メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第173号 新企画 ─「よもぎ」のテーマ読み ─ 1 「艾葉」(内景篇・血・単方)
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第173号
○ 新企画 ─「よもぎ」のテーマ読み ─ 1
「艾葉」(内景篇・血・単方)
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。前号で腎虚薬を読み終わり、本文が単調になってきたこともあり、虚労の通し読みはひとまず措いて、別の企画を立ち上げることにしました。
新企画は「よもぎ」をテーマに、東医宝鑑を通覧していく読み方です。
最近韓国の「よもぎ」が体によいとして様々な媒体で取り上げられ、またサロンの展開、また関連商品の道具やよもぎそのものまでの販売をする向きも増えてきたようです。
そこで東医宝鑑ではその人気のよもぎについてどのように説いているのかを通覧していきます。
東医宝鑑の読み方として今まで書いてきたのは、これまで虚労の通し読みでやってきたように著作の順番に読む読み方がひとつ、そして、これも何度も触れまた実際に読んできたように、ある項目から、そこに登場した別項目の部分を参照しながら飛び飛びに読む読み方です。
今回の企画はこれらの読みのさらに一歩先にあると考えられる、「テーマ読み」とでも言えばよいでしょうか、この場合は「よもぎ」をテーマに、全体を読んでいく読み方です。
通読は順番に読めばよく、また参照読みは参照先の明記があることが多く、読み先を比較的容易に特定できますが、このテーマ読みは読む部分を自分で探さなくてはいけないという点で、「一歩先にある」と位置づけてみました。
ただ、テーマ読みにも深浅があり、このように「よもぎ」をテーマに読む読み方は、単純に「よもぎ」の記載をしらみつぶしに探していけばよいのですから、テーマ読みの内では容易な読み方の範疇とも言え、テーマ読みの初歩としてここから入ってみたいと思います。
また、表向きは「よもぎの網羅読み」ですが、私なりの裏テーマも設定しており、それは解説しながら触れていくことにします。
早速本文を読んでいくことにしましょう。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「艾葉」 p114 下段・内景篇 血)
艾葉
治吐衄便尿一切失血
搗取汁飲乾者煮服本草
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
艾葉
治吐衄便尿、一切失血。
搗取汁飲、乾者煮服。『本草』
●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)
衄(ぢく)狭義では鼻血、または鼻に限らず外傷によらない出血、
歯衄、牙衄、舌衄、眼衄など
▲訓読▲(読み下し)
艾葉(がいよう)
吐衄便尿(とぢくべんにょう)、
一切(いっさい)の失血(しっけつ)を治(ち)す。
搗(つき)て汁(しる)を取(と)り飲(の)む、
乾(かわ)く者(もの)は煮(に)て服(ふく)す。『本草』
■現代語訳■
艾葉(がいよう)
吐血、鼻血、便血、尿血など、全ての失血を治す。
搗いて汁を取り飲む、乾燥したものは煎じて服用する。『本草』
★ 解説★
冒頭に書きましたように今回から新テーマ、「よもぎ」を軸にして東医宝鑑を通覧するというテーマ読みに挑戦です。
方針としては、「よもぎ」が登場する部分を網羅して読むこと、これだけです。これによって、よもぎがどのような効用を持つのか、どのような処方に登場するのか、などなど自ずと明らかになるであろうことに期待したいと思います。
本文への登場の仕方は幾通りかあり、
・項目立てがある
・解説文に登場する
・処方の中に登場する
などなどです。今号はまず、一番上の、項目立てのある部分を読みました。今後は項目立ての部分を主に細かく読みながら、他の登場部分を副として読み、全体に登場するよもぎ部分を網羅していく、という方針にしたいと考えています。
今号はまず「内景篇」の「血」の章の「単方」に登場する項目です。
既に見たように、東医宝鑑の項目立ての順序は、概説をして、具体的な症候を挙げ、それに対応する処方を上げ、さらに単体での薬、単方を挙げ、鍼灸の治療を説く、という順序になっていますが、ここでは「血」の「単方」に取り上げられていることになります。
通常、中国医学や漢方、韓方での処方は生薬を単品で用いることは少なく、生薬を組み合わせるのが普通ですが、処方によっては生薬の調達だけでも大変でまた高価なものもありますよね。
集例で読んだように東医宝鑑には民衆に医療を普及するという目的もあったと思い、複雑、高価な処方が用いられない環境でも治療ができるようにという趣旨も、おそらくこの「単方」の紹介にはあるのだと思います。
日本にも漢方とは別に、いわゆる民間薬という分野がありますね。このよもぎもそうですし、どくだみ、せんぶりなど、やはり生薬を単体で使うことが多いです。東医宝鑑の「単方」もこれらに近いものと考えるとわかりやすいかもしれません。
さて、この「よもぎ」のテーマ読みをする理由ですが、まずは単純に、よもぎを軸に読んでいくことで、よもぎに関する理解を深めるという意味が「表テーマ」です。
そして「裏テーマ」もあります。
このメルマガでも何度か触れたように、現在も韓国では新しい薬や化粧品などを開発するのに東医宝鑑を典拠とすることがあります。
これは一方で東医宝鑑を元に開発するという視点と、もう一方では宣伝の際に「東医宝鑑によって開発された」と明記することで商品を権威付ける意味あいもあるでしょう。
また業者さんなら商品の宣伝文句に「東医宝鑑では~と書かれている」と書くことで、商品と宣伝文句の格調を高め、かつ「自分は古典を読むくらいの、一定の勉強をしていますよ」とアピールすることを目的とする、という面もあるでしょう。
もちろんその内容が正しいものであれば何の問題もなく、むしろどんどん東医宝鑑の名前を使ってくださいというべきですが、残念ながらそうではない情報も多いように見受けます。
現在はネットの発達で情報が多いのは良いのですが、それにつれていい加減な情報も多いのが目に付きます。自分で調べて書かずに、ネット上にある情報をまるまる、または一部を変えて子引き、孫引きする情報群ですね。子引き孫引きと言えば体裁は良いですが、出典の明記がなければ単なる盗用、盗作です。そしてもしオリジナルに誤りがあったら、どこがオリジナルかもわかりにくいまま、その誤りが伝播していってしまうことになります。
また、盗用でなくても文章に誤りがあるならそれは誤用で、内容を誤り伝えるという点では同じで、盗用であろうがなかろうが、どちらも東医宝鑑にとっては迷惑な話です。
先日、ある業者さんが韓国のよもぎを販売しており、その宣伝によもぎの効用としてこんな文章があるのを見ました。
「(前略)許浚の東医宝鑑には「婦人病の特効薬」と言われるほど・・・
(以下略)」
と、東医宝鑑の名前を出しています。「婦人病の特効薬」とカッコで括ってあり、通例ではカッコで括った部分は著作からの引用を意味しますから、この宣伝の文章の趣旨は、
東医宝鑑ではよもぎの効用として「婦人病の特効薬である」と明記している
ということですね。
ところがこの宣伝文句には東医宝鑑のどこにこれが書いてあるのか出典の明記がありません。単に宣伝だから出典の明記は煩わしいから省略したとも言えますが、私の経験からも、たとえ宣伝の文句でも、出典の明記のない文章は内容が怪しいという印象が強いです。
では、上記のこの宣伝文句は正しいでしょうか?この宣伝を書かれた方は、本当にご自身で東医宝鑑を読んだ上で書いたでしょうか?またもし読んだとしたら、原文から吟味したのでしょうか?もし本当に上記の文の記載があるとしたら、東医宝鑑のどこにあるのでしょうか?
などなど様々な疑問が湧きますよね。もし東医宝鑑を読まずに憶測、または他の子引き孫引き(盗用)の上で書いたのだとしたら、誠意ある執筆態度とは言えず、一事が万事、それだけで業者さんの事業の体質全般までもが読み取れるという次第です。
そこで、特にこの業者さんだけを対象とするわけではなく、東医宝鑑のよもぎに関する記述を通覧することで、表のテーマとしては東医宝鑑ではよもぎをどのように説いているか、テーマ読みをし、
さらに裏テーマとして、この文章が本当に正しいのか、また敷衍して世にある東医宝鑑を引用した情報の正否に一石を投じ、正しい考え方、正しい情報を発信することで誤った考え方・情報を駆逐すること、
さらに、よもぎが流行ってきていますが、本当に体によいのか、害はないのかといった、書きようによっては業者さん方を敵に回しかねない、かなりディープな部分にまで触れる問題提起をしてみたいと思います。
反対に、誠意ある業者さんでしたら、無料で東医宝鑑の該当部分の原文から翻訳が吟味しながら読めるのですから、こんなに有用な情報はないでしょう。
いかがでしょうか、虚労の通し読みより面白い読みになりそうではあーりませんか?(ネタが古い)
新テーマの展開、どうぞお楽しみに。
◆ 編集後記
パソコンの不調は結局直りそうもなく、パソコンを新調することで解決することにしました。新パソコンの到着から設定まで、順調に済ませて早く良好な環境で執筆配信したいものです。
今号から新テーマを企画しました。腎虚薬を読み終わり、スポットでコラム的にどこかを読むつもりでしたが、上の業者さんの宣伝文句に引っかかったこともあり、閃きをもらったこともあり、どうせならと虚労はひとまず措き新しいテーマに移ることにしました。
よもぎ人気でもあり、また読み方も一歩高度なものでもあり、このテーマのほうが読者様方にも資するところ多いのではと、一人思っています。
今号は前後の説明が長くなりましたので読む項目を一つにしましたが、今後は一号でいくつかの部分を読むことで、読解のスピードを上げたく考えています。
(2016.06.25.第173号)
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