絓秀実氏との対談(2017年9月12日)・その4

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 「その3」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 世界に出して恥ずかしくないごく数名の日本の知識人の1人である絓秀実氏との対談シリーズである。
 2017年9月12日におこなわれ、紙版『人民の敵』第35号に掲載された。
 話題は例によって多岐にわたる。
 ( )内は紙版『人民の敵』掲載時にもともとあった註、[ ]内は今回入れた註である。
 なお云うまでもなく、対談中で「前の天皇」とか「先帝陛下」とか云ってるのは昭和天皇のこと、「今の天皇」とか「今上帝」とか云ってるのは平成時代の天皇つまり現・上皇のことである。

 以下本文。
 第4部は原稿用紙換算21枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその8枚分も含む。

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 政治的選択を間違ってばかりの東浩紀

 しかし東浩紀も、あの世代の批評家の中では相対的にだいぶマシとはいえ、やっぱり東ではダメですよね。政治的な発言もブレまくってるわけじゃないですか。そもそも猪瀬を支持し、小池も支持してたはずだ(笑)。さすがに小池支持については、最近ちょっと自己批判してたらしいけど、猪瀬支持については口をつぐんだままだと思う。だったらむしろ舛添を支持して、擁護すべきでしたよ。オレも、劣等比較で舛添以上にマシな都知事は当分出てこないと思ってたしさ(笑)。その程度の政治センスもないんじゃ、どうしようもない。

外山 このかんの何人かの都知事の中では、どう考えても舛添が一番マシですよね(笑)。もちろんぼくはファシストなんで石原支持ですけど、石原の後では舛添が一番マシですよ。

 劣等比較でしかないけど、そうなります。舛添以上の都知事は、日本国民の民度では望めない。それは安倍ちゃんも一緒。小池を見てれば、舛添のほうがマシだったことは今や明らかでしょう。

外山 第3回の座談会[『ゲンロン』第4号掲載の東浩紀らによる座談会「平成批評の諸問題 2001-2016」のこと。のち『現代日本の批評 2001-2016』として単行本化。なおこの座談会シリーズを批評する外山らによる座談会もすでにnoteで全文無料公開]を読んでとくにそう思ったけど、東浩紀って、そもそもは〝運動家体質〟の持ち主ですよね?

 そうそう、活動家タイプなんです。政治向きのことにも口を出したがる。だけどしょっちゅう判断を間違えるんだ(笑)。近年で云えば、〝原発〟で間違え、〝猪瀬〟で間違え……。

外山 〝しばき隊〟で間違え……(笑)。

 〝小池〟でも間違えて、とにかく間違いだらけ(笑)。もともとは政治家になりたかったような人なんじゃないかな。おそらく、猪瀬にもっと長く続けてもらって、東京オリンピックの〝総監督〟ぐらいの地位に就きたかったんじゃないかと思う。あるいは〝副知事〟とかを狙ってたかもしれないし、あれだけ公然と支持を表明してたんだから、そうなる可能性もなくはなかったでしょう。ところが猪瀬が金銭スキャンダルで失脚して、東の野望も潰えてしまう。……今は東は、民進党支持なの?

外山 ブロックされてるし、よく知りません(笑)。まあ藤村君が東浩紀の動向を熱心にチェックしてるから、たいていの情報は遅れて耳に入るんですけど。

 外山君と藤村君の対談を読むと、東浩紀と加藤典洋が急接近してるそうですね。加藤典洋はまたフリッパントというかトリッキーというか、〝尊皇攘夷〟がどうこうって本(『もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために』幻戯書房・9月下旬刊)を出すでしょ。その関連で、たしかに来月の『群像』(11月号)にも東と加藤の対談が載るらしい。その対談をまた藤村君と検討していただければと思いますが……。

外山 いやいや、〝東浩紀〟はもういいです(笑)。素材が3回連続のシリーズ座談会だったんで仕方なく長々とやってるだけで、もっと他の〝若手論客〟も扱いたいんですよ。北田暁大が他に誰か2人と、やっぱり最近の〝批評シーン〟について座談会をやってる新書(北田・栗原裕一郎・後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』イースト新書・17年6月)が出ていて……[後日、同書を対象とした〝検閲〟読書会を敢行し、そのテープ起こしもすでに公開済み]。

 読んでないけど、愚著らしいですよ。アマゾン・レビューでの小谷野敦による酷評が妥当なところでしょう。


 批評シーンは西高東低?

 北田も北田で民進党のブレーンとかになりたいんだ。北田もリフレ派に転向してて、民進党は安倍ちゃん以上の分配政策を掲げろって云うしさ。しかしそんな提言に意味はないよ。

外山 自民党が2つできるだけですよね。

 うん。だったら安倍ちゃんを、〝もっとやれ!〟と応援すればいい。安倍ちゃんだって一所懸命やってるんだから(笑)。

外山 なんで民進党ではなく自民党に政策提言しないのか、と(笑)。

 稲葉振一郎も民進党に政策提言してるし、要は民進党のブレーンになりたいんだとしか思えない。むしろ東は、少しはアタマがいいからこそブレまくったりするんです。北田は……。

外山 すごく生真面目な人だという印象があります。

 その印象は合ってますね。オレも会ったことあるし、生真面目は生真面目だよ。

外山 あるいは國分功一郎と誰だかの、〝社会主義〟がどうこうっていう対談の新書(國分・山崎亮『僕らの社会主義』ちくま新書・17年7月)か、どっちかを次の藤村君との対談[「〝検閲〟読書会」シリーズのこと]の〝餌食〟にするつもりです。

 あれもヌルい社民の本でしょう。やっぱり東京と京都の文化的な温度差というか、京都のほうが多少はラジカルなところがあって……。

外山 國分功一郎は京都なんですか?

 いやいや、東京。で、國分がスピノザ論の本(『スピノザの方法』みすず書房・11年)を書いた時だったか、市田良彦や王寺賢太たちが京大の人文科学研究所に國分を呼んで、ほとんど吊るし上げ目的のシンポジウムをやったんです。「おまえは何も分かってない」ってさんざん吊るし上げた。そこには浅田彰も来てて、あの人もまた露骨だから、休憩の時に國分に「君って、バカだと云われませんか?」って(笑)。國分は、一見ハイレベルなことを云ってるようだけども……。

外山 ぼくは名前しか知らないんです。最近よく名前を見かけるなあというだけで、何を云ってる人なのか知らないんで、1度〝検閲〟してみなければ、と。

 小平で道路建設に反対する住民投票を呼びかけて大失敗したり(住民投票は13年5月に実施されたが、投票率が住民投票の成立要件に届かず、開票もおこなわれなかった)、その対談の本だって〝マルクス主義以外にも社会主義はいろいろあったんです〟っていう、要するにくだらないことばっかり云ってるわけですよ。しかしその程度の人間でも、どういうわけか東京ではモテハヤされるんだ。荻上チキもそうだし……まあ荻上はオレの授業にも出てた人でもあるんだけどさ(笑)。でも京都ではそうはいかない。

外山 京都にはやっぱり〝うるさ型〟の……?

 そうそう、〝うるさ型〟の諸先輩方がたくさんいらっしゃる(笑)。60年安保以降、東京のブントは四分五裂したけど、京都では延々と影響力を保ってたわけだし。

外山 〝ブント系知識人〟の方々が目を光らせていて……実は浅田彰だってその1人なんですもんね。

 そりゃあ京都のほうがレベルは高くなりますよ。

外山 当たり前の話で、現実の運動との緊張関係がなければアカデミズムの人たちも鍛えられないでしょう。


 〝ポストモダンの左旋回〟はだめ連の功績

外山 ……しかしウェブ版『人民の敵』の藤村君との対談シリーズ[東座談会の読書会北田座談会の読書会のこと]は、意外と読まれてるフシがあります。

 うん、読まれてると思う。若い日本文学の研究者なんかも読んでますよ。

外山 読んでることをツイッターとかで口外してないだけで、東浩紀の〝1強〟体制に内心では不満を募らせてるインテリたちが、こっそり読んで溜飲を下げてるような気がする。栗原ナントカって人は、公然と褒めてくれてたな。

 栗原裕一郎(65年生まれの批評家)でしょう。小谷野敦に近い立ち位置の人で、彼もどっちかと云えばリフレ派ですけど、つまらない野心がないだけ、リフレ派の中ではマシな部類かもしれません。もちろん小谷野氏のほうがずっとマシですけどね。……他に藤村君と何を話してたっけ?

外山 絓さんが〝多少の異論は……〟というのは、おそらく思想シーンへのだめ連の影響の大小についてだろうと思ってました。

 批評家たちは〝だめ連〟なんて今でもほとんど知らないでしょう。

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