本と大学と図書館と-5- 本を買う (Fmics Big Egg 2019年1月号)

 先月号で宮原さんが紹介された自伝『こころの風景』(北日本新聞社 1999)を起点に,芋づる式に資料を検索してみました。著者の吉枝喜久保氏は,K 社の外商部門を立ち上げた方で,FMICS についても本書でふれられています(p.184-7)。検索したのは,大学で購入する本や雑誌は,K 社やM 社など,大手書店の外商を経由するので,流通の仕組みへの興味からです。

 波多野聖『本屋稼業』(角川春樹事務所 2016)が見つかりました。日本では本の売り上げが落ち込んでいるので,リアル書店で買おうとしましたが,歩いて行ける範囲の書店にも,隣駅の書店の店頭在庫にもありません。書店で注文して取り寄せると日数がかかり過ぎます。ネット書店には在庫があり,24 時間,365 日,何時でも,何処からでも注文可能です。しかし,アマゾン社以外のネット書店では送料の発生がほとんどです。店頭受け取りもできますが,在庫のある書店の方面に出かける用事がない限り,交通費がかかります。結局,歩いて 10 分の F 市図書館の分館が所蔵しているので,そこで借りることにしました。

 「本屋が好き。本屋という景色が」,「本屋稼業が好きでたまらない」というセリフが心に響きます。本を買う方法は複数ありますが,この本だけはリアル K 書店で買おうと決めています。ちなみに,ヒットした W 大学図書館紀要に掲載された論文は,フルテキストが公開されていて簡単に入手できました。

さて,『こころの風景』の入手です。この本は絶版らしい上に,所蔵する図書館も遠く,アマゾン社のサイトから古書で買いました。在庫豊富,送料無料,早い到着で,買う際には最有力の入手先になります。活字離れだけでなく,アマゾン社の手軽さの反作用としてリアル書店が減り続けているのでしょう。易きに流されず,本を買うならリアル書店と自戒しているのですが・・・。

 本書の興味深い内容は,1)稀覯・大型のコレクションの納入,2)顧客である大学教職員の営業用データを蓄積したカード形式の得意先台帳の活用,3)大学新増設支援の様子,4)開学後の資料の一手受注を目指した目録カードの添付サービス,など。昭和 30 年代末からの第一次大学新設ブームの様子は,大学人としても興味深いでしょう。書店では,本が文化的側面を捨象した単なる商材として扱われることもあります。大学や図書館も同様に,電子メディアや ICT の発達と,ユーザー要求の変容へ,真摯な対応が必要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?