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インターネットに向かい合う姿勢を見直すためのガイドライン -徳力基彦「「普通」の人のためのSNSの教科書 」- 感想

徳力基彦「「普通」の人のためのSNSの教科書」読了。

・タイトルが気になった

・徳力基彦さんの本ならおかしなことは書いてないだろうという安心感

という二点の理由から購入を決意しました。


  序章であるChapter.0は、著者の徳力氏が実際にブログ・SNSで助けられたエピソードから始まります。なかなか成果が出せず燻っていた著者が、ブログがきっかけで「繋がり」が生まれ人生が好転する内容となっています。chapter.1以降の内容は具体的な方法論に移りますが、chapter0の内容を受けており、一貫して明るく「普通の人」を応援する姿勢が感じられます。また、少しでも「発信するためのハードルを低くしたい」という想いは、徳力氏がブログ発信・運営媒体である株式会社noteのプロデューサーであるということを差し引いても、炎上の予防策などガイドラインもきちんと記載しており、真摯な姿勢にみえます。

  その上で、本書に対して特に気になったことを書きます。本書には同意できるところと同意できないところがありましたが、これは本書の出来の問題ではなく、私と著者の徳力氏のインターネット・SNSに対する向き合い方の違いから来ているのかなと想像しています。

※以降、特に注釈のない引用は、 徳力基彦著「自分の名前で仕事がひろがる 「普通」の人のためのSNSの教科書」(朝日新聞出版)からの引用です。なお、Kindle版を購入しており、正確なページ番号がわからないため、章番号と見出しを記述しています。

SNSやブログは、もはやメディアである

真面目な人やメディア系の仕事をしている人ほど、個人のSNS発信をニュースメディアの発信と同じように捉える傾向があります。
しかし、繰り返しになりますが、ビジネスパーソンのSNS発信はコミニケーションの手段であり、リアルのおしゃべりと同じです。ニュースサイトや有名人ブログのようなメディアではありません。
ブログやSNSをメディアと考えると、端のハードルは一気に上がってしまいます。誰も知らない話を書こうと思うと、気軽に発信できなくなります。
(Chapter.1 「メディア」だと思わない)

  著者は、肩の力を抜いてほしい、気軽に発信してほしいという考えから「SNS発信はメディアではない」と書きます。しかし、ブログだけで完結した時代ならともかく、TwitterやInstagramなど、これだけ情報が発信・拡散できるSNSの媒体が揃っている今は、そうは言えないと私は思います。どんなに規模が小さくとも、どんなに影響力が小さくとも、発信する以上は「メディア」としての性質を帯びます。事実、フォロー・フォロアーが数十人程度のTwitterユーザーの投稿がバズったり炎上したりすることは決して珍しいことではありません。 

  もちろん著者の趣旨としては「肩の力を抜いて気軽に発信してほしい」ということであり、「メディアとしての責任は取らなくていい」という意味ではありません。事実、著者は「インフルエンサーのような真似はするな」とはっきり書いていますし、Chapter.4は炎上の対応策として章を割いています。

  ばくらは仕事に役立てるのが目的なのですから、インフルエンサーの真似はしないようにしてください。彼らのなかにはSNS発信のノウハウ本で、自分の成功体験をもとにバズるための近道を教えてくれるる人がいます。しかし、いわゆるバズを狙う発信方法は、ビジネスパーソンには危険がありすぎます。(Chapter.3 【発信のポイント8】 「【徳力メソッド】を使う」)

  しかし、それであれば「SNSは大なり小なりメディアである」と定義した上で、インフルエンサーを狙わない、炎上対策をするなどのガイドラインを書いたほうが良かったのではないか、とも思います。少なくとも、徳力氏がブロガーとして活躍した2000年代より、現在の2020年代はブログやSNSといったツールがより重要になり、「メディア」として力を持っていくでしょう。そう考えると、ブログやSNSで発信をすることは、メディアでの役割の一端を担うことになります。

  著者はコツコツ続けることを説いていますが、コツコツ続けていく中で信頼が集まった結果として、自分が想像していた以上の影響力を持つことは有り得る話です。そうなると、影響力の少ない時にはたまたまスルーされていた内容が、何らかの形で予期せぬ炎上に巻き込まれてしまう可能性があります。それであれば、始める段階から「SNSはメディアである」という認識を持った上で取り掛かったほうが、一時的にハードルが上がったとしても後々困らないのでは、と考えます。


大事なのは「やめないこと」

  著者の成功物語は、発信をしたら反応がもらえたというところから始まるので、反応が無いとだめかと落ち込んでやる気を無くす可能性はあります。それに対して、著者はリアクションが無いことを気にしすぎないで欲しいと書きます。

   はじめのうちは読者数やフォロワーは少ないでしょう。すぐに反応やコメントがないからといって、ガッカリしないようにしてください。
  「自分のためのメモなんだし」。そう思えば、反応を気にせず、淡々とまとめ、アップし続けられます。しばらくは孤独な作業かもしれませんが、続けることで読んでくれる人が少しずつ増えていきます。発信を長く続ければ続けるほど、あなたの情報を本当に求めている人が検索によって訪れるようになります。
  期待値はできるだけ下げましょう。短期的な成果は期待しない。やがてやってくるかもしれない「ハプニング」についてもいったん忘れて、ひたすら「アウトプット・ファースト」でメモをまとめ、アップし続けてください。来る日も来る日も、自分のための素振りを続けるイメージで発信していきましょう。(Chapter.3 【発信のポイント2】「アウトプット・ファースト」でいく)

  Twitterだったらリツイートやいいね、noteだったら「スキ」、はてなブログであればはてなスターやはてなブックマークと、「リアクションがあった」ことを示す指標はたくさんあります。そうなると、この指標はどうしても気になってしまうものです。しかし、リアクションを求めすぎてしまうと、前述の、「ビジネスパーソンには危険がありすぎる」インフルエンサーの真似事をしてしまいかねません。著者はそれに警鐘を鳴らしています。その道は決して「成功」には繋がっていないからです。

  なぜ著者が、その道が成功しないとわかるのか。それが長く続けられる方法ではないからです。なぜ長く続けられる方法でないといけないのか。それは、「やめないこと」が成功へとつながる道だということを著者が知っているからです。


  2010年に、「ネットで成功しているのはやめない人たちである」という本が出版されました。

  本書は当時活躍していたブロガーたちへのアンケートとその分析結果、考察が記載されていますが、アンケートには徳力氏の回答もありました。徳力氏の回答は以下の通りです。

質問:ネットで情報発信をする際に1番必要な個人のスキルは何でしょう?
回答:他の人とコミュニケーションしたいという欲求。
質問:あなたがネットで情報発信をする際に心がけていることは?
回答:自分が興味を持ったことを自分が後から読んだときに思い出せるようにメモするつもりで書いてます。
質問:収入の変化はありましたか?
回答:はい
質問:収入の変化はどれくらい経ってからですか?
回答:3年
(いしたにまさき「ネットで成功しているのは<やめない人たち>である」 技術評論社 P.39) ※太字は引用者によるもの

  徳力氏は、少なくとも3年ブログによる発信を続けています。アクセスを増やす工夫やフォロアーを増やす工夫も積極的に行っても、収入の変化を起こすまでには3年もかかっています。つまり、変化にはそれだけ時間がかかる話であり、すぐに結果が出るとは限らないことを著者は身を以て知っているのです。だからこそ「いつかはわからないけど、いつかは」成果が出ると信じ、やめないように勧めています。

  また、情報発信をする際に1番必要な個人のスキルが「他の人とコミニケーションしたいという欲求」であるという回答には共感しました。10年も前の回答なので今は違う可能性はありますが、個人的には同意です。
  自分のメモ書きとして書いた内容が、もしかしたら誰かの役に立つかもしれない。それは、非同期なだけで人間同士のコミュニケーションに他ならず、その欲求はコミュニケーションの欲求だと思います。

「タウンビギナー」という名前をどうしても外したくない

  本書で書かれている内容は、先進的なITエンジニアであれば当たり前のように実践しているような内容も少なくありませんが、本当に普通の人々に対して地に足のついた教科書的な内容であるように思います。
  翻って、私自身はどうかと考えると、この教科書に書かれている内容を適用するかどうかは、ちょっと迷っています。理由は、本書の内容に同意しないからではありません。私自身のSNSやインターネットに対する向かい合い方が、この教科書とずれてしまっているからです。
  一番の要素は、実名匿名問題です。
  私は実名ではなく「タウンビギナー」という名前で各種発信を行っています(唯一の例外はFacebookですが、そのためかFacebookは最近は投稿も閲覧も少なくなっています)。インターネット老人会に片足を突っ込んでいる年代で、実名を出すことに心理的な抵抗があります。しかし、それ以上に「タウンビギナー」という名前が、自分にとって非常にも馴染みのある名前になってしまったからです。
  これまで「タウンビギナー」という名前でブログを書き、Twitterで呟いてきました。ITやプログラム・料理・人狼・ボドゲ・ゲーム・読書記録・仕事・心身の不安不調・イベント記録。たくさんのことを書いてきました。
  書き始めて、もう10年以上経ちます。これを捨てて新たに実名で発信することも、「タウンビギナー」という名前を実名に変えて発信をすることも、正直しっくりきません。ネットにいる私は「タウンビギナー」という名前がしっくり来ています。

   おそらく、「タウンビギナー」という名前で活動する限り、ビジネス的な旨味を得ることは少ないのでしょう。それでも、インターネットやSNSが、コミュニケーションに難のある自分を(著者とは別の形ではあるけれど)救ってくれたことは間違いなく、それである以上、ネットにいる自分は「タウンビギナー」で居たいな、と思うのです。


  いずれにしても、本書はインターネットやSNSとどうやって付き合うのかを考える上での良書です。趣味に特化したSNSも良いですが、もし仕事で何か使えるのではないか、情報収集などを行いたいと考えている方は一読することをオススメします。

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