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乳がんになった時のこと 5

「母に何と言ったらいいのか」

『〇〇先生御侍史』と書かれたCD-R入りの紹介状を受け取って、「御侍史」って初めて見る敬称だけど、なんて読むんだろうと思った。そしてとぼとぼと歩きながら考えた。
まず姉に連絡、それから母にも言わねばならない。いや、母に言うのは…まだがんと決まったわけではないのでとりあえず先送りにした方がいい。きっとショックを受けてしまう。いや、仕事はどうする?小さい子どもたちを残して死ぬのか。まさかの展開で思考が追いつかない。

姉にLINEしたらすぐに電話がかかってきた。ちょうど昼休みだったらしい。
「エコーでみてもらったん?どうやった」
「なんか石灰化したものがうつってるって言われてんけど」
「どれぐらいの大きさ?何センチって言われたの。」
「横1.5センチ、縦1.2センチ」
「おー、了解。とりあえずそのエコーの写真をこっちに送って」
「え、だって紹介状は封してあるんやで。勝手に開けていいん?」
「うーん。写真あったらこっちの先生に見てもらえるねんけどなー」
その時の姉は健康管理センターで保健師をしていた。
「労災病院はいつ行くん?」
「2日後」
「検査終わったらそのCD-R返してもらえるから、こっちにすぐ送って」
「おばあちゃんにはまだ言わん方がいいよな」
「まだ言わんでいい。がんと決まったわけではない。」
「それは同じ意見やわ」
電話を切った後、姉の口調がいつもよりちょっと早口だったけど極端に驚いたわけでもなく、医療関係者ならでは対応だなと思った。

母にがんの可能性については言わないとしても、労災病院で精密検査を受ける事は隠し通せないだろう。検査をすることだけ話そうと思った。
実は一番上の姉も数年前大腸がんの手術をしていた。手術も治療も完了して今は元気だが、姉の大腸がんが分かった時、母は自分をかなり責めていた。自分の育て方が悪かったからがんになったのではと思っているようだった。そんなわけないが、そう考えてしまう気持ちは私も子どもたちがいるのでわかる。

母には離婚以来、大きな心労に加え、家事の負担など莫大な苦労をかけている。
もうこれ以上心配はかけたくなかった。

晩御飯の後、2人で片付けをしてる時に極めて軽い感じを演出して話した。
「なんかさー、前に言ってた胸のグリグリ、念のために精密検査してって病院で言われたわ。来週労災病院行ってくるね」
「えっ!お母さんも一緒に行こうか?」
「いやいや、来週は検査だけだから行ってもする事ないわ。それに症状もなにもないし、一応受けるだけ。お姉ちゃんも大丈夫やろうって言ってたし。」
とりあえず姉の名前を出したら安心するかもと、切り札を使った。
「えー心配やわ。私も先生の話聞いた方が安心できるけど。」
「じゃあ検査の結果出るときの方がええんちゃう。」
「そう?」
「そうそう。また次の時一緒に行こ」

とにかく検査をしないと何もわからない。
意外に「なんでもありませんでした」ってなるかもしれない。そう願った。
たった2日後の検査までが長かった。


#乳がん #健康 #シングルマザー

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