絓秀実氏との対談(2017年9月12日)・その3

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 「その2」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 世界に出して恥ずかしくないごく数名の日本の知識人の1人である絓秀実氏との対談シリーズである。
 2017年9月12日におこなわれ、紙版『人民の敵』第35号に掲載された。
 話題は例によって多岐にわたる。
 ( )内は紙版『人民の敵』掲載時にもともとあった註、[ ]内は今回入れた註である。
 なお云うまでもなく、対談中で「前の天皇」とか「先帝陛下」とか云ってるのは昭和天皇のこと、「今の天皇」とか「今上帝」とか云ってるのは平成時代の天皇つまり現・上皇のことである。

 以下本文。
 第3部は原稿用紙換算23枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその8枚分も含む。

     ※     ※     ※


 某NPO指導者が出演した〝演劇〟公演

外山 ぼくは絓さんから最初に〝ポッセ問題〟について蒙を啓かれる以前に、実は佐々木隆治とは〝遭遇〟してたんですよ。NHKの「芸術劇場」っていう、演劇とかの舞台芸術とかを収録して放送する番組があったでしょ(11年3月まで)。気になる演目が放送される時は録画して観たりしてて、その中で、なんかマルクスの『資本論』を演劇にする、とかいうのがあったんです(09年7月10日放送)。

 あ、ありましたね。オレも接触したというか、あっちからオレに接触してきたんだけどさ。

外山 うん、そもそもは外国の作品(ドイツの「リミニ・プロトコル」という〝アートプロジェクト・ユニット〟による「カール・マルクス:資本論、第一巻」)で、〝演劇〟というより、マルクスの研究者とか活動家とか、演劇についてはまったくの素人を8人ぐらい舞台に上げて、マルクスの文章の朗読を時々挟みつつ、それぞれの体験とかの実人生を語らせるという、舞台装置とかも含めてパフォーマンス的な演出を凝らした、〝フツーの演劇〟以外の何かでした。

 それでオレにも出演の打診がきたんだよ。曖昧な返事をして断って、結局ノータッチですけど。

外山 で、もちろん絓さんに〝ポッセ問題〟をレクチャーされて以降に改めて観て、佐々木隆治も出てたことに気づいたんです。

 ほー。でもあちこち片っ端から声をかけて出演者を探してたみたいだしなあ。

外山 それが佐々木隆治だったと気づいたのは後からなんだけど、印象には残ってたんですよ。それははっきり違和感として、印象に残ってた。
 なんか、どう見ても若い奴が出てきて、「私は学生運動の組織に属してたんだけど、いろいろ疑問が出てきて組織を抜けて、今は労働問題に取り組んでいます」とか決意表明をしてる。今から思えば、〝学生運動の組織〟というのは京大政経研のことで、〝労働問題への取り組み〟というのはポッセのことなんだけど、当時はポッセにそんな怪しい背景があることも知らないし、政経研なんてものも知らなかったんで、何を云ってるのかさっぱり分からなかったわけです。ぼくより若いだろう奴が、一体何の〝学生運動の組織〟に属してたっていうのか、釈然としなくて頭の中がハテナでいっぱいになったことは、はっきり覚えてますね。本格的な新左翼党派に属してたような奴がこんなところに出てくるというのはありそうにないし、せいぜいちょっと関わりを持ったぐらいで何かスゴい体験をしたかのように勘違いしてるトンチンカンな若者なのかなあ、と。
 やがて絓さんに〝ポッセ問題〟を啓蒙されて、最初は絓さんが何かヘンな妄想に取り憑かれてるのかと思ったんですけど(笑)、自分でも調べてみたら妄想でも何でもなさそうだったので衝撃を受けて、そのうち〝佐々木隆治〟って名前に行き着いて〝ん?〟と引っかかったんですよ。〝もしかしてあの時の……〟と録画したビデオを見返したら、やっぱりそれが佐々木隆治だったという。

 そのドイツの演劇集団そのものは、とくに政治的な色があるわけではないんです。もちろん左翼の演劇青年たちではあるんですが……。

外山 たぶん佐々木隆治がどういう人なのか、何も知らずに出演依頼しちゃっただけなんでしょうね。

 だってオレのところにまで話がくるぐらいだもん。左翼系の人たちにとにかく片っ端から声をかけてたみたいです。

外山 日本の〝68年〟のことさえほとんど知られてないぐらいなんだし(笑)、日本の新左翼シーンの闇の部分なんか、ウブな欧米人には想像もつかないでしょう。……〝ポッセ問題〟は、〝教養強化合宿〟でも毎回みっちり講義してるんですけどね。


 第7回教養強化合宿の成功

 こないだ(2017年7月14日)外山君の周囲の学生たちを20人近く集めて、オレや花咲や中川(文人)さんを〝ゲスト〟として飲み会をやったじゃないですか。しかし人材的にはやっぱり〝活動家〟みたいなタイプはほとんどいなかったよね。すごく良い子たちではあったが……。

外山 マジメな若者たちではある。

 でもやっぱり〝ボス猿〟がいなければ、ああいう人たちが量的には一定いたとしても〝運動〟にはなりませんよ。

外山 もうちょっと押しの強い、鬱陶しいぐらいの奴が1人いないと(笑)。

 そうそう。花咲レベルの鬱陶しさにまでなると、それはそれで問題だけどさ(笑)。

外山 あ、でもこないだの〝教養強化合宿〟からは、ちょっと可能性が出てきたかもしれません。今回もやっぱり10人ぐらい参加したんですけど、これまでになく参加者どうしが和気藹々と打ち解けて、最大の原因は、京都から参加した18歳ぐらいの、学生でも何でもないニートの女の子がいて、彼女が何か妙に求心力みたいなものを持ってたからなんです。彼女を中心に、参加者どうしがものすごく仲良くなった。
 で、合宿期間中というのは、〝9時5時〟で座学をやって、実際には午後6時すぎまで座学だったりするし、夕食を挟んで夜8時から10時まで今度はドキュメンタリー映画とか演劇とかのビデオ上映会を毎晩やって……。

 なかなかハードですね。

外山 参加者たちはほとんど個人的な時間を持てないわけです。アジトには大量の本やビデオがあって、空き時間にそれを自由に閲覧してください、ってことにはなってるんですけど、実際にはそんなことしてる時間的余裕はない。夜10時以降の短い自由時間も、本を読んだりするより、せっかく各地から結集してる同世代と交流することのほうが大事に思えるだろうし、実際そうですし(笑)、他の参加者と話すことでほとんど費消されてしまう。
 それで〝ここにある本をもっと読みたかった!〟って不満の声は合宿最終日の夜からすでにチラホラ聞こえていて、ぼくが福岡にこのあと戻るタイミングで、その京都の女の子が音頭をとって、こないだの合宿参加者だけではなく過去の合宿OBたちとか、さらには全然関係ない人たちまで含めて、また10人ぐらいが福岡のアジトに再結集して〝1ヶ月ひたすら本を読みまくる〟という〝自主合宿〟を始めるというんですよ。そのリーダー格の女の子はなかなか頼もしい。

 普段は何をしてる子なの?

外山 たしか中学校だか小学校だかの時点で不登校になって、高校にも形ばかり籍を置いてたけどほとんど通ってなくて、だから〝学校の勉強〟とはまったく無縁に生きてきた人なんで、合宿初日の〝マルクス主義入門〟では、資本主義の始まりを説明する中での〝大航海時代〟の話で、〝インド〟に行きたいコロンブスが西へ漕ぎ出してアメリカ大陸に到達してしまうのは、〝地球が丸い〟からなんだ、というところから説明しなきゃいけなかったりした(笑)。もちろん〝地球が丸い〟ことを知らなかったわけではなく、日本を真ん中に置いたメルカトル図法の世界地図で、左右の端にある〝大西洋〟が同じ海なんだということに、なかなかピンときてもらえなかった、ということなんですけどね。

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