TOYMO

かくしごとをしています。

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『トッピーとペキタフタゴラフ』

 河原で石を拾うのが僕たちの日課だった。正確に言えば、最初のころの僕はただ兄ちゃんの日課に付き合わされていただけだったけれど、しだいに僕のほうが熱中しはじめたので兄ちゃんは僕に任せて河原に来ない日も多くなった。 ≪河原で見つけた不思議な石≫というのが兄ちゃんの自由研究のテーマだ。なぜそんな内容になったかといえば、夏休みの初めにテレビで見た「ボクたちの自由研究」という番組の影響なのだった。群馬県のとある小学生が去年の夏休みに毎日近所の石切り場に出かけて、8月の終わりにとうとうペ

    • ニシさんの話(1)

      「仕事やめたんだってな」  大西さんから急に電話がかかってきたのは11時ごろだったと思う。おれはまだ寝ていたので、しばらくはそれがパイセンだと気づかずタメ口でガタガタ吠えてしまった。誰だよオメェ? オオニシぃ? 「藪中の大西です」  脳天がギーンと、コンクリートドリルで誤って鉄筋を掘り当てたときのように鳴った。藪中のニシさん―。 「いやいやいや、勘弁してくださいよ! 大西って言うから一瞬、ぜんぜん違うヤツの顔が思い浮かんじゃって! ていうか、あれ、ケータイの番号変わって

      • ラジオシナリオ『ひとでなしBLUES』

        (イメージキャスト) マチ子              ……中嶋朋子 あっちゃん (漫才師A/タイガーA)                  ……中川家・剛 エイジ (漫才師B/ほかすべてのB)                  ……中川家・礼二  * * * * * * * マチ子「私の夫は天才でした。天才だ、と言われていました。十年前までは」  けたたましく鳴る出囃子。  某国民的漫才コンテストでおなじみの曲。  拍手と喝采。 漫才師B「はいどうも〜。いやぁこんな

        • COLORED.

           店の灯りを消すまで彼女の存在に気付かなかった。  逃げるように立ち去った奇妙なシルエットは、学生服のように見えたけれど、もう終電車に近い時間だ。こんな場所を通りかかる理由がない。閉店後の美容院の前なんかを。  練習を終えてアパートに戻るのはたいてい二十三時すぎ。冷蔵庫のありあわせで遅すぎる夕食をすませて零時。シャワーを浴びてベッドに沈むころには、時計を見る気力さえ残っていない。  本当なら去年の秋にはこの酷いサイクルから抜け出せるはずだった。国家試験さえパスすれば、すぐにで

        『トッピーとペキタフタゴラフ』

          改行だらけのゾンビ発見器

            インターネットばかりやっている人間は、金魚よりも集中力が続かなくなっているという研究報告があった。あったような気がする。ひとまずあったと仮定して話を進める。嘘かもしれないが、そういわれるとたしかにそうかもしれないとあなたが感じるなら、あながち真実から遠いわけでもないだろう。  複数の作業を並行して進めることが容易になった。たとえばこうして文章を書いている最中にフッと窓の外が翳ったら、夕立ちが来るのではないかと天気予報アプリを開くまでの所要時間2.7秒。テキストに戻った次

          改行だらけのゾンビ発見器