本と大学と図書館と-2-業務分析(Fmics Big Egg 2018年10 月号)

 戦後,新制大学が発足して大学と学生の数が増 加するブルーオーシャン(競争のない業界)の時 代は終焉を迎え,高等教育業界はレッドオーシャ ン(競争の激しい業界)の時代になりました。大 学の図書館に目を向けると,青の時代に,図書館 の蔵書と建物は,物理的・経費的に拡大し続けま した。図書館の拡大傾向は「宿命」です。

  学校教育法 83 条で,「大学は,学術の中心とし て,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸 を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展 開させることを目的とする」とあり,大学設置基 準 38 条(図書等の資料及び図書館)に,「大学 は,学部の種類,規模等に応じ,図書,学術雑 誌,視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料 を,図書館を中心に系統的に備える」とありま す。更に,適当な規模の閲覧室・書庫,学生の学 習に十分な数の座席を備えると続きます。学部・ 学科や学生の増加に従い,図書館は成長・拡大し ます。

  経済も成長している青の時代ならばともかく, 赤の時代においては,図書館は,一生成長を続け る恐竜のような非効率な生き物になりかねません しかし,「図書館には,その機能を十分に発揮さ せるために必要な専門的職員その他の専任の職員 を置く」ともあり,赤の時代における品質の維 持・向上の条項が,踏み込んで基準を解釈すれ ば,きちんと組み込まれていることがわかりま す。また,「資料の提供に関して他大学図書館と の協力に努める」と連携の方向も示されていま す。

  改めて品質の維持・向上と,資料提供の連携を 再構築する際に,『大学図書館の業務分析』(全国 国立大学図書館長会議編 1968 日本図書館協会) が参考になります。この本には,用語の規定や解 説,業務の具体的な内容,業務の専門性・困難 性・責任性が分かりやすく記述され,業務改善と 人材育成に活用できます。

  半世紀前の発行ですが,図書館の普遍的機能 や,機能を実現する業務の土台を再発見できま す。例えば,資料の収集・選択の章には,「この 業務は,教官や学生の要求,カリキュラムの調 査,学会の研究動向の把握,資料構成の検討,利 用状況の分析,資料収集方法の調査などの一連の 作業を基礎として行われる。(中略)大学の教 育・研究活動に対する深い理解と広範な資料に対 する専門的知識,ならびに適切な資料収集のため の企画力が必要」とあります。現状から解釈すれ ば,電子ジャーナルの利用状況の把握,ネット書 店からの資料購入も視野に入り,インターネット や電子メディアにも十分対応可能です。図書館運 営に限らず,人員,経費を節減し,サービスを向 上させる効率運営の実現に向うには良い本なので お薦めです。

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