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富山で35年ぶりの大雪!  -もしかしたら「防災」は、移住者にできる富山への恩返しになりえるかもしれない-


こんにちは。
トネガワ フミと申します。東京から富山に移住してきました。
娘2人と夫との4人で暮らしています。

2021年1月。
今年、富山は35年ぶりと言われる大雪となりました。

3日間ズンズンと降り続け、
これでもかこれでもかと積もっていく雪。

窓の外が徐々に暗く閉ざされていくのは、
今思い出してもちょっとした恐怖です。

積雪は一時、128㎝(富山市)となりました。
128㎝と言えば、我が家の小学校2年生の娘の身長を超す高さ。
車はすっぽりと埋もれ、掃き出しの窓や玄関も庇が無ければ埋もれてしまう高さです。

SNSでは、富山県内の友人たちが
「この雪ヤバイ。外に出れなくなる」
「仕事先から帰れない」
「普段車で30分の距離に、7時間かかった」
「この雪は災害級」
などの悲鳴をあげていました。

東京からは沢山の友人知人が、
「ニュースで見たけど、富山の雪大丈夫?」と
心配のLINEやメールをくれました。

幸い、家族や身近な方々は無事でしたが、
高速道路で車が数百台立ち往生して県が自衛隊に災害派遣要請をしたそうですし、
雪下ろし中のケガや、残念ながら死亡事故も起こってしまったようです。
物流もストップし、地域によっては停電なども起こりました。

この大雪は、近年自然災害に見舞われていなかった富山を
充分にざわつかせる結果となりました。

この記事では、
「移住者として自然災害に向き合う」ことについて、
私の個人的な思いを書いていきたいと思います。


1 自然災害が少ないと言われている富山

実は移住当初、富山の友人の家に遊びに行って驚いたことがありました。

それは、
高い棚に高価そうな花器が飾ってあったり、
冷蔵庫や本棚が壁に固定されていなかったりと、
地震対策がされていなかったことです。

それらを見て、
あの東日本大震災の時の強い揺れ(当時東京にいました)と、
崩れたビルや家、その後の交通マヒ、
数カ月にわたる計画停電などを思い出していました。

今でも各地で、災害による様々な後遺症(精神面なども含めて)とともに生きている方々のことも思います。

とは言っても、富山の人が悪いと言っているわけではありません。
住む地域によって、起こりやすい災害は違うものですから、
富山で地震対策へと意識が向かないのは仕方のないことだと思います。

移住して5年になりますが、地震が本当に少ないのです。
地震は起こると気になりますが、
ないと全く意識しないものですね。
あたりまえですが。

同じく、富山では津波もあまり起きないようです。
富山は海に面していますが、能登半島が海に突き出している分、
「富山湾」内なので普段から波も穏やかです。
地震や嵐があったとしても、津波が起こりにくいようです。

台風や大雨などの気象ニュースで警報が出ても、
結果的に県内にはほとんど被害がなかったということが続いています。

そんなとき、富山の友人たちは
「今回も立山様が守ってくれたね」と言います。

立山様というのは、立山連峰のことです。
高い山脈があることで、科学的にも確かに富山県が大雨などから守られている部分はあるのかもしれません。

立山様のおかげかどうかわかりませんが、
自然災害大国と言っても過言ではないこの日本の中にあって、
富山では近年、自然災害が本当に少なかったようです。

けれど、自然災害が少ないのは、あくまで「近年」のことです。
忘れてはならないのは、
富山でもかつては洪水や地震、そして大雪などの災害があり、
治水などの土地整備に命がけで取り組んできた歴史があるということです。

今回の大雪の後にも、
「雪国育ち」を自負している富山の方々から、
「近年雪が少なかったからちょっと油断していたかも…」という声を聞きました。


2 移住者として自然災害に向き合う

私は5年前に富山に移住してきました。

移住者として、
今暮らしている富山とそこに住む方々に「幸運にも受け入れていただいている」
という感覚を持っています。
なんとなく、富山に恩返しをしなくちゃ、いつか恩返しをしたい、という思いが常にあります。

ところで、
先輩移住者で氷見に住んでいるサントスさんという方がいます。
日本人です(笑)

サントスさんはご自身の活動をされながら、
村の「何でも屋」としての仕事もしています。
今回の大雪でも、何軒もの高齢者世帯の除雪作業をされていたようです。
災害級の大雪でない時も、除雪作業はもとより、イノシシ被害が出ればそれを捕まえたり、倒木があれば除去したりされているようです。
本当にすごいなあと、尊敬するばかりです。

村の他の住人よりも若いということもあるかもしれません。
彼の志やスキルが相当に高く、
各地で災害支援などをされてきた災害対策、防災のプロであるという事実もあります。
でもそれだけではなく、
移住者としての「生き方」でもあるのではないかと、私は思っています。

もしかしたら、富山の人からは「移住者はいつでも逃げられるから」と思われているかもしれない。
けれど、
富山の人が思っている以上に、
移住者は、今住んでいる富山と富山の方々への感謝の気持ちを持っていて、
恩返ししたいと思っているんじゃないか、と思うのです。

もちろん人それぞれだとは思いますが。


3 「富山県のママのための防災・減災講座」

前述の先輩移住者サントスさんのように機敏でプロ的な動きができない私は、
私にもできることはないかと、ずっと考えていました。

そして、
自分と同じように子育て中のママたちと、
防災について「考える場を持つ」ことくらいならできそうだ、
と思い至りました。

そこで一昨年(2019年12月)、
ママ向け防災講座を企画しました。

「富山県のママのための 防災・減災講座」です。
アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんを講師として東京からお呼びしました。

また、地元富山の方々とも防災に関してゆるくつながりたいという気持ちがありましたので、ゲストとして県内で防災や子育て活動をされている方々にもいらしていただきました。
先述のサントスさん(ポリフォナジー代表理事、防災士)、
内山真理子さん(『はっぴーママ富山版』編集長、防災士)、
池田美佳さん、大橋悦子さん(キャンプや防災活動の寺子屋つながリンク代表)、
野崎亜紀さん(富山森のこども園元隊長)、
です。

浅野恭子さん(手づくり工房「風の薫り」)には、
「命をつなぐおべんとう」を作っていただきました。

浅野さんは、「防災を意識した上で、美味しいランチをお願いします」という私からの無理難題に、乾物(切り干し大根やひじき)や、燻製(卵やチーズ)などの保存食を使った美味しいお弁当と、災害時にお湯を注ぐだけで温かいお味噌汁になる「みそ玉」のお汁を用意してくださいました。

ママたちに来てもらいたかったので託児付きイベントとし、
ちょっと素敵な古民家スペースで開催したこともあり、参加費の設定は1人3,500円。

無料イベントの多い地方で、しかも防災ネタでの「参加費3,500円」は、
「絶対集まらない」と何人もの人に言われた無謀な企画でした。

けれどもフタをあけてみれば定員30名の満員御礼となり、
防災についてなんらかの意識を持っていたママ(やパパ)たちとの、
熱い語り合いの場となりました。

講師のあんどうさんは、
各種の地理データを元に「富山で、地震・津波・水害・雪害などが起こる可能性は充分にあります」と断言されました。
会場が一時、水をうったようにシーンとしたのを覚えています。
そしてその瞬間から参加者のみなさんの顔つきが変わっていきました。

あんどうさんは続けます。
「富山の方は、『立山様が守ってくださる』と言うようですが、全国各地にそういう山岳信仰はあります。そしてそういう地域でももれなく災害は起きています。」

「『富山県は自然災害が少ない』と思っていませんか? それは大変危険なことです。
被害の大きさは、備えているかいないかで決まります。
危機感がなく、備えていない地域というのが一番危ないです。」
とご指摘いただきました。

もちろん、脅かすだけではなく、
生活者目線、ママ目線で、
今すぐに取りかかれる具体的な防災についての話も沢山してくださいました。

道具や逃げる際の身体の使い方などの話もしつつ、
「防災用に特別なグッズを揃えておくというだけでなく、
普段から災害の特徴やモノの仕組みに興味を持ち、
色々な状況で自分や家族や周りの人が生き抜いていけるような準備をしておこう」
というようなお話をしてくださいました。 

講演後には小グループに分かれて、
「今日の話を、どのように日々の暮らしに落とし込んでいくか」ということを参加者同士でシェアしました。

後日、
「帰ってから早速家族で話し合った」という感想や、
「赤ちゃんと一緒に避難する練習をしてみました」
という感想をいただきました。

あんどうさんとゲストの方々のエネルギッシュなトークがきっかけで、
参加者一人ひとりに防災スイッチが入ったのがわかりました。
実際に災害がおきたら、と我が身のこととして考えてみることが、
何よりの防災対策だと改めて思いました。


移住者は多くの場合、
住む場所を選べます。
好きか嫌いか、便利さなどの他に、
災害がおこりやすい土地ではないか? ということも考えてから「選んで」住むことができます。

一方で富山の方々は、
生まれた時や結婚をきっかけに、選択の余地なくそこに住んでいることも多いと思います。
昔と違い現代では、生まれた土地から飛び出すことは不可能ではありません。
けれど、富山との結びつきが
移住者の私たちとはくらべものにならないほどに深いのは事実だと思います。

そういった点で、
自然災害に対する意識が、富山の方々と移住者とでは少し異なると思うのです。

防災に関する取り組みは、現状を否定することが少なからずあります。
近年災害が少なかった富山の方に「災害が起きるかもしれません」というのは、
なかなか言い出しにくいことです。

そもそも生まれた時からあるあたりまえの風景の中に、
危険を発見するのは難しいことでもあります。
そして、進む高齢化と過疎化。

防災イベントを企画して思ったことがありました。

移住者が、富山と富山の方へ恩返しできることのひとつに、
「自然災害への対策」があるかもしれないな、ということです。
富山の方とは違った視点で、その土地のことを大切に思っている私たち移住者には、
きっと何かできることがあるはずです。

サントスさんのように、実働として富山の方々のお役に立てることが最終目標かもしれません。
でも、そこまでできなくても、
それぞれの立場でできることはありそうです。

富山ではほとんど被害がなかったという3.11東日本大震災の時に自分が体験した事を、
富山の友人に伝えてみようかなと思います。

富山に残る地名を子どもたちと一緒に、「謎解き」しても面白そうだなと思っています。
古い地名の中には、「津波の際にここまで水がきた」とか、「山が崩れやすい」など、自然災害への歴史が刻まれていることが多いようですので。

また、今回の大雪の際にちょくちょく耳にした
過去の雪害「サンパチ(昭和38年の豪雪)」「ゴーロク(昭和56年の豪雪)」についても、富山の方にもっとじっくり聞いてみたいな、と思います。
きっと、大雪に関する貴重な体験やそれを乗り越えた知恵を知ったり、みんなでシェアしたりすることができると思います。

移住者の視点で、富山の自然災害に向き合うこと。
それはもしかしたら、住まわせていただいているこの富山に
何か恩返しができるきっかけになるかもしれないな。

そんなことを思った今回の大雪でした。


【ライタープロフィール】

利根川さん写真 (1)


トネガワ フミ
2016年1月に夫の転勤について富山に移住。東京都出身。若い頃は金融機関勤務でまちづくりに従事。(金融機関がまちづくりをしている事例って意外とあります) 今はまっているのは“子育て”と“富山の魚”。偶然性や未完成なものに惹かれるタイプ。子どもが育つ楽しみや資源をシェアする「子どもと暮らしの企画toyama」主宰。ママのためのお魚さばきサークル「ママ×おさかな」共同代表。
富山県呉西にて、夫と娘2人との4人暮らし。ライター、エッセイスト。

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