本と大学と図書館と-6-FGI (Fmics Big Egg 2019年2月号)

 新たなサービスや製品の開発や,顧客満足度調 査ではアンケート調査やインタビュー調査が行わ れます。大学では学生生活実態調査を,図書館で は利用者調査を頻繁に実施します。これらの調査 結果は課題解決に役立っているのでしょうか?調 査自体が目的化して,ユーザー志向であることの アリバイ工作や,調査者の自己満足に終わってい ることはないのでしょうか?調査の集計結果・分 析・対策が明記された報告書が公開されることも 少ないのではないでしょうか?

 最近,図書館利用者調査に関わる機会がありま した。その集計結果と分析概要の公開のされ方に ついて,住民の立場から疑問を感じました。図書 館の利用頻度や利用目的などの定量的な集計結果 より,アンケート調査の自由記入欄が気になりま した。住民の生の声が満載です。駐車場や駐輪場 が足りない,バリアフリーが不十分という多くの 声があります。一方,検索システムの仕組みに関 しての少数(というより一つ)のレアな不満もあり ます。こうしたレアな声に耳を傾ける必要がある のではないでしょうか?定量的に見て,少ないか ら無視という対応になってはいないでしょうか?

 レアな声の真相に迫るには,6 名程度のグルー プによるFGI(フォーカス・グループ・インタ ビューインタービュー)が有効です。以下のプリ ンターに関する事例が,非常に納得できます。

 カラープリンタの満足度調査の「より印字速度 を速く」への対応には,技術的・コスト的に大変 です。FGIを実施して,「印字速度が遅い」を 深く聞いてみると,インクがにじんだり,紙詰ま りを起こしたり,何度も失敗して時間がかかると いう状況が明らかになります。対応は,印字速度 を速めるのをやめて,シートフィーダーの性能を あげたり,インクがにじまないようなものに変え ることによって「印字速度が遅い」という不満を 解消することになります。住民・生活者の言葉 と,製品製造者・サービス提供者の言葉・感覚に ギャップがあるのです。

 昨今,両者間のギャップは広がり続けていま す。ギャップを認識し,乗り越えるためにも,学 生生活実態調査や図書館利用者調査において,F GIや定性調査がもっと活用されるとよいと考え るこの頃です。

 今月は自分の論文の紹介ですが,ご一読くださ い。そして,FGIやってみませんか? 長谷川豊祐. フォーカス・グループ・インタ ビューは利用要求を解明する. 現代の図書 館. 2010, 48(2), p.78-88.   http://toyohir o.org/BookUnivLib/fgi.pdf


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