空でいっとう明るく輝く金星はとても華やかで享楽を思わせました。誰もが人格の中に男性的な部分、女性的な部分を有していますが、星図の中でそれを象徴するのが火星と金星です。
 換言するなら、火星と金星はその人自身の男性性と女性性であり、それは女性の場合は、火星は「もし自分が男性だったら、どう生きたいか?」金星は「女性として生まれて、どう生きたいか?」の理想像として表現されます。(男性は逆です)
 心理学者のユングは、男性は無意識領域に「アニマ(内的女性)」を、女性は「アニムス(内的男性)」を抑圧していることを発見しました。
 ユング心理学は占星術に多大な影響を受けており、この「誰もが心のなかに、男性と女性の両方が住んでいる」という理論の確立も、その影響下にあったものです。
 人はだれしも大なり小なり、「男なら男らしくあれ」「女なら女らしくあれ」というジェンダーロールの抑圧を受けています。よって男性は女性性を、女性は男性性をのびのびと表現できず、抑圧されています。
 抑圧した願望が他者に投影されるというメカニズムを社会に膾炙させたのもユングです。
 この投影の理論は、たとえば他人についての悪口を言うとき、すべて自分自身の欠点にあてはまる、という事は誰しも聞いたことがあると思います。

「もしも自分が女性だったら、こんなふうに生きたかったのに…」という願望が他人に投影されるとき、彼はその女性に激しく惹かれることになります。
 なぜならまさに、彼女は彼の魂の半身、生き別れの双子なのです。女だったらこう生きたかった、でも男に生まれてしまい、男らしく生きなければいけない。アニマ=内的女性=女性性は、彼の「見果てぬ夢」なのです。
 そしてユングは、抑圧から自らを解放し、「内なる女性性と男性性」をバランスよく統合させ、精神的な両性具有者となることを「聖なる結婚」と呼び、また「自己実現」と名付けました。
 なぜ投影がいけないのでしょうか。生きている人間は必ず裏切るからです。他人とは自分の夢見る理想どおりには絶対に動いてくれないものです。生きたいように生きられない心の空虚さを、他人に託してはいけないのです。自分に学歴がない劣等感ゆえに、子どもによい学校を入れたがる親と同じです。

 自分の願望は自分でかなえず、投影ばかりしている人は、すぐにひとめ惚れしてすぐに失望します。相手の真実の人となりを見ないで、思い込みで飛びつくからです。鏡に向かって恋愛をしているようなものです。投影の多い人は、自分の期待を裏切る権利をけして他人に与えない独裁者でもあります。これは恋愛だけでなく、対人関係すべてにも言えます。

「オレの女なら、いつでも身ぎれいにして、ニコニコ笑って周囲を癒すべきだ」という男性は、自分自身がそんな存在にならなければ満たされることはありません。
「私をグイグイ引っ張ってくれる、リーダーシップのある男性でないと」というのなら、自分がそうなるべきなのです。それが本来の意味でユングが唱えた自己実現です。
 人はもしかして本来、自分自身としか結婚できないのかもしれません。あなたの理想の王子様、お姫様は、幸せの青い鳥のように、あなたの心のなかでじっとあなたの到来を待っているのです。
 仮にこの、火星と金星を使っての「好みのタイプ占い」がピンと来なかったという人は、もう自己実現をなしとげ、人に依存しない成熟した段階にいるのかもしれず、それはとても素晴らしいことです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?