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群論入門part2.2 置換とは、すなわち全単射

※この記事は群論入門part2の補足的な内容である。

※誤植、間違いがあれば教えてください

2.5.置換とは、すばわち全単射

群論入門part2の定義3を思い出す。

3次の置換 σ と1≦m≦3を満たす任意の自然数mに対し、
σにより並び替えられた自然数の配列のうち、右からm番目の自然数をσ(m)と定める。

※そもそも置換ってなんだっけ?という方はpart2をチェック!

例えばσを「1,2,3を2,1,3に並び替える操作」とすると、σ(1)=2、σ(2)=1、σ(3)=3となる。つまり、1≦m≦3を満たす自然数mに対して、σ(m)は{1,2,3}のうちのただ1つの元を指定する対応であるとみなせるので、σは写像{1,2,3}→{1,2,3}とみなせることがわかる。

また、次のこともわかる。

命題1(重要)
3次の置換σを上の議論により写像{1,2,3}→{1,2,3}とみなす。このとき、写像σ:{1,2,3}→{1,2,3}は全単射である。

証明
σは、1,2,3をある配列に並び替える操作であるから、σ({1,2,3})={1,2,3}だとわかる。よってσは全射。また並び替える操作であるから1≦m<m'≦3となる自然数m, m'に対して、σ(m)=σ(m')となることはない。(例えばσ(1)=σ(2)=1, σ(3)=3とすると、σは「1,2,3を1,1,3に並び替える操作」という意味不明な置換となる)よってσは単射。▢

Rem
part2の命題4で定義された置換の積・と写像の合成◦は実は同一である。実際、3次の置換σ, δとm=1,2,3に対して、(σ・δ)(m)=δ(σ(m))=(δ◦σ)(m)


以上から、3次の置換全体からなる集合S₃は

S₃={写像σ:{1,2,3}→{1,2,3} | σは全単射}

と表すこともできて、S₃は写像の合成◦に関して群をなすことは容易に示される。(群の定義を忘れた方はこちら)実際、写像の合成◦はS₃で閉じた演算であり、
1.(結合法則)σ, δ, γ∈S₃とm=1,2,3に対し、
((σ◦δ)◦γ)(m)=(σ(δ(γ(m))))=(σ◦(δ◦γ))(m)が成り立つ。
2.(単位元の存在)恒等写像id:{1,2,3}→{1,2,3}:m↦mをとればよい。ただし、これは明らかに全単射である。
3.(逆元の存在)σ∈S₃は全単射写像であるから、逆写像σ⁻¹:{1,2,3}→{1,2,3}が存在し、σ◦σ⁻¹=σ⁻¹◦σ=idが成り立つため、σの逆元はσ⁻¹。


実は、3次の場合だけではなく、n次の場合でも上とほぼ同じ議論で考えることができる。だから、part2のn次対称群Sₙが群であることを示すのはやや大変であったが、「置換=全単射写像」がわかればかなり簡潔に証明できるのである

(ただ、part2の定理1「置換は互換の積で表される」という事実もすごく大事であるから、part2の議論は全くの無意味だったということではない)

以下では、冗長になるだけだがn次対称群Sₙが群であることを示す。

n次の置換全体からなる集合Sₙは

Sₙ={写像σ:{1,2,...,n}→{1,2,...,n} | σは全単射}

と表され、Sₙは写像の合成◦に関して群をなす。実際、写像の合成◦はSₙで閉じた演算であり、
1.(結合法則)σ, δ, γ∈Sₙとm=1,2,...,nに対し、
((σ◦δ)◦γ)(m)=(σ(δ(γ(m))))=(σ◦(δ◦γ))(m)が成り立つ。
2.(単位元の存在)恒等写像id:{1,2,...,n}→{1,2,...,n}:m↦mをとればよい。ただし、これは明らかに全単射である。
3.(逆元の存在)σ∈Sₙは全単射写像であるから、逆写像σ⁻¹:{1,2,...,n}→{1,2,...,n}が存在し、σ◦σ⁻¹=σ⁻¹◦σ=idが成り立つため、σの逆元はσ⁻¹。


2.6.全単射写像の定義(復習)

※この節は全単射写像や逆写像の定義を忘れた方、または未学習の方向けの内容です。完全に理解している方は読まなくても大丈夫です。

定義1
集合Xの各元xに対し、集合Y上のただ1つの元yを指定する対応F:X→Yを写像という。

例1
集合Xに対し、idₓ:X→X:x↦xを恒等写像と呼ぶ。これは明らかに写像である。

例2
ℝを実数全体からなる集合とする。
対応F:ℝ→ℝをF(x)=2xとすると、Fは写像となる。
一方、対応G:ℝ→ℝを「各元x∈ℝに対し、2乗して|x|になる実数yを指定する対応」と定めるとx≠0に対しG(x)={√|x|, -√|x|}となるため、Gは写像ではない。(しかし、解析学ではこのような対応を多価関数と言ったりもする)

定義2
写像F:X→Yが全射であるとは、F(X)=Yが成り立つことである。
また、写像F:X→Yが単射であるとは、a, b∈Xに対してa≠b⇒F(a)≠F(b)が成り立つことである。

Rem
全射の条件を書き換えると次のようになる;
任意のYの元dに対して、F(c)=dとなるXの元cが存在する。

Rem(2021/8/28 9:45p.m.追記)
単射性を示す場合は、場合によっては「a≠b⇒F(a)≠F(b)」の対偶、すなわち
「F(a)=F(b)⇒a=b」が用いられることも多い


定義3
写像F:X→Yが全射かつ単射であるとき、Fは全単射、または一対一対応であるという。

例2
1次関数F:ℝ→ℝ:x↦xや3次関数G:ℝ→ℝ:x↦x³は全単射写像である。
一方、2次関数H:ℝ→ℝ:x↦x²や零関数N:ℝ→ℝ:x↦0は全単射写像ではない。

問1
恒等写像ではない写像F:{1, 2}→{1, 2}が全単射写像となるとき、F(1), F(2)の値をそれぞれ求めよ。

命題2
全単射写像F:X→Yに対して、Yの元yに対してF(x)=yを満たすXの元xを指定する対応をG:Y→Xとする。このとき、対応Gは全単射写像になる。

証明
Gが写像になることを示す。
まず集合Yの全ての元yに対し、F(x)=yを満たす元x∈Xが存在するかどうかについてだが、これはFが全射であることから成り立つ。
次に各y∈Yに対して対応Gで指定されるXの元は唯一であることを、背理法を用いて考える。すなわち、Yの元yと互いに異なるXの元x, x'に対し、x, x'はyから対応Gにより指定される元であると仮定する。これを言い換えると、元y∈Yに対してF(x)=yかつF(x')=yが成り立つ。しかし、写像Fは命題1の仮定から単射であるため、x≠x'⇒F(x)≠F(x')が成り立ち、F(x)=yかつF(x')=yと矛盾する。以上から各y∈Yに対し対応Gにより指定されるXの元は唯一であることがわかった。
以上からGは写像となる。

次にG:Y→Xが全単射になることについてだが、これはFが写像であることから成り立つ。▢

定義4
全単射写像F:X→Yに対して、命題1で定義された写像G:Y→XをFの逆写像という。Fの逆写像を普通F⁻¹と表す。

命題2(逆写像の特徴づけ)
全単射写像F:X→Yとその逆写像F⁻¹:Y→Xに対して、写像の合成F⁻¹◦F:X→Xは恒等写像idₓに等しい。

証明
任意の元x∈Xに対して、y=F(x)(y∈Y)とすると、
(F⁻¹◦F)(x)=F⁻¹(F(x))=F⁻¹(y)=xとなるため、F⁻¹◦F=idₓ。▢


全単射写像F:X→Xとその逆写像F⁻¹:X→Xに対して、写像の合成F◦F⁻¹:X→Xは恒等写像idₓに等しい。

証明
Fの逆写像F⁻¹:X→Xも全単射であるから、F⁻¹の逆写像が存在して、それはFであることがわかる。実際、F⁻¹の逆写像とは各元y∈Xに対してF⁻¹(x)=yを満たすx∈Xを対応させる対応であるのだが、F⁻¹(x)=yは言い換えるとF(y)=xであるから、そのような写像はFとなる。これより命題2を適用してF◦F⁻¹=idₓ。▢


以上


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