見出し画像

「本と大学と図書館と」-47- 知的機動力 (Fmics Big Egg 2023年3月号)

 アフターコロナを契機に,社会の変化にどう対応すべきか考える機会が増えました。打ち合わせや,買い物の多くは,リモートで代替えできるようになって,交通費や移動時間の節約になり,生活習慣も変わりました。円安,インフレの進行,人口減少など,個人生活に大きな影響を及ぼす多くの事象が控えています。
 現代人が情報や知識を得る手段は,インターネット後に大きく拡大しました。テレビの報道情報番組,紙の新聞や既存メディアがネット上で発信するニュース,そして,個人によるSNSでの書き込みまであります。情報や知識の信頼性の判断には,体系的な知識を提供する「本」が適切です。
 将来予測には,野口悠紀雄さんの著作が役立ちそうです。『2040年の日本』(2023/01 幻冬舎新書)には,「医療や介護における技術進歩など,未来を正しく理解し変化に備えられるかどうかで後半の人生が決まる」とあります。『円安と補助金で自壊する日本』(2022/10 ビジネス社)では,「農業や製造業は,補助金による救済による政府依存が強まり衰退している」として,日本が直面する経済問題を明らかにし,日本が向かう今後の方向が示されています。『リモート経済の衝撃』(2022/01 ビジネス社)では,「リモート経済にリニア新幹線はいるのか?」と疑問を呈しています。
 この3冊によらずとも,今後20年の間に社会生活が大きく変貌する可能性は大です。日本の医療や産業は大丈夫なのか。生活や社会をよくする技術革新のダークな部分は何なのか。目にした情報や知識をそのまま受け入れず,情勢を深読みして,まず,その価値や真贋,社会への影響を見極める必要があります。
 その後,情報や知識をもとに,変化する世界への有効な対応方法を,野中郁次郎『知的機動力の本質:アメリカ海兵隊の組織論的研究』(2017/05中央公論新社, 2023/01 中公文庫)から探ってみるのも良いでしょう。本書では,危機の時代に自己革新を続ける組織の秘訣をアメリカ海兵隊(BIG EGG 2020年2月号もご覧ください)に見出しています。知的機動力を,「二項対立ではなく,相反する二つの要素を組織的に相互作用させ「中庸」として創造・実践する「動的二項態」を基盤とする」(p.190-191)として,対立的な関係の一方を消滅させず,良い点を融合させる感じです。知識を協創的な資源と捉え,その時の状況や,使う人の思い・理想・主観・感情によって,意味や価値が異なるため,動的な過程の理解が必要ともあります。不確実な将来への対応に,知的機動力を発動できるようになりたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?