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「本と大学と図書館と」-46- 大学の反省 (Fmics Big Egg 2023年2月号)

 猪木武徳『大学の反省(日本の<現代>11)』(NTT出版 2009)をやっと手に取りました。“覚えるだけでなく,知りたいと,人間は欲する。知りたいという欲望には,「私的な欲望」というレベルと,知ることの社会的な(公的な)効果という2つのレベルがある。・・・知的な自由と,思想の自由が確保され・・・意図と結果の齟齬を許す自由が人類の知識を生み出した”(Ⅱ 知識の公共性 p.98-103)は印象的です。これは,個々の大学の使命を超えた上位概念の哲学や精神といえます。大学の構成員を超えて,地域の住民や在野の研究者の知りたいという自然な欲求に応えることも,大学の社会における役割であると解釈可能です。
 先月の『インターネット市民革命:情報化社会・アメリカ編』(1996)では,“日本の大学図書館は,もともと「学外者」が入ることなど予定していない・・・アメリカの大学はキャンパスに入るのも自由。だれでもノーチェックでキャンパス内,図書館内に入って行き,本を手に取って読める
。閉架図書の場合も,免許証やパスポートの提示で館内閲覧ができる。館内のデータベースも自由に使える”(p.282)との紹介があります。前段の大学の役割は,図書館における住民と在野研究者への通常サービスで,日常の見慣れた風景となっています。
 わが国の大学でも,地域住民に開放されている施設は図書館が74.3%と最も多い(私立大学の役割~地域貢献・国際比較・大学間連携の視点から~ 2020年3月 私学高等教育研究叢書 p.7)ものの,大多数の実態はアリバイ工作的な開放です。アメリカの全大学ではないでしょうが,“大学図書館利用者の3分の1が学外者と推定される”(岡部 p.285)からは程遠いです。大学人なら自身のキャンパスの実態から了解できます。
 90年代の自身の経験で,アメリカの大学図書館へ,出版業界のパンフレット的な標準化資料の複写を個人的に依頼したことがあります。学外者で,それも海外からの依頼にもかかわらず,2週間ほどで,航空便でコピーが送られてきました。有料サービスだが,通常手続きでは煩雑なので,今回は無料サービスとする説明が付いていました。旧職場では,海外からの複写依頼には,料金請求の煩雑さから,担当は大いに悩むでしょう。高等教育のフィロソフィーと,現場のオペレーションのギャップは大きいです。
 猪木氏は,“自分たちの欲求の多くが国家によって満たされると信じがちだが,地域共同体における自発的な活動を通して自由の行使の意味を知ることができる。吸い取られる自発性に対抗するには粘り強い知力と体力が必要”(読売新聞 2023年1月16日朝刊 p.1)と論じ,常にその主張はぶれません。遠い目標としている論者です。

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