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群論入門part7 正規部分群と剰余群

part8が投稿される保証はありません
※part6はこちら
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※投稿後に大幅な追記、改訂をする可能性が十二分にありますがご了承ください

7.1.正規部分群

※部分群を忘れた方は以下の記事を参照

定義1(正規部分群)
Hを群Gの部分群とする。任意の元g∈Gとh∈Hに対して、ghg⁻¹∈Hが成り立つとき、HをGの正規部分群という。また、このときH◃Gと書く。


例1
任意の群Gとその単位元eに対し、単位群{e}はGの正規部分群である。実際、任意の元g∈Gに対し、geg⁻¹=gg⁻¹=e∈{e}。

例2
可換群Gの任意の部分群は正規部分群である。これは、過去に投稿した下の記事を参照されたい。

例3
Gの2つの正規部分群A, Bに対し、A∩BもGの正規部分群となる。実際、A, BはGの部分群であるからA∩BもGの部分群であり(part4の命題3の下のRemを参照)c∈A∩Bならば、任意の元g∈Gに対しgcg⁻¹∈Aかつgcg⁻¹∈Bを満たすため、gcg⁻¹∈A∩Bを満たす。

例4
Gの部分群Aと正規部分群Bに対し、A∩B◃Aとなる。実際、B◃Gより特に任意の元g∈A⊂Gとh∈A∩Bに対しghg⁻¹∈Bが成り立ち、またg, h∈Aであるからghg⁻¹∈Aも成り立つため、ghg⁻¹∈A∩Bを満たす。

例5
3次対称群S₃と3次交代群A₃に対し、A₃S₃が成り立つ。実際、任意の3次の置換をσとすると、σとσ⁻¹はそれぞれm個の互換の積(ただしmは自然数)で表される。また、3次交代群に属する任意の3次の置換δは2h個の置換の積(ただしhは自然数)で表される。これよりσδσ⁻¹は2(m+h)個(つまり偶数個)の置換の積で表されるのでσδσ⁻¹∈A₃。
また同様にしてAₙ◃Sₙも示される。

Rem
例1と例5を合わせると{e}Aₙ◃Sₙを得る。

例6(正規部分群ではない例)
nを3以上の自然数とする。
互換(1 2)を生成元とする巡回群〈(1 2)〉はn次対称群Sₙの部分群ではあるが、正規部分群ではない。実際、(1 3)∈Sₙと(1 2)∈〈(1 2)〉に対し、
(1 3)(1 2)(1 3)⁻¹=(1 3)(1 2)(1 3)=(1 3)(1 3)(2 3)=(2 3)∉〈(1 2)〉となる。

例7
SLₙ(ℝ)◃GLₙ(ℝ)である。実際、part4の命題2からSLₙ(ℝ)はGLₙ(ℝ)の部分群であり、任意のA∈SLₙ(ℝ)とB∈GLₙ(ℝ)に対し、det(BAB⁻¹)=det(B)det(A)det(B)⁻¹=det(B)det(B)⁻¹=1となるので、BAB⁻¹∈SLₙ(ℝ)。


7.2.定義1と同値な主張

定義2
集合Sとその部分集合T、Sの元u,vに対して、uT, Tv, uTvを次のように定める;
uT={ut|t∈T}、Tv={tv|t∈T}、uTv={utv|t∈T}

Rem
上の定義は左剰余類gN、右剰余類Ngの定義と相違しない。詳細についてはpart5の命題Aを参照のこと。

命題1
群Gと部分群Nに対し、次は同値
(i)任意の元g∈Gとn∈Nに対しgng⁻¹∈N
(ii)任意の元g∈Gに対し、gN⊂Ng
(ii)'任意の元g∈Gに対し、Ng⊂gN
(iii)任意の元g∈Gに対し、Ng=gN
(iv)任意の元g∈Gに対し、gNg⁻¹⊂N
(v)任意の元g∈Gに対し、gNg⁻¹=N

証明
(i)⇒ (ii)かつ(ii)' ⇒(iii)⇒(v)⇒(iv)⇒(i)の順番で証明する。
・(i)⇒(ii)かつ(ii)'
((i)⇒(ii)と(i)⇒(ii)'の証明はほぼ同じであるので、今回は(i)⇒(ii)'の場合を証明し、(i)⇒(ii)の証明は各自に任せる。)
任意の元g∈Gとn∈Nに対しgng⁻¹∈Nが成り立つことから、g⁻¹ng∈Nも成り立つ(gの任意性から)。これより、g⁻¹ng=n'を満たすn'∈Nが存在し、両辺の左側からgをかけることで、ng=gn'を得る。nはNの任意の元であったからngはNgの任意の元であり、かつng=gn'∈gNが成り立つ。これよりNg⊂gNが成り立つことが分かった。

・(ii)かつ(ii)'⇒(iii)
明らか

・(iii)⇒(v)
(gN)g⁻¹=gNg⁻¹を示す。定義2から
(gN)g⁻¹={kg⁻¹|k∈gN}={kg⁻¹|n∈N, k=gn}={gng⁻¹|n∈N}=gNg⁻¹
これより、gN=NgなのでgNg⁻¹=(gN)g⁻¹=(Ng)g⁻¹=Ngg⁻¹=N 

・(v)⇒(iv)
明らか

・(iv)⇒(i)
任意のn∈Nに対し、gng⁻¹∈gNg⁻¹⊂N ▢

Rem
命題1から、群Gと部分群Nに対して(i)から(v)のどれかが成り立つことを示せばN◃Gであることが言える。


命題2
群Gと部分群Hについて、(G:H)=2ならばH◃Gが成り立つ。

証明
(G:H)=2よりH⊊Gがわかるので、x∈Gでx∉Hなる元xが存在する。これより、G/H={H, xH}、H\G={H, Hx}とならざるを得ず、x∉HよりxH≠H≠Hxであるからpart6の命題2の系の対偶よりH∩xH=∅かつH∩Hx=∅が成り立つ。以上からG=H∪Hx=H∪xHで、G\H=xH、G\H=HxとなるのでxH=Hx。よって命題1からHは正規部分群。▢

G\Hとは前述のG/Hとは全く異なる集合である。G\Hは集合論で差集合と呼ばれる集合で、G\H={g∈G|g∉H}と定義される。ちなみにこれは本によって書き方が異なることがあり、例えば松坂和夫の「集合・位相入門」では差集合をG-Hと表される。

命題3
群Gと正規部分群Nに対し、G/N=N\Gが成り立つ。

証明
命題1の(iii)から任意のgに対してgN=Ngが成り立つので、
G/N={gN|g∈G}={Ng|g∈G}=N\G▢


7.3.剰余群

命題4
G/N上の演算・を次のように定める;
g,h∈Gに対し、(gN)・(hN)=ghN
このとき、この演算はwell-definedである。

※命題4の主張をちゃんと述べると以下の通りになる;
「g'∈gNとh'∈hNに対し(gN)・(hN)=(g'N)・(h'N)が成り立つ」

証明
g'∈gNとh'∈hNであるとき、あるNの元n', n''を用いて
g'=gn', h'=hn''が成り立つ。ここで、g'h'=gn'hn''=ghh⁻¹n'hn''となって、Nは正規部分群だからh⁻¹n'h∈N。すなわち、h⁻¹n'h=n'''となる元n'''∈Nが存在。以上から、
(g'N)・(h'N)=ghn'''n''N={ghn'''n''n|n∈N}={ghn|n∈N}=ghN▢

命題5
G/Hは命題4で定義された演算に関して群をなす。

証明
(結合法則)
G上の演算は結合法則を満たすから、g,h,k∈Gに対し
((gN)・(hN))・(kN)=(gh)kN=g(hk)N=(gN)・((hN)・(kN))を満たす
(単位元の存在)
Gの単位元をeとすれば、任意の元g∈Gに対し、
(eN)・(gN)=(gN)・(eN)=gNを満たすのでG/Nの単位元はeN
(逆元の存在)
元g∈Gの逆元をg⁻¹とすれば、
(gN)・(g⁻¹N)=(g⁻¹N)・(gN)=eNを満たすのでG/Nの各元には逆元が存在する▢

定義3
群Gとその正規部分群Nに対し、G/Nを剰余群、または商群という。


剰余群の例を1つ挙げ、成分を具体的に書き下せ。
(思いつかない方は例5を参照)

以上

追記
part8を投稿しました。準同型についてです。


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