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群論入門part6 ラグランジュの定理

part7が投稿されるかどうかはわかりません
※part5はこちら
※誤植、間違いがあれば教えてください

6.1.同値類の性質

※同値関係、同値類が何か忘れた方がこちら

※以降、「~」は集合S上の同値関係とする

命題1
元s,t,u∈Sについて、t,u∈[s]ならばt~uが成り立つ。

証明
t,u∈[s]だからs~t,s~uが成り立ち、対称律からs~t⇒t~sであるから
推移律よりt~s,s~u⇒t~u ▢


命題2
s,t∈Sについて、t∈[s]ならば[s]=[t]が成り立つ。

証明
まず[s]⊂[t]を示す。
u∈[s]とすると条件よりt∈[s]であるから、命題1からt~u。以上からu∈[t]が成り立つので、[s]⊂[t]が成り立つことが分かった。
次に[s]⊃[t]を示す。
u'∈[t]とするとt~u'。一方、条件よりt∈[s]であるのでs~t。よって推移律よりs~t,t~u'⇒s~u'が成り立つのでu'∈[s]。よって[s]⊃[t]が成り立つことが分かった。▢

命題2の系
s,t∈Sに対して[s]∩[t]≠∅ならば[s]=[t]が成り立つ。

証明
[s]∩[t]≠∅よりu∈[s]かつu∈[t]を満たす元u∈Sが存在する。命題2から[u]=[s]かつ[u]=[t]が成り立つため、[s]=[t]が成り立つことがわかる。▢


6.2.剰余類の性質

※この節では全単射が登場します。全単射の定義を忘れた方は群論入門part2.2の2.6節を参照

命題3
群Gの部分群Hについて、左剰余類G/Hの要素の数(濃度)を|G/H|、右剰余類H\Gの要素の数(濃度)を|H\G|とすると、|G/H|=|H\G|が成り立つ。

※証明にあたっては集合論の濃度の概念を用いる。集合論の、特に濃度の概念を学習していない方は、申し訳ありませんが命題3および命題4の証明をスキップしてください。

証明
写像F:G/H→H\G:gH↦Hg⁻¹がwell-definedで全単射であることを示せばよい。
・Fのwell-defined性
(元k∈Gがk∈gHを満たすとき、命題2よりgH=kHが成り立つ。つまり、Fのwell-defined性とは「gH=kH ⇒ F(gH)=F(kH)」が成り立つことである)
k∈gHのとき、F(gH)=Hg⁻¹、F(kH)=Hk⁻¹であるからk∈gH⇒Hg⁻¹=Hk⁻¹を示せばよい。
(i)Hg⁻¹⊂Hk⁻¹を示す。h∈Hg⁻¹のとき、hg∈Hが成り立つ。さらにk∈gHのためg⁻¹k∈Hを満たすから、hk=(hg)(g⁻¹k)∈Hとなるためh∈Hk⁻¹。
(ii)Hg⁻¹⊃Hk⁻¹を示す。h'∈Hk⁻¹のとき、h'k∈Hが成り立つ。さらにk∈gHのためk⁻¹g=(g⁻¹k)⁻¹∈Hを満たすから、h'g=(h'k)(k⁻¹g)∈Hとなるためh'∈Hg⁻¹
(i),(ii)よりHg⁻¹=Hk⁻¹が成り立つことが分かったのでFはwell-defined。

・Fの全射性
H\Gの任意の元はHg'(g'∈G)と表される。g'⁻¹∈Gに注意するとF(g'⁻¹H)=Hg'が成り立つためFの全射性が示された。

・Fの単射性
G/Hの2元gH,g'Hに対し、F(gH)=f(g'H)⇒gH=g'Hを示す。F(gH)=Hg⁻¹, F(g'H)=Hg'⁻¹となり、Hg⁻¹=Hg'⁻¹。ここで
(iii)gH⊂g'Hを示す。h∈gHのときg⁻¹h∈Hが成り立つ。さらにg'∈Hg'⁻¹=Hg⁻¹よりg'g∈Hが成り立つので、g'h=(g'g)(g⁻¹h)∈H。よってh∈g'H。
(iv)gH⊃g'Hを示す。((iii)の議論のgとg’を入れ替えて考えればよい)
(iii),(iv)よりgH=g'Hを得るので、Fの単射性が示された。

以上からFは全単射写像だとわかったので|G/H|=|H\G| ▢


命題4
群Gの部分群Hと元g∈Gに対し、gHの要素の数(濃度)を|gH|、Hgの要素の数(濃度)を|Hg|とすると、|gH|=|Hg|=|H|が成り立つ。

証明
写像G:H→gH:h↦ghが全単射であることを示せばよい。
・任意の元k∈gHのときG(g⁻¹k)=gg⁻¹k=kとなるのでGは全射。
・h, h'∈Hに対しG(h)=G(h')⇒h=h'を示す。G(h)=gh, G(h')=gh'となるのでgh=gh'の両辺の左からg⁻¹をかけるとh=h'を得る。よってGは単射。 ▢


6.3.ラグランジュの定理

定義1
群Gとその部分群Hに対し、左剰余類G/Hの要素の数(濃度)を(G:H)と表し、HのGにおける指数という。

Rem
命題3からH\Gの要素の数(濃度)も(G:H)である。

例1
3次対称群S₃とその部分群である3次対称群A₃について、S₃/A₃={e, (1 2)}となるので、(S₃:A₃)=2。


定理1(ラグランジュの定理)
Gを有限群、HをGの部分群とすると、|G|=(G:H)|H|が成り立つ。

証明
完全代表系をAとして、|G|=n(nは非負整数)とするとA⊂Gとなるので|A|≦nが成り立つ。これより、Aはm個の元g₁, g₂, ..., gₘ∈G(mはn以下の自然数)をもちいてA={g₁, g₂, ..., gₘ}と表される。また、完全代表系の定義からi≠jならばgᵢH∩gⱼH=∅となるので|G|=|g₁H|+|g₂H|+...+|gₘH|が成り立つ。さらに命題4から|g₁H|=|g₂H|=...=|gₘH|=|H|が成り立つので、以上から
|G|=|g₁H|+|g₂H|+...+|gₘH|=|H|+|H|+...+|H|=m|H|=(G:H)|H| ▢


上の証明で次の事実を使った。気になる方はこれを示せ;
「有限集合AとBについて、A∩B=∅ならば|A∪B|=|A|+|B|」

Rem
上の定理ではGを有限群とした。wikipediaやネットの記事、筆者が受けた代数学の講義では「Gは有限群」と制限されてあったが、一方で雪江明彦の「代数学1 群論入門」ではそのような制限はされてなかった。今回はGを有限群に制限しておくが、有限群でなくても定理1の等式が成り立つらしい。(筆者はGが有限群でない場合の証明はしたことはない)

定理1の系
有限群Gに対し次が成り立つ。
(i)Gの部分群Hについて|H|は|G|の約数である。
(ii)g∈Gの位数は|G|の約数である。

(系の証明は自明であるため省略する。ご要望があれば書きます)

以上

追記
part7を投稿しました。正規部分群と剰余群についてです。


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