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乳がんになった時のこと 7

「知らないから怖いのだ」

細胞診の結果が出るのは1週間後だと言われた。
その日の夜は穴を開けられた胸も気になり、あまりよく寝られなかった。
子どもたちの隙間に体を埋めて、ゴロゴロしていた。
色々考えると良くない事ばかり考える。がんという病気のイメージは「死」だ。
しかし同時に「乳がんってどんな病気なんやろう」とも思った。

乳がんという名前はよく聞くし、人が死ぬ病気であることはテレビでもじゃんじゃんやってるから知っている。でもどういうメカニズムでなるとか、どういう治療をするとか、どれぐらいの確率で死ぬのかとか、私は全然知らなかった。

那須雪江さんという漫画家が好きだった。白泉社の「花とゆめ」で80年代から90年代に特に人気があった人だ。その人の「フラワーデストイヤー」という漫画の中で「知らないから怖いのよ。だから知らなくてはいけない。」という台詞があった。それは自分の将来がどうなるかわからず、不安を抱いている高校生を励ます言葉だったけど、今の私にぴったりだと思った。

明日図書館へ行こうと思った。

私はテレビ番組のリサーチという仕事をしている。リサーチというのは、何を取材するのか世の中からピックアップしてくる仕事だ。さらにどこを取材するのか、誰に話を聞くのか、その人が取材を受けてくれるのか、使える映像にはどんなものがあるのかなどを調べて資料を作ったり、台本を書いたり、取材交渉をしたりする。

そんなことからインターネットだけで物事を調べるということをしない。インターネットは世の中のあらゆる事が調べられるが、体系化されているものは少ない。ある程度わかっている事を、もっと深く知るには向いているが、全く知らない事の全体像を掴むのにはあまり向いてないと思っている。古い情報も新しい情報もごちゃ混ぜになっているので、よく知らない分野に対しては間違った情報を掴みやすい。

乳がんの事を全くわかっていない私が行くべきなのは図書館だと思った。

図書館に行くと、健康コーナーにがんの本はたくさんあった。これを食べれば治るみたいな民間医療の本から、症例の写真がいっぱい入った専門書みたいなのまで。
とりあえず近藤なんちゃら先生の本は避けて、聖マリアンヌ大学の乳腺外科の先生の本を選んだ。パラパラと見て、本の前半はイラストや割と簡単な言葉で説明したり、後半は写真入りで細かく症例を説明しているのが私の知りたいことに即していると思った。

腫瘍のサイズは1.5センチ。ということは、たとえガンだったとしても2センチ以下なのでステージ1だ。ちゃんと手術をして治療をすればそんな簡単には死なない、とりあえずそれを確認してほっとした。とにかく死ぬのは一番あかん。あとはもう出産するわけもないので、おっぱいが片方なくなったところで構わない。乳房再建する方法も色々あるようだったが、もう別になければないでいいと思った。

しかしその後の治療は読めば読むほど怖かった。がんはできた時点で体内にすでに微小ながん細胞が広がっていってしまっている事が多く、それをほっておくと再発の可能性が高くなる。そのため放射線治療や薬でなるべく退治しなくてはいけない。薬は乳がんのタイプによって抗がん剤・ホルモン剤・分子標的薬などを使い分けて治療する。中でも抗がん剤はかなりきつく、吐き気などの副作用もあり、そして必ず髪の毛が抜けてしまう。傾向として、40歳以下の乳がんは、若年性の乳がんにカウントされ、抗がん剤をつかわなければいけないタイプが多いという。39歳は40歳以下にカウントされるのだろうか、1歳ぐらいまけてくれないかなぁと思った。

乳がんになりやすい人、というのもいるのも書かれていた。40歳以上、出産をしていない、高齢での初産、初潮が早く閉経が遅い、肥満、飲酒・喫煙習慣がある、血縁者に乳がんになった人がいるなどだった。私には飲酒以外どれも当てはまらなかった。

乳がんには遺伝性のものも10%程度あると言われている。姉は大腸がんだったが、大腸がんも遺伝性乳がんと関係があるのか。しかし姉以外に親戚にがんにかかった人間はおらず、婦人系のがんになりやすい家系だ、とは言いづらかった。

そしてがんにかかった人はほぼみんな考えるであろう、
「なんで私が乳がんになったんだろう」と思った。


#乳がん #健康 #シングルマザー

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