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虫めづる姫君(3)

二の巻

(二)
 この親子の会話を、こっそり聞いていた人物がいました。
 虫めづる姫君にお仕えしている、若い女房たちです。
「たいそうかしこそうなことをおっしゃっているようですが、
毛虫を見せつけられるわたしたちは、頭がおかしくなりそうだわ!」
「まったく、蝶めづる姫君にお仕えする女房は、どんなに幸せなのかしら…羨ましい」
「そういえば、虫めづる姫君の眉毛って、毛虫にそっくりね!」


「あなたたち、何を言っているのですか!!!」

 若い女房が楽しげに話しているところに、突然の罵声が降ってきました。声の主は、虫めづる姫君の女房の中で最も古い、女房です。
「まったく、あなたたちは何もわかっていないのですね。蝶を愛する隣の姫君なんぞ、まったく素敵だなんて思いません。むしろ、それこそ常識外れというものです。」
 そう言って、女房は姫君のさんざんに褒めたたえるのです。
「虫めづる姫君は、毛虫が蝶になる過程を探究していらっしゃるのです。その探究心こそ、まさに素晴らしい!うちの姫君がいちばんです。」
「それに蝶は、手で触れれば粉のようなものがつくでしょう?ああうっとうしい。あれで病気になってしまうそうですよ。恐ろしい、恐ろしい」
 
 この古い女房が去ると、若い女房たちは、姫君の悪口をいっそう募らせるのでした…。


そんなことも知らない姫君。
 いつものように、虫を子どもに捕まえさせては楽しんでいます。


「毛虫は、ふさふさしているところがかわいいけれど、毛虫の歌なんてものはないからつまらないわね」

 そういって、かまきりやかたつむりを集めさせて、子どもたちと一緒に歌いました。
 …当時、このような歌は男性が歌うものと決まっていたのですが、お姫様は男には負けないくらい大声で、楽しそうに歌っていました。

最後までよんでくださってありがとうございました!🌟