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ファームノートグループとして牧場経営に取り組むワケ〜生産者というポジショニング〜①業界の中心に立つ

※このノートは、一緒に自社の牧場事業に取り組んでくれる仲間をつくるために書いてます。酪農・和牛生産について全く関わりのない方にもわかりやすく書いているわけではないので、ご了承ください。

前回の記事では牛を飼うということについての個人的な想いを綴ったので、今回は株式会社ファームノートホールディングスが企業体としてなぜ牛を飼うのかについて書きます。​

ですので、今回は一人称が「FN」になります。

ファームノート(以下FN)は2013年の創業時から、酪農や和牛生産経営体に対してIT・IoTソリューションを提供してきました。

その中で、FNは牛群管理の記録方法と酪農・和牛生産の現場における作業負担を軽減し、知的生産に充てる時間を増やし、収益性を向上させるということに一定の貢献をしてきたと思います。

そして、7年にわたってこの業界でサービス提供を続けてきた中で、多くの学びを得て、

「自ら酪農生産を実践し、理想の酪農経営を追求する」

という結論に行き着きました。生産者というポジションを得ることの重要性に気づいたんです。


そう考えるようになった大きな理由としては以下のようなものがあります。

① IT・IoTと発情発見だけでは生産性向上への貢献は限定的である。

② 生産者や業界が抱える課題の根本を理解・体験できていない。

③  業界構造に関わるより大きな課題解決にチャレンジしよう!


全部書くと長くなるので、今日は 1. IT・IoTと発情発見だけでは生産性向上への貢献は限定的である。について書きます。2.と3.はそれぞれ別記事とします。

1. なぜ IT・IoTと発情発見だけでは生産性向上への貢献は限定的なのか?

FNは当初は牛群管理情報のクラウド化とセンサーによる発情検知によって生産者に対して十分な貢献ができると考えていたのですが、サービス提供を続ける中でそれだけでは自分たちが思い描くような価値を発揮して、理想とする生産性を達成することは困難だと考えるようになりました。

そう考えるようになった理由には大きく二つの要素があります。

一つ目は、IT・IoTにフォーカスしすぎると貢献度が限定されるということ。

二つ目は、繁殖領域にフォーカスしすぎると貢献度が限定されるということ。


i) IT・IoTにフォーカスしすぎると貢献度が限定されるということ。

まずは、IT・IoTにフォーカスしすぎると貢献度が限定されるという点。についてです。

これも要素は二つあります。

第一にそもそもこの業界にとってまだまだアナログ要素が重要だってことです。これには二つの意味の両方を込めています。

一つ目は、そもそもアナログだからこその良さと重要さが間違いなくあるということです。

紙やホワイトボードは安価で、説明なしに誰でも使えます。

また、農業というのはそのほとんどが都市から離れた地域で行われる事業なので、地域によっては通信インフラが整備されていません。そのような地域では、光回線や4Gはきていなくても、電話回線なら間違いなく行き渡っているため、Faxによる連絡はできるわけです。

また、ITやデジタル技術以外の技術分野にも生産性を大きく向上させるノウハウが数限りなくあります。

例えば、今回作った自社牧場は牛舎設計からこだわって作りました。

そしてそこには本当に基本的でアナログな工夫が数多く盛り込まれています。そのようなアナログな技術こそが酪農・和牛生産における生産性と収益性向上のために非常に重要だということです。(これまた、自社の牛舎については別記事にします。)

二つ目は、この業界の特殊性によってIT化に対応する準備がまだまだできていないということです。

主な理由は高齢化です。農業全般に言われることですが、非常に高齢化が進んだ産業であることは間違いありません。

畜産は農業の中では比較的経営者の年齢が若い傾向にあるのですが、それでも60代以上の酪農経営者が本州では50%以上(50代以上だと80%)、北海道でも30%以上になります。和牛生産者を合わせるともっと比率は上がると思われます。

(FNとしてではなく)僕個人としては世代交代が進まない限り業界全体としてIT化する土台は整わないと考えています。

また、前述のFaxと同じ論点ですが、地方ではITインフラが脆弱だという点も挙げられます。どんなに優れたITツールも通信速度が遅いとそれだけでゴミと化します。

IT化に対応できる準備の整っていないところに無理にIT・IoTツールを提案しても当然うまいこと広がりません。


ii)繁殖領域にフォーカスしすぎると貢献度が限定されるということ。

次は、繁殖領域にフォーカスしすぎると貢献度が限定されるという点。についてです。

当初、FNは牛のウェアラブルセンサーであるFarmnote Color(以下、Color)を「発情発見器」として牛の繁殖領域にフォーカスしてPRしていました(まぁ、今でもそうなんですが、「それだけ」ではなくなってきています)。

酪農・和牛生産の業界構造はまさに生産者が主役です。しかし、その一方で下図のように生産者を中心として非常に多くの業界関係者が関わっています。繁殖という領域は酪農・和牛生産の「経営」という視点から見ると「重要だけどその一部でしかない」ということになります。

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つまり、上図のように様々な専門領域をもつスペシャリストが生産者をサポートししています。そのような方々の力なくしては本当の意味で酪農・和牛生産現場の課題を解決し、生産性向上・労働負荷軽減・収益性の向上につなげることにはなりません。


このような業界内の「つながり」が意識できていなかった当初は前述の通り、「酪農・和牛生産の生産性向上のためには発情発見こそが重要である」と考え、Colorを「発情発見器」として売り出していました。

そして、その取り組みの中で、Colorを導入しただけで繁殖成績が大きく向上し収益が伸びる生産者と、Colorを導入しても繁殖成績の向上が限定的で収益が思ったように改善しない生産者がいるという現実に直面します。

なぜ「そう」なのかを考えることを通じて、繁殖という領域は酪農・和牛生産の「経営」という視点から見ると「重要だけどその一部でしかない」という前述の理解に至りました。

「牛の発情を発見できる」という結果には、「牛が発情行動を示すこと」という前提が必要であり、「牛が発情行動を示す」という結果には「そもそも牛が健康であること」という前提が必要であり、「牛が健康である」という結果には、「適切な飼養管理ができている」という前提が必要であり、「適切な飼養管理」には、飼料設計、牛舎環境、獣医療などのスペシャリティが必要であり、適切な飼料設計のためには適切な飼料原料・適切な牛舎環境には適切な牛舎構造とそこでの適切なオペレーション・獣医療には信頼できる獣医師との関係がそれぞれ必要になる、、、という風に多くの因果関係の帰結としてFarmnote Colorが価値を提供できるということです(まだまだ、社内メンバー全員がそう考えられているわけではありませんが)。

つまり、FNが提供するソリューションが本当に生産者さんに価値を感じていただくためには、IoTセンサーを繁殖領域に限定して提供するだけでは効果的ではないということですし、酪農・和牛生産の収益向上というゴールから見ると、ごく限られた領域での価値提供でしかないということです。

〜〜ここから4段落は余談〜〜

ただし、発情発見という繁殖分野にフォーカスすること自体は筋は悪くありません。

またそのうち別記事として牛が生産性を発揮するメカニズムを書きますが、畜産にとって「繁殖がうまくいく」という状況は基本的にそれ以外の全ての要素がうまく噛み合っている「結果」です。

ですので、発情をモニタリングすることでその牧場の飼養管理状況の全体がうまくいっているのか/うまくいっていないのかをモニタリングすることにつながります。

まずは繁殖領域にフォーカスしたからこそ、そこにつながる全ての要素に考えを巡らせることにつながったんだと思います。


2. 内側と外側の両側の立ち位置から生産者の経営発展に貢献をしたい

当然のことですが、酪農・和牛生産業界においても「これさえあれば全ての問題は解決し、新しい段階に進化します」というような銀の弾丸は存在しません。

酪農・和牛生産の経営に必要なツールやノウハウには、アナログからデジタルまで、繁殖や獣医療と言ったライフサイエンス領域から機械設備と言ったメカニカル・エンジニアリング領域まで、サイエンスな専門性からビジネス領域での専門性まで多種多様です。

そして、それぞれが単独で存在しているのではなく「様々な専門領域の掛け合わせ」と「そこに関わる人のつながり」という生態系が構築されています。その生態系が調和の上に成り立って初めて、牧場現場において牛が健康に暮らし、そこで働く人が生き生きと働き、酪農・和牛生産経営が発展していくという結果に結びつきます。

そして僕たちは、この業界の中心には生産者がいると考えています。

生産者という立ち位置こそが、その生態系を理解する上で最適なポジショニングだと考えています。

FNは、これまでは業界関係者として「IT・IoTツールを使った繁殖管理」というごく限られた領域において、その中心にいる生産者に対してアプローチしてきました。

しかし、それだけでは生産者への貢献はごく一部にとどまることを理解しました。

そこで、自らも生産者というポジショニングを得て、そこから改めて牧場と、そこで暮らす牛、牛と共に働く人、その総体としての牧場経営、牧場経営を中心とする業界全体を考え、科学して、事業として再構成していこうと考えています。

その生産者という立場からは、牧場を中心とした業界全体を見渡すことができます。その場所からは、IT企業としては見えなかった新たな課題が見えてきます。

より大きく・より切実な課題を捉えてそれを解決し、生産者に今まで以上に貢献できる事業に取り組んでいこうと考えています。

それが、FNグループが自社牧場をもち、その運営会社としてファームノートデーリィプラットフォームを立ち上げた一つ目の理由になります。

株式会社ファームノートデーリィプラットフォームについて


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