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「風の人」と「土の人」

このとやま移住ブログで、数回にわたって「富山への移住」についての記事を書かせていただきました。

今回が、私が担当する最後の記事となります。
あとちょっとだけおつきあいいただけたら嬉しいです。

1.「風の人」「土の人」とは

私は若いころ、東京の西側(八王子のあたり)にある企業で、
まちづくりに関する仕事をしていました。

その頃勉強した「風の人」と「土の人」という言葉。
当時は、まちづくりに関する必須用語のひとつという感覚で使っていました。

けれど、自分が東京から富山に移住したことで、
とても腑に落ちましたし、滋味に富む深い言葉だと感じましたので、
改めて調べてみました。

まずは、「風の人」と「土の人」の語源となったであろう
「風土」という言葉。

漠然とした大きな事柄を、まるっと含んでいるような気がします。

広辞林によれば、
「風土」とはその土地の気候・地味・地勢など。土地の状態。 
「風土色」とは、土地の状態の差によって生ずる特色。  

とのことで、古く中国からきた言葉だそうです。

土地に生きる人々の“性(さが)”も、その土地の環境によって様々な影響を受けるのではないか、という研究をしたのが和辻哲郎さんという方で、『風土』という著作が有名です。

そして、
地域づくりの現場に「風の人」「土の人」という言葉をもたらしたとされているのが、
玉井袈裟男さん(元信州大学名誉教授、農学者、社会教育指導者)です。

地域活動の拠点として立ち上げた「風土舎」の設立宣言に、
こう書かれています。

――――――――――――――――――――――――
風土という言葉があります
動くものと動かないもの
風と土
人にも風の性と土の性がある
風は遠くから理想を含んでやってくるもの
土はそこにあって生命を生み出し育むもの
君、風性の人ならば、土を求めて吹く風になれ
君、土性の人ならば風を呼びこむ土になれ
土は風の軽さを嗤い(わらい)、風は土の重さを蔑む
愚かなことだ
愛し合う男と女のように
風は軽く涼やかに
土は重く暖かく
和して文化を生むものを
魂を耕せばカルチャー、土を耕せばアグリカルチャー
理想を求める風性の人、現実に根をはる土性の人、集まって文化を生もうとする
ここに「風土舎」の設立を宣言する
(玉井袈裟男)
―――――――――――――――――――――――――

これです。これ。
改めて読んだら、ちょっと涙が出るくらいに感動してしまいました。

まちづくりの現場ではよく、
外部から来た人(例えばコンサルや、学生、観光客、移住者など)を「風の人」、
その土地にずっと住んでいる人を「土の人」と例えて使っていました。

東京から富山へ移住した私は、「風の人」です。

そして、住む場所を移動したという事実だけではなく、
考え方や感情的にも私は、風の“性”なのだと思います。

また、私が富山で出会った素敵な方たちの多くが
この「土の人」であり、土の“性”の人です。

現実に根をはり、生命を生み出し育んでいます。
3世代4世代で暮らし、コツコツと本当に一生懸命に働いています。
伝統を守り、地域を守り、一生懸命に子育てをし、
次世代につないでいる姿が眩しいのです。


2.富山にあったのは、「人間らしく豊かな暮らし」

私が富山に移住して一番変わったことは、
生活のリズムでした。
そして、富山にあったのは、「人間らしく豊かな暮らし」でした。

第一に、
わが家では、富山へ移住したことにより夫の帰りが早くなり、
家族で食卓を囲めるようになりました。

これは、夫の会社の他の社員の方たちも19時20時には帰宅して
家族の元へと帰っているからできることです。
(ちなみに我が夫は転勤で富山へ来たので、
東京時代と同じ会社のはずなのですが、帰宅時間がまるで違います)

車社会で飲み会が少ないということもあるかもしれませんが、
富山では、多くの人にとって家族や暮らしの優先順位が高いのだと感じます。

第二に、
スーパーで美味しいお魚が手に入るようになりました。

「食べものが美味しい」ということが、
こんなにも暮らしの質に影響を与えるのかということを初めて知りました。
幸せを感じる感覚にダイレクトに結びつき、カラダも素直に喜びます。

新鮮な食材が手に入り、自らの手でそれを調理することができるということ。
それは本当に豊かなことだと感じるのです。

第三に、
出会った方々と、家族の顔や暮らしぶりが見えるような
そんなお付き合いができるようになりました。

不思議ですが、東京で暮らしていた時には、お付き合いする人々の暮らしぶりって
あまり見えなかった気がします。

もちろん、今の私が子育てをしているから、
家族ぐるみのお付き合いをさせていただいているということもあります。
それにしても、
お友だちがひょっこり遊びに来てくれたり、
近所の数家族が集まって庭でBBQをするようになるなんて、
以前は想像もしなかったことなのです。

これらはすべて、
現実に根をはって、
地域社会を守り、家族を守り、子どもを育んでいる人たちあってのこと。

自然と共存し、しっかりと産業を作り、暮らしを守ってきた人たちあってのことだと思います。

富山には、ただ住んでいるという事実だけではなく
土の“性”の人が多くいるから、しっかりとそれらが守られ、今があるのだと思うのです。


3.風は軽く涼やかに、土は重く暖かく、和して文化を生む

最近よく、
「富山を好きになってくれてありがとう」と、
富山のお友だちに言われるんです。

私としては、言われるたびに
「富山のことはもちろん好きだけど、
それより何よりあなたが好きよ」と思っているのですが(笑)

それはさておき。

「土の人」あってこその「風の人」です。

「土の人」である富山の友人たちは、
「風の人」である私を、
温かく受け入れてくれます。

富山では「旅の人」という言葉も使われています。
外から来てまた去っていく人、という意味で、
「風の人」とほぼ同義語だと思います。

富山へ移住した当初は
「あんたどこの人け?」とよく聞かれました。(特に年配の方に)
言葉が違うので、富山の人ではないことがすぐにバレてしまうからです。

当時は、「すみません。富山の人間ではないんです」
と、なんとなく申し訳ないというか、隠れたいような、
そんな気持ちでいました。

でも、今ならわかります。
「あんたどこの人け?」は、
決して富山への入国審査ではないんです(笑)

純粋な疑問、仲良くなるためのただの自己紹介だと思います。
拒絶されているわけではないのです。

その証拠に、あれこれ聞いてくれます。
どこから来たのか。
今どこでどんな家に住んでいるのか。
どんな仕事をしているのか。
家族は何人で誰がいるのか。
父親と母親の出身地はどこか…。

これは、全部「土の人」が大切にしていることなんですよね。
再度言いますが、入国審査ではありません(笑)

「土の人」が大切にしていることに対する情報の共有ができれば、
あとは仲良くなれます。
「風の人」が運ぶ「風」を面白がってくれるんです。
「富山は外からどう見えるのか」ということも
とても興味を持って聞いてくれます。

-風は軽く涼やかに
土は重く暖かく-

富山の「土の人」の暖かさは、重さに裏打ちされたものです。
「重い」という言葉はよい印象ばかりではないかもしれませんが、
この「土の人」の重く暖かい様子は、
私から見たら、豊かで安定感のある大変魅力的なことです。

それは、一朝一夕では身につけられないものだからです。
脈々と受け継がれていくものだからです。

移住者である私は、「土の人」にはなれませんし、
無理にそうなろうとする必要もないと思っています。

いつまでも「風の人」のままでよいと思っています。

-理想を求める風性の人、現実に根をはる土性の人、集まって文化を生もうとする-

本当に素敵な言葉だと思います。
集まって文化を育めているかな、と
自問自答してみます。

富山でできた素敵な友人たちの顔が何人も浮かびます。

集まって、一緒に過ごしたいくつもの時間が思い出されます。

共に暮らし、子どもを育み、何かを生み出すことが
できている気がします。

少しずつでも、わずかでも。
この富山という風土の中で。

追伸:サムネイルの絵は長女が書きました。
虹の絵です。富山では、よく虹を見ることができます。
しょっちゅう見えます。移住当初は雨の多さに気が滅入ったこともありましたが、その分、虹に出会えるという嬉しいサプライズがありました。

「富山は虹の出現率が高いのではないか?」と思って統計資料を探しましたが、関連するデータは見つかりませんでした。
どなたかぜひ調べてください。(笑)


【ライタープロフィール】

利根川さん写真 (3)


トネガワ フミ
2016年1月に夫の転勤について富山に移住。東京都出身。若い頃は金融機関勤務でまちづくりに従事。今はまっているのは“子育て”と“富山の魚”。偶然性や未完成なものに惹かれるタイプ。子どもが育つ楽しみや資源をシェアする「子どもと暮らしの企画toyama」主宰。ママのためのお魚さばきサークル「ママ×おさかな」共同代表。
富山県呉西にて、夫と娘2人との4人暮らし。ライター、エッセイスト。

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