自己適応によって、優しさの呪いから解放された一症例
【症例】日本人/男性/35才
【主訴】全盛期と比べて勢いが落ちてきている実感がある
【症状】慢性的な「なんかこれじゃない感」を抱え、「え、これからの俺の人生って、この延長線上にあるの…?」という虚無感が間欠的に生じる。
【最初に結論を紹介】
症例は『結果として優しかった』だけにも関わらず、『優しいのが自分の良いところ』『周囲が期待している』と認識してしまい、『優しくあろう』と思ってしまった。これは症例にとってhave toであり、その結果、自分の持ち味(want toや才能)を活かすことが出来なくなっていき、慢性モヤモヤ症候群にかかってしまった事となる。
【症例詳細】
併存疾患:ADHD(注意欠如・多動症)、
常用薬:舌下療法薬(シダキュア®︎)
家族歴:妻1人、息子(2才)1人
生活歴:会社経営者/喫煙なし/飲酒ほぼなし
【身体所見】
No Problem
【Problem List】
・慢性的な集中力低下
・仕事は忙しいけど、起業後から比べて充実度低下
・オールマイティな活躍からくる没個性化
・自分の人生が自分の手から離れていく感覚
・『思考9割 行動1割』から生じるモンモンTIMEの増加
【経過】
約2年慢性的な症状に悩まされる(上記Problem List参照)(悩んでいることにすら気づいていなかった可能性もあり)。
前回2022年5月29日の受診後、順調な経過を辿る(この際の処方は『やりたい事をやろう』)。
その後、自己適応により、更なる症状の改善が認められたため、今回の発表に至った。
【診断】
症例の才能:最適化
ルール設計が最適化されていない事に敏感に気づき、どうすれば限りなく機会が平等になるかを考え、実行に移す能力に長けている。症例のwant to:
喋りたい
ふざけたい
最小限の力で、最大効率化狙いたい
旗を立て、希望を見せたい
良いものを広めたい
まだ多くの人が知らない真実や良いものを学びたい
(良い意味で)ビックリさせたい
【経過】
■ 才能
小学生の頃から『最適化』に敏感な傾向あり。
男子がドッジボールを楽しんでいる際に女子が参加し始めると
「男子は左手でやろう!」
「男子は片足ケンケンでやろう!」
というルールの最適化を提案および実行していた。
■ want to
また症例が大学生5年生の頃、東日本大地震が生じ、自粛ムードにより大学卒業式が中止となった。当時、同学科の6年生および他学科の4年生に親しい知人が多かった事から、友人と共に勝手に『卒業式っぽいイベント』を企画し、卒業生が一同に集まれる空間/時間を提供した。これは『旗を立て、希望を見せたい』というwant toを実行した例である。このように人生を通底したwant toが複数見つかっている。
【考察】
上記のような行動を無意識的に実行していた結果、周囲から「優しい」と言われて育ち、また症例自身もそのように感じていた。症例にとっての『優しいの定義』は「優しくなりたいと思うこと」であるため、優しい人で間違いはないと考えられる。
一方、症例は『優しくあらねばならぬ』の罠にハマる。
どういうことか。
症例は
『優しい経営者であろう』
『優しい上司であろう』
『旦那であろう』
『優しい父親であろう』
と考え、実行し始める。
ここでドッジボールの話に戻りたい。
症例含む男子勢がドッジボールを楽しんでいる際に女子が参加し始めると
「男子は左手でやろう!」
という音頭を症例が取るため、ルールの最適化がなされ、多くの参加者の機会が平等に近づくという事が多くあった。確かに、優しそうに映る。
ここで私たちは大きな見落としに気付いた。
ルール最適化が完了した後、症例は左手で思いっきり女子にドッジボールを投げ込んでいたことが判明した。
こうなると話が変わってくる。
思っていた100倍は優しくない。
ここで考えられるのは
「シンプルに自分を含めた大勢が楽しめるルールにしたい」
という欲望をもとに、ルール最適化が実行された可能性である。
同様に、勝手に『卒業式っぽいイベント』を企画したことも振り返る。イベント当日に関しては、特に「今までお世話になりました!」と握手をして回る訳でもなく、生協の3階から卒業生が集まっているのをただただ見ているだけであった。
おそらく
『日本全国の自粛ムードが気に入らない、というか意味が分からない。津波の被害は大きく、追悼や復旧活動は必要だと思うが、自粛は最適化ではない』と思い行動したのだと考えられる(大勢が喜んでいるのはもちろん嬉しいのではあるが)。
【まとめ】
以下は、人間の行動および結果の流れを図にしたものである。基本的に『こうしたい!』という意図が脳内で生じ、行動という形で身体から出力され、結果として外部環境に影響を与える。
ここでドッジボールの例を図に落とし込むと、結果として優しいだけで、1mmも自分から優しくなろうとしていないことがよく分かる。ルール最適化した後は、「あとは実力勝負!」と言わんばかりに、左手で思いっきりボールを投げ始めるからだ。
そして、驚くべきことにこれは現在も変わっていない。記念すべき初noteに書いているように、症例は【動物をスタッフの笑顔が両立する動物病院を作り、これを新たな動物病院業界の常識にしたい】という取り組みをやっている(最新スコアはAAAであり、これは上位2.5%の数値)。
パッと見だと、優しい心の持ち主だと感じるかもしれない。しかし、ここまでご視聴頂いた方はお分かりであろう。
優しいからやっているのではなく、
ルールが最適化されていないのが気に食わないからやっている。
ただそれだけである。
というのが本質である事が判明した。
症例は『結果として優しかった』だけにも関わらず、『優しいのが自分の良いところ』『周囲が期待している』と認識してしまい、『優しくあろう』と思ってしまった。これは症例にとってhave toであり、その結果、自分の持ち味(want toや才能)を活かすことが出来なくなっていき、慢性モヤモヤ症候群にかかってしまった事となる。
最後に:悟空に思いを馳せて
ドラゴンボールZの主人公、孫悟空の事を考えた。悟空は【強くなりたい】と思って日々過ごし、結果スーパーヒーローとなった。ここで悟空が【優しくなりたい】という意図で過ごしていたどうなっていたか、あるいは周囲の人間が悟空に【優しくして欲しい】という期待をしていたらどうなっていたか。
間違いなく、悟空の良さは活かせず(社会のためにならず)、慢性モヤモヤ症候群に陥ってしまっていた事だろう(実際、家事手伝いをやった結果、悟空のパートナーであるチチに怒られるシーンがあったかと思う)。
【総括】
このように、自己適応を遂行する事で、脳がクリアになり、自分の活きる(生きる)道が明確になることを実感した。コーチングを学び、プロコーチを目指す上で、自己適応を遂行する事は必須事項である。
本症例は、プロコーチに一歩近づいたと考えられる。