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本と大学と図書館と-7-パンの哲学 (Fmics Big Egg 2019年4月号)

 本よりも,学ぶことよりも,図書館よりも好きなものがあります。粉ものです。ラーメン,パスタなどの麺類,たい焼き,饅頭などの餡子とのコラボ,そして,パンです(米も大好きで産地直送のお米農家は20年以上の贔屓です)。一時期,テニスのジョコビッチで広まったグルテンフリーによるカロリー摂取の総量管理と,ウォーキングによるカロリー燃焼を組み合わせていました。

 近所の4キロ四方を歩いていると,季節の草花に目が留まりますが,美味しそうな食べ物も見つかります。ウォーキングは諸刃の剣です。パンの匂いに誘われ,店舗の外から店構えを吟味し,店員さんの動きをチェックし,客層を見極めます。1年ほど前に出会ったパン屋さんが,鵠沼海岸のQuinto(クイント)でした。雰囲気の良いイートインコーナーで,美味しいパンと,お気に入りの本の組み合わせは至福の時です。

 味も,食感も,接客も突き抜けています。進化と言えます。クルミとイチジクの組み合わせは普通にありますが,粉の種類と焼き方の組み合わせが違うのでしょう。カリッ,モチッ,フワァです。セコンドという食パンは,焼かないほうが好きだと,店長さんも,売り子さんも言います。確かにその通りです。フンワリとミルクの香りが鼻に抜けます。店員さんが「今日は,何を召し上がりましたか?」と,声をかけてくれます。

 お客さんの個体識別と,好みの把握も奨励されているようです。パン作りの職人であり,Quintoも含めた8店舗を構える経営者でもある森社長の書いた本では,人材育成,パンづくり,店づくりの哲学(Philosophy)が解説されています。

森直史『トラスパレンテのパン哲学: 人気店のこだわりレシピと店づくり』(誠文堂新光社 2018 2400円+税)

 パン,お店,そしてスタッフへの温かい眼差しは,「スタッフ全員がいつも笑って働けること」と「スタッフに辛いことがあったらできるだけみんなで共有すること」(p.3)に言語化されています。パンの紹介がレシピの2倍もの量で解説され(p.14-167),僕は,その思いを頂けるのです。

 最後は,愛されるパン屋であり続けるために,「お客様が求めるものを」から「トラスパレンテのこれから」と「働くことの将来性」(p.168-187)で構成されています。

 僕は,明日も,本を片手に,このパン屋さんに通い続けるでしょう。本と大学と図書館は,愛され続けているのでしょうか?進化や哲学はあるのでしょうか?

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